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第8話∶仇

 

 心地の良い風が麦を優しく撫で、揺れ動く。

 風が吹き麦畑が音を奏でる………。

 まさに───


「麦畑がバッハを奏でている!」


 ───黒髪の青年が突然、大きな声を出す。

 その声で辺りには静寂が訪れる。

 麦畑周辺にはかなりの人数が集まっており、全員が武具を装備していた。

 その中でも先程の大声で、一際目立っているのがこの黒髪の集団である。


「おい!急に変なこと言うのやめろ!!」


 集団の中で一番背の高い青年が、大声を出した青年の口を塞ごうとするが避けられる。


「え、知らない?」


 少し離れ、何事もなかったかのように仲間達へ体を向けると、心底不思議そうな顔で聞く。


「どうしたの?田中君?」


 同じく黒髪の少女も大声を出した青年へ声を掛ける。


「ん?どうもしてないよ?」


 青年は少女の心配を他所に、何かおかしなことでもあったのか?と言わんばかりの佇まいで、見ている側が間違えていると思わせる。


 少女は心配なのか真剣な顔で、青年の目をじっと見つめる。


「なんか、最近様子おかしいよ?」


 本人としてはいつも通りのつもりなのか、「何のことだ?」とでも言いたそうな顔をだ。


「どうせ喧嘩吹っかけたくせに負けて、拗ねてるだけだろ」


 長身の青年の言葉に、思い出したかのように気まずそうな顔になる。


「それは面白そうだったからね、やってみたくなっちゃった」

「死にそうになってたのにな?」


 長身の青年は日頃の恨みか、痛いところを突いてやろうとする。


「思い出したらムカついてきたな、粉塵爆発みたいなこと、初めてやられたし」


 青年はそのことについてかなり頭に来ていた。

 余程苛立つことなのか、青年は徐々に、無意識に眉間にしわを寄せ始める。

 その様子に、これ以上は険悪な雰囲気になるのを感じ取って、長身の青年は口を閉じる。


「もう少し遅かったら危なかったんだよ?やめようよ」

「ま、今のところはね」


 ※※※


 エールは依頼の日までの間、特に何事もなく過ごしていた。街を見て回ったり、街を見て回ったり…街を…見て…回ったり………。


 依頼までの間、金銭面は全てチアに任せていた。その為、エールはまだこの世界の硬貨すら知らない。

 情けなさと申し訳なさが湧き上がる中、エールが感謝や謝罪を言うと、チアは助けてくれたお礼だよと言う。そんな慈悲深い言葉が余計に刺さる。

 その為エールは今日この日を待ち望んでいたのだった。


 風が吹き、チアの一つに結ばれている髪と麦が揺れる。


「え、なんか急に静かになった」


 突然の静寂と緊張感に、エールは思わず声に出してしまう。


「叫び声みたいなの聞こえたけど、どうしたんだろうね」


 かなり小さな声であったが、チアには聞こえていたようで、エールの言葉に返事をする。

 お互い何が起きているのか分からず、エールは周囲を見渡すと


(あれ、あの人どこかで…)


 見覚えのある黒髪の青年を見つける。

 まだこちらには気づいていない様子で、エールは相手の名前も知らないため、また話す機会があるのと思い、今は声をかけないという判断をする。


「エール?知り合いでもいた?」

「知り合い?まぁ、そんなところだね」


 チアに視線の先の人物について聞かれたが、しっかりと話したわけではないため、関係性についてを答えかねている。

 エールがそんなことを考え、油断していると───


「またあったね」

「!?」


 ───いきなり声をかけられたエールは、肩をビクッと震わせながら振り返る。

 すると黒髪の青年が立っていた。


「や、やあ、君は?」


 なんと言えば良いか分からず、名前を聞き出そうとするエールに、黒髪の青年は呆れたかのようにふぅ、と息を漏らすと


「忘れちゃった?」


 ただそれだけを発した。

 暫くの沈黙の時が流れ、エールはなんとか「君の名前、聞いてないかも」と声を振り絞ると、「忘れたってこと?」とだけ返ってきた。


(か、会話ができないっ!)


 エールはそう思い、チアの方を見る。

 するとチアも同じことを感じていたのか、訝しげな目で黒髪の青年をみていた。

 少しすると、黒髪の青年の仲間と思しき人物がぞろぞろと来る。


「おい!また絡んでるのか!」

「田中君?挨拶と自己紹介しないとだめだよ?」

「喧嘩〜?」


 口々に発言するが、もし、ここで戦闘になっても、負けることなど微塵も考える必要のない自信があることを、エールは感じ取った。


「ま、いいや、田中たろ〜よろしく〜」

「冗談みたいな名前だよな〜!」


 黒髪の青年は雑に名乗り、それを冷やかす、長身で黒髪の青年。


(………この人だけじゃない、この集団、苦手かも)


 今後人と関わることへの不安に、エールは目を瞑る。

 きっと黒髪がトラウマになるであろう。

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