第19話∶暴食
「どうだ?分かるか?」
「………」
「おーい」
「…?」
男が話しかけてくる。
なんだ?どうなっている?
「あれ、話せるよな?」
「…なんだ?」
状況が読み込めないが、渋々返事をする。すると男は嬉々として語りだす。
「おっ!よし!お前の名前は…」
「私は…ベルゼブブ…」
「えっ?おれが今決めようとしたのに!おれが創ったのに!」
…どうやら、この男が私を生み出したらしい。理由は何となく分かる…。
「まぁいいや!ベル!早速だが!お前には生物の成長促進と、虫に指示できる能力を付けてる!」
「…自分のことなら知っている、それで?」
「おれはこれから建国する!肇国?ってやつだ!」
男は長々と語り始めた。
察してはいたがこの男…話が長いぞ…。
「そうか…」
「そうか…じゃなくて!最近は難民や飢えてる人が多い…だから…えっと、それはいけないので…」
「だいたいわかった…食糧を専門に手伝えってとこか?」
「流石!ベル!」
男が吶り始めてきて、何を言っているのか分からないが、言いたいことは分かる。
そしてずっと気になっていたが、この男…馴れ馴れしいな…。
それに───
「呼び方…何とかならないのか」
「えぇっ!元のだと長いし、ベル、可愛いだろ?」
───呼び方に不満があるのだが、男に変える気はなさそうだ。しかも可愛いと、お前の価値観で呼び方を決めてくるな。
だがこの男、恐らく話を聞かないと見た…。
まあ良い、好きにさせるか…。
「何でも良いが、結局どうするんだ?話は終わりか?」
「ん?」
「いや、作業は今からやるのか?という意味だが?」
「ああ!どうする?」
聞かれても困るのだが。何なんだこいつ…。
さては何も決めていないな?雲行きが怪しい。
「…まあ取り敢えず…動けるか?試しにこっち来てくれ」
男に言われ、体を動かしてみる。
体が浮かぶ、宙へと浮かび進むことができる。
「よし、よし、そのまま、そのまま…」
何故だか、私が動けることに自信が無いようだ。しかし…私は意のままに動けていると思うのだが…?
「よし…!じゃあ、外に出よう!」
言われるまま、外に出ようと進む。
途中、鏡に自分の体が映る。
大きな一つ目、その下から声が出てるのであろう穴の空いた箱。そしてその下には、針のような物がある。
恐らくここから成長促進や、虫に命令することを想定しているのだろう。
「何してんだ?おっ!かっこいいだろ!」
…またそんな価値観で…だが、悪い気はしない。
「…そうだな」
それだけを言い、外に出る。
すると、広大な土地が待っていた。
そして絶句。
「…えっと…耕したりは…?」
「ん?」
「…そうだな…まずは………色々やるか…」
「おう!」
男は元気だけはあり、元気な返事をする。
この男、もしや最初から任せる気なのか?いや…手伝う様子はある様な…。まあ、他にやることなどない…折角だ、役割を楽しむとしよう。
こうして始まり、時が経つ。
人が増え、屋根も増える。そしてその分、必要な食料も増える…。
何日も経て分かったことだが、どうやら男に特別な力はないらしい。
どうやって私を生み出しのか、些か疑問だ。しかしそれも、本当に些細な疑問だ、気にするな。
そして、国と呼べるほどの物になる。
「この国では、誰も餓死なんかしない、誰も飢えない、そんな国にしたい…!だから…この国の名前はルピナス…そうすることにした」
いつか男が言った、国の名前が決まった。
「でももし、この名前の通りになってしまった時は、一緒に止めてくれよな…!」
続けて男は言った…。それに返事をすることは無かったが、心に留めておこう。
そして男は老いた。
この国の王として、中心として、理想を目指していた。
私は人々から身を隠し、活動していた。
それでよかった。
「いつか、お前も必要とされなくなる時が来る、そんな時は…いつか交わした約束を思い出してほしい…」
いつか男はそう言った、約束とは何のことか分からなかったが、必要とされない時と言うのは、今だろう。私の存在など、お前以外には知られていないのだから…。
長い間、眠ることにしよう。
初めて目を覚ました部屋で、眠ることにした。
しかし、しばらくして、目を覚ます時が来た。知らない男達だ。盗みに入ってきた様子だ。
「立ち去れ…」
動かず、そう言った。
男達は私を魔物と勘違いし、攻撃を仕掛けてきた。
そこで、大きな一つ目に亀裂が入り、それ以外を失ってしまった。
与えられた力は使えるが、今まで連れ添ってきた体の一部を失ってしまったことに、憤りを覚える。
しかし、特に何かすることもなく、再び長い眠りに着く。
役目は終わったのだから…。
再び目を覚ますと、様子がおかしい。
人々は肥え、私利私欲を満たしている。
そして森の生き物は害として駆除され、痩せ細っている…。
なるほど…こういうことか、あの男の言っていた事は…。
「…許せん…あの男の誰も飢えないという理想には、線引きが無かった…。求めれば、どんなものであろうと食にありつくことができた…。」
自分の心が、荒らされている気がした。
いつの間にか、あの男の理想が、自分のものになっていた。
今度は私の番だ…。いつかの理想…。
手段は選ばない…!
そして現在。
状況は最悪だ。
倒したと思った相手は起き上がり、何故か炎を纏い始めた…。
向かって来る相手を掴もうとするが、剣で受け止められる。
炎を放ってくる…!避けなくては…!
この速さは、避けきれない…!
虫を増やして攻撃するが、燃やされる。
「何をした…!?どうなっている…!?」
相手は更に強くなっている。意味が分からない。
何度も攻撃するが、全て受け止められ、燃やされる。
このままでは、理想は果たせない。
「クソッ!クソッ!!」
これは…もしや、悟って奴か?詳しくはないが、いつか言葉だけ聞いたことがある…。
そんなことより、この一方的な状況に、対応できる術がない。
相手はもう、私が自ら長い眠りにつくことを望んでいる。
…見逃そうとしている?甘いやつだ…。
しかし、ここで終わるわけには…いかないのだ…!
そうだ…この程度の恐怖を前にして、狼狽えるな…!
いつか何処かに置いてきた約束を果たす為、蝿の王…いや、虫の王として、私は立ち向かう…!
…まだ、終われないんだ…!
何が害虫だ…何が駆除だ…!
理想を持たず、ただ生きてるだけの穀潰しが…!
虫の数が、減ってきた…。
このままでは…。
「始まったばかりなんだ…!まだ終われない…!」
自分を奮い立たせる。
もう一度掴みかかり、今度は、首を噛み切ってやろう…!
勝負を仕掛ける…!
もう一度掴みかかり、受け止められる。今だ…!
「グッ!」
虫の中から飛び出し、噛み付こうとするが、炎を放たれてしまった。
まだだ…!
「ぐわぁぁぁ!」
いきなり剣が現れ、突き刺される。
いつか体の一部を失った時のことを思い出す。
「…敗北の味は美味いか?」
…美味いわけがないだろう…!
でも何故か…相手の言葉には、他に意味のある様に感じる…。
「…悔い改めろ」
相手はそう付け加える。
いや、美味しい思いは、もうたくさんした。
私は落ちている幸せに、気がつけなかったのだ。
「…こ…れが…デザー…ト?」
これ以上は、戦えない…。
きっと私は相手の、夢の糧になる。
相手の目からは、強い野心のようなものを感じる。
「お前にやるデザートは無い、クソ喰らえ…!」
容赦のない事だ…それで良い。
きっとまた、同じことが起きる…。
もしかすると…再度、私を起動するものが現れるかも知れない…。
それか、私と同じ様な境遇で、同じ様な事を考え、同じ事をする者が現れるかも知れない…。
きっと同じ轍を踏む者が現れる。
「…私はまた現れ…今度こそ…喰い荒らしてやる…!」
「その時は…上手く食べられると良いな…」
あの男の顔が浮かぶ…名前の通りになってしまったら止めるというのが約束だと思っていたが…違うのだろう。
約束なんて、していなかった…。
あの男は閃いたことを、私にいきなり持ちかける。
そうだ何をするのも一緒だったのだ…。
あの男からは色々貰った。そのおかげで、私が飢えることは無かった。
あの男は心配をしていたのだ。
理想よりも私のことを。
だから、最後にあの男から貰ったものは、生きる意味だった。
きっと…何もしなくて良かったのだ…。




