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第39話∶新天地へ!


「よし!」


 エールは声を出し気合を入れる。こんなに張り切ることじゃない、なんて思い少しだけ微笑んでみる。


 窓の外から見える木の葉がさわめき、朝の木漏れ日が透き通る。部屋にはエールの声が、少しだけ響いた。心を躍らせる。その心は、次の国へと向いている。


「行こう!」


 少ない荷物を全て持ち、部屋を出て宿の女将との会話を済ます。ここに来たのはつい最近のことだが、そんなつい最近のことに懐かしさを感じていた。


「さて、どこにいるかな?」


 宿から出るとチアやタロー達を探すため、街中を歩き回る。魔物達の襲撃があったため、至る場で修復作業が行われており、人々は忙しなく動いている。


 この国では初めての出会いが多く、ほんのり香る思い入れと、一雫ほどの感慨深さが胸に染みる。

 そのままふらふら歩きながら、足は団の拠点へと向かっていた。特に誰かがいるわけでもなく、ただ依頼を眺めるだけで外に出た。そして思い出したかのようにドワードのもとへと向かう。


 工房が見えてくると外に出て腕を組んでいるドワードの姿が見える。近付くとそれに気が付き、少しだけ口元が緩んだように見える。


「来たか坊主、遅かったな」

「うん、え?」


 国を出る最後に立ち寄ろうと思っただけなのだが、ドワードはまるで来るのを分かっていたかのような発言をした。


「ほら、これだ。お前に合う軽装で動きやすいが頑丈で、剣で斬るにも一苦労だ。こっちは素材の味を活かした片手剣、兎に角切れ味が良いそんなとこだ」


 そう言ってドワードは次々に装備を出す。


「……つい最近来たと思ったらもう有名人だ、もう次に進むんだろ? 見合った装備していかねぇとな!」


 エールの抱いていた疑問に答えるようにドワードは話す。

 ドワードは何かに夢中になった少年のような笑顔を浮かべると、いつか見た両手剣を地面に突き刺す。


「抜いてみろ、坊主」


 今度は言われるまま柄に手を掛け、ゆっくりと引き抜く。


 前回とは違い、剣は軽々と抜けた。

 それを見たドワードは満足そうに頷くと、エールの肩を叩く。


 思ったより剣は簡単に抜け、困惑していると、ドワードはその剣を受け取れるよう自分の手を出す。

 剣を渡し、ドワードは剣を見てからエールを見つめる。


「さっきの武具は非売品だ。持って行け、それと嬢ちゃんがさっき来てたぞ、行ってこい!勇者」

「う、うん! あ、ありがとう!」


 実は密かにドワードへ素材を渡していたのだが、こんな形で返ってくるとは思ってもみなかった。餞別だとでも言わんばかりの態度に、愛とか情熱とか、そんな言葉が頭に浮かんでくる。次に暖かい気持が湧いて、笑みが溢れる。


 少し歩くと、前方に見慣れた少女が見えて来た。


「あ! エール!」


 気がついたチアが急いで駆け寄って来る。

 いつも通りの笑顔、いつも通りの明るさ、そんなチアを見て、少し安らぐ自分を感じる。


「元気? 身体は大丈夫なの?」

「んーぼちぼちかな?」

「そう? ならよかった! そういえばさ、ジャイアント達も街の修復手伝ってるらしいよ!」

「そうなの? 知らなかった。どこにいるのかな」

「麦畑にいるって聞いたよ? 見に行ってみる?」

「うん、行きたい」


 二人は話しながら歩くと、麦畑へあっという間に到着する。

 麦畑では多くのジャイアント達が黙々と資材を運んでいた。

 いつか戦った場所で人間と共に働いてる、街の人はそんなことを知る由もないことに、エールは複雑な気持ちになっていた。


「あれ、なんかこっち来てない?」


 チアが話した場所を見ると、一匹のジャイアントが向かって来ていた。

 そしてエールの身体は、自然とそのジャイアントへと歩き出す。


「エール? 知ってる子?」

「んー? 覚えてない? ほら……あの……」

「あー! エールのこと連れて行った子? あの子なの?」


 エールが言い淀んでいると、チアは何を伝えたいのかを汲み取った。


「うん、よく分かったね」

「最近エールが何考えてるか分かってきたかも?」


 エールは微笑むと、近寄ってきたジャイアントを見つめながら首を撫でる。するとエールに撫でられたジャイアントは嬉しそうにカチカチと顎を鳴らした。


「おお〜よしよし」


 嬉しそうにするジャイアントを見て、エールは釣られて笑顔になる。そんなエールを見てチアも笑みを溢す。


「そういえばさ、なんでここに来ようと思ったの?」


 チアの何気ない質問に、少しだけその場の雰囲気が変わる。


「……? ……?」

「……様子だけ、少し見ておきたくてさ」

「そうなんだ……」

「ん? どうしたの?」

「いや……」


 ほんの少し、ひとつまみ程の不安と、胸一杯の臆病さで先に進めない。上手く言葉が出ず、ただ様子を伺う。


「あ、いた、エールじゃん」


 突然、聞き慣れた声が二人の後ろから聞こえてくる。


「やっぱここにいた」


 振り返ると、ここにいることが分かっていたかのようなことを言っているタローとその仲間がいた。


「あ、うん。探してた?」

「うん、俺達はもう今からここを出て、他のとこ行くから、一応」

「一応……」


 反芻するように呟く。言葉の意味はよく分からなかったが、タロー達も先に進むのかと思い、この先でまた会えるかもしれない。そう考えていた。


「てか、もう戻る? それなら、一緒に来なよ」

「……わかった」


 触れていたジャイアントから手を離し、またねと別れを告げる。



 道中、タロー達の今後の話を他人事に聞き、大変そうだなんて思いながら、他の事を考えていることもあった。


「それでさ、エールはどうするの?」


 タローは、少しだけチア見てからエールに質問した。

 話を聞いていただけだったエールは、突然話を振られ少し考える。


「エールはさ! まだここで行ったことないところとかあるし! まだまだやってないこととかあるでしょ? だから! 目的がないならそんなに先を急ぐ必要はないんじゃないかな!?」


 余裕がないように、エールへ質問するようにチアは話す。どこか焦っているようで、なにか必死に繋ぎ止めているようで。

 俯くチアを黙って見つめる。すると上目遣いで、少しだけ目が合う。


 静かになったこの街では、焼ける小麦の匂いがした。


「……だからさっ!───」

「僕さ、」


 沈黙が続き、チアは更に話し出すが、それに被せてエールは話し始める。


「勇者になりたいんだよね」


 …………


「そっか……そうだよね……! エールは優しいし! 周りもよく見てるから! これからもどんどん強くなって色んな人に出会ったりして! そんなエールに向いてると思───」

「うん。だからさ、チアも一緒に来ない? ほら! そんな冒険には仲間が必要でしょ?」


 エールは笑顔で、俯くチアに手を差し伸べる。その笑顔はあまりにも無邪気で、あまりにも綺麗で。有無を言わさぬ優しさと、純粋な好奇心に包まれてその手を取る。


 何も言わず、何も言わず手を握る。

 その顔は、照らすようにただ笑っていた。


 タローは二人のその様子を見て、珍しくふわりと笑って眺める。


「うん、いいね。それじゃ、俺達はもう行くから」


 そう言うとエールの顔を見つめて一言。


「ん、またね」


 別れの言葉を言い残して、タローはそのまま歩き出す。


「あっ、うん! また!」


 タローの行動に少し動揺もあったが、返事ができてエールは不思議と安心していた。


「あ、ちょっ! またな!」


 しかしユージ達はそうでもないようで、エールに会釈など軽い挨拶をして、慌ただしくタローの背を追って行った。


 タロー達の背中を見送った後、エール達もまた一度だけ街へ戻るため歩き出す。


 二つ分かれる足跡と背中に、麦畑は手を振るように今日も奏でる。進む道に残る軌跡は、まだ進む。

ルピナス帝国

ご存知美食の国なんて呼ばれているらしい。


近くには山や海もあり付近には平原が広がる。

平原には農村や牧場などが多く食に関して充実している。


山にある森には虫の魔物が多くそれも食材になることがある。中でもジャイアントの蜜蟻から取れる蟻蜜が絶品で牧場で作ったデザートなどにかけて食べるのが良いらしい。


さらに山では岩塩が採掘され、麓の天然水は自然の力を感じ、何故か品質の悪い回復薬よりも効果があり、岩塩にも同様の効果がある。そんな麓の水で育てた野菜は薬草の様な効果もありさらに絶品である。その川周辺の雑草でさえ美味。


そしてその水で育てた野菜を家畜に与えているため、必然とその家畜から取れるものはかなり上等。


川の先には海がありそこに生息する魚は浅瀬でも大きく、捕獲した後も適切に保存すれば鮮度をずっと保ったままである。そしてその天然水は基本的に軟らかいが、溜まるような場所にある水は硬い。


近くの海辺には洞窟があり、そこからも岩塩が採掘されるが、ここの岩塩では体力面での回復があり、寿命が延びるとされている。


そんな天然水で育てた前菜に、コーンスープ、ルピナス牛のローストビーフ、海や川で釣った焼き魚にお好みの岩塩をかけ、デザートには蟻蜜や黒蜜をかけたアイスクリームなどもある。朝にはスープにパンでも、良質な蜂が働き育てた果物のジャムを塗るのがとても良い。


蜂蜜だって絶品だ。

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