表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

第3話∶逆光

 

 エールは青年が去ってから湖で休息をとり、実っている果実など食料を集めて過ごした。


 それが終わった頃には日が暮れており、そこでテントを張り、そこで次の朝を迎えようとしていた。


 エールは先程の青年のこともあり、寝つけないと思ったが一日の疲れもあったため、気が付くと眠りについていた。


 次の日。


 エールは森を抜けようと、昨日の青年が去って行った方向へ進む。


 途中、何度かゴブリンなどの魔物を見かけるが、見つからないようやり過ごし、進み続ける。


(あの人、昨日の内に戻れたのかな………?)


 エールがそう思わずにはいられないほど、森は険しく、深かった。

 奥に進むにつれ辺りは暗くなり、不気味さが増していく。


 少しの間、歩き続けていると明るく開けている道のような場所へと出ることができた。

 そこからその道を辿って行けば街に着くかもしれないと考え、道に沿って進む。


 それも束の間、しばらく歩いていると何やらバサバサと、どこからか羽ばたいている様な大きな音が聞こえ始めた。


 突然の騒音に驚きながらも、音が聞こえてくる場所を探す。

 聞こえてきたであろう方向へと体を向け、目を凝らすと、何やら全速力でこちらに駆けている少女が見受けられる。

 何事かとエールは羽ばたく音がする方向の少し上へと目を凝らすと………。


「………ドラゴンじゃん………」


 ドラゴンであった。

 遠くからでも空の影とも言い表せるような存在感、逆光で真っ黒になっており、表情が見えない。

 言い表せない威圧感に、エールは息を呑んむ。


 圧倒され、しばらく佇んでいるエールは、冷静さを取り戻すと、こちらへと向かってきているドラゴンに気づかれない内に、木陰に隠れる。


 おっかない、なんて言うか、すごいドラゴンだった。目が合って、はい、敵です、みたいになったら、絶対殺される。


 ドラゴンの咆哮と羽ばたく音はまだ遠い。


 とにかく、気付かないで欲しい、僕はドラゴンに食べられに旅立ったんじゃない。


 ドラゴンの羽ばたく音は、少しずつ近づいてきている。

 エールは座り込み、膝に顔をうずめる。そして旅の理由を思い出す。


 勇者になるために旅に出たんだ。


 ドラゴンの羽ばたく音がかなり近い、その音に緊迫感が増す。


 勇者………まだ飛んでる音が聞こえる…?トラウマになりそうだ………風圧でこっちの存在にも気づいてたりして………?


 …………………


 ドラゴンのことで頭がいっぱいいっぱいだったけど、逃げてた女の子いたな…大丈夫かな…いつから逃げてたんだろ…。


 …………………


 もう限界だったりして…勇者だったらあんなドラゴンすぐ倒して助けたりできるのかな…。僕が戦うには、まだ早い…。


 ………助けるだけだったらできるかな………。


 ………なるんだ勇者に…勇気を出せ…だめだったらその時は…勇者になれるやつじゃなかったんだ………


「僕が勇者になれるなら………できる…」


 エールは自分を鼓舞するように言い聞かせる。

 そして全速力でこちらに駆けてくる少女とすれ違うように木々の間を走り出しす。

 ドラゴンは少女を捕らえようと滑空をし始める。

 少女は変わらず全速力で逃げる。

 ドラゴンと少女とエールの距離は縮まっていく。

 エールと少女がすれ違う一瞬。エールは走る向きを少女へと切り替え、勢い良く少女に突撃し、少女を抱えながら転がった。


「うっ危なっ痛っ」

「…ッ!?!?」


 突然の出来事に少女は困惑する。

 そしてドラゴンの方は、少女を見失った様だった。


「ごめんよ、大丈夫だった?」

「あなたは………?」

「追いかけられてたから、つい飛び込んだんだけど怪我はない?」

「えぇっと………?」


 突然、歳が近いと思しきに青年に体当たりされたこと、そして一方通行な会話に少女は更に混乱する。

 しかし、ドラゴンがまだ周囲で羽ばたいているのを思い出すと冷静さを取り戻し、黙り込む。


 そんな少女の様子を見計らったエールは───


「どこから来たの?逃げるついでに、街まで案内してくれない?」


 ───さりげなく道案内を要求していた。


 共に、ドラゴンに気付かれずに、逃げるという目的の一致を利用して、街まで案内して貰おうという算段であった。


 少女は断るはずもなく、二人はひっそりとドラゴンから見つからないよう身を隠し、街へ辿り着く為に森を抜けようと進む。


 そこからの道のりは、ドラゴンに怯えているのか、魔物は滅多に現れず、あっさりと森を抜け、街が見え始める。


 いつもいるはずの魔物がいない、という不安を感じながらもなんとか正気を保ち、二人は森を抜けた先にある街へと向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ