お前を生涯愛することはない──わかってます
短編、短編で続けました「お前を生涯愛することはない──」のシリーズもこれで終わりにいたします。
正直、短編なのに今までの三作品を読まないと分からない話になってしまいましたが、どうしても最後はこう締めたかったので、やってしまいました。
できましたら、シリーズに入れています「お前を生涯愛することはない──当然ですわ」「お前を生涯愛することはない──イヤです!」「お前を生涯愛することはない──そうですか」を読んでいただけたら幸いです。
【side 第二騎士団団長 エンリケ・ボラックス】
「お前を生涯愛することはない」
そう言い切った俺に、妻はちょっと困ったような笑顔で「わかってます」と答えた。
第二騎士団の団長の職を賜っている俺の朝は早い。
自分の一日のスケジュールの確認と騎士団の活動予定、訓練内容の確認。他の騎士団との行動調整、宰相、文官長との擦り合せ等、多岐にわたる準備をしたところで、副団長補佐のフレイマンが出勤してくる。
若干(?)脳筋気味の副団長と違い、この副団長補佐は書類作業、他部署との連携の大事さを理解してくれている。個人的には、このフレイマンに副団長をしてほしいのだが、本人が固辞している為に実現していない。良く気が回る配慮に長けたフレイマンは、新人から中堅に至る騎士団員のメンタルケアもしてくれている。本人曰く、立場に就いたら団員一人一人をキチンと見ることができなくなるからとの事。それはそれで必要な役割であるので、それ以上は言わない。
フレイマンに引き継ぎ事項を話したくらいのところで、副団長のカーライルが出勤。
フレイマンがカーライルに一日の予定を告げ、二人は団員達の元に向かう。本当に役に立つ副団長補佐だ。
最近、副団長カーライルのフレイマンを見る目が変わってきた。ちょっと頬を赤らめてるようにも感じるが、フレイマンに任せておけば、問題は無いだろう。カーライルは結婚したばかりだし。色々とあるのだろう。
団の事を副団長達に任せて、再び会議室へ。
各団長は、宰相と共に調査部の報告を聞く。最近、隣国の兵団の配置が変更になったらしい。
軽い昼食を取ると、備品管理を任せている団員からの報告書類に目を通して、備蓄兵糧の確認。
そして、団員達の訓練に合流する。
訓練が終わり定刻を迎えると、週に一度は他の団長達との夕食会に参加する。
「ところで、エンリケよ。お前の所の第二な、衆道が流行ってるらしいぞ」
第三騎士団の団長は、同期ということもあり、比較的ザックに話してくる。
「しゅうどう?」
修道?習道?宗道?聞き慣れない言葉にとまどっているうちに話題は変わっていた。
なんか分からないけど、訓練か修練に邁進する道みたいなもんだろう。
そして、食事が終わったくらいの時に宰相から呼び出しがかかった。
今日も、帰るのが遅くなりそうだ…………。
【side 文官見習い ナタリア・ブロッサムス】
今、私は取材に追われている。
本職の文官業の方ではなく、趣味の文筆活動での事。
ちょっと理由があって手にする事になった薄い本。その薄い本によって私の価値観は大きく変わってしまった。若い騎士達がお互いに求め合う衝撃的な内容の本。
嵌りに嵌まった末に頭の先まで嵌まってしまって、クロールで泳ぎきった上で、読むだけで収まらず、遂には読み手から書き手に変わってしまった。
うん、楽しいからOKだけどね!
以前、付き合っていたカーライル様も、あちら側だったんだけど…………(だって、四年間も付き合ってて、体の関係はが無かったから、可怪しいとは思っていたのよね)。
そして、そのカーライル様の相手と思われていたのがフレイマン様。私が今追っているのが、この方。
でも、最近のフレイマン様は老け専に転向されたのか、渋面のオジサマと出歩かれているのを見かける。
うん、騎士団OBと現役騎士とのLOVE。イケる!
と、後は帰ってストーリーにして、挿絵の依頼ね。
私は、編集長の住む屋敷に向かう。
編集長は、ミラ・ハイデンマルク。第二騎士団副団長のカーライル様の奥様。ジョナリス侯爵家の御令嬢で現在白い結婚生活継続中らしい。だってね、さっきも言ったけどカーライル様って、あちら側だから仕方がないよね。
そして、このミラ様が私の師匠で、この道に導いてくれた恩人。
「ありがとう、ナタリア。流石だわ。じゃあこれを絵師に渡しておくわね」
「お願いしま〜す」
絵師の方も、ミラ様同様に第二騎士団団員の方の奥様でパナマシン婦人というらしい。むちゃくちゃイケる絵を描いてくれるの。
私は、お会いした事がないけれど、可愛らしい感じの方だそうで、こちらも新婚さんだけど白い結婚継続中。なんか結婚前に色々あって、奥様の方から白い結婚を提示されたとか。今、白い結婚って流行ってる?
ちなみに、私達の〝白と青の出版〟は、貴族令嬢を中心にアンダーグラウンドで大人気。
既に十を超える作品を世に送り出している。
つまり、私は売れっ子作家!
だって、第二騎士団って、ネタの宝庫なんだもの。
今日も、取材に勤しみます!
【side 宰相 アンソニー・ペネリクトン】
「──で、北部ローレン地方に侵攻の予兆がある」
ここまで言って、私は会議室を見渡した。
各騎士団長、諜報部隊長、文官長達が緊急の会議に集まってくれている。
重々しい表情の各騎士団長。
レポートを繰る諜報部隊長。
何やら計算を始める文官長。
私が方針を決めようという時、扉がノックされた。
「皆様方、遅れて申し訳ございません──」
クレイシュ第二王子が入ってきた。
王子は、落ち着いた様子で淡々と言葉を発していく。
「──大体の内容は、移動中に聞いております。我々の安寧を脅かす可能性のある事態とはいえ、急な招集に応じてくださったこと、各長の皆様ありがとうございます。かねてより軍事侵攻を噂されていた隣国が国境線に兵を増員しているという事、ただ侵攻を待つだけでは被害を受けるのみ。愛する者々を守る為、御力添えをお願いいたします」
「へっ?」
「はっ?」
「んっ?」
「えっ?」
丁寧に頭を下げる第二王子を見て、普段王子と接点がない騎士団長達が、変な声を零した。
それはそうだろう。第二王子といえば、つい先月までは男女を問わず性の対象として尻を追い回していた、どうしようもない存在だった。実際、廃嫡の話まであったくらいだ。
それが一転、まるで噂に聞く東方の僧侶のような言動をするようになったのだ。大人になったを通り越して、老成してしまった王子は、全てに達観している。
何があったのか聞いてみたところで、『不徳のいたすところです』と繰り返すだけで、話にならない。
囲っていた男爵家の娘の所にも行っていないみたいだし、結婚したのが良い方向に向かったのか分からないが、まぁ良かったとしておこう。
話を会議に戻すと、第一騎士団は王都防衛に努めるとして、第二、第三騎士団が北部国境付近のサーシノ砦に駐留し前線を張る。第四、第五騎士団はそれぞれ北西部、中央北部で遊軍となるべく待機となった。後は、補給物資──。
方針も決まり、解散する各長達に、クレイシュ第二王子が一人一人に手を握り、よろしくお願いしますと声をかけている。
これはこれで、王族として良くないんですけどね。
王子には、言っても通じない気がする…………。
【side 妻 クレリア・ボラックス】
「お疲れ様です」
夜晩くに帰ってきた旦那様に声を掛けると、少し困ったように、起きていたのかと、返された。
結婚して十五年が過ぎ、子供達も学園の寮に入っていることもあり、この屋敷には私達夫婦と幾人かの執事、侍女、下働きがいるだけ。
旦那様は真面目な人で、朝早くから夜遅くまで第二騎士団の団長として働いている。重責なのだろう、深くなった眉間の皺を指で擦ると、困り顔の眉根を更に寄せて、私の指を払いのける。
「また皺を作っていたか、スマン」
本人も気にしているのか、今度は自分で眉間をさすりながら上衣を脱ぎ、ソファーに腰を下ろす。
謝らなくても良いですのに。外では『鬼団長』とか言われているくせに、家ではいつも困った顔で『スマン』という。
「今日はどうされたのですか?いつもよりお疲れのようですが」
本来なら、家を守る妻が外で働く旦那様の仕事について聞くのは、良くないのかもしれませんが、我が家ではいつもこう話しかけるのです。そうでもしないと、口数の少ない旦那様とドールハウスみたいに会話がない家になってしまう。
「ああ──」
旦那様は隣国の動向を教えてくださいました。
そして、先の前線になるであろうサーシノ砦に駐留する事も。
私が、どう返そうか思案していると、旦那様は眉間の皺をより深くして、姿勢を正しながら私に向き合います。
「お前を生涯愛することはない──」
困ったお顔が行き過ぎて、泣きそうなお顔になってます。
「──だ、だから、俺の愛など求めずに、これからは自由に生きてもいけ」
まあまあ、子供を三人も作っておきながら、生涯愛することはないだなんて。
俯き、微かに手を震わせる旦那様。
「わかってます──」
私は、溢れそうになる笑顔を微笑に留めながら返しました。
本当に不器用な人。
戦が始まってしまったら、前線に行く旦那様は死んでしまうかもしれない。私を未亡人にしたくないのですね。ただ悲しみに暮れる女にしたくないのですね。
「──わかってますよ。待っています。ご無事にお帰りになるのを待っていますよ。私の愛しい旦那様」
「クレリア…………」
「泣かないでくださいな。愛していますよ」
まったく、戦に行く度にこれですもの。
本当に可愛い人。
本当に、お読みいただきありがとうございます。