第4話∶テンプレ
「うわぁ………」
騒々しい城下町への入口と聳え立つ城に、つい声が出てしまう。
「ルピナス帝国って知らない?最近は虫の被害が多いらしいけど、美食の国とかで有名だと思うよ」
「そうなの?ずっと村にいて最近出てきたばっかでそういうの全く知らないな…」
城下町が見えた安堵のせいか、騒々しい城下町に合わせてなのか、気を張り無言でいた二人の緊張が綻び、エール達に会話が生まれる。
ドラゴンは二人を見失い、見つけるのを諦めたのか特に何事もなく目的地に到着することができた。
「なんて、名前の村にいたの?どんなところ?」
「ん〜村の名前…覚えてないな、聞いたこともないかも、でも、愉快なところだったよ」
「へ〜愉快なところって、ふふっ…楽しそう!」
和むような会話をしながら城下町に向かっていく。そこでエールは、少女の名を聞いていない事に気付く。
「あれ?そういえば名前、なんて言うの?」
「私はチア!君は?」
「僕はエール、名乗るのが遅くなっちゃったね」
「エールはなんであの森にいたの?」
「冒険の定番は深い森かなってね」
「なにそれ〜そんなイメージあるの?」
自己紹介を済ませ、二人は雑談をする。
エールは自分の話を照れ臭そうにし、チアはからかいながらも興味津々に聞き続ける。
そんな傍から見たら頭の悪そうな会話でも、同年代の友人がいないエールにとっては楽しいものだった。
「エールは何するために街を探してたの?」
「とりあえず街の依頼を受けるため、それで、それからその報酬で色んな国とかに行けたらなって思ってるよ」
チアはそっか、とだけ反応し、会話を続ける。
「エールは勇者にはならないの?」
「勇者って、そんなにみんながなりたいものなの…?」
「そうかエールはずっと村にいたから知らないんだね」
どうやら少し前までは、自由に魔王への挑戦ができたらしい。
しかし魔王に返り討ちにされる人、魔物の糧になる人等、血気盛んな強者が大幅にいなくなるのを阻止するため、八つの国、また、その中の魔物が一番強く、魔王に一番近い国に認められなければ、魔王に挑めない、という制度ができたのであった。
チアからのそんな説明を聞きながらエールは「そんな人気だったんだ」と血の気が多い世の中に驚く。
そうしていると、いきなりチアは足を止める。
エールがどうしたの?と聞く間もなく…。
「ここが有勇師団だよ!」
元気だなと驚き、そして話しながらついて行き、目的地があったことにさらに驚く。
有勇師団と呼ばれた場所に目を向けると、ずっと前からあったような、建物が待ち構えている。
「………?ここは?」
「有勇師団だよ?」
「………?……??………?」
「?」
「………えっ………と………どんなところなの?」
会話にズレがありながらも、エールは説明を求める。
「色んな国で勇士ある人が集まる場所かな?」
エールはそんな簡単で雑な説明を聞いて、入口に進むチアの後を追う。
そして中に入ると───
「うわ、お酒臭っ」
───酒臭かった。
「なんか今日は騒いでたみたいだね〜」
エールはチアのそんな言葉に不安になる。
チアの後に続いて進んで行く、すると色んな人から「チアちゃん〜」「おかえり〜」とチアに向けた声が聞こえてくる。
どうやらチアは人気者らしく、団員と思われる大半の人から一方的に声をかけられていた。
チアはそれらを気に留めない様子で進み受付の様な場所に着く。
「入団したい」
チアがそう言いエールは、まだ団員じゃなかったのかな?と思っていると───
「この人の」
───エールを指差す。
「…あれ?え?僕なの?」
何の相談もないチアの言動に、エールは混乱する。しかしここでエールは腹を括る。
偶然助けたことの見返りは求めてないとはいえ、不幸をもたらすことはないと信じるのであった。
その後、エールはなんとなく入団することになった。
そして受付の人から少し待つように言われ、待っていると。
「チアちゃん、こいつ誰?」
男が三人どこからともなく現れ、チアに話しかける。
どうやら三人ともかなり熱のある感情をチアに向けているらしく、恐らくこの三人が危害を与えてくるであろうことを、エールは予見した。
しかし、そんなエールとは裏腹に、チアはだんまりを決め込み、決して反応しない態度であった。
しかし男達は、エールに絡み始める。
「お前田舎者?チアちゃんのなんなの?」
「え、いや別に、少し前に出会ったばっかかな」
「へー、じゃあもう行っていいよ」
「え?」
「えじゃなくて早く行けよ、邪魔なんだよ!」
「いや、まだ………」
「うるせぇ!ムカつくんだよ!」
そう言うと男はエールを殴る。
見るからに危なそうな雰囲気はあったが、手を出すのがあまりにも早かった為、反応できず、まともに受ける。
余裕がない為か、何の為か、雑に低い怒りの沸点。
そしてその怒りに任せて、エールの後頭部を両手で引き寄せ、腹に膝を入れる。
男の追撃は更に続いく。
周りは誰も止めない、焦った顔でエールを呼ぶチアの顔が見える。
残りの男は、チアがエールを助けるのを妨害していた。
今も尚、暴行を受けているエールは、来ないほうが良かったかな、知らない人に付いて行かないって、こういうことかな?と考えていた。
最初は攻撃を受ける度に痛みが増していったが、次第に痛みが薄れ、意識も薄れていく。
そんな中エールは、因果応報ってこういうことかな?因果応報ってなんだ、皆の悪い行いが降り掛かって来ただけなんじゃ………?と考えており、なんだか余裕そうであった。
特に痛みも感じなくなりつつあるエールだったが、頭は回っており、一人暴行を受けながらも考え続ける。
エールの疑問は止まらない。