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第36話∶自分だけの………………

 

「僕の夢って…………」


 風に吹かれ、自分の髪が揺れるのを感じる。


 きっと前に思った通り、僕の夢は…誰かの為にとか、世界を平和にするためにとか、そんなことじゃない。


 自分の夢というものを理解するために、今まで考えたことを整理する。


 それに、誰かに言われて勇者になろうとしている訳でもない。それは……間違いない……!ならそれは……?どこから出てきた気持ちなんだ……?


 考える。暗闇の中を手探りで探すように、夢の形をなぞるように、輪郭を描いていく。


 ……いや……それだ、それなんだ……そのキモチなんだ……いつかのおとぎ話に何を思った……?自分がそうなるって期待?


 何のために勇者を目指してるんだ……?

 世のため……?誰かのため……?そんな不確かで曖昧なものじゃない……!!

 どこだ……!目次なんてない……!僕の夢の始まりの1ページは……!


 紙をめくる…その気持ちは…ッ!!!そこでかけられた魔法は─────!


 ────ワクワクだ────!


 そうだ……!ワクワクなんだ……!あの時初めてかけられた魔法は……!一番最初の理想は……!夢は……!そんなワクワクなんだ……!!!


 めくる1ページにワクワクした!またワクワクしたい…!ワクワクさせたい…!僕が主役のおとぎ話で…!|この世界をワクワクさせたい…!


 魔法のないこの世界で…!魔術も使えないこの僕が…!わくわくするために…!わくわくさせるために…!この世界に…………!ワクワクする魔法をかける…!!!それが…自分だけの……夢になる……!!!!


「だから僕は……勇者になる……!」


 さわめく木の葉。ほどよく日の光が差し込んでくる。風につられて今日もどこかで小鳥が鳴いている。そんなものを全身で感じる。身体に付いていた重りが外れたような、そんな清々しい気分だ。


「…ん?」


 魔王と名乗った、獅子の鬣のような髪型をしている男が振り返る。


「まだ意識があったか…だが残念だな…弱者はいつだって肉食動物の餌なのだよ」


 気付かれた…でも、やろう。この戦い…どう転んでも、それが……僕の……存在証明になる。


 …………いや、違うな……負けはいらない。

 必ず勝つ……!


 この衝動を剣に乗せて……上げよう……大金星。剣を握り直す。冷たく感じた。耳を澄ませば飛竜の息遣いが聞こえる。息を大きく吸う。土の匂い。目を閉じていたって、太陽は眩しい。


 希望の光なんて言葉があるけど、この場にはそんなものはない。さて、どうする?様子見?出方を伺う?そんな馬鹿な……!


「僕がゆうしゃなら……!」


 誰かに言う訳でもなく、小さく呟く。そう考えると、心が躍る。


「そのまま来る気か?実力差が分からなかったのか?」


 異様に素早い相手の拳が飛んでくる。


「ぐっ……!」

「無策で飛び込む…それで解決したら………!?」


 勿論、避けれる筈もなく、相手の攻撃は当たるが、それは前提だ。だから、怯むな。飛び込め!その手を掴め!


 痛みを堪えて、相手の腕をしがみつくように両手で掴む。


「考えたな…?だが、まだまだ凡だ…!」

「うわぁっ……!」


 相手に服を掴まれ、そのまま持ち上げられてしまう。そして雑に地面へと叩きつけられる。


 背中を強く打ち、鈍い痛みが全身を襲う。息ができない。目が霞む。勝手に咳が出る。鉄の味。長い時間、同じ姿勢のように感じる。


 完全に意表を突けたと思ったら、手痛い反撃を貰ってしまった。どうする?何がある?何ができる……?


 敵はこっちを全く見ず、後方を見つめている。その様子を見ていると、後ろの方から砂を踏むような音がする。直ぐに見ることはできないが、その足音の主が誰か、直感で理解した。


 ジギタリスが、再び立ち上がった。ゆっくり、ゆっくりと顔を音のする方へ向ける。

 やっぱりそうだ。協力できるかはまだわからないけど、二人がかりでなら勝てるか…?さっきみたいに油断してるわけじゃない……傷は負ってるけど……何かまだ、できるかもしれない……!

 しかしそんな想いが現実になる訳もなく……


「……クソッ!」


 ジギタリスは恨みが籠もった眼差しを向け、体を抑えながら逃げていく。


「王を前にして逃げるか……良いだろう、それも仕方ない……狩られる獲物は、尻尾を巻いて逃げた方が長い気ができるだろうな」


 ジギタリスを見つめながらそう言うと、今度は何とも思ってないような、落ち着き払った様子でこっちを見つめてくる。自然と全身に力が入る。胸がざわざわしている。獅子にでも睨まれた気分だ。


 でも、少しだけ違和感があった。さっきの自分はどうも人任せみたいにも思える。ジギタリスと二人でやろうなんて思っている自分を変に思える。

 いつも誰かが近くにいてくれて助けてくれる。そんな幸運が、いつも近くにある筈がない。だから自分一人でも、どうにかできるように……


 何も考えず、誰かがなんとかしてくれるだなんて思ってしまっている。ああ、それは違う。僕の夢は、勝手に叶うものなんかじゃない……!


 今までなんとなく上手くいってきたツケだ……!そうだ……この旅が始まってから何も考えず、なんとなく上手くいってた。


 ようやく気がついた……夢を叶えるのは、今までみたいになんとなく上手くいくなんて……そんな簡単に叶うなんて甘い話じゃない。


 わかってただろ!()()じゃ!ダメなんだ!


 ここでできなきゃ……何も叶わない……!できないなら、死ね……!命賭けて生きてみせろよ……!このままのうのうと生きて、誰に訪れたっていい未来を見たいワケじゃない……!


 死ぬのが嫌なら奇跡を起こせ……何かに成るなら……不可能を起こせ……!


 試そう。夢の本質を……僕の本質を……


 身体を起こす。顔を上げてみると目線が交わる。相手は口を開いて、何か話しかけて来ているようだが、何も聞こえない。その声をかき消すほど、鳴り響いている音が、自分の中にある。


 纏わりついてくる威圧感。心臓を刺すような鋭い視線。肌がヒリヒリする。それでも溢れ出る不思議な高揚感、身体が熱くなる。全く持って万能感ではない。恐怖に身を投じて……感じたことがあるような、ないような、不思議な自分の気力に触れる。


「あぁ……これだ………」


 自分の掠れた声も、掻き消される。


 この窮地。逆境。恐怖。絶望。絶体絶命……!……この高鳴り……!

 いつの間にやら、全身を大音量で駆け回る。


「いいじゃん……わくわくしてきた………!」


 激しく鳴ってる…………!

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