第14話∶灰かぶり
「うわっ!?」
「エール!?」
エールが連れ去られる。でもまあ、大丈夫だろう。あっちより、こっちが心配。いきなり動いたから、いろんな虫がこっちに気付いた。仕方ない、加勢するか。
こんな虫だらけで戦うのって…蠱毒か?虫の王でも決めるのか?何言ってんだ?なんでもいいか…。
触りたくないGがこっちに来る。
戦場にそこそこいるけど、百匹もいなさそう。てか、動きがなんか緩慢…?虚ろな感じもする。
こっちに意識が向いてることに、皆は気付いてないみたいだ。
「G、こっち来るよ」
「!?」
仲間達に知らせ、攻撃を避ける。
危なっかしいな、あれ?チアとか呼ばれてた子は?どっか行った…。でもまあ、大丈夫だろう…大丈夫だよな?
今、近くに誰がいる?
クロワ、それと語尾にクエスチョンマークの多い絵馬、身長だけが取り柄の優志、なんで来たのかわからない由麻、それにやたら俺を疑ってる海渡、だったよな名前…たぶん合ってる。それに海渡のおまけの数人。
おまけ達も俺のこと怪しんでるっぽいんだよな。名前と能力以外、嘘ついた記憶無いけど…。
そんなことよりどうしましょ。例の御器かぶり…またこっち来るな…倒すか。
敵が一直線に向かってくる。
確か、こいつらは前にしか進めない。それで後ろからの攻撃は避けられる。普通だったらそう、でもこいつは…操られてる?
迎え撃つ気で構えていたが、躱される。
めんどくさ、ボスはまだ遠そうだし。
…まだエールに見せてない魔法使うか…?
剣が炎を纏い、後ろから虫へ攻撃する。そしてそのまま燃え尽き、虫が焼ける悪臭が漂う。
その臭いに、更に他の魔物が寄ってくる。
かなりキツイ臭いだな、まだまだいるし。
「めんどくさ…」
更に虫の魔物を斬りつけ、焼き尽くす。悪臭が漂うのは、まあ仕方ない。
何度も同じことしてるうちに慣れてきた。
傷も増えてきたし…疲れた、ちょっと絵馬に回復してもらおう。
「絵馬〜ヒールヒール〜」
「大丈夫?太郎君?」
絵馬に回復魔法をかけられる。
余裕ができた、もうすぐ終わりそうかな…?
隠れててもバレないかな…。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」
何やら悲鳴が聞こえる。
思わず振り向くと、わお…でっかい蟻がいるじゃん。女王蟻ってやつかな。羽が生えてる、何か神々しいな。
まだ例の御器かぶりとかいるし、戦わないといけない感じか…。
「はぁ、めんどくさ」
さっきも同じ感じで、同じこと言ったな…語気被りか…?てか誤記被りか?
エールが走って戻って来た。
俺がなりたくもない主役の為に…仕方ない、ちょっと体張るか。
「エール!ここは任せて先にいけっ!」
するとエールは走って巣に向かう。
なんだ、やること分かってるじゃん…。
言ってみたかっただけなんだけど…恥ずかし…また優志になんか言われそう。
とりあえずここらの敵、俺の名に懸けて倒してみせるか。
向かってくる兵隊蟻の攻撃を避け、首を飛ばす。しかし、首を飛ばしても変わらず、向かってくる。
この前戦った時とは違って、ここで戦う蟻は頻繁に毒針を使ってくる。
厄介だな、首を落としてもまだ生きてる…。それにゴキブリが邪魔だ。
スケート場みたいにしたら滑って動けなくなるかな…?
人が少ない場所に移動し、戦いやすいように周囲の木々を燃やす。更に周囲に水を撒き散らす。そして徐々に温度を下げる。
明確には感じられないが、寒くなってきた気がする…もう少しかな?
場を整えているのを、敵が待ってくれる訳も無く、立ち向かってくる。
どうする、白線でも引いておくべきだったか?いや、水鉄砲みたいなことしたら逃げていくか?
闇雲に魔法で向かってくる敵に水かける。うっすらとした空気の冷たさも相まってなのか、動きが鈍くなる。かなり効いているようだ。
するとゴキブリは命の危険を感じたのか、羽を広げて飛びかかってくる。
「うわっ!」
あまりに突然の出来事に、足を滑らし転んでしまった。それが幸いして、不意の突撃を回避できた。
危ない、少し油断してた…でももう場は整ったらしい。
平面な氷上の中心まで行こう。
「よし、それじゃあ…じゃ~ん。」
バッグの中から玉ねぎを取り出す。
少し切り込み、その匂いを風魔法で広める。するとゴキブリの魔物達大勢が寄って来る。
「本当に来た…フッ軽だ…本能ってやつかな?」
これで一網打尽…後は女王蟻だけか…?
勝った、そう油断していたら、ゴキブリ達は足を滑らすこともなく、簡単に向かってくる。
いややば…全然ダメじゃん…そういえば、いつか聞いたことがある。
脚が吸盤みたいになっていて、張り付くことができるとか…。
アイススケート場みたいになってるんだけどな…じゃあもう…ホイホイか?そんな粘着力のあるもの持ってないね…。
いや待て、あるだろ…大地の恵みが…!
土の魔法で、地面を掘り起こす。かなり深くまで、すると出てくる、望んでたものが…。
良かった…来たね…!切り札…!
地面からは、様々な種類の岩などが出てくる。
この世界の中心には世界樹があり、その周りを囲うように海がある。そしてこの辺りは昔、水場があったと聞く。
出てきた物を一瞬で、粉々に砕く。
「勧められたけど、取っておいたんだよね」
酒瓶をいくつも取り出し、粉々に砕いた石と酒瓶の酒を混ぜ、氷の上に放つ。
するとゴキブリ達は氷上を歩くが、足を滑らし上手く進めない。
「どう?よく滑るっしょ?炭酸カルシウム」
上手く前に進むことも、立ち退くことも困難になった虫たちに、止めを刺していく。
とどめを刺したつもりでも、痙攣するように動き続けるが、時間が経てば力尽きるだろう。
エールが帰ってきたとき、うじゃうじゃいたら大変だよな…でも後は全部倒してくれないかな…。
そんな考えを知ってか、いつから好機を伺っていたのか、背後から鋭い針が襲いかかる。
そうだ…来るなら、手駒がなくなった今だよね。
「うん、知ってた」
振り返り、相手を見る。今まで感じていた違和感の正体。綺麗なエメラルドの様な色をした、人と同じ背丈の虫を。
今までのゴキブリはどこか虚ろで、動きが緩慢だった、その原因。
この虫がゴキブリに毒針を刺し、麻痺させ、自由を奪う。恐らく今まで戦っていたゴキブリは、こいつに操られていた。
鋭い毒針をチラつかせ、ゆっくりと近寄る。
ジワジワ来ると思わせるが、緩急をつけ目にも留まらぬ速さで迫る。
「来ちゃった?まじ!?ギリ斬り!」
相手の動きに合わせて一歩下がり、毒針ごと斬る。
真っ二つになったが、まだ少し動いてる。
それでも、少し時間が経てば力尽きるだろう。
まさに虫の息ってやつだ。
折れた毒針を見る。
きっとまだ、毒を持った敵がいる。
「こういうのは、いい武器になるよね」
まだ、終わってない。
向こうにはまだまだ敵がいる。
「火の精霊…」
そんな物は存在しない。それしか思いつかなかった…。でもきっと…彼にとって良い引き金になるだろう。そもそも、そのくらいしか勝てる手段が思いつかなかった…。
…あんまり興味なさそうだったけど…。
…新たな戦場へと向かう。
よく分からなかった時のあとがき
出てきた岩は、恐らく石灰岩などの炭酸カルシウムを多く含む岩。
かぶりというのは、ゴキブリは昔ごきかぶりと呼ばれていたらしい。
そしてゴキブリはガラスを登れるのですが、炭酸カルシウムを塗ると、足を滑らして登れなくなるとかなんとか…。
色々なご指摘があるかもしれませんが、それは知識不足故のミスなので温かい目で…お願いします…!




