第6話∶冗談みたいな
時刻は昼過ぎ。真上から太陽の光が燦々と降り注いでいる。
エールは昨日のこともあって疲れており、昨夜はぐっすり眠れた気がしていたが、寝過ぎていた。
チアからは昨日、色々と話すことがあると聞いていたが、何時で集合場所はどこだったか。
そんな大切な事を忘れてしまったっていたエールであったが、忘れてしまったものは仕方がない、昨日は色々あったし、と考えながら、今日は初めての依頼を受けようと支度をする。
支度を終えて外に出ると、チアが宿の前で待っていた。
「あっ!エール!」
チアがこちらに駆け寄ってくる。
「遅いよエール!どうしたの?」
「ごめん…さっきまで寝てた」
「昨日大変だったもんね、仕方ないよ」
遅刻の謝罪をする。
もう少し深く反省するように言われると思っていたが、その様子がないことに少し驚く。
「チアはよく起きれたね」
「冒険家たるものこのくらいへっちゃらだよ!」
(そこは勇士じゃないんだ…)
「どうしたの?変な顔して、ちょっと怖いよ」
「いやあ、あはは…」
少し変な子だなと思ってはいたが…もしかして顔に出てしまったのか。
何となしに居たたまれない気持ちを、エールは笑って誤魔化した。しかし、エールは愛想笑いが下手だった。
「まあいいや、行こう?早く!」
「う、うん!」
なんだかぎこちない会話をしながらも、エール達は依頼を受けに向かう。
拠点に着くと”昨日の騒ぎを起こした人“
として見られ、周囲の視線が痛い。「よく顔出せるよな」なんて声をエール達は耳にする。
しかし、そんな周囲の様子を全く気にすること無く進んでいくチアの心の強さに感心しながら、エールは付いていく。
「実はもう、エールに受けてもらおうかなって思ってるクエスト、いくつかあるんだよね〜」
チアは足を止めることなく、振り返らずに言う。
「いつの間に?どんな内容なの?」
「まだあるとも限らないし、見つけたら言うね」
「わかった、ありがとう!」
エールは素直に礼を言う。
一人で村を出たエールにとって、チアは非常に心強く、ありがたい存在だった。
「ここだ、あるかな〜?」
チアは掲示板のような大きな板の前で止まる。クエストボードと呼ばれているようで、そこには沢山の紙が貼られている。恐らく街の依頼の一部が貼り出されているのであろう。
「あ、あったよ」
チアはお目当ての依頼を見つけエールに確認を取る。
「薬草採集、ゴブリンの討伐、ジャイアントの駆除、又は捕獲だって、どうする?」
「ジャイアント?何それ、初めて聞いた、どんなの?」
聞き馴染みのない存在についてエールは詳細を訊ねる。
「簡単に言うと大きな蟻だね」
「本当にそんな冗談みたいな名前なの?」
ざっくりとしたチアの説明に、エールは不安になる。
「そうだよ?しかもこれ、集団で行くクエストだから、他のより達成しやすいかも」
「本当にそんな名前なんだ…」
本当に冗談みたいな名前の魔物である事に、エールはショックを受ける。
「依頼はどうする?駆除のでいい?」
「すぐできるんだったら、それが良いかな」
「三日後って書いてあるね〜」
「三日後?今すぐ行けるやつとかない?」
三日間、街をお金のない状態で過ごす事になるかもしれないという状況に、エールは焦る。
それはもう、心臓が飛び跳ねるくらいに。
「何言ってんの?エール、まずは準備だよ」
準備という言葉に、何か引っかかる。
そういえば、荷物は何処へやったのか。
「め、目眩が…」
都会の洗礼を受けながらも、エールは今日も強く生きてる。しぶとく生きる。