3. あなた、本当に生きているんですか?
黒い外套に身を包んだその少女は、俺を見て目を丸くしていた。
「あの……」
「きゃあああ!」
声をかけると、少女はその場に座り込んでしまった。腰が抜けてしまったようだ。
「なあ、まずは落ち着いて。何もしないから」
言ってから、何とも不審者じみたセリフだと思った。これじゃ廃墟で未成年を襲おうとしている犯罪者だ。警察に見つからないといいが。
「ほ、ほんとですか?」
「本当だ」
「あなた、本当に生きているんですか?」
「は?」
質問の意味がわからなかった。
確かに霊の一つでも出そうな場所にいたが、ちゃんと二本足で立っているし、そうしている間にも血が出て痛みを感じている。これ以上に生きていると実感できる状況はそうそうない。
「よくわからないけど、これが証拠だ」
俺は足の怪我を見せてやった。
それを見た瞬間、少女は青ざめた顔で言った。
「え……あ、あなた、怪我してるじゃないですか!」
「あぁ、さっき瓦礫を踏んじゃったみたいで」
「どうしよう……こっこからじゃ遠いし」
彼女はどんどん真っ青になっていく。
「そんなに心配することじゃないさ。大した怪我じゃないし」
「で、でも、血が」
「何か布きれを持ってないか?」
「ぬ、布切れですか?」
ありますけど、と彼女はジャケットにあるうポケットの一つから適当なサイズの端材を取り出した。
「ありがとう。ちょうどいい」
「そんなの、何に使うんですか?」
「何って、止血だよ」
「し、しけつ!?」
「そんなに驚くことかな」
受け取った布切れを適当に折りたたむと、圧迫しながら足にぐるぐる巻きつけた。ちょうどよく雲から顔を出した月が明るく照らしてくれた。これでよし。
「助かったよ。ありがとう、ええと」
お礼を言おうとしたとき、彼女の顔が初めてはっきり見えた。
一瞬、息が詰まった。
やっぱりこれはリアルな夢なのだろうか。
その少女は出会った頃の朱理そっくりだった。
「朱理……」
「へ?」
次の言葉が出てこない。心の奥底から泡のように湧き上がってくるものはたくさんあるが、そのどれもが喉に引っかかってもどかしい。
「私、シュリじゃなくてスズリです」
そう名乗った少女は無線で誰かと話しているようだった。俺はといえば、茫然としたまま動けないでいた。
「仲間がこっちに来てくれるみたいです。私一人じゃ運べませんから……ってあれ、お兄さん、聞こえてますか? おーい」
あまりにも多くのことが一度に起こり過ぎた。脳がそれ以上の処理を拒否したのか、俺は再び気を失った。