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第17話∶蝿の王

 

「エール…!」

「こっち!」


 クロワを呼ぶ。すると直ぐにエール達のいる部屋へと避難してきた。


「エール!チア!生きてたんだな…よかった!」

「…まあ、それはこれからだけどね」

「そうだな…」


 クロワはエール達の生存に安堵するが、それはまだ早い。そして、できる限りのことはをしようと、エールは短く端的な説明で、クロワに敵の情報を伝えた。


「なるほどな…虫が無限に出して操ってるのか…何ていうか…蝿の王だな…」


 こんな時でもクロワは冗談めいた事を言う。

 異形の姿はまだ見えない。


「それにしてもこの部屋…スライム多いな…」

「ボムでも沸いてたら、爆発させられたんだけどね…」


 この部屋は何故か、スライムが多い。そして普段厄介なボムでも、こんな時には便利になるかもしれないという考えが頭を過る。


「そうだな…これから蝿の王は、たぶんこっち来るよな?どうするんだ?」


 クロワの発言に、エール達は異形が来た時の作戦を考える。

 しかし、現状ではチアしか対処できる手段を持っていない。


「…取り敢えず、最初はチアに攻撃を任せてもいいかな?」

「その後はどうする?」

「そうだね…あの虫が出てくる口に、火を入れてみたい、だから、チアの魔術で減らして、隙ができたら、松明とか放り込む感じかな」

「分かった…放り込むのは火ならいいんだよな?」


 そう言って、クロワは持っているランタンを動かす。

 かなり古びていて、傷付いているランタンであるが、クロワがエールの作戦に乗るというのは心強いものだった。


「…うん…中に入れたら、虫を出せなくなったりするんじゃないかなって考えてる」

「よし…それでいこう」

「うん…」


 三人の意志は決まった。

 薄暗くて見辛いが、蝿の音で分かる。少しずつ、近付いてきてる。

 羽音が徐々に大きくなる。複数の蝿の音が…。

 想像するだけで鳥肌が立つが、今は生き残りたい。三人はそう考えていた。


 羽音が近い、この部屋の入口の直ぐ近くだ。

 ゆっくりと音が大きくなる。そして何匹か、虫が見えた。


(入ってくるか…?)


 黒い影が見える。無数の虫が、部屋に入ろうとしている。


 姿が見えた。それと同時に、チアは炎を放つ。炎は直撃したかに思えた。

 しかし───


「はズェダ…」


 ───少し遅れて異形が虫を纏い、部屋に入る。炎が直撃したのは…。


「囮だ!入ってくるぞ!」


 クロワが叫ぶ。

 異形はエール達から目を離さず、これを好機と捉え、チアを目掛け、一気に距離を詰める。

 そこでエールは松明を異形へと近づける。

 無数の虫が近く、危険だったが、これしかチアを助ける手段はなかった。

 いくつもの虫が松明へと向かい、燃え移る。

 虫がエールを捕らえるかと思われたが、チアの魔術が、何とか間に合う。


(危なかった…こんなギリギリの対応じゃ…勝てない…!)


 エールがそう思った矢先、クロワは異形の口へとランタンを投げ入れる。


「喰らえ!!!」


 蓋を開けておいたのか、瞬く間に虫に燃え移り、その炎は燃え広がる。


「ぐっワあぁぁぁ!」


 かなり効いたようだ、これで倒れてもおかしくはない。


(どうだ…?)


 異形は叫びながらも少し下がり、既に外にいる虫を集め纏い始めた。まだ、終わらないようだ。

 異形は炎をランタンごと無理矢理噛み砕き、消火した。

 ランタンを砕く音が聞こえる。

 エール達は息を呑んだ。


 今回の虫を纏った異形は今までとは違う。

 今までは異形を中心に纏い、丸くなっていて本体が見えたが、今回は人型で、本体が見えない。

 恐らく、見えないところで虫を増やしているのだろう。


「おい…こっからはどうする?かなり効いたみたいだったけど、まだ満腹には程遠そうだぞ…?」


 クロワが問いかけるが、エールにこれ以上の策はない。

 無策で挑まなくてはならない強敵に、体を震わす。


「…マずはお前たチを倒し、メインディッシュにしテやる」


 異形が流暢に喋る。どこか、強い意志を感じる声であった。


「おいおい、俺達は美味しくないぞ?それとも…ストレスで過食気味か?」


 クロワがこんな状況でも冗談を言う。

 エールはなんて余裕なんだ、と思ったが、よく見たら少し震えている。余裕を見せているのだろう。


「カ食?それはお前達の事だろう?私腹をコやし、私欲をミたす…忌々しい…」

「やっぱストレスだったみたいだな…!」

(それは煽り過ぎなような…?)

「黙れ!モう良い…喰い荒ラしてやる!」


 クロワが煽り、敵はそれに怒り心頭の様子だ。。

 人の形をした異形が、仕掛けて来た。

 異形は虫でできた手を、エール達に向ける。すると、虫が一匹ずつ、一直線に向かってくる。

 チアが杖をかざし、炎を放つ。

 しかし、それでは前の数匹しか倒せない。


「おい!やっべぇぞ!どうする!」


 クロワが必死だが、今は策がない。


(どうする…このままじゃ…)


 このままではチアが危ない。そう思ってはいるのたが、エールには助ける術がなく、どうすることもできない。


「エール!松明!こっち向けろ!」


 クロワそう叫ぶと、羽織っていた上着を脱ぎ、松明を近付け、燃やし始める。

 そしてチアの前へ出て、その燃えた上着を盾にして虫の攻撃を防ぎながら突っ込む。


 クロワも相当熱い筈だが、耐え忍んでいた。


「ぐっ!」


 火傷の痛みに声が出る。

 クロワはただ信じた。こんな防ぎ方を何回もできるわけではない。

 エール達を信じた。少しの時間稼ぎで、打開する方法を編み出してくれると。


 エールは見た、クロワの覚悟を、頼もしい背中を、そして、一つの疑問が浮かぶ。


(何で溢れてこっちに来ないんだ?)


 言われたら当たり前の疑問であった。

 チアを目掛けて攻撃している筈であるが、今はクロワにしか虫が向かっていない。


 エールが辺りを見渡すと、スライムがいた。

 何やら色が淀んでいる。

 よく見ると多くの虫が、スライムの表面に浮かび上がっている。移動した際に取り込んだのだろう。


 エールは持っている松明を見る。

 戦闘に集中していて気が付かなかったが、自分の手に、燃え尽きた虫の死骸が乗っていることに気が付く。


 初歩的なことを見落としていた。


 この場には、燃やしたクロワの上着と、エールの松明、二つの光源がある。

 そして当たり前だが、水は光を反射している。雪なんかもそうだ。

 エールはスライムを見る。

 スライムが反射した光の先に、虫は集まっていた。


「チア、この部屋にある燃えるもの、全部に火をつけよう…」

「どうして…?」

「…この部屋から…出るんだ」 


 切り抜ける方法を、思いついた。

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