第22話∶強さの基準?
エールは特にやることもなく、街を見て時間を潰す。そんな休日を過ごしていた。
今日はチアと一緒に街を見て回る。
「そういえばさ、魔物の強さの基準とかってあったりするの?」
エールは今後依頼を受ける時の参考に、ずっと気になっていたことを聞いた。
「一応、あるにはあるね」
チアはそう言って説明を始める。
まずはポーンという評価があり、ポーンは単体であれば市民数人で、十分に対応できるレベルである。スライムなどがこれに該当する。
次にナイト、これは騎士並みの強さと評価をされる魔物である。ジャイアントがこれに該当する。
そしてビショップ、これは魔術師などの後衛的な攻撃手段を持ち、それを主な攻撃にしている魔物は、そう評価される。
さらにクイーンとキングがあり、どちらも他の魔物を従える力があるが、クイーンは力だけで、キングには力に加えて、戦略もある場合の評価である。
しかし、それらを強さの基準と捉えられるのかは微妙なところである。そのため、他に勇士と魔物の強さの同一の基準がある。
まず段階が56まである。
エースからキングまであり、2が一番弱く、エースが一番強い。10以上は11がペイジ、12がナイト、13がクイーン、14がキングとなっている。
そして更に振り分けられた数字の中に、剣、聖杯、五芒星、棒と振り分けられ、ソードが一番強く、その次にカップ、次にペンタクル、そしてワンドという順番で強い。
例を出すなら、ソードの五とカップの五、同じ数であるが、ソードの方が強い。
そしてソードの4とカップの5、これは数が大きい方が強い、といった具合だ。
もっと説明するなら、エースが一番強く、二が一番弱い、数の強さが一番に左右し、次にソード、カップ、ペンタクル、ワンドの順で強くなる。
しかしソード、カップ、ペンタクル、ワンドと言ったスートと呼ばれるものは、魔物にも個体差があるため、あまり使われない。
ポーンやビショップなどの評価は主にその国に所属する団体、騎士団などが使っている。
エースやソードなどの評価はエールが登録した、様々な国にある有勇師団が使っている。
それと強さの基準がもう一つ、スライム基準がある。
これは全く分かり辛いもので、ゴブリンがスライム十匹分、チアと出会った時のドラゴンが、スライム一万匹分といったものだった。
「どう?わかった?」
チアに理解したのか聞かれたが、これらの中々使うことのなさそうな強さの基準に、エールは戦慄する。
「うーん…?まぁまぁかな?」
何とも分かっていなさそうな返事であった。
参考にしようと思っていたが、相手を選んでは強くなれないと思い、覚えることを諦めた。
「ちなみに、僕の評価はどのくらいなの…?」
「カードの団員証書いてない?」
チアにそう言われ、確認してみる。すると聖杯が五つ、逆さまに浮かんでくる。
「どう?」
「んん…なんか…器が…逆さま?」
「いくつあるの?」
「五つ…かな…?」
「カップの5かな?」
どうやらチアには何も見えていないらしい。
エールは自分の評価を知ることができたが、この指標では心を燃やす事は、向上心を掻き立てることはできなかった。
「ジャイアントが3から6辺りだから、やっぱそのくらいかもね」
なるほど、とエールは頷き、カードをしまう。そして何やらその時の状態など、場合によって変わるらしい。
「チアは?どうなの?」
「私はね〜…」
そう言ってカードを取り出し、確認し始める。
「カップの6だね!」
チアは元気に言った。
自分より高いチアに、エールは少し悔しい気持ちが湧いてくるが、何とか顔に出さないように取り繕う。
「そ、そうなんだ…」
取り繕ったつもりが、寧ろ気持ち以上に気にしているような返事をしてしまうエールであった。
「…エールが最後に倒した敵…」
少しの沈黙があり、不意にチアは呟く。
最後に倒した敵と言われ、エールは思い出す、自分を追い詰めた強敵を。
「あの敵は…ペイジか…それ以上はあるかもね」
エールはよく勝てたなぁ、とその時の感覚を思い出そうとする。
あの時の不思議な感覚、炎に包まれ、生と死の瀬戸際であれど、頭は冴え、熱く昂っている初めての感覚。
(なんだったんだろ…)
エールは、遥か遠い空を仰ぐ。
太陽が頂点へと差し掛かるには、もう少し時間が必要そうだ。
雲が泳ぎ、空を象る。
そしてエールは、耳を澄ませる。賑やかな街の音が聞こえてくる。
不意に風が吹き、なんだか肉が焼かれる、美味しそうな香りがする。
その香りの元を探すため周囲を見渡すと、チアがいつの間にやら、串に刺された肉を頬張っているではないか。
「…何食べてるの?」
「に、にふ…?」
とても美味しそうに肉を頬張るチアを見て、なんだか馬鹿馬鹿しくなってしまった。
しかしそんなチアを見ていると、不思議と同じものを食べてみたくなり、エールも同じ露店で肉を買う。
たっぷりとかけられたタレが食欲をそそり、匂いが更に食欲を掻き立てて来る。
値段は銅貨5枚と、そこそこの大きさの割に安い値段であった。そしてエールも肉を頬張る。
「どう?美味しい?」
「うん………美味しいね」
口に入れた途端にチアが声をかける。
返事をするため急いで咀嚼する。
エールはもう少し待ってくれとも思ったが、チアが楽しそうなので、何でもよくなってしまった。
そうして食べながら街を歩いていると、何やら揉めている様な声が聞こえる。
エール達はその声へと近付くと、その声の主はクロワだった。
「頼む!もうちょい!もうちょい安く!」
クロワが大きなリュックを背負い、必死に値切っている。
「…チア行こう…」
「…うん」
エールは見て見ぬ振りをして、その場を足早に去ろうとするが───
「おっ!エール!チア!良いところに来たな!!」
───エール達は見つかった…。
人違いとして立ち去ることも考えたが、純粋な笑顔で、真っ直ぐな瞳で見つめられている。行くしかなさそうだ、とエール達はクロワに近付く。
「この店高いよなぁ!エール!お前もそう思うだろ!ぼったくりだ!ぼったくり!」
(やばい…恥ずかしい…)
騒ぎ出すクロワに巻き込まれ、エール達は注目を浴び、エールは恥ずかしい気持ちで顔が熱くなるのを感じる。
その店の店主は悪い噂を嫌ってか、「わかったわかった」と言い、クロワから硬貨を受け取る。
なんとクロワは値切る事に成功した。
「よっしゃー!やりぃ!」
たくましいクロワを見たエールは、笑顔ならいいか、そう思うことにした。
「なぁなぁ、見てくれよこれ」
そう言ってクロワはエールにガントレットを見せる。
損傷が激しく、これでの戦闘は命取りになるだろう。
「昨日見たらいつの間にこんなんになっちまっててよぉ〜どっか鍛冶屋とか知らねぇか?」
クロワが新しく買うのか、修理するのかは知らないが、エールが知っている鍛冶屋は一つしかない。
エールはチアと共に、鍛冶屋を案内する。
ドワードの鍛冶屋に到着した。
「来たか坊主、素材は持ってきたのか?」
待っていたかのようにドワードはそう言った。
エールは前に訪れた時、素材を持って来いと言われていた事を思い出す。
しかし今、素材は持っていない。そして目的はクロワのガントレットだ。
「い、いやまだ…それよりっ、ガントレット欲しいって、クロワが!」
焦りが全面に出てしまった。
エールは言い訳をする様に話す。
「…まあ、そうだな…これ…まだ直るか?」
そう言うと、クロワは少し困惑した様な顔をしながら、ガントレットをドワードに見えるように出した。
ドワードはまじまじとそのガントレットを見る。
「これは…随分使い込んだな…直すより新しくした方が良いだろうな」
ドワードの言葉に少し堪えたのか、クロワは俯き、誰にも聞こえないような小さな声で「そうだよな…」と溢した。きっと大事にしていたのだろう。
「なんか…良いガントレットあるか…?」
クロワは顔を上げる。ガントレットを新しくすると決めたのだろう。
「あるにはあるが…そいつはどうする?」
ドワードはクロワが持っているガントレットへ視線を向ける。
「そいつを材料にしても良い、それに処分に困るなら買い取る、ここで売った方が良いんじゃないか?」
「いや、大丈夫だ、こいつは持って帰る」
余程思い出深い物なのか、大切そうにガントレットをしまう。
「そうか、まぁいい…付いてこい」
そう言ってドワードは店の中へと進む。エール達はそれに付いていく。
ドワードは沢山のガントレットが飾られている場所で止まる。その姿は何か思案している様子だった。
「ここで待ってろ…」
ドワードは店の奥へと向かう。
前回もこんな事があったような気がしなくもないが、少し待っていると、ガントレットと前回の両手剣を持って来る。
「…坊主…抜いてみろ」
「え…また…?」
両手剣を地面に突き刺し、エールを見つめてドワードは言った。
エールは戸惑うが、ドワードは動じない。チアもクロワも愉快そうに見ている。
エールは溜息を吐くと両手で剣を握る。そして一気に力を込め、引き抜こうとする。
「ぐっ!」
しかし、少しだけ持ち上がるが、それ以上は一向に上がる気配がない。
駄目だ、と手を離し、周りの様子を伺う。
「前回よりも良くなったが、まだまだだな」
ドワードからは、手厳しい言葉を貰ってしまった。
チア達からは、前回よりも結果が良かったことを賞賛される。
エールは嬉しいような、恥ずかしい様な気持ちが込み上げるが、なんとか顔に出さないよう隠す。
その後、クロワが興味本位で同じ事をやるが、全く上がらない。ドワードにどうなっているのか聞くと、心の強い者にしか上げることはできないと言われる。
それに対して、クロワは嘘だろ…?と騒ぎ立て、かなり落ち込んでいる様子だった。
そしてドワードが持ってきたガントレットは、攻撃する際に敵に接触する部分に鉱石が埋め込まれており、拳の部分の鉱石が自動修復されるガントレットらしい。
クロワはそれを購入し、エール達は店から出る。
そうしてエール達は、また談笑しながら街を歩くのであった。
スートの強さはポーカーと一緒です。
参考までに
スライム
危険度∶無害・敵対時2
ジャイアント
危険度∶3以上6以下




