第13話∶虫の知らせ
「もう大丈夫か?」
「追ってきてはないっぽいね」
「…結構走ったぞ?」
「うん」
「もっと早く言えよ…」
相変わらず、タローは他人事である。
エール達は完全に逃げ切り、体力を回復させる為、休むことにした。
「いやぁ〜危ねえ…」
「めっちゃ硬かったね〜」
「あんなの倒せるのか?」
「暴れてるだけだったし、戦う必要とかあんまないんじゃない?」
「それもそうか…」
相変わらず、タローとクロワは元気そうだ。
他の人達はかなり疲弊して、口を閉ざしている。
「よし、じゃあそろそろ行く?」
「「いや全然?」」
タローの発言に肝を冷やしたが、流石にエールとクロワが反対した。タローは空気が読めないのか、読んだ上で読まない、そういった人物のようだった。
タローと黒髪の少女が目を合わせる。何か通じ合ったようだ。
「怪我してる人ちょっと来て〜回復してあげるね?」
「お前、回復魔術使えるのか!」
黒髪の少女の発言に、やたらクロワが興奮気味だ。
「エール、回復魔術は裕福な人とか、貴族しか教えられてないんだよ」
「な、なるほど…」
チアが世間を知らないエールを気にかけてか、クロワが興奮気味な理由を教える。
そして全員の回復が終わり、出発する。
今回も蟷螂と遭遇する前と変わらない調子で進む。
「エールは何で参加したんだ?」
クロワがエールに声を掛ける。
「僕は一文無しだからね、チアはその付き添い」
「えっ、チアとエールはいったいどんな関係なんだ?」
チアとエールの関係、難しいことを聞くクロワだったが、他から見てもかなり疑問だった様子だ。
「どんな関係?うーん、ドラゴンに襲われてたのを助けた?」
「ドラゴン?」
「うん、でも逆光でほぼ見えなかったけどね」
「お前それ、最近話題の飛竜じゃないか?」
どうやら、エールとチアが出会ったドラゴンは世間を賑わせてるらしい。
「かっこいいな、エール」
「え?」
「ドラゴンから女の子救うなんて、おとぎ話じゃんよ」
そう言われたエールは、なんだか気恥ずかしい様な、嬉しいような気持ちで満ち溢れた。
「そういえば、火の精霊の話ってなんだったんだ?」
クロワが今度はタローに話し掛ける。
「いや〜なんか、街を色々回ってたら本に挟まってた紙に書いてあったんだよね」
何やら怪しい話をタローが始める。
「最初は小説か何かのボツネタだと思ったんだけど、かなり詳しくこの森の話が書いてあったからね」
「なるほどな、因みにどんな力があるとか、書いてあったのか?」
「いや?力を貸してくれるみたいなことしかな書いてなかったかな」
「そうか…」
何やら面白そうな話であったが、エールとしては大事な場面で力を借りるようなことを好ましく思わなかった。
「もう少しで着くよ〜」
タローの声に全員が反応し、警戒態勢をとる。
そのまま少し歩くと戦闘になっているのか慌ただしい足音や、声が聞こえてくる。
(あれ?さっきもこんな感じゃ?)
「おいおい、大丈夫か?さっきもこんなノリで酷い目に遭ったぞ?」
クロワがエールの思っている事を全部言った。
蟷螂相手に生き残った人達は当然、何のことだ?といった様子であったが、それ以外は苦い表情を浮かべる。
「確かに、めっちゃフラグだったね、危な〜」
相変わらずタローは呑気だが、他の人にとって高い頻度で強敵との遭遇は懲り懲りなのだ。全員が様子を見るのに徹する。
「うおおおおお!」
「昆虫採集じゃ〜!」
「標本にしてやるよ!!」
激しい戦いが繰り広げられているようだ。
そしてどうやら、蟻以外にも虫がいる。
蟷螂も、蟻も、そして黒光りする背中等、何種類もいる。
「…これは…ダメだろ…」
クロワの言葉に全員が賛同する。まるで人と虫の戦争だ。
「あっちにも強い人いるだろうし、勝てるんじゃない?」
「それもあるが、このまま突っ込むのは厳しくないか?」
「それもそうだね、まぁ、もう少し、様子を見よう」
タローとクロワの会話に、まだ戦うことにならなくてよかったと、エールは安堵する。
エールには、まだ勝てる想像ができていないのだった。
「うわ、Gじゃん、速くね?」
「まるでジェットだな」
「GGか………」
何やら黒髪の集団が盛り上がっている。なんの話をしているのやら。
「このままでも仕方なさそうだし、突入するか?なるべく隠密行動だが」
「そうだね、それが良いかも」
このままでは先陣切って戦っている人達が危ない為、エールも賛同する。
なるべく目立たず、参戦しようと近づいていくと───
「うわっ!?」
───いつの間にやら近くに来ていた蟻が、エールを連れ去る。
「エール!?」
遠くでチアの声が聞こえる。
エールの声で気づかれたのか、タロー達はしっかり戦闘に巻き込まれていた。
少し離れた場所でエールは蟻達に降ろされる。
何やら様子がおかしい。襲ってくる訳では無さそうだ。
どうしたものかと、エールは様子を見る。
するとエールを連れ去り、地面を這っていたジャイアントが、エールの手を頭に乗せる。
その動作に、エールは理解する。この蟻は、この前気まぐれにパンをあげて逃がした蟻だと。
エールは理解をした証として、頭を撫でる。
ジャイアントは触角でエールが伸ばした腕に触れる。エールは心做しか、どこか嬉しそうな顔をしているように見えた。
しかしこんな和んでいる場合ではなく、今も戦っている仲間達がいる。重要なことを思い出したエールに気が付いたのか、ジャイアントは前脚でエールの服を強く掴む。
「エール!!!」
チアの声が聞こえる。どうやらエールを心配して来たようだ。
少しずつ、チアが近づいてくる。
「大丈夫!!!?エール!!!待ってて!」
「大丈夫だよ!落ち着いて、ゆっくり来て!大丈夫」
チアは、エールが攻撃されていない状況に困惑しながらもエールの言った通りにする。
「これは…?」
「なんだかわからないけど、敵対する気は無さそう」
チアが合流すると、今はチアに敵意がないことを示し、エール達は様子を伺う。しばらく様子を伺うと、戦ってほしくないというようなことを訴えていると気が付く。
エールとチアは目を見合わせる。すると何やら戦場が騒がしい。
戦場に目を向けると、ジャイアントよりも何倍も巨大な蟻が出向いていた。
大木と同等の大きさの蟻が、悠々と戦場に姿を現す。
その姿にエール達は絶句し、これからの戦闘、無事では帰れないと予見した。




