第21話∶戦いの後、宴の合間に
エールやクロワ達が、戦いの後の宴を楽しんでいる時、人目につかない建物の裏で、何やら深刻な雰囲気で話し合っている黒髪の集団がいた。
「おい…!太郎!仲間が…!海渡が死んじまったじゃねぇかよ…っ!」
「…」
仲間の死に一人の男が激怒し、太郎に向かって大声で怒鳴りつける。
「…海渡くん…」
絵馬が、海渡の名前を呟く。
今回の依頼で、仲間の四人が帰らぬ者となり、太郎達は宴を楽しんでいる状況ではなかったのだった。
「何とかっ…言えよっ…!」
何も言わない太郎に男が太郎に掴みかかるが、もう一人の男、優志が止める。
「おい…別に太郎は悪くないだろ」
「いいよ、優志」
そう言って、止めた優志の手から掴んできた男の手を離させる。
そして太郎は、掴みかかってきた男の顔を、勢い良く殴る。
「ぐっ!?」
殴られた男は、突然のことに混乱しながらも、更に激怒し、太郎の胸ぐらを掴む。
周囲は、あまりにも唐突に殴った太郎に驚き、その場で固まることしかできない。
「お前が間に合ってたら!!あいつらは助かってたかもしれないだろ!!」
「…それが?」
助かったかも知れない、男は本気でそう思っていた。何故なら、太郎は集団で一番の力を持っている。そのことをこの男は認めていたのだった。
「俺は…巣には入らないって言ったよね、なのに勝手に行って、あいつらは死んだ…自分の力も見極めずに勝手に行ったんだ…」
太郎は死んだ者達に厳しい物言いをする。
しかし、間に合っていたら助けられた。そう思っている男に、太郎の言葉は何も届いていなかった。
「てめぇ!何でそんな事言うんだよ…!」
再び男は殴りかかるが、太郎はそれを避け、反撃に再び顔を殴る。
「まだ言ってることわかんない?」
太郎は落ち着いた口調で、男を諭すように様に言葉を継ぐ。
「…俺達は弱い…わかってたことっしょ?」
「いつの話してんだよ…しかも、負けたのはお前だけだろ…」
「…そうだよ…でもお前は、そんな負け犬に負けてんだ」
太郎は男を煽り、思い返す。いつかの敗北を…。
「クソっ!お前とは反りが合わねぇ!」
「そう…じゃあ…帰ったら?ストレリ王国に…あそこだったら、まだ待ってる仲間もいて、死ななくても済むんじゃない?家に帰れるかは知らないけど」
太郎はそう提案する。この者達は、少し離れたストレリ王国から来たのだ。
ストレリ王国とは勇者を認めることができる八つの王国の内の一つで、この者たちは既にその国から勇者として送り出されていた。
「…そうだな…そうさせてもらう…!」
「あっ…おい!」
男はその場で荷物をまとめ、逃げるように歩き出す。
その行動を優志が止めようとするが、男は足を止めることはなく、去って行ってしまう。
「…良かったのか?」
「…」
「太郎くん?」
「あいつは…このまま行っても死ぬだけだ…これで良いよ…」
「…そうか」
太郎は断言する。
誰かが助けてくれる、そんな考えでは、この先で生き残れない。まだ見ぬ強敵を相手に、戦うことなどできない。
その考えを基に、決断したのであった。
「由麻はどうする?」
ずっと黙っていた少女へ、太郎は不意に語りかける。
太郎達が国から出る時、付いてくる素振りすら見せなかった由麻が、どんな思いで付いてきているのか、何故ついてくる気になったのか、この場の三人は、ずっと疑問に思っていた。
特に話すこともなく、付いてくる由麻を怪しむ事もあったのだが、そんな事は重々承知の様だった。
…由麻は無関心な母親の元へ産まれた。
物心がついた頃に父親はおらず、母親は毎日知らない男といる。
そんな環境が理由で、由麻は無口に育った。
近寄ってくる者は、暴力や、いじめは当たり前、面白半分で犯罪をする者もいる。
そんな日常が由麻には退屈だった。
だから───
「…聞いてる?」
太郎が無反応の由麻に再度、声を掛ける。
「…別に…あんたらに付いていくよ…」
由麻は冷たく、覇気の籠もっていない返事をした。
由麻はどうしたら良いのか、何をするべきなのか自分でも分かっていなかった。ただあの国には帰りたくない、そう思った。
退屈な毎日から抜け出した筈だったが、あの国では、人を…自分達を見ていない。
好意的であるが、打算的なように感じていた。あの国にとっての自分に価値を見出だせなければ、利用価値がなければ、切り捨てられる。
そうなれば、母親の元にいた時と同じ結果が待っている。そう感じていた。
「なんか…気になることでもある?」
太郎は再び黙り込む由麻を気にかけてなのか、更に声を掛ける。
「…この世界の住人は…なんかおかしい…自分達とはまるでルールが違う…」
「確かに、魔力なんて無いしね…」
「…?」
「…とりあえず、もっと知らなきゃね」
色々な疑問をが残る中、今後も情報収集などに集中していくことで方針が決まる。
「なぁ…」
優志が不意に太郎へと声を掛ける。
「…おかしいといえば、お前もだろ?」
「何が…?」
優志は、太郎へ懐疑心を抱いていたことを打ち明ける。
「最初にここに来たときから、お前には余裕があった…いや…慣れていた…?ずっと、何をするべきなのか分かっているように動いてる…戦いでもそうだ…」
優志は今までの疑念や不満を、決別を覚悟で話し始める。
「それに…お前が負けたって言ってる戦いだってそうだ…俺達が来た頃には…お前はもう死にかけてた…それなのに…相手の事を俺達に詳しく話さない…どういうことなんだ…?なぁ…?」
優志は言いたいことを全て吐いたのか、しばらくの間、沈黙する。
お互い、少しの間黙っていただけなのだが、それはとても長い時間の様に感じられていた。
そしてついに、太郎が口を開く。
「…そうだね…戦いについては…そいつとはそのうち会うと思うから、その時に分かるよ」
「そんなこと言って───」
そこで優志の言葉は途切れる。
太郎から放たれる、異様な圧力に屈してしまったのだった。
そしてまたお互いに沈黙が続き、またもや太郎から口を開く。
「…あと…俺の名前は卯月 白」
「…?」
突然知らされた衝撃の事実に、優志は言葉を詰まらせる。
それでも、何かを聞こうと言葉を発する。
「何…言って…どういうことだ…?なぁ!おい!」
「…信頼の証…ってとこかな?」
そう言い放つと振り返ることもなく、何処かへと歩き出す。
優志達は、その背を眺める事しかできない。
聞こえてくる近くの宴は賑やかであるが、それとは対照的なこの静けさに取り残された三人は、何を話すわけでもなく、その背中を眺め続けるのであった。
優志は俯き、考え込む。
この中では、太郎…白が一番強く、このままでは、その背中を追うことしかできないと。
その白が死にかけて見つかる程、強敵がいることを。
そして今まで打ち解けていたと思っていたのだが、白には信頼されてなかったのだと。
今はまだ、白の惣闇色の眼が何を視ているのかは分からない。
しかし、魔王へと挑み、故郷に帰るのであれば、白と肩を並べられる程強くなり、信頼を得なければならない。
そして、もう仲間を失いたくない。
その想いから、更に強くなること、その覚悟を決して忘れないことを、心に誓うのであった。
しかし翌日。
「まじ腹減った〜パンケーキかぶりた〜い」
「…おう」
あまりにもいつもと変わらぬ様子の白に、昨日の出来事を全て忘れそうになっていた優志であった。




