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第30話∶気持ちいい!

 


 ………………………


 ……………………………………


 ……………………………………………………?


 ………空が綺麗だなぁ………あれ…?え…なんで空飛んで…?


 下を見ようとするが、どうも身体が動かない…ん…?あれ…下?なんで身体横になって…?なんか…頭がぼんやりする…。

 頭を持ち上げて足元を見る。何だ?なんか乗っかってる…?重い…痛いかも…手も巻き込まれてる…。とりあえず、手を…自由に…そういえばなんか暗い?あれ?今まで僕は何を見て…?


 見上げてみると、白く波打っているような模様が広がっている。なんだろ…全然分からないな…。


 しばらく何も考えず眺めていると、風を切る音が聞こえていることに気が付いた。そういえば少し…いや、結構寒いな…。風が…強い…?

 僕はどこで寝て…?頭が沈む………?いや、寝て…?みんなは…?


 空を見上げてぼんやりと考えていると、雲が動いている。そして徐々に、身に起きている異変を実感する。

 何かが乗ってるんじゃなくて、掴まれてる…?…飛竜とかの話って…あれ…?もしかして…捕まってる…?


 もう一度正面をよく見ると、ドラゴンの顔のようなものがある。………ドラゴンじゃん………おかしいと思ってた、ずっと…なんか…前にもあったな…こんなこと…。

 チアもタローもいないし、いつの間に知らない場所で寝てるわけないもんな…。夢かと思った…ほんとに…夢であってくれよ、ほんとに…ほんとに頼む…!

 冷や汗が出てきた。少しずつ頭がまわり始める。

 不味いよな…まずい、これはまずい…。冷や汗が頬を伝って落ちていくのを感じる。どこかに移動してるよね?このまま巣までお持ち帰りされる感じ…?


 なんとか逃げなければ…。胴体と一緒に捕まっている腕を自由にしようと、体をよじらせてみる。


「くっ…!いてて…」


 なかなか強く掴まれていて、体を動かすだけでも痛みを感じる。それでも何度も身をよじってみせる。


「いっ!よし!うおっ…!」


 なんとか腕が抜けたが、その所為で不安定でバランスの悪い姿勢になってしまう。落ちたりとか、大丈夫かな…?そもそも、どこに向かってるんだ…?巣に持って帰って今日の晩御飯とか…?丸呑みなのかな…それとも火炙りとか…?どちらにせよ嫌だけど…。それよりなにより…今ここで落ちるのが一番嫌だな…どうする…?


「登るか………」


 じっくりドラゴンを見つめる。まだこっちの動きには気付いていないようだ。背中に手を伸ばし剣を取り出そうとするが、なかなか手に当たらない。手探りで探してみるが、それでもその手は空を切る。

 落として失くしてしまったのかもしれない。どうしよう…?あれ、そういえば全然使ってなかったけど短剣あったな…落ちてたりしないよね…?

 ゆっくり腰に手を伸ばすと、短剣が指に当たる。良かった…あった…。触れた短剣を、落とさないように力を入れ、ゆっくりと抜く。


「…ふぅ………」


 心を落ち着けるため、深呼吸をしてみる。全然落ち着かない…激しい鼓動が聞こえる。

 気持ち悪い…吐きそうだ…心臓が口から出てきそう…。手が震えてる…良かった…手が震えてることに気が付けて…短剣を落としてしまうかもしれない。

 短剣を持ち直してみる。…怖い…信じられないくらい怖い…きっと立っていたら足が震えていただろう。良かった捕まってて………全然良くはないな。全然こんなこと、無くて良かった…無い方が良かった…。


 身体が震えている。なれるのか…?こんなんで…勇者に…?ビビんな…!こんなんで…!この程度で…!!


 大きく息を吸い込む…何秒か息を止め、息を吐く。そしてもう一度息を吸い込む。

 よし…!


 強く握った短剣をなるべく手の届く限り上の方へ、ドラゴンの足へと力強く、深く突き刺した。


 ──────ギュオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!?─────


 ドラゴンは突然の痛みに驚いたのか、叫び声を上げ、掴んでいた手を離す。え…?それは不味いのでは…?


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!?」


 高く深く短剣を突き刺したお陰で、何とか落ちることはなく、短剣にぶら下がっている。本当になんとか…ギリギリ何とかなった…?いや…まだだ…!短剣がドラゴンの肉を切り裂きながら落ちてくる。


 ────ギュオオオ!!!!!─────


 ドラゴンは再び大きな声を出し、体を揺らす。痛いのだろう…それはそうだ…。それでも揺れないで欲しいというのは、過ぎた願いなのだろうか…?

 必死にドラゴンの足にしがみつくが、落ちそうだ…下も上も怖い…。

 そうしていると、背中で金属音が聞こえ、少し重くなったように感じた。剣を失くしたわけではなく、落ちそうになっていただけだったのだろう。

 良かった…もう二度と、背中には装備しないかもしれない。


 全身で力強くドラゴンの足にしがみつき、短剣を抜く。そしてまた、手の届く限界のところに短剣を突き刺す。


 ───ギュッ!!!───


 今度は叫び声を抑えた、痛みを堪えたのだろう。力強くしがみつきながら、もう一度短剣を引き抜き、また手の届く限界のところに強く突き刺す。ドラゴンはもう声を上げない。

 引き抜き、突き刺す。何度も繰り返して、ドラゴンをよじ登る。

 ドラゴンは度々苦しげな声を上げながら、空中でふらつく。


 背中まで辿り着くと、ドラゴンはそれに気が付いたのか、途端に暴れ出す。

 背中に乗られるのが嫌なのだろうか、それとも野生の勘でも働いたのだろうか…どちらにせよ危ないからやめて欲しい…相手からしたらそう言われても困るのだろうけれど…。

 自分の背中に剣があるのか確認するために、手を伸ばしてみる。するといつもの場所で、柄に手が当たる。それに安堵し、ほっと息をつく。でもまだ、終わったわけじゃない。


 必死にしがみつきながら、ドラゴンの背中を這って進む。ドラゴンはかなり激しく動いているが、何とかしがみついてギリギリ落ちてない。気を抜いたら、いつ落ちてもおかしくない。気張ろう…もっと…!生きて帰るんだ…!


 ドラゴンにしがみつきながら、周りを見てみる。

 ドラゴンの背から見た世界は、どんなものも小さく見えて、手が届きそうで届かない。夕陽が森を着飾り、伸びた影が存在を示す。耳には風を切る音だけが聞こえる。

 窮地に陥っているにもかかわらず、綺麗だなんて感想が出てきてしまう。ずっと、いくらでも見ていられる。どうせなら、みんなも一緒に見てみたかったかもな…。

 僕がずっと眺めていたいこの景色を、このドラゴンはいつも見ているのだろうか。それはなんだか羨ましいな。…でももし、僕がドラゴンだったら、勇者になりたいなんて思うことも無かったのかな…?それは少し悲しいかも…?やっぱり僕は僕じゃないと。


 ドラゴンの背中を這い動き、首元まで辿り着く。そしてまた深く息を吸い込み、息を吐き出す。

 このまま何もしなかったら、きっと巣まで連れられて記憶にも残らない一食になって終わるのかな…。もしかして子供がいてそのご飯になるのかもしれない。でも…そんな未来は要らない。


 ドラゴンは、僕が落ちたとでも勘違いをしているのか、それとも諦めたと思っているのか、もしくは気絶でもしていると思っているのか、いつの間にやら大人しくなっている。

 陸じゃ不利になる、やるなら今ここで…倒せなくても、少しでも弱らせることならできるはず…!やるぞ…!なるんだ…!勇者に………!


「…イマ…ココデ…!」


 剣を抜き、息を整え、目を瞑り心を落ち着かせる。

 剣を振りかざし、ドラゴンの首元へと突き立てる。流石ドラゴン、白く覆われた硬い鱗で、中々刃が通らない。それでも剣を突き刺す。ここでやれなきゃ、やられる…!できないなら…死ぬ!夢は叶わない…!このままじゃ終われない…!


「ぐっ…!?」


 ドラゴンは再び、叫び声のような鳴き声を上げながら暴れ始める。それも前までとは比べものにならない程に強く。きっと相手も生きるために必死なのだろう。そんな生きたいとでもいうような意思が伝わってくる…ような気がする。それでも手は抜かない。何度も何度も、ドラゴンの首元に剣を突き刺す。


 何度も何度も、深く剣を突き刺そうとしていると、強靭な鱗は剥がれ始め、血塗れの肉が見え始める。それでも、そんなこともお構い無しに何度も剣を突き刺す。

 気付けばドラゴンは弱り、姿勢を保てなくなったのか、ゆっくりと滑空するように落ちていく。それでも何度も剣を突き刺す。


 知らない内に高揚感や万能感などが現れ、それが頭を支配し、快感となって包まれる。


 気持ちいい…!その快感だけで剣を突き立てる。そうしていると、いつの間に地面が近くなっていた。


「ぐっ…!あっ…!はぁ…はぁ…」


 地面に衝突し、乗っていたドラゴンから離され、転げ落ちる。激しい痛みが体を襲うが、それでも立ち上がる。


 トドメを刺さないと…トドメ…ヲ…サス…。快感に支配され、自我と本能でせめぎ合っているような気持ちだけが、身体を動かす。今は痛みですら気持ちよく感じられる。


 気持ちいい気持ちいい!気持ちいい!!気持ちいい!!!キモチイイ!!!!


 殺す殺すコロスコロス殺せ殺せコロセコロセ…!


 この気持ちの正体は…この衝動の正体はわからないが、今はただ、それに身を委ねる…。

 気が付けば、あの時と同じ様な炎が身体を包んでいた。でも少し…何かが違う…。黒ずんでいるような気がする…。


 そんなことはどうでもいいか………。


 落ちた剣を拾い、ゆっくりと重傷を負ったドラゴンへと向かう。


 一歩…一歩…。自分が死というものもそのものになったかの様な気分だ。それ以外は全てどうでもいい…!さあ…!はやく…!トドメを!


 重傷を負ったドラゴンまであと一歩、剣を振り上げる。後は振り下ろすだけ、というところで、後ろから勢いよく風を切る音が聴こえてくる。


 後ろを振り返ると、もう一匹のドラゴンが遠くから勢いよくこっちに向かって来ていた。

 ここに来てもう一匹はまずい…!いや、待て…今…僕は…一体………?何をしようと…?

 自分を見失っていた………?やっと我に返った………?いつの間に…炎も消えている…?何も分からない…一体何が………?


 ふと顔を上げると、向かって来ていたドラゴンが、後数秒で手の届きそうな位置まで迫って来ていた。何も分からないまま、迫りくる危険に、思わず目を見開く。


 いつだって、始まりも終わりも突然なんだ。

 その覚悟は、ずっと持っていると…持ち続けていると思っていた。

 それでも………一筋の光のようなものが………まだ…見えていた………。

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