第26話∶トレント大暴走!?
(…どう来る…?)
モグモニーはエール達に気が付くと、ゆっくりと近付き、じっと見つめて様子を見ている。
様子を見ていると、エール達を敵と見なしたのか、言葉では中々言い表せない、地を揺らす様な、虫の羽が擦れるような高い鳴き声を出しながら地面を掘り始めた。
(…逃げた?…いや、絶対来るよな…)
地面に潜り込み、姿を消したことにより、エール達は一様に足を止める。
大地が揺れ、地響きが近付いてくる。
(…この攻撃は…!)
エール達は、モグモニーの不発で終わったクラウンマンティスへの攻撃を思い出し、その場から移動することで攻撃を避ける。
移動が終わると同時にモグモニーが地面から勢い良く顔を出した。
「…初見じゃ危なかったな…!」
クロワの汗が地面に落ちる。
(確かに…今のが初めてじゃ、対処できなかったかもしれない…)
エールも今の一瞬で、体に変な汗を掻いているのを感じる。
(さて、どうする?)
エールは考える。クラウンマンティスの鋭き攻撃でも、少しの傷しか付かない相手に、自分は何ができるのか。
(迂闊に近付けない…この前みたいに火達磨になったら内側から攻撃を与えられるか…?)
エールは前の戦闘での感覚を思い出す。完全に集中しきっていた時の感覚を。
そう考えている内にクロワが飛び出す。
「仕返しだ…喰らえ!」
激しい衝突音と共に、モグモニーは激しく振動するような鳴き声を出しながら悶えている。
「気に入った!お手製ガントレット!」
ドワードが造ったガントレットと、チアの魔術でかなりの攻撃を与えた様だ。クロワは満足気にガントレットを見つめる。
モグモニーは鳴き声を出しながら、再び地面へと潜り始める。
またもや同じ攻撃を繰り出す気だが、エール達は既に回避する準備ができている。
再び地面を掘り起こしながら顔を出したモグモニーの隙を突き、クロワは攻撃をする。エールもそれに続き、剣を突き刺す。モグモニーは鳴き声をあげながら地面へと潜り込む。クロワの攻撃が特に効いているようだ。
何度もモグモニーは同じ攻撃を繰り返す。
(このまま同じパターンが続けば勝てる…!)
エール達はそう思っていた。しかし、何か違和感がある。その違和感の正体に、まだ誰も気が付かない。
モグモニーが地面へと潜り込む。
(…さっきから地面に足を取られているような…?)
移動しているのか、地面の振動が強く足元へ響いてくる。その振動で、足が地面に沈み始めた。
エール達は遅れて気が付く。何度も地面を掘り起こす内に地面がほぐれ、モグモニーの移動による振動が地面に伝わりやすくなっていたのだ。
モグモニーの行動で地面が蟻地獄の様になり、体が沈んでいく。
エールの目の前を、幾つもの穴を開けた切り株が無力に通り過ぎていく。エール達はこの戦闘でいつの間にやら、先ほど戦っていた切り株百足の方へと移動していたのだった。
「エール!慌てるな!」
突然の出来事で慌てふためいていたが、クロワの一言で少し冷静になる。
(抵抗すればするほど引きずり込まれる…でも…このままじゃ…)
エールは冷静に辺りを見渡す。周辺には幾つもの木が生えていた事を思い出す。
(そうだ…!木の根を…!)
エールはモグモニーの攻撃範囲外から出ている木の根を見つけ、なんとかそれに捕まる。周りを見ると、クロワも辛うじて木の根に掴まっている様だ。
「…あれ?チアは…?」
辺りを見渡すも、近くにチアの姿は見当たらない。少し離れた場所を見ると、モグモニーが生み出した砂地獄を中心に、クロワから向かいの対面にチアの姿が見えた。
(…まずい…!どうする!?助けるか…!?いや…そろそろ攻撃が始まりそうだ…!それなら…自分だけでも…?できるのか?そんなこと…?)
エールは焦りながらも、現状を切り開く策を思案する。
クロワはまだ、チアに気が付いてない様だ。
(…いや違う…!迷うな…飛び込め…!それが勇者になる一歩…冒険だろ…!)
エールは木の根を掘り出し、自分が移動できる範囲を伸ばしながらチアへと近付く。
「エール!」
近付くエールに気付いたチアが声を出す。そんなチアを抱えて、地面から出ている木の根を頼りにモグモニーが作り出した砂地獄を抜け出そうと少しずつ上へと上がる。
しかし地面からは地面を掘り進めている音が近付いて来ている。
(間に合うか…?)
今にも飛び出すと言わんばかりに、砂地獄の中心が激しく振動している。
クロワは既に脱出ができたようだ。
(いや…これは…来る…間に合わない…!)
「エール…?」
「しっかり掴まってて…!」
「えっ…?エール…!?」
エールはチアを抱えたまま砂地獄の中心へ、木の根を掴んだまま飛び出す。そしてそれと同時にモグモニーも地面から勢い良く地面から顔を出した。
チアはかなり不安そうな、戸惑っているような顔をしていたがエールは見ないようにした。
エールは勢い良く飛び出したモグモニーの顔を踏み、その力を利用して真横へと飛んだ。
木の根をしっかりと掴み、その木の根元まで飛び、咄嗟に木の幹を両足で蹴ることで威力を殺した。
そのままの姿勢で、エールはチアを抱えたまま地面へ落ちる。
「ぐっ!痛て…」
「大丈夫…?」
なんとか対応しきったエールは、気が緩んだのか、チアの真剣に心配する顔を見てなんだかおかしくなってしまう。
「ふっ…あはは!」
「えっ…?ダメになった…?」
「あはっ…いや…大丈夫だよ?」
チアは心底不思議そうな顔でエールを見つめるが、エールにはそんなこと、どうでも良くなっていた。
エールは徐々に追い詰められるほど、力を示すことができる戦闘を、楽しく感じるようになっていたのだった。
「エール!大丈夫か!?」
クロワが近寄ってエールの安否を確認する。
「うん…大丈夫…大丈夫…それよりどうする?」
「どうするって言ってもな…」
どうやらクロワからしても手詰まりの様だ。
これからどうやって戦うかをエール達が考えていると、タロー達が戦っていた場所が、何故か騒がしい。その方向に顔を向けるとタロー達が、エール達の方へと走って来ていた。
「なんだ…?」
かなり急いでいる様子で、エール達の方へと向かっている。
「…どうしたんだろ?」
タロー達が向かって来るその様子は、逃げているようにも思えた。
「やべーよやべー」
「どうしたの…?」
タロー達がエール達へと辿り着くと、いつも通りタローが他人事のように語り始める。
「いや…戦ってたらめっちゃトレント来た…トレント大暴走って感じだね…?どうする?」
エールはタローのめっちゃトレント来たという発言が気になっていたが、ここまで来たということは、その方向を見ていたら分かると思い、タロー達が来た方向を見る。
すると次第に見えてくる。無数のトレントがこちらへと向かって来ている様子が。
モグモニーもその騒ぎに気が付いた様で、無数のトレントに戦いを挑む。
何体ものトレントを地面へと引きずり込むが、トレント達は音を張り巡らせ、どうやら地面とモグモニーを固定した様だ。
地中でのことなので、エールにはわからないが、モグモニーが長い間、地面から出てこない様子でエールはそう察した。
「どうする?まぁ…逃げながら戦うっしょ」
タローは一人で会話しているが、逃げ切ることが難しいであろう今、エールは引きながら戦うことに賛成だ。
「畑耕したいなら別だけど…燃え移るから…あんまり炎とか使わないでね?」
「それじゃあ…どうする?」
深刻な空気が流れるが、タローはいつも通りの様子で口を開く。
「何いってんの…今回は例外ね」
深刻な空気を、いとも容易く気の抜けた空気にしてしまうタローに少し感心しながらエール達は逃げられる場所へと移動する。
トレントの群れの先頭が、何体かエール達へ近付くと、チアはこれ以上トレントが来れないように、そして先頭のトレント達の退路を塞げるように炎を放つ。
先頭のトレント達は退路を塞がれた焦りか、エール達へと突進してくる。
エール達はそれを軽々と避け、トレント達の様子を見る。
するとトレント達は、背筋を伸ばしたような姿勢になった。
不思議に思い、じっとトレント達を見つめると、真下から音が聞こえてくる。何かが上がってくる様な音が。
トレントの攻撃だと思い、その場から移動すると、地面が盛り上がり、そこからトレントのものと思しき根が出てきた。
(なるほど…これがトレントの攻撃か…)
数でかかって来られては対処が難しそうではあるが、そこまでの数なら余裕を持って対処できる。そう思い、エール達は全員でトレントの対処をする。
何度も対処をしていると、エールに気が付くことがあった。ここでもクロワが活躍していて、ドワードのガントレットで何度も勇ましくトレントを粉砕している事と、トレントは木の幹の奥の方が弱点なのかそこに剣を突き刺すと、すぐさま力尽きるのであった。
少しずつトレントの数を減らしながら、森の奥へと進んでいく。
トレントの数に恐れをなしてか、他の魔物は中々姿を現さなかった。
「結構数、減ってきたんじゃない?もう少しで終わりそう?」
タローは飽きてきたのか、先程からあまり戦闘に参加せず、観戦しているばかりだ。
「お前も戦えよ…」
「え…?もう良いよ…」
「もう良いよってなんだよ…」
ユージが苦言を呈するが、タローはそれを聞き入れない。そんな会話が生まれるほど、戦いに余裕が出てきていた。
「そんなことより、結構奥まで来たよねそろそろボス戦なんじゃない?」
「ボス戦ってそんな気軽なもんじゃないだろ…」
「それもそっか…ま、何でも良いよ」
エール達は現在、森の深くまで進んでおり、辺りは背の高い木が多い影響で少し暗い。
「暇になってきたらロシアン毒キノコでもする?」
「太郎君…?危ないよ…」
「そうだぞ…捨ててきなさい…」
「まじか…」
タローは持っていた怪しげなキノコを見せびらかす。エマとユージはそのキノコに訝しげな目を向け、その行動を咎める。
タロー達を見ていると、なんだか聞き分けのない子供を躾ける両親を見ている気分になるが、今は戦闘中である。
この場に似つかわしくない会話をしながら、タローは突然トレントへ持っていた怪しげなキノコを投げつけた。
見事に口の様な場所に入り、トレントはその場で倒れる。
「…セーフ?」
タローは振り返り、周りの様子を伺うように辺りを見渡すが、気の利く言葉を言う者は誰もいない。それより全員かなり引いた顔をしている。魔物が一発で気絶するようなキノコをどこからか持ってきたのだ、当たり前である。
「…拾ったもんは食うなよ…?」
ユージの一言から少し間があり、変な空気が流れながらもエール達は先に進む。
エールはその辺に生えている様なキノコが、少しだけ怖く感じるようになった。




