第25話∶森へ行こう!
案内された森の入り口へと到着したエール達は、期待と不安を募らせ、森の中へと足を踏み込む。
(…あれ?…そういえば…なんか森でばっか戦ってる様な…?)
エールは自分の戦闘を思い返す。チアと出会った時も森での出来事で、ジャイアントとの戦いも最初は麦畑周辺であったが、最後は森の中にある巣での決着であった。
(…思い返せば色々あったような…まぁ…まだまだ駆け出しなんだけどね…)
今まであった出来事と、予測できないこれからの出来事に、エールは心を躍らせる。
「エール?どうかした?」
チアは、エールから無意識に笑みが溢れたのを感じとり、エールに声を掛ける。
「ん…いや、何でもないよ?」
そう言って尚微笑み続けるエールを不思議に思ったが「ふーん…そっか」と深く聞くことはしなかった。
「そういえばこの森、魔物多いらしいから気を付けてね〜」
暫く歩いていると、不意にタローが全員へ忠告をする。
「…結構進んだぞ?…言うの遅くね?」
ユージの言う通り、かなり森の奥へと進んでおり、確かに遅い報告であったが、エールはタローの一言で、森の静けさに絆され、緩んでいた気が再び引き締まるのを感じた。
「ほらあれ、何かいない?」
「ほらって…見つけて思い出したのかよ…」
全員で隠れやすい木に身を潜めながら、タローの発言にユージは冷静に返答する。そして何やらタロー指差すその先、少し遠くの切り株で、動いている生き物が見える。
いや、違う。切り株の近くで動いているのではなく、切り株のから出ている幾つもの根が、まるで生きているかの様に動いている。
「切り株百足だね、何かと戦ってる?」
タローが遠くに見える魔物の正体を言う。
切り株百足と呼ばれた魔物は、根を何本も這い出し、気味の悪い動きをする。その様子をよく見るとどうやら、人の顔一つ分程の虫と戦っている様だ。
「あの虫って何?もしかして皆のトラウマ?」
「いや…あいつは年輪齧りだな…森でよく木を食ってる」
クロワに年輪齧りと呼ばれた魔物は、切り株百足の頭に張り付き、噛み付いている様だ。そして食われまいと、切り株百足も何本もある百足の様な根を動かし、年輪齧りに対抗している。
その様子を不思議と全員で魅入ってしまっている中、視界の端で、またもや激しい動きが見受けられる。
「あっちでもなんか戦ってるな」
クロワが認識したであろう方向をエールが見ると、そこには巨大な芋虫の様な魔物が二体、強さを競っていた。
「…キャタグラーとカンピアグリズリーだな」
「どっちがどっちなの?」
「そうだな…あの下半身と口がデカいのがキャタグラー、そんで…あのでかい腕があって、ふもふしてる熊みたいな芋虫がカンピアグリズリーだな」
「へぇ…」
クロワはエールに、魔物の特徴を指を差し説明する。
クロワのその説明で、大まかに理解をしたエールは、その魔物達が争っている理由が気になり始めた。
「…どうして戦ってるの?」
「あいつらはたぶん…縄張り争いでもしてんだろ…蛹になる時の為に見つけた場所が被ったんじゃないか?」
魔物達が争う理由を聞き、エールは自然の厳しさを知る。そうしていると、またもや魔物が現れる。
今度は地面から、巨大な顔が地面に穴を開けた。
「うわ…何か出てきた…あれは?」
「あいつは確かモグモニーだな…あの芋虫を捕食するために出てきたんだと思うぞ?」
モグモニーと呼ばれた魔物は、キャタグラーとカンピアグリズリーの前へ現れ、獲物を見るような目で暫く眺める。
その間、キャタグラーとカンピアグリズリーの戦闘は中断されていた。
「誰が勝つのかな?」
「さあな?」
「あの魔物達の強さはどれくらいなの?」
「強さ?ああ…危険度か、キャタグラーは6でカンピアグリズリーは8だったかな、そんでモグモニー7とかじゃなかったか?」
クロワに魔物達の強さを聞くが、危険度が離れていて戦力に差がありそうなものだが、そう感じさせない戦いに、違和感を抱く。
「カンピアグリズリーが一番強いの?さっきまで互角そうだったけど…」
「まぁ…危険度っていっても、人に対してのであって、あいつらの戦いで参考にはならねぇよ…ほら、あっち見てみろ」
そう言われ、エールはクロワに指差された方向を見る。
先程の切り株百足と年輪齧りが、未だに攻防を繰り広げている。
「あの切り株百足の危険度は8で、年輪齧りは単体だと3だぞ?」
危険度の強さとは違い、弱いはずの年輪齧りが押している様子に、エールは驚く。
「年輪齧り…かなり善戦してるよな…まあ、切り株百足にとっての天敵ってやつなんだろうな…」
切り株百足は無数の根を上手く扱い、年輪齧りを引き剥がそうとするが、食い意地なのか、かなり強い力で掴まっている様で、まだまだ引き剥がれない。しかしまだ噛まれた傷はそこまで深くない様に見える。
今度は切り株百足は何か対処を思いついたのか、無数の足で移動を始める。
他の木の付近へ寄ると体を縦にし、側にある木に年輪齧りが張り付いている体を、擦り付ける様に動いた。
自身を傷付けながらも相手を引き剥がした切り株百足であったが、まだ年輪齧りは生きている。
またもや張り付こうとする年輪齧りであったが、今度は体に付いた瞬間、無数の根を年輪齧りに絡ませる。そして何度も地面に叩き付けた。
何度も叩き付ける内に、年輪齧りが力尽きたのか、無数の根を絡め、叩き付けていた年輪齧りを投げ捨て、その場から離れようと体を動かす。
しかし不運なことに、また現れた別の年輪齧りによって、再びその場で戦うのであった。
エールは再度キャタグラー達の方を見る。
するとモグモニーがキャタグラーへ噛み付こうとした瞬間、キャタグラーの前へ移動し、キャタグラーの代わりにカンピアグリズリーが防御する。そしてキャタグラーがその隙に攻撃するという連携を見せていた。
キャタグラーとカンピアグリズリーは窮地で協力する関係にあるのか、モグモニーを相手に共闘しているのであった。
「…昨日の敵は今日の友って奴か?早すぎるけどな…」
ユージは愉快そうに魔物達の戦闘を観戦している。
カンピアグリズリーは毛皮が厚いのか、何度もモグモニーの攻撃を受け止めている。そしてカンピアグリズリーが攻撃を受け止めている間、キャタグラーは大きな口を広げモグモニーに噛み付くという流れなのだが、モグモニーには攻撃があまり効いていない様子だ。
少し間モグモニーの猛攻に、体力を消耗し弱ってきたのか、カンピアグリズリーの体勢が崩れ始める。
その隙を見逃さずモグモニーはカンピアグリズリーに体重を乗せた突進をする。
踏ん張りきれずそのままカンピアグリズリーは吹き飛ばされ、木に衝突した。
その衝撃で木が揺れ、葉がこすれる音がエールの耳にも聞こえる。
カンピアグリズリーは衝撃で暫く動けない様子だ。
モグモニーは邪魔なやつがいなくなった、と言わんばかりにキャタグラーに向き直り、弱らせるための攻撃をする。
モグモニー何度も何度も両手でキャタグラーを叩き付けると、弱ったキャタグラーを少しずつ捕食する。
「弱肉強食、食物連鎖、良いね良いね!生態系じゃん!」
タローは意味不明なことを言っているが、どうやら魔物が戦っている様子を見て、興奮気味な様子だ。
その様子を横目にモグモニーの捕食を見ていると、カンピアグリズリーの方に何か動きがある。
よく見ると、以前エール達が戦った大きな声蟷螂が、カンピアグリズリーを喰らっていた。
両手にある鎌で掴み、小さい口で、少しずつ肉を食べる。
「前に戦ったことのあるやつだな…あいつはクラウンマンティスっていうらしいぞ?」
どこかで聞いたことのある名前をクロワに聞かされるが、エールはその名前を少しも記憶になかった。
モグモニーはクラウンマンティスに気がついたようだ。自分の獲物を奪われた怒りか、地が振動するような声を出しながら地面に潜る。
クラウンマンティスは気にせず捕食を続けるが、何かに気がついたのか、その場から後ろへと大きく飛んだ。
すると今までいた場所に、モグモニーは勢い良く地面から顔を出した。
モグモニーの攻撃は不発で終わったが、その隙を見逃さず、クラウンマンティスは攻撃に移る。
素早くモグモニーの近くへ移動し、クラウンマンティスは両手の鎌を振り下ろす。人の首を容易く切り飛ばしたクラウンマンティスだが、モグモニーの毛皮は硬いようで、少しの傷をつけることしかできない。
「ボス同士のバトルって感じかな?盛り上がってきたね〜!」
相変わらずタローは楽しそうだ。
魔物同士の戦っている中、エールは先ほどまで戦っていた魔物達を観察する。キャタグラーとカンピアグリズリーは少し前まで生きていたと思えない程弱々しい姿で倒れ、生きていたのが嘘だったかのように、エールにはまるで物みたいに見えた。
(…死ぬってこういうことなのかな…)
今まで目の前で人が死ぬ姿や、自分が死にそうになったこともあるが、周りはそれが当たり前の様に振る舞うため、気が付けなかった。生きるということが、どんなことなのか、命が尽きると、見向きもされないということを。
(夢…理想を追いかけるのも…こういうことなのかな…?)
魔物の争いを眺めながら、まだ甘い様に感じる自分の夢を想う。
「「エール危ない!!!」」
「…ッ!?」
仲間達の声で我に返る。今まで息をしていたのか分からなくなるほど魔物の戦いに魅入り、自分の考えに没入してしまっていた。
慌てて正面を見ると、目の前には何故かクラウンマンティスが迫って来ていた。
「…危な…」
もう少しで衝突する所であったが、エールは既の所でそれを避け、状況を確認する。
どうやらエール達が気付かれたわけではなく、クラウンマンティスはモグモニーの攻撃で吹き飛ばされ、その先がエールだった様だ。
「戦うつもりはなかったが…こっちのボルテージはもう上がりきってるしな…」
「楽しくなってきたじゃん…良いね…縄張り争いに参戦…じゃーん」
どうやらユージもタローも、戦う気らしい。
(見世物じゃないのをずっと見てた罰だな…)
全員、武器を構える。
少し遅れて魔物も、エール達の存在に気が付く。状況は悪く、魔物に挟み撃ちをされる形になっている。
「乱入、乱入!」
タローは素早くクラウンマンティスへと飛び掛かり、剣を振り下ろす。
クラウンマンティスはその攻撃に合わせて鎌を振り下ろし、一瞬だが競り合うになる。しかしそれも束の間、なんとタローが競り勝った。
(あんなに強かったっけ…?)
エールは一度タローと共に戦った事があるが、ここまで強い印象は無かった。
「アガッてきた!」
何やら調子の良さそうなタローと、その黒髪の愉快な仲間達にクラウンマンティスは任せ、残りのエール達はモグモニーを対処する。
「エール、ちょっと…」
チアに呼ばれて近づく。するとエールに向けて杖を優しく振った。
「え…?え?何?」
何秒か経つと、エールは身体が軽くなっているような感覚があるのを感じる。
どうやらチアはエールに魔術を掛けたらしい。
「…この前…エールのこと燃やした時にね?思い付いたんだ!」
「あっ…なるほど…」
チアの申し訳なさそうな顔から、徐々に楽しんでいるような顔に変わる様子にエールは置いていかれる。
「なんだなんだ?」
「クロワも!ほら!」
チアはクロワにも同様の魔術をかける。
「おお!良いな!身体が軽い!」
クロワはその場で飛び跳ねて、身体が軽いのを行動で表す。
(ああ…なんか…みんな元気そうだ…)
エールは仲間達の勢いに未だに慣れず、ついて行けてない。
「行くぞ!エール!」
「う…うん!」
置いていかれそうにも思いながら、エールは健気について行く。
抱いたままある、ずっとある夢、勇者になる理想像を抱いて。




