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第28話∶話せばわかる

 

「え、まじでどうする?」


 タローの声が聞こえてくる。

 エルダートレントの手数は減ってきたとはいえ、離れたら木の葉が無数に飛び、枝と根を使った攻撃はまだまだ続く。


「どうするって言われてもな…」


 ユージが返事をする。

 ユージも倒し切る方法がまだ思いついていない様だ。


「うおおおおおお!」


 突然の気合の入った叫び声に、エールは振り向く。するとクロワが勢いよくエルダートレントへと向かって走る姿が見えた。

 軋むような衝突音があったが、外見にそこまでの損害は見られない。


「痛ってぇ!」


 クロワが殴った拳を振り、痛がる反応を見せる。

 ガントレットでエルダートレントへ殴りかかったクロワの方が痛手を受けていた。


「クロワがやられたか…」

「おい!やられてねぇよ!」


 戦闘中とは思えない会話が飛び交う。

 相手の手数を減らせている今、このまま時間かけたら勝てるであろう。しかし、相手に仲間が加勢しに来たら、一転して形勢が変わる事をエール達は理解していた。


 エールは攻略しようと、周囲を見渡す。するとタローがエルダートレントから切り離した枝を、観察している姿が見えた。

 そしてエールは、エルダートレントの枝は容易に切り落とせていた事を、枝を鞭の様に撓らせ、攻撃して来ていた事を、更にエルダートレントの胴体と呼ぶべきであろう幹の部分は剣の刃が通りにくかった事もエールの頭に過った。


 そうしていると、いつの間に放っていたのか、エルダートレントに深く矢が刺さっているのが見えた。

 放たれたと思われる方向を見ると、ユアサが矢を構えている。

 エールは刺さっている矢を観察し、違和感を抱く。刃がなかなか通らなかったエルダートレントに、あんなにも深く矢が刺さっているのか、という疑問が浮かんだ。


(…何か違う…?)


 枝は切りやすく幹の部分は刃が通り難い、しかし弓は深く刺さっている。

 一体どういうことなのかとエールは切り落とした枝を観察する。


(かなり湿ってるしボロボロだな…よくこんなので攻撃しようと…?湿ってる…?どういうことだ…?)


 エールは矢が刺さっている場所をよく見る。そしてそこは、クロワが攻撃した場所だった事を思い出した。


(…?あそこは乾燥してるから硬いのか…?矢が刺さってるのは…?クロワの攻撃で内側から壊れたから…?)


 エールはエルダートレントから少し離れ、様子を見る。

 ユージは注意を引き付け、攻撃を一身に受け止めている。

 チアは炎の魔術を放つが、エルダートレントはそれを枝で弾き飛ばす。


(枝は湿っているからあんなに動かすことができるのか?…だから柔らかくて剣で斬れた…?チアの魔術が枝に弾かれてたのはそういうこと………?)


 エールの目の前で、タローはエルダートレントへ剣で斬りつけるというより、叩きつける様に攻撃している。

 クロワは痛い目を見たからか、攻撃を躊躇っている様だ。


(剣の熱で燃なかったのは…?内側から燃やそうと突き刺していたから……?空気の入り口が無かった………?)


 エールは様子を見ながら考えることで、相手の性質を理解しつつあった。


 エルダートレントは枝や根など、よく動かす部位は水分を多く含んでおり、幹の部分などあまり動かさない部位は、乾燥しているのであった。

 そういった理由からエルダートレントの枝は燃え難い変わりに傷付けやすく、エール達でも簡単に切り落とすことができた。そして幹の乾燥している部位は硬く、燃えやすい。

 それを理解しているエルダートレントは、チアの魔術を警戒して優先的に防御し、タローやエールの攻撃を受け入れていた。

 しかし熱を宿して攻撃してくるのは予想外で少し焦っていのだが、エール達は剣を突き刺して内側から燃やそうとしたことで燃え移ることはなく、エルダートレントは安心し、完全に油断しきっていた。

 仲間も呼び寄せ、すぐさま栄養になる。そう考えていたエルダートレントであったが、何かとエールの姿が気になる。いつも何も考えず無闇に挑んで来る生き物とは何か違う。

 エルダートレントは油断しつつも、立ち止まり様子を見ているエールに違和感を抱いていたのだった。


(剣で斬るんじゃない…叩きつけるイメージ…!)


 エールは再びエルダートレントへ近付き、攻撃を再開する。

 エルダートレントは枝や根を伸ばし何度か妨害するがエールはそれを物ともせず、容易に対処してみせる。

 そうして何度も皮を攻撃し、表面を柔らかくする。


(よし…!後は火を…どうやって付けるか……)


 エールは何かを考えた訳でもなく、無意識にチアの方を向く。

 何かを伝えようとした訳では無かったのだが、チアには何か伝わった様で炎の魔術を放つ準備を始める。

 それを好機と捉え、エールは次の自分の行動を考える。


(後は隙を作らないと…どうする…?なるべく視界に入るように…チアを意識させないように…)


 そこからのエールは意識してか無意識なのか、先ほどの纏っている硬い皮を崩す攻撃とは違い、一度も違えることなく同じ場所を攻撃し続ける。


 エルダートレントはそれを厄介に思って、エールに狙いを定めた。

 そうして魔術を放つ準備ができたチアは、その隙を見逃さず炎の魔術を放つ。

 エルダートレントはそれに気が付き、対応しようと枝を伸ばしたが、ユアサが弓を放ち見事に妨害してみせた。


 炎の魔術は直撃し、エルダートレントは藻掻き苦しんでいる。しかしこのままでは炎が消えるのは時間の問題だと感じ取ったエール達は、追い討ちをかける。


 追い討ちをかけていると、次第にエルダートレントは弱り始め、かなり燃え広がったこともあり、エール達は離れて様子を見る。


 少し時間が経つと、力尽きたのかエール達が攻撃していた場所からゆっくり倒れ始め、その重さに耐え切れず幹の部分は折れる。

 切り株のようになったエルダートレントを眺めながらエール達は、その場に留まる。


「うわぁ〜しんど〜」


 そう言ってタローは座り込むが、涼しい顔をしており、息も切れていなかった。


「じゃあ…適当に剥ぎ取って帰る?」

「…なんか言い方悪いな…でもまぁ…流石に帰るか」


 タローとユージは燃え上がるエルダートレントの残骸を見ながら会話をする。


「うん、行こっか…ん?」


 タローは何を疑問に思ったのか、突然振り返り、周囲を見渡し始める。


「…どうかしたの?」

「………」


 エールの質問にタローは何も答えない。ただ、警戒をしているのが伝わってくる。

 そうしていると、エールは森が騒がしいのを感じた。森が響いている、その音が次第に近くなる。


「…これは…また来そうだな…」


 クロワが呆れたように呟いた。


「なんだ…またエルダートレントかよ…」


 姿を現したのは、先ほど倒したエルダートレントとあまり変わらないエルダートレントであったが、エールは違和感を抱く。

 エルダートレントは現れた場所から動かず、エール達の様子を見続けている。

 森はまだ、響いている。


 目の前のエルダートレントを警戒していると、木の間から別のエルダートレントが姿を現した。

 その様子を見てエールは慌てて周囲を見渡すと、木々の間から何体ものエルダートレントがエール達を覗いていた。

 次第に姿を現し、エール達を囲む。


「ハードモードだね…!」


 タローは何故だか楽しそうに笑う。

 しかしそんなタローを見て、エールはどこか安心していた。


 エルダートレントは、何度も枝を地面に叩きつけ、威嚇する。

 エール達は身構え、エルダートレントが襲い掛かってくる。そう思われたが、エルダートレント達の動きは、一斉に止まる事になった。


 静まり返ったこの場で、誰かが疑問を浮かべるより前に、地面が揺れ、どこからか地響きが聞こえてくる。いや、未だに聞こえていた。


 その正体を知った瞬間、誰かの息を呑む音が聞こえた。


 エール達の前には、エルダートレントよりも何倍も図体のある大木が、いつの間に、そして鷹揚に構えていた。


「………やば…」


 誰が言ったのかは分からない。

 エールにも、その程度の言葉しか見つからなかった。


 一筋縄ではいかない、圧倒的な強さが、圧倒的な風格が見受けられた。


「騒がしい…」


 目の前の圧倒的なトレントの声なのか、森を揺らしエールの頭に直接響いて来る。


「うええ、ヤバそう過ぎるな…」


 こんな状況でも空気を読まない発言をするタローに、この場の全員が感心する。


「エタニティ…?ミレニアムかな…?を感じるね」

「ほう…」


 タローの冗談めいた発言に、一際大きいトレントは感心したかの様な声を出す。


「…なかなか見る目のある──」

「話せる感じー?」


 一際大きいトレントの発言に、タローが言葉を被せる。

 その言動に、この場の全員が肝を冷やし、同時にタローの事を少し恨んだ。


「話を最後まで───」

「話せばわかる感じー?」

「おい!やばすぎ!」


 再び一際大きいトレントの発言に言葉を被せたタローに、流石のユージが全力で止める。


「話しても分からなくなりそうだな…」

「えー、ごめんじゃん」

「…良いのか…?こんなノリで………?」


 一際大きい威厳のあるトレントと、マイペースが過ぎるタローに、あからさまに焦っているユージがそこにはいた。


 この会話の成り行き次第で、生きて帰れるのかが決まるのではないか、そんな心配をしているエールであった。


 再びこの場は静まり返り、お互いがお互いを見定める。こんな重苦しい空気が続くのか続かないのか、そんなことも今のエールには分からなかった。

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