表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/36

第24話∶目前

 

「まだ〜?行ける〜?」


 エールの耳に、タローの声が聞こえてくる。

 部屋の外で待っているようだ。

 エールは部屋から出るため、急いで部屋の出口へと向かう。


 タローとパンケーキを食べた後、エール達は話しながら街を見て歩いていると、気がついたら日が暮れており、そのまま解散したのであった。そうしてエールは宿へと戻り、ふかふかのベッドで眠り、現在に至る。


 エールが部屋の扉を開け、廊下に出る。そこにはタローが一人、エールを待っていた。


「おっ?もう行ける?」

「う、うん…行こう!」


 張り付いて待っていたことに驚いたが、エールはタローと共に宿から出る。

 宿から出ると、タローの仲間達とチアの待っている姿が見えた。


「あっ!エール!おはよ!」

「うん…おはよう!クロワは?」

「クロワはね〜まだみたい」


 チアが元気よくエールに声を掛ける。

 タロー曰く、これから依頼を見つけるのと同時に、クロワと合流するそうだ。


「それじゃ、行こっか」


 エール達は依頼を探しに、有勇師団の拠点へと向かう。


 拠点へ向かっている途中に突然、エールとタロー以外の仲間達全員の足ガ止まる。


「え…どした…?」


 タローはかなり戸惑っている様子だ。

 エールもその状況に驚いたが、何よりもタローの困惑している様子にエールは驚いていた。いつも人を困惑させている側のタローが、人に驚くことがあるとは、思ってもみなかったのであった。


 足を止めた仲間達は、何やら言い辛そうにしている。

 少し様子を見ていると、どこからか何かを焼いている良い匂いが香ってくる。

 その良い匂いに、足を止めたチア達の目が、少し大きくなったようにエールは感じた。


「…お腹空いてる…?」


 エールもそうなのだが、他の仲間達も朝ごはんを食べていないのではないか、という考えが浮かぶ。


「まあ…俺達…朝抜いてきたもんな…あはは…」


 ユージは苦笑いをしながらそう言った。

 エールの考えは当たっている様だ。

 それなら仕方ない、どこかでごはんを食べてから行こうと提案し、エールはチアに近寄る。


「チアもそうなの?」

「………」


 少しの沈黙の後、チアが口を開く。


「…私は食べたよ?」

「…まあ…行こっか…はは…」


 沢山食べる女性が好みの人は、沢山いる。チアの人気もそういうところなのかもしれない。

 エールはそう考えることにした。


 皆で朝食を済ませ、再び依頼を受けるため、団の拠点へと向かう。


 有勇師団に着くと、何やらエールは注目を浴びている。


「おう!エール!」

「おいエール!元気か?」

「あんなにボロボロだったのに、もう大丈夫なのか?」


 多くの勇士が、エールへと声を掛ける。

 前回とは違い、今回エールは何故か歓迎されている様子だ。


「エール人気者じゃん、勝鬨効果だね〜」


 タローが意味不明な事を言うが、不思議と意味が分かってしまう。

 エールは先の戦いで活躍をしたから、この国の勇士達に受け入れて貰えたのだろう。


 エールはこんなもんか、と思いながらも目立つことが得意ではないため、仲間達を盾に、少しだけ隠れながら奥へと進んで行く。


「おい!やっと来たかお前らっ!遅くね!?」


 建物の奥から、クロワの声が聞こえてくる。

 どうやら先に着いて待っていたようだ。


「いや〜朝ごはん食べてたら、いつの間にこんな時間に?」


 タローの言葉に、お腹を空かせていた仲間達は申し訳なさそうに謝罪をする。


「まあ…早く依頼探そうぜ!決まってるのか?」

「いや全然?」

「いや全然って…早くしないと少なくなってくぞ?」


 どうやら依頼は早いもの勝ちで有限らしい。

 エール達はクエストボードへ向かう。


 エール達が何歩か歩いた時、入り口の方から大きな音が聞こえる。扉を強く開けたような、大きな音が。

 その音に、その場の全員が音の方向へと顔を向けた。


「なんだなんだ?」


 クロワはその音の方向へ、顔を覗かせる。

 タローはよく見えないのか、目を細め、音の発生源に目を向ける。


「あ!いるじゃ〜ん!!お前だよお前」


 乱暴に扉を開けた男達が、ゆっくりとエール達へと歩いて行く。


 その顔を見てエールは思い出す、初めてここに来たときのことを。


「覚えてるよなぁ〜?忘れたとは言わせねぇよ〜?」


 男達は少しずつ、だが確実にエールへと近付く。


「…エール…まさかとは思うが…友達だったり…?」


 男達を警戒しながら、クロワがエールに声を掛ける。


「…いや」

「そっか…いや、当たり前だよな」


 少しだけ前へ進み、クロワはエールと男達の間に入る。


「あ?なんだ?」

「いやいや…そっちこそなんだ?酔ってんのか?落ち着けって…周り見ろよ、引いてんぞ?」


 男達は凄むが、クロワは対して気にしていない様子で飄々とした態度でいる。

 男達はクロワの目前に迫り、顔を近付けて睨む。


「どけよ…俺は!このクソガキのせーで!ここ辞めさせられたの!わかる?」

「…いや?」


 男達はどうやら、エールの所為で有勇師団を追放させられることになった、と思っている様だ。

 しかし、それは違う。

 この男達は普段の態度も悪く、日頃から街の住民には迷惑をかけている為、前の騒動でその様な結果になった。自業自得なのである。


 

 エールの目の前には、クロワの頼もしい背中が見える。

 クロワは依然変わらず、男達の前へと立ち塞がっている。


「ほんとに邪魔なんだけど、誰なの?お前」

「いやいや、名乗るほどのもんじゃ…」

「…何言ってんだ?」


 男達はクロワの素性を聞くが、それに対してクロワは冗談で返す。しかしクロワの冗談は、男達にはイマイチ効果が無いようだ。


「ああ!あのエールのこと殴ってたやつ!?」


 タローは突然大きな声を出す。タローはその時の様子を見ていたのか、何故かそのことを知っていた。そして今思い出したかのように言ったが、その言葉には男達へ向けて「お前らが悪いんだよ」と暗に言っているようにも見えた。


「よし、誰か分かった事だし…もう行こ?」


 タローはエール達を連れて、勢いでその場から離れようと踵を返す。


「…は…?待てよ」


 タローはこの場を離れようとするが、二人の男がニヤニヤと笑いながら背後へと回り込み、エール達の前へ立ち塞がり、進路を阻む。


「うお…しつこい男じゃん、嫌われてるよ〜?」


 タローはいつもと変わらぬ調子で、男達を小馬鹿にしたような事を言う。

 いつもと変わらぬ調子であるが、その姿はいつもより気怠く、退屈そうであった。


「…邪魔なんだが?」

「だからそのクソガキ置いてけって」


 ユージが目の前に迫る男への不満を堂々と吐く。

 しかし男達は引かず、立ち去らない。

 そして周囲には既に、野次馬がエール達の周りを囲っている。


 しばらくお互いに沈黙し、様子を伺う。

 その様子に、タローの雰囲気が少しずつ変わる。


「はぁ…めんどくさ………もう殺そっかな…」


 とても小さな声で、タローが呟いた。その声は普段であれば聞こえないほど小さかったが、この場は普段よりも静かであった為、この場の全員の耳に届いた。

 そしてその言葉の後に、誰も言葉を発せない。

 この場に、タローから放たれているのかは分からないが、不思議と誰も身動きが取れない、そんな重苦しい空気が渦巻いていた。


 やろうと思えば本当にできてしまうのではないかと思わせる風格が、タローにはあった。

 更に普段ふざけている様な態度で、周囲には衝動的だと思わせる行動をしているため、エール達はタローという人物をあまり知ることができない。

 そんな掴めないタローという人物像に仲間達も、もしかしたら本当にやってしまうのではないかと、まだ動いてすらいないタローを止めるべきなのか迷っていた。


「…なあ…なんか静かになっちまったし、もう行くな?」


 暫くの沈黙の後、空気を読まずクロワが口を開いた。

 クロワは少しだけ男達の様子を見て、このばから離れることができると判断したのか「ほら、行くぞ?」と言ってエールの肩を押し、歩き始める。

 男達の間をすんなり通り抜け、エール達はその場から離れる。


「…おい…どうする?」

「出直すぞ、数が多いんじゃ分が悪い…」

「…そうだな」


 エールが去ったその背を見て、男達が小さな声で相談していたのがエールの耳に聞こえてきた。

 そうして男達は冷ややかな視線を浴び、拠点から出ていく。


「どれにするんだ?」

「なんか…もうよくなってきたな…今日はやめとく?」

「なんでだよ!俺は今日しかないんだって!」

「確かに〜?」


 気不味い雰囲気がある中、クエストボードの目の前で、タローとクロワはいつも通りに話している。


「え〜どうしよっかな〜?」


 タローが依頼を確認し、どれにするか選んでいる。

 そんな様子を横目に、エールはも依頼を確認する。


(ゴブリンにコボルト、グレムリンに白銀龍?色んな魔物がいるんだな…)


 多くの依頼と魔物に、自分がいつか夢見た冒険の世界にいることを実感する。


「エール?なんか良いのあった?」

「いや…?まだ…」

「あ、そこのトレントのやつ良さそうじゃん」


 エールの目に少しだけ留まったトレントの依頼が、タローは気に入ったらしい。


「強さも丁度良いんじゃない?どうする?これで良い?」

「え…うん全然良いよ?」

「じゃ、これで…ちょっと行ってくるね〜」


 突然であったが、タローは依頼を受注するため、受付へと向かった。

 その依頼には危険度5以上、トレントの沈静化と書かれていたのを、エールは見逃さなかった。

 そしてエールは、更に他の依頼も見る。


(ゴブリンが3以上、コボルトは4か、白銀龍は…クイーン!?こんなの単独で受ける人とかいるのかな…?そもそも勝てるのか…?)


 周りとは桁違いに高い危険度の依頼に、エールは戦慄する。


「何見てるの?エール?」


 夢中になって魔物の危険度を見ていたエールに、チアが話しかける。


「いや…とんでもなく強い依頼があるなって」

「ドラゴンとかかな?そういうのは並外れて強いよね」


 ドラゴン等の魔物は危険度が高く設定されているらしい。

 エールは更に依頼を探してみると、他にも飛竜などといった魔物の危険度は、高く設定されていた。


「エール達が出会ったドラゴンもどっかにあるんじゃないか?」


 エールとチアの前に姿を現した逆光で姿が見えなかったドラゴン、その強さは如何ほどなのか、エールは想像を膨らませる。


(あんなの…倒せる人とかいるのかな?いや…いるから依頼があるのか?)


 ドラゴンと戦い勝利する。そんな憧れに自分がなることを期待し、エールは心を弾ませる。


「よぉ〜し、行くべ行くべ」

「おっ帰ってきたか」


 エールが自分が戦う姿を頭の中に描いていると、タローが帰ってきた。

 どうやら受付を済ませたらしい。


「帰ってきた〜んじゃ、今から森だね」


 タローは少し楽しみなのか、無邪気にそう言った。


(森…?いやトレントだし…当たり前か…)


 エールは何故か平原を想定していたが、木の魔物の代表の様なトレントを頭に浮かべ、思い直す。


 そうしてエール達は、トレントを倒すために森へと向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ