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後宮の妖狐は尻尾を見せない ~天仙公子のやり直し  作者: 朱音ゆうひ@8/5『桜の嫁入り』コミカライズ連載スタート
1章

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36、傾城のお仕事報告書

 皇帝の話をまとめると「お説教していたら妃が誘惑してきた。朕は誘惑に負けた。妃、最高! 反省もしてくれたから許してあげて!」であった。

 

 先見(さきみ)の公子は手慣れた様子で睡眠薬を皇帝の口に突っ込み、眠らせた。いつの間にか人間の青年姿になっている。

 

紺紺(コンコン)さん。今の話は教育上よろしない話だったので、忘れるように」 

「あっ、はい」

 

 紺紺は紅潮した顔を袖で隠しつつ、頷いた。

 同期の宮女たちが性知識を教えてくれたおかげで、皇帝の話が理解できてしまった。皇帝が微妙に詳しく語るものだから、年頃の娘としては反応に困ってしまっていたのだ。

 

「口直しとは少し違うが、これをあげよう」

 

 先見の公子は懐から手紙を取り出し、渡してくれた。


「あっ、石苞(セキホウ)からのお手紙だー!」


 紺紺はいそいそと手紙を読んだ。

  

 ====


 お嬢様がお怪我とご病気で苦しんでおられると聞いて、爺やは胸が張り裂けそうです。


 お嬢様の危機に駆け付けることができず、申し訳ございません。

 後宮に見舞いに乗り込もうと抜け道を掘っていると、役人がやってきまして。

 

 「そのまま掘り続けたら反逆罪にするぞ」というんです。

 

 霞幽様に手紙を書いたところ「それはそうでしょう」という返事だったんですよ。

 話が違うではないですか。俺は憤慨いたしました。


 おのれ、霞幽様の裏切り、許すまじ。


 俺は決意しました。

 抜け道でコソコソするのはやめます。

 俺は堂々と門から後宮に入ります!


 ===


「せ、石苞が怒ってますよ、霞ふにゅっ……、先見の公子様」


 呼びかけた唇に小籠包(しょうろんぽう)が押し付けられる。ふかふかだ。あったかい。

「お食べ」

 と言われて、紺紺は受け入れた。


「石苞はほっといてもいいんじゃないかな。好きにさせておきなさい」

「もぐもぐ……石苞は、『いいよ』と背中を押したのに話が違うのが不誠実だと怒ってるんです」

「私は不誠実な男だが? 石苞など雑草のようなものだ。怒らせておいてもどうせ大したことはできまい。それより、仕事の話の方が重要だ」

「むっ」


 せ、石苞を雑草呼ばわり!

 さすがにカチンときた紺紺が睨みつけると、先見の公子は何かを察したように頷いた。


「雑草は穴を掘らないから、犬の方が適していたな。すまない、訂正するよ。石苞は君の犬さんである。この話は終わりだ。さて、私の方針について君に話しておこう」

「い、犬さん……っ。雑草よりマシになったのかなぁ……? むむむ。人間扱いをしてください、霞ふにゅっ」

「先見の公子と呼びなさい」


 口の中に放られたのは、餃子だ。美味しい。

 もぐもぐと味わっていると、先見の公子は本題に進んだ。


「さて、話がそれたが、仕事の話だ。主上は『許せ』と仰せだが、華蝶(カディエ)妃は私が冷宮送りにする。必要あれば、命も奪わせる。そして、私の邪魔になるなら主上には退位していただく」

「ひぅっ!? た、た、退位!? なんてことを、ごほっ、ごほっ」


 紺紺は驚き、餃子を喉に詰まらせた。

 だって、まるで奸臣(かんしん)(邪悪な家臣)のような物言いではないか!

 

 先見の公子は呆れた様子で水の入った杯を持たせてくれて、背中をさすってくれた。


「紺紺さん。落ち着いて食べなさい」

「誰のせいですかっ?」

「白家には、『主君が仕えるに値しない昏君(こんくん)の時は、まずは(いさ)めよ。諫めても改善しないなら、民のために討て』という言葉がある」


 先見の公子は冷ややかな目だった。

 いつもながら、『人情(にんじょう)』というものを感じさせない温度感だ。


「主上は普段は善良な賢君と呼ばれている方だが、女性が絡むと困った方でもある。先日など、傾城(けいせい)を妃にしたいなどと……いや、なんでもない」

「ひぃ」


 思わず情けない悲鳴をあげると、先見の公子は眉を寄せた。

 

「なんだい、その情けない声は。二度と口になさらぬよう念押ししたので、安心するように」

「よ、よかったです~~っ」


 安心した。

 しかし、それはそれ。紺紺は勇気を出して先見の公子に反対した。


「先見の公子様。『君が君たらずといえども、臣、臣たらざるべからず』という言葉があります。どんな主君でも、裏切っちゃいけません」

「うん、うん、そういう言葉はもあるね。世の中には正反対の主張が無数にあるものだ。我が白家は主君の裏切り上等なのだよ……紺紺さんには『白家の白は何者にも染まらぬ』という言葉を教えてあげよう」

「それって『人の意見は聞かない』って意味です?」

 

 わあ、これはあまり言葉が響いてなさそうだ。

 

 紺紺が好感度を下げていると、先見の公子は幼い子供に言い聞かせるような笑顔になった。もちろん、目は笑ってない。


「いいかい、紺紺さん。主上は玄武の珠を没収して自分のものにした。これにより妃の脅威は下がったが、主上の危険性が上がってしまったんだよ」


 紺紺は脳内で想像した。


 華蝶(カディエ)妃が「おほほほ! 便利な珠でやりたい放題ですわ~!」と高笑いして。

 「その珠は朕が没収!」と皇帝が奪い。

 「うはははは! 便利な珠でやりたい放題だ~! わっしょい!」


 あ~、主上ならそう言う。

 そんな納得感があった。

 

「主上は今は善良な方だが、これから先はわからない」


 確かに、心配だ。紺紺は首を縦にした。


「幼い東宮(とうぐう)を即位させて傀儡(かいらい)にした方がやりやすい。わかるね?」


 なるほど、傀儡(かいらい)に――いや、待って? 


「はっ? い、いえっ? か、か、傀儡っ?」


 紺紺はぎょっとした。


「それ、わかっちゃだめな考え方です! ご自分の都合で主君を代替わりさせて幼君を傀儡(かいらい)にするなんて、奸臣(かんしん)ですよ! とんでもないっ!」

  

 きっぱりと言う隣に、先見の公子がやってくる。

 じっと見つめてくる視線は、得体のしれない生き物を観察するようだった。


「紺紺さん。白家は裏切り上等の一家で、私は奸臣(かんしん)だ。仁・義・礼・智・信、全て、私の欲する結果の前では無価値となる。道徳などどうでもいい」


「え、ええっ?」

 

 仁・義・礼・智・信は、大陸で重んじられている道徳だ。

 仁は、人を思い遣る事。

 義は、利欲に囚われず、すべきことをすること。

 礼は、仁を具体的な行動として、表したもの。

 智は、道徳的認識判断力。

 信は、言明を違えないこと、真実を告げること、約束を守ること、誠実であること。


「だ……大問題です~~っ」

「そうか。君が問題があると言うなら、前向きに検討しようかな」

「それ、検討しない言い方ですねっ?」


 先見の公子はその話も終わりとばかりに、「そうそう」と付け足した。

 

「妖狐の件だが、実は、私はあまり妖狐に接近したくないんだ」


 えっ? 妖狐に接近したくないなら、私は?

 

 と喉元まで問いかけが出たけれど、紺紺は飲みこんだ。


「そうだった、君も妖狐だったね、じゃあ距離を取らせてもらうよ」と言われたらいやだな、と思ったから。

 さらにいうなら、たった今の会話からすると「君は妖狐で悪女だから、やっぱり禍の種だね。排除しとこう」と殺されかねないと思ったからだ。


「これまでは華蝶(カディエ)妃と胡月(フーユエ)妃のどちらが妖狐かわからなかったが、君のおかげで胡月(フーユエ)妃が妖狐だとわかった」


 それは良いことだ、と彼は語る。


「私は必ず華蝶(カディエ)妃を冷宮送りにする。もしくは、殺させる。……君は胡月(フーユエ)妃の動向に気を付けてほしい」


胡月(フーユエ)妃の動向に気を付けるのはわかりましたが……」

「君と主上は気が合いそうだね、紺紺さん」

 

 それって、「邪魔するなら、君も排除するよ。わかるね?」と脅されてる?

 紺紺はゾッとした。


 こ、怖い。やっぱりこの人、怖い……!


「主上については、様子を見て判断しよう……っくしゅん」

「!?」


 淡々と言っていた先見の公子が、突然くしゃみをする。

 この人、くしゃみとかするんだ。


「大丈夫ですか。もしかして、風邪がうつりましたか?」

「失礼。ひとまず、本日は以上だ。主上は朝まで寝かせて、彰鈴(シャオリン)妃が寵愛を受けたことしておこうかな、っくしゅん」

「お薬飲みますっ!?」


 この人、くしゃみするんだね!?


 よく見るとちょっと顔も赤い気がする。お熱もあるのだろうか。

 手を伸ばすと、払いのけられてしまった。


「こほん、紺紺さん。私のことは気にしないように」

「き、気になっちゃいました」


 なんとなく人間らしさが増したような、そうでもないような。

 紺紺は、とりあえず「お大事に」と言っておいた。


===


 傾城のお仕事報告書。


一、皇帝陛下の睡眠不足を改善したよ。お元気になられたよ!

二、克斯国(こくしこく)の侵攻を止めたよ!

三、雨萱(ユイシェン)さんと彰鈴(シャオリン)妃が罪人として断罪されずに済んだよ!

四、妖狐が胡月(フーユエ)妃の可能性が高い、とわかったよ!

五、華蝶(カディエ)妃が玄武の珠を没収されたよ! 新しい持ち主は皇帝陛下だよ!

六、霞幽様が「華蝶(カディエ)妃は冷宮送り、もしくは殺させたい。妖狐には近づけないので妖狐は君に任せた。私は奸臣なので、道徳を軽んじる。邪魔をする者は皇帝でも排除する」と仰ったよ! 怖いね!

七、清明節に他国のお客様がいらっしゃるよ。外交がうまくいくよう、がんばらなきゃ!




ここまでで1章の終わりです。情報まとめみたいなのがあるといいかな、と思って「お仕事報告書」をつくってみました。


次話から2章です。

もしよければ、のんびりと引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。


感想、お気に入り、評価、レビューなど、とっても励みになりますので、もし「応援するよ」という優しい方いらっしゃいましたら、ぜひぜひよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ぺこり 

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