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第38話∶未来への招待

 

「なるほど……」


 皇帝はそう呟くと、周囲を見渡し肩をすくめてみせる。静かな空間に、兵士の疲れた息遣いだけが聞こえてくる。


「確か……そこは戦争していたところだったと思うんだが……?差し詰め、刺し違えたといったところかな?」


 皇帝はあまり興味がないのか、すぐに会話を終わらそうとするが、兵士は慌てた様子で一歩ずつ前に出る。


「いえ!両国に……空から巨大な岩が降ってきたとの報告が……!」


 兵士の発言に場は響めく。聞いたこともない報告に、他の兵士達は嘘だと一蹴したいが、慌てた兵士の様子から本当のことなのではないかと話し合っているのであろう。


「まあしかし……そんな都合良く、まるで天罰みたいに大きな岩が空から降ってきて、二つの国を壊滅させるなんて、出来過ぎてないかな?」


 皇帝の言うことは最もだ。しかしそれが本当であるなら───


「それが本当なら、人為的なものということになる」


 その発言に、場にいる兵士やメイド、家臣達が息を呑む。


「嘘だと指摘しているわけじゃない。ただ、国を壊滅させるほどの巨大な岩を降らせるなんてこと、魔術じゃないと難しい、それもかなり強い魔術だ」


 皇帝は再度肩をすくめると、周囲を見渡し呆れたように溜息を吐く。


「まぁ、そんなこと言ってもこんなこと類を見ないし……他人事ではいられないけど、こんなこと何度もできる体力は無いと思うよ。だから……まだ、大丈夫。対策は考えていこう」


 皇帝がそう言い加えると、周囲の安心したような空気を感じる。皇帝のそんな発言で、日頃からこうして家臣達を纏めているのだろうと察することができる。


 そんな重要な話がありながらも、エールはこの国で勇者として認められることになった。

 城から出て、少し歩く。


「……チア?大丈夫?」


 何やら長い間俯いているチアに声をかけてみる。


「えっ?うん……大丈夫だよ?」

「えー人が沢山いて酔っちゃったー?」

「いや、そういうわけじゃ……」


 タローが緩くチアに話しかけるが、あまり反応は良くない。何か考え込んでいるようにも見える。


「そういえば、どうして付いてきたの?」

「あ〜聞いた? 勇者とその一行だってさ」

「ん……?どういうこと?」

「ん〜?」


 面倒臭がりそうなタローが付いてきたのが意外であった為、エールは付いてきた理由を聞いた。しかし話が噛み合っているのか、分かりそうでわからない回答をされる。

 そんなタローをちゃんと説明してあげないのか、とでもいうような目線をエマが向けているが、タローは全く気にしない。


「いや、ほら……俺達はもう仲間だろ?だからさ?」

「……なるほど」


 見兼ねたユージがタローの補助をするが、補助としては十分ではない説明である。そんな説明でも言わんとすることは理解できる。

 恐らく、少しの期間ではあるが行動を共にしていたことによって、皇帝側からは常に行動を共にしている仲間だと思われていたから城に同行したという旨だろう。


 呼び出されたのか、自主的なものなのかまではわからないがエールはそう読み取る。


「ん、結果的にいた方がよかったしね?」

「……」


 何やらタロー達は少し深刻な面持ちになる。


「あれ?言ってなかったっけ?俺達そこから来たんだよね」

「……ストレリ王国ってところだな」


 話が分からず困惑していたエールを察してか、タローは惚けた様子で話し、ユージはそれに付け加える。


「え……?大丈夫なの?」

「さあ?どうだろ?」

「え……?」


 タローはいつも通り飄々としている。


「んー」

「いやー!心配事はあるけどなんとか大丈夫だと思うというか……!そこの戦争が始まる前に身内は避難してるんだよな」


 また雑な説明をさせないためか、タローの発言を遮るようにユージは説明した。


「だから、そんな心配してないみたいな……」

「そっか……」

「そ〜そんな感じー」


 意外とそこまで不安はない様子に驚くエールであったが、これ以上は余計な不安を煽ることになると思い、それ以上は聞かない。

 タローの気の抜けた同意で会話は終わる。少ししたらそのまま解散し、それぞれ帰路につく。


 ※※※


 街角で一人の少女が彷徨う。


「はぁ……」


 これからどうしようかな……?いや、どうしたらいいのかな……?


 もう帰ってこないと思って家から出たけど、こうなったら揺らいでいる自分が嫌になる。


 皆のこと、気になることは気になるけど……まだ、帰りたくないな。


 そうだ……戦争が始まる前に避難してるとか言ってたし、皆もそうかも……?うん、そうだ絶対。


 それに……私はまだエールと冒険していたい……できればここままずっと……この街で……


 特別大きな出来事とか、驚くような刺激はいらない。まだ出会ったばかりだけど、変わらない毎日がずっと続いて欲しい。できるだけ永く……そんな未来が待ってたら嬉しい。


 エールはどう思ってるんだろう……?私と同じで、ずっと……いつまでもこのままが良いと思っていてくれてたら良いな……


 明日会ったときにでも聞いてみようかな?エールはなんて答えるんだろ……?「もちろん!」とか?「僕はそのつもりだよ?」とかかな?


 そんなこと言ってくれたら、嬉しいだろうなぁ……


 それにしても……本当に、数日で急に頼もしくなった気がするなぁ……初めて出会った時から頼もしかったけど……


 初めて出会った時……私はドラゴンに追われてたな……まさか、薬草採取で来た森にドラゴンがいるなんてね?それでドラゴンの目が覚めちゃって、必死で逃げて……普通だったら気配だけでも逃げるとこなのに、エールは助けてくれたんだよね。


 蟻との戦いの時だって、戦ってた蟻を味方にしちゃうくらい優しいし、一番大事な場所に真っ先に行こうとする。


 なんだか落ち込んでる時もあったけど、そんな優しくてやる時はやるトコロに惹かれてるのかなぁ……?


 この先も、ずっと……このままでいられたらいいなぁ……


「はぁ……」


 ※


「……てか、結局どうする?」


 宿屋の外、二人きりになった途端、不意に太郎が問いかけてくる。太郎?白?結局なんて呼べばいいのかわからない。それに結局どうするとは……こいつはいつも説明が足りないというか……でも、まあ……


「どうするって……流石に戻るだろ」

「あーやっぱり?」


 やっぱりも何も、置いてきた仲間達がどうなってるのかは気になる。それに帰る手掛かりも、まだ見つかってない。


「でもさ、早く次には進まないと行けないと思うし、それにエールだってもうすぐに次に進むんじゃないかな?」

「そうか……?ならどうする?」

「そ、だから別れて行かない?別行動」

「それなら……俺は───」

「俺は一人で行くからさ、戻ってよ」


 太郎の提案に、自分の意見を言おうとしたが、遮るように太郎は発言した。


「いや、それはダメだ」


 この国からストレリまでなら一人でだって帰れるとは思う。でも帰った後に何があるかわからない。太郎がいないとどうにもならないことだって多い。そう思ってしまうほど、太郎の力に依存していた。


「……そっか、じゃあ一旦帰ってからエールとは再会だね」


 そういって太郎は歩き出し、去ろうとする。


「……なんでそんなエールと再会すると思ってるんだ?どうして迷いなく次に進んでると思ってる?」


 去り行く太郎を呼び止め、気になっていたことを聞いてみる。太郎は足を止め、しばらく動かない。


「さあね?」


 太郎は振り返ってそう言うと、少しだけ笑う。何処へ出掛けるのかそのまま歩いて行ってしまった。


 まだ、この世界のルールがわからない。どうやって強くなるのか、どうやったらレベルアップできるのか。

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