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第35話∶魔王…?

 

 人のいない街の通りで、一人の男が多くの魔物を相手に圧倒していた。


「…あっちはもう終わったかな…?」


 タローは、ジギタリスと戦っていたエールのことを、街に突如出現した魔物と戦いながら考える。


「あの様子じゃ、ちょっと厳しそうだったけど…どうなのかな…?」


 敗北した衝撃なのか、それとも何か言われたのか、そんなことは分からないが、エールがなにか迷っているのには気が付いていた。


「…それにしても多いな…パンデミック?デモクラシー?なんていうんだっけこういうの…」


 タローは、倒しても倒しても現れ続ける魔物たちを見て呟く。


「………スタンピードか…誰かが仕組んだことだったりして…それって陰謀論…?流石にベタ過ぎるか…?いやでもありそうではあるよなー?何か起こる?何かはもう起こってるか…」


 タローは一人で呟きながら考えていると、太陽を遮るように、地面を黒く大きな陰が移動していることに気がつく。


「うえーでっかい影…あっちって…まだエールいるよな…大丈夫か…?やばそー…」


 文字通り不穏な影に、さらなる異変を感じ取り、急いでエールが居るであろう場所へと大きな陰と共に移動する。しかしタローはすぐさま足を止めることとなった。


「…なに…?また?君の出番多くない?ちょっと強いし、面倒だし、もう相手するの飽きたんだけど…?」


 エールの元へ駆けつけようと急ぐが、タローの行く手を阻む相手がいた。その相手は以前相手した個体よりも大きく、俊敏な動きで鎌を振るう。


「マンネリ防止?本領発揮?ビームとか避けれる感じ?前とは違いそうだね…?行動範囲共同体、来いよ…特攻隊」


 一段と大きな蟷螂の魔物が、凄まじい勢いでタローに詰め寄る。

 蟷螂が攻撃を仕掛けてくるが、その攻撃を回避し、反撃へと移る。しかしそれは躱され、蟷螂がまた攻撃を仕掛ける。


「うへー…はやー…いいね、試したいことがあったんだ」


 蟷螂の攻撃を難無く回避し、蟷螂や他の魔物から距離を取り、タローは立ち止まる。そして敵を、特に蟷螂をじっと見つめる。

 蟷螂の魔物も不気味に首を動かしながら、タローをじっと見つめる。


「俺の成長も見てく?聴いてく?傾聴傾聴ではどうぞ」


 タローが言葉を言い終えた途端、周囲に居た魔物の動きが、一斉に止まる。


 ※


「くっ!こいつら…!どこから出てきた…!!」

「数が多すぎるぞ!」


 突然現れた魔物の群れに、街中は大混乱に陥っていた。


「何が起こってるんだ…!?」


 街にいる兵士達は総動員で、魔物の対応や民の救助などに動くため、慌ただしく街を駆け回っている。


「…流石に多いな…」

「援護頼む!!!」

「さっきまでの時間はどこ行ったんだよ!!!」

「エールの戦いはどうなるんだ?」


 更に勇士達はエールの戦いの行方を案じる者や、魔物に対応に当たる者など、それぞれの動きを見せていた。


「…エール…問題があると常に中心にいる奴だけだけど…何となくどんな奴だか分かってきた…」


 一人の何者でもない勇士が、魔物と戦いながら、ぽつりと呟き始める。特に何の接点もないが、気が付けば自分の視線の先にいる存在、それがこの男にとってのエールであった。


「何の変哲もないただのガキなのに…気付きゃ人気者だ…大物のところに、ビビることなく真っ直ぐ走っていきやがる…」


 男は微笑み、自らの若き日を思い浮かべる。自分とは似ても似つかないが、どうしてもいつかの自分と重ねて見てしまう。その情景は、毎日が輝いて見えた日々だった。


「…俺は…いつからこうなっちまったんだろうな…いや、最初からか………エール…まだまだ出会って間もないけど…あいつはきっと、そういう奴なんだろうな…!案外あんな奴が本当の勇者になるのかもな…いや…あいつは…本物って奴に、きっとなれる…!」


 そうして男は新たに現れる魔物の元へと駆け出す。しかし、空には大きな黒い影がかかる。


「…なんだ…?」


 巨大な影は空を覆い、街の中心へと移動する。


「…お…おい…あれって…」


 ※


 ジギタリスの攻撃を何度も防ぐ。その刺激が、骨まで響く。打ち合う腕は、かなり痛んでいる。この戦い、いつ終わってくれるのか…いや、僕が負けたら終わるのだろう。そんなことは何度も考えた。

 なぜこんなこともできないのか、そんなこともう理解している。


 僕はまだ、勇者になりたい。


 でもきっと、このままじゃ足りない。それはこの前負けて、やっと理解した。なら…何だ…?僕を動かそうとする根幹は…?夢の始まりは…?

 今の僕は…誰もが夢見ることを同じように描いて、いつか諦めるそんな俗物…

 叶える為の原動力。その為の…僕にある死んでもやりたい情念はどこだ…!


 ジギタリス再び、エールへ攻撃するために素早く近寄り、剣を振り上げる。しかしその時、ジギタリスの剣をとは別で、何かが勢い良く風を切っている音が聞こえてくる。


「…!?」


 その何かはそのまま建物と衝突し、破壊した。


「…なんだ?」


 ジギタリスは目線をその場所へ移し、注意深く観察する。

 砂埃が舞う中、その何かが姿を表す。


「竜か…?」


 砂埃の中から一匹の竜が出てくる。そして直感する。今まで飛竜と噂さされていた正体は白銀龍であったと思っていたが、この竜の正体こそ、その飛竜なのだと。


「よしよし…そんなに楽しいか?」


 更にその砂埃から、人の声が聞こえてくる。ジギタリスはいきなり現れた存在に冷や汗を流し、少し後退りをする。


「ふむ、勇者が現れると聞いたのだが…ここではなかったのか…?」

「な、何だ…お前は…?」


 砂埃が落ち着き、獅子の鬣の様な髪型をした男が、飛竜から降りる。

 突然の出来事にジギタリスは動揺を見せるが、男は何事もなかったように飛竜を撫でると、視線をこちらへと向ける。


「恐怖を目の前にして怯む者を、勇者とは認めない」

「…何言って…?お前…何者だ…?」

「…そうだな…魔王…とでも言っておこうか」

「魔王…?」


 その言葉に、心臓が激しく鼓動する。そして何かが、訴えかけてくる。やれ…!倒せ…!勇者になりたいなら、現れたあいつに…勝て…!証明しろ…!


「どうした?かかってくるといい…万が一にもお前達じゃ勝てないがな」


 その挑発にジギタリスは舌打ちをした後、その男へと攻撃を仕掛ける。しかし攻撃を空を切る。そして男からの反撃によって腹を殴られ、ジギタリスは吹き飛んでいった。


「残るは一人…どうする?既にボロボロだが…もう生きることを諦めるか?」


 男の挑発に乗った訳では無いが、どうにも興奮している。相手が魔王と名乗ったからなのか、それとも未だに迷っている焦燥感からなのか、正体は分からない。


 ただ、自分の夢を賭けるつもりで、男に挑む。


「ほう…挑んでくるか」


 落ち着いた調子で男は話す。素早く攻撃を仕掛けるが、それは躱されてしまう。


「まだまだ甘い…!」


 出鼻を挫かれてしまったが、更に攻撃を仕掛けようと、体勢を立て直す。しかしその直後、ジギタリスと同様に手痛い反撃を受け、吹き飛ばされる。


「…こんなもんなのか…」


 男はつまらなそうに呟き、頭を掻く。振り返り、竜の元へと向かっていく。


 全身が痛み、意識が遠のいていくが、相手は今、隙だらけだ。ゆっくりと身体を動かしてみる。何とかまだ動く。剣を握る。まだ力は入る。這って進む。まだ行ける…!足に力を入れ、少し揺れながら立ち上がる。


「まだ時間があるな、他の場所も見て回ってみるか?」


 飛竜はこちらを警戒しているが、男はまだ気が付いていない。好機だ…不意打ち一撃当てて勝つ。それが今できる最善…!それで魔王が倒せるなら…!今の僕でも…できる…


 一歩一歩に力を入れ、全力で進む。いつの勇者もこんな気持ちなのかもしれない。ボロボロの身体で…ボロボロの心で…勝つために歩く…勝つために進む…この時の為に今までがあったんだって、そう思う為に…自分ならできるって肯定する為に…!魔王を…倒すために…勇者になる………!


 行け…!勇者なら………!!!僕が…勇者になれるなら…!!いつか読み聞かせられた…おとぎ話の勇者みたいに…!いつか描いた…勇者みたいに…!!!今度は………僕が…!!!


「あれ…?」


 進んでいた足を止め、俯き、考える。何かが引っかかった。

 いつか読み聞かせられた勇者…?いつか描いた勇者…?

 自分で思った言葉が、どうも気になる。


「……僕の夢って………」


 少しだけ、自分の夢の本質を理解した。そんな気がする。

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