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第20話∶飛んで火に入る夏の虫

 

 エールが炎を纏い、異形を圧倒する。


「エール…?」


 チアが、エールの名前を呼ぶ。

 エールにその声は届かない。


「その時は…上手く食べられると良いな…」


 一歩、二歩とエールは異形に近付いていく。


 エールは異形の目の前まで迫り、止まる。

 手を伸ばしたら、きっと届いてしまう、そんな距離。

 辺りは静まっている。

 そして、エールから放たれている優しい光が、その場を照らす。

 そして異形…ベルゼブブはその光を求め、包まれた。


 そうして…戦いが終わったのだった…。


 ふぅ、と息を吐き、エールは地べたに座り込む。

 エールは体を見る。いつの間にか炎は消えていた。


 チアはエールへと駆け寄り、エールを少しずつ回復する。


「…エール…ごめんなさい…」

「ん…?いてて…」

「大丈夫か…?エール?」


 クロワも駆け寄り声を掛ける。二人とも心配そうな顔をしている。

 かなり限界だったエールは、この二人がいるなら無事に戻れそうだと安堵する。


 少しの間、二人に肩を貸してもらいながら歩いていると、急いでこちらに来る足音がいくつも聞こえる。


「おぉっ!?」


 クロワは驚きのあまり、思わず声を出した。

 その複数の足跡の正体は、エールがパンをあげたことのあるジャイアントと、その仲間達だった。


「…大丈夫だよ」

「一回、エールこと拐った奴らか!」


 エールはジャイアントを信頼し、二人に警戒をしなくても良い事を伝えるが、言い方が悪いクロワに、二人は思わず苦笑いをしてしまう。


 エールは、急ぎで現れたジャイアント達の様子を伺う。そうしていると、どうやら背中に乗せて行ってくれるらしい。

 それに甘えて、ジャイアントの背中を借り、外へと向かう。

 ジャイアントの背中は傷だらけだった。

 恐らく勇士達に誤解され、攻撃されている中を切り抜けてきたのだろう。


 ゆっくりと進んでいき、巣の中から外へ出る。

 すると外ではタロー達が待っていた。


「おかえり、エール…大丈夫だった?」

「いや、うん…大丈夫かな?」

「うん!大丈夫そうじゃないね…!」

「あはは…」


 タローは心配しているのか、していないのか分からないことを言うが、彼自身も傷だらけであった。

 そして実際に疲れ果てていて、傷だらけのエールからは、乾いた笑い声しか出せなかった。


 そして外には戦闘を終えた、たくさんの勇士達がいた。

 勇士達は、何やらエールの方をじっと見つめている。


「ほら…みんな待ってるよ」

「ん?何を…?」

「こういう大きな戦いは、最後に勝鬨を上げるもんなんじゃない?」


 勝鬨…疲弊しているエールには、かなりしんどい。できれば代わりにやって貰いたいと思っているが、エールは何故か、周りにいるチア達に期待の眼差しを向けられている。


「えっ…と…なにそれ…?え?どうやって?」

「いいからいいから!さぁ!うおおお!って!」


 タローは拳を掲げるような仕草をする。

 巣の外にいた勇士達も、期待の眼差しで今か今かと待ちかねている。

 エールはこれはやるしかなさそうだ、と息を吸い込み───



「うおおおおおおおおお!!!!!」



 ───片手を掲げ、勝鬨を上げる。

 しかし少しの間、静まり返る。

 エールは何か間違えたかと不安になるが────



「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」



 ───無事、声は返ってきた。

 エールは安堵し、疲れもあって、その場で寝転がる。


 そうしてエールは、戦いの終わりを肌に感じた。


(あ…やば…ねむ……)


 寝転がっていると、強烈な眠気がエールを襲った。

 かなりの疲弊があり、起き上がれない。


「ねぇ、海渡達どこいったか知らない?」


 タローの問いかけに、チア達は首を振る。

 どこ行ったのかな…?と話す声が聞こえたが、エールの眠気は限界で、そこで意識は途絶えた。




 …何やら騒がしい…。

 どこからか聞こえてくる騒音で、エールは目を覚ます。


「起きた?」

「…?」


 チアが声を掛ける。

 体を起こそうとするが、全身が痛い。

 窓からは麦畑が見え、外で依頼の参加者達が大騒ぎしている。どうやら、麦畑付近にある施設の部屋にいるようだ。


「おはよう」


 チアは微笑み、優しい声でそう言う。

 少し間を置き、まだ働かない頭を働かそうと、体を起こす。

 日が暮れかかり、夕焼け空が広がる。

 そんな空が見える中、おはようと言うのはおかしく思えるが、チアの顔を見て、エールは返事をする。


「…おはよう」


 少しの間微笑み合い、完全に目が覚める。

 そして立ち上がり、外へと向かう。


 外に出ると、まさにどんちゃん騒ぎだった。

 食べの物を頬張り、酒を飲み騒いでる。

 まさに酒池肉林…。


「主役が来たぞ!」


 クロワがいち早くエールに気付き、エールを目立たせる。

 しかしクロワは酷く酒臭い、酔っているようだ。


(…楽しんでる…みたいだ…)


 エールは周囲を見渡すと、驚くべきことにジャイアント達も参加している。そして何故だか打ち解けているようだった。


「…あれは…?」

「あぁ〜あいつらな?倒れたエールを運んだのをきっかけに、なんか仲良くなってたわ!」

(な…なるほど…後でお礼しないとな…)


 エールはやたらと高いクロワのテンションに、引き気味な態度になる。

 詳細は知らないが、分かりあえるところがあったのだろう、と解釈する。


 そして今度は、完全に打ち解けているジャイアント達の方へと向かう。

 近付いて分かったことだが、かなり可愛がられている。勇士たちは、まるで小動物と接している様な対応だ。


 エールに気が付いたのか、一匹のジャイアントが向かってくる。

 エールを何度も助けた個体だろう。

 頭を撫で、顔をよく見る。単眼に複眼、なかなか強そうな顔をしている。実際、なかなか強かった。

 他のジャイアントも含め、顔をよく観察していると、あることに気が付く。


(助けてくれた子だけ、なんだけど…見分け…つくかも…?)


 エールは、ジャイアントの見分けがつきかけていた。


(基準はちょっと微妙だけど…なんか…綺麗な顔している様な…?)


 ジャイアントの綺麗な顔というのは、新しい感性であるが、エールは、見分けがつきかけている自分に少し感動していた。


 しばらくジャイアントと戯れ、食事をする。

 食事を終えると、その後は仲間達と共に、日の入りに魅入っていた。


 当初の依頼はジャイアントの駆除又は、捕獲であったが、和解した様な形で依頼も終わり、疲れた身体を休める。


 次の日、街へと戻る。

 報酬を受け取りに行こう、というチアの提案で、団の拠点へと行くことになった。


 今回の依頼は既に報告されており、直ぐに報酬を受け取ることができた。


 どうやら受付状況などは、団で管理しているらしい。


 報酬は金貨7枚、銀貨3枚、白銅貨5、銅貨6だった。


 今まで村にいたエールは、貨幣の価値が分からず、チアに聞くところに寄ると、硬貨の種類は白金貨、金貨、銀貨、白銅貨、銅貨があるらしい。


 価値の基準としては、銅貨10枚で白銅貨1枚、

白銅貨10枚で銀貨1枚と、それが続いていくらしい。

 銅貨の下に石貨もあったらしいが、製造する為のコストが高く、偽造も簡単なため、今では限られた場所でしか使えず、滅多に見られないと聞いた。


 この国の宿屋は、たいてい銀貨1枚で泊まることができ、国の経済や他国との貿易は安定していて、国民は政治に満足している様子だ。

 安泰しているこの国の現状を維持しようとしている。


 ジャイアントはどうやら、国民に知られると混乱を巻き起こす可能性があるため、団員にしか知られず、今後は協力していくらしい。


 そして話題にあった虫の被害というのも、エールが戦った強敵の仕業なのだろう。


 団は食事等を与え、その代わりに、ジャイアントは依頼中に倒れている人を運ぶことや、荷物を運ぶといった協力関係になることができるそうだ。

 もうジャイアントと戦うことが無い様子にエールは安堵する。種族を超えた思い遣りがそこにはあった。


 そして今日、特にやることのないエールは、また一度、街を見て回ることにした。

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