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第11話∶蟷螂の斧


 特に何事もなく一日が過ぎ、更にもう一日が過ぎる。そろそろ依頼も終わりそうだなと、エールが考えている頃。


「巣が見つかったぞ!」


 そんな知らせが聞こえてくる。

 その知らせに、「よっしゃ、行くぞ!」「本当の蟻地獄にしてやる!」「殺虫戦士、いざ、参らん!」等と息巻いている。どうやら、乗り込む気らしい。

 エールとしては追い払うだけで良いのだが、そうはいかない空気だ。


「どうしたの?エール?」


 エールの憂鬱な気持ちを感じてなのか、チアに心配されてしまう。


「いや…なんでもない、大丈夫。」


 エールは大丈夫と言ってみたはものの、本当は皆殺しになってしまうのではないか、という不安があった。


「………これが終わったら、クエストも完了で帰れるかもね」


 気を利かせたのか、チアがそんなことを言い始める。そこでエールに疑問が浮かぶ。


「前言ってた、虫の被害って、この依頼に関係あるの?」

「うーん?どうなんだろう、この時期いつもあるクエストらしいし、いつもと変わらない様子だけどね」


 ”いつも変わらない様子“ということは、“虫の被害”と関係ないのではないか、と考えるが、どうも違和感が拭えない。


(いつも通りなら、被害なんて言い方じゃない…?そもそもこの依頼しかなかった、他は間に合っている?いや、間に合っているのなら、いつも通りのここが、依頼されるのはおかしい?)


 エールは考え込む、どうしてこんなに嫌な予感がするのか。この違和感の正体は、一体何なのか。


「大丈夫?エール?」

「いや、大丈夫、いつ出発なの?」

「もうすぐ行くみたい」

「うん、わかった」

「無理しないでね?」


 目的地で正体が分かる、エールは確信した。


 少し時間が経ち、エール達は森の中を進む。


「ねぇ〜エール〜この辺、火の精霊とかいるらしいよ〜」


 タローが話しかけてくる。

 出発から2時間ほど経った。

 タローの気怠そうな雰囲気とは裏腹に、まだまだ体力がありそうだと、エールは感心する。


「なんか、巨大な敵を目の前にした生命に、立ち向かう勇気があったら、力貸してくれるって〜」

「へ〜どこで知ったの?」

「いやぁ、なんかその辺で?」

「何それ」

「てか、今頃他のグループは着いたのかな〜」


 全員で行くと流石に目立つ為、各々のグループで行動をするそうだ。


「あとどんくらい〜?」

「おいおい急かしてやるなよ」

「地図を見た感じ、もう少し歩くかな?」


 各々行き方だけ共有されており、他のグループの状況はわからない。

 エールは声を掛けられ、チアや黒髪の集団、そしてクロワという名の男と行動していた。


「ちょっと見せてよ、てか貸して!」

「ちょっ、俺にも見せろタロー」

「クロワ地図読めんの?」

「タローちょっとバカにしてるな〜?」


 クロワは意に介してない様で、ハハッと笑う。


「いや〜ちょっと、育ちに色々ありそうだなって」

「エール〜俺バカにされてね?されてるよな?」

「そうだね…」

「よく喋るおっさんだな」

「それは喧嘩だろ!そういえばお前達!名前聞いてないぞ!黒髪で揃えやがって!大変だエール!チア!俺達誘拐されるぞ!」


 クロワは棘のある発言をいなし、黒髪で長身の男がやや危ない誂い方をする。


「クロワは今回のクエスト、なんで参加したの?」

「クエスト?ああ、実は聞いたんだよ、風の噂だがな?」


 クロワのクエストに参加した動機の話題で、徐々に深刻な空気が漂い始める。


「ただ誰にも言うなよ?秘密だぞ?」

「なんそれ、ちょっと気になるな」


 タローは気になってると言う割に適当だ。本当に、気になっているのは少しだけなのだろう。


「もう一度言うぞ?噂だからな?………俺は蟻の巣の奥に、とんでもない宝があるっていう噂を聞いた」

「とんでもない宝?」

「ああ、どんな病気も治り、どんな死にかけの状態からでも復活できる、何でも治せるって話だ」


 ゴクリ、誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえる。


「何でもか…すごい話だね、ほんと?」


 少し重い空気で言葉を発するのが躊躇われる中、タローがそんな空気を嫌ってなのか、発言する。


「嘘だ」

「嘘なの!?」


 …嘘だった。


「おい!めっちゃ空気重かったじゃねぇか!」

「やり返してやったぜ!!!エール!」

「そうだね…」


 クロワという男は、飄々としており、掴みどころがなく、どことなく異性に人気がありそうで、なんだか詐欺師の様な男だ。という印象をエールは持っている。


「じゃあ、ほんとの理由は何なの?」

「それはな…ずっと妹の調子が悪くて…ほら、報酬良いだろ?だからその金で妹の体調を戻す為にこの依頼を受けたんだ…」


 またもや空気が重くなる。重苦しい空気が漂う中、タローがまたしても口を開く。


「…絶対またうそじゃん…」

「嘘じゃないって〜!」

(ああなんだ、冗談そうだ、良かった…)

「エールちょっと本気にしてない?」

「エール!本気にしたのか!?」

「そうだね…」


 またしても冗談そうな発言に、エールは安心する。そんな安心も束の間───


「エール〜蟻って食べたら酸っぱいらしいよ〜」

「エール!あの草食べれそうだよなぁ!」

(………二人で話しててくれないかな………)


───タローとクロワが雑にエールに話しかける。

 エールはずっと反応し辛く、「そうだね…」としか反応しないため、二人はどうやって良い反応してもらおうかと躍起になっていた。


「もう少しで着くよ〜」


 タローの声に全員が反応し、警戒態勢をとる。

 そのまま少し歩くと戦闘になっているのか、慌ただしい足音や声が聞こえてくる。

 そして徐々に、見え始める。

 何人もの勇士が、無残に倒れている姿が。巨大な一匹の蟷螂が素早い斬撃で、勇士を武器ごと斬り伏せている。


「こいつは骨が折れるな」


 クロワが真面目に言っているのか、冗談なのかわからない口調で呟く。


(折れるどころか、斬られて、髄まで食い尽くされそうだ)


 巨大な蟷螂がこちらを向く。こちらの存在を確実に認識した。

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