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後宮の妖狐は尻尾を見せない ~天仙公子のやり直し  作者: 朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です!
1章

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32/62

32、断罪の夜 ※センシティブな内容を含みます

※「処刑回」です。

苦手な人は苦手なお話かなと思います。

お話の本筋的にはこの1話は読まなくても次に進めますので、苦手な方は回避してくださいませ(すみません!)


 その女の処刑は、夜に行われた。


 先に逝った愛しい男の遺体を腕に抱かせて、穴の中に寝かせ。

 上から土をかぶせていく――生きたまま埋葬するという処刑方法である。


 女が穴の中から見上げた夜空は、遠かった。

 暗いはずの夜空は、穴中の身から仰ぎ見ると、明るく見える。


 穴の底が暗すぎるのだ。

 

 土が上からどんどんと放られて、体が埋まっていく。顔にかかり、咳きこむ。咳き込む間も容赦なく追加の土が降り注ぎ、口から喉へと土が流れ込んでくる。


「ごほっ、ごほっ」

 

 やがて、目も開けていられなくなる。

 必死で呼吸を繰り返すけれど、苦しい。

 一秒、また一秒、状況は悪化して、苦しさが増していく。


 怖い。つらい。救いがない。あんまりだ。

 

「私は謝らない。私は可哀想なんだもの。恨めしい、憎い。悔しい。悔しい、嫌い……ごほっ」

 

 自分は、死ぬのだ。罪人として。

 

 意識が朦朧となる女の胸には、恐怖があった。

 生存本能が警鐘を鳴らし、生命の危機に脳と身体が悲鳴をあげていた。


 胸に抱く彼は、もう先に死んでいる。

 自分もこうなるのだという実感が強くなっていって、感情がぐちゃぐちゃになる。


「……っ」


 はふはふと呼吸する頬を、熱い涙が濡らしていく。

 

 土に閉ざされて、世界が真っ暗だ。

 穴の底で、ひとりぼっちだ。虫けらのようだ。

 追加されていく土の重量で、押しつぶされそうだ。

 

 嫌いだ。

 世の中が、大嫌いだ。


 冷たい彼の身体が、切ない。 

 

 彼は、私を守ってくれた。

 とうてい動けるはずのない容体だったのに、奇跡みたいに動いて、最期の力を振り絞って、庇ってくれた。

 

 ずっと苦しんでいた彼は、もう苦しむことがない。

 痛みに喘ぐこともなく、うなされることもない。

 彼は、解放されたんだ。もう楽になったんだ。

 

「わ、たし…………」

  

 生きるのがつらかった。ずっと、苦しかった。

 逆恨みして(ねた)んで悪意でいっぱいの、醜い自分が嫌いだった。


「ふ、ふぅ、ふ」

  

 そんな自分が、終わるんだ。

 

 死の縁に沈む心は、ほんの一瞬だけ、夢をみた。

 死んだ彼が自分を、ぎゅっと強く抱きしめてくれた。

 そんな夢だ。

 

 ああ、彼がいてくれる。

 私は、彼と一緒に死ぬために生きてたのかもしれない。

 そうか、わかった。

 私たちは……死ぬために生きてたんだ。

 きっとそう。そうなんだ。


 楽になれる。

 解放される。

 

 思い残したことは、なんだっけ。

 言わないといけないことがあると思ったんだ。

 なんだっけ。なんだっけ。

  

 そう思った瞬間に、いつかの雨萱(ユイシェン)の笑顔が思い出された。

 

桜綾(ヨウリン)、すごい』


 すごい、と言われたことがそれまでなかった心に、素直な賞賛はとても気持ちよかった。

 

 もっと褒めて、雨萱(ユイシェン)

 私はすごいでしょ、雨萱(ユイシェン)

 私が面倒を見てあげてもいいわ。だから、私を慕って。

 私を見て。私を認めて。


桜綾(ヨウリン)、ありがとう』


 ……あなたと私は、仲良しよ。


「……っ」

 

 自分の中に、小さな(とげ)がある。

 胸の奥深くに隠れていたそれは、罪悪感だ。雨萱(ユイシェン)への親愛だ。


 ああ……苦しい、苦しい、苦しい。


 

「ゆい、しぇ」


 声はもう、届かない。誰にも。

 

 

「す…………」

 好きだった。

 言いたかったことを思い出した。でも、この声は誰にも届かない。

「た、」

 助けて。

「き、」

 きいて。


 私はここにいる。私の心を知って。

 私、伝えたい。きいてほしい。

 なのに――もう、遅い。


 未練は解消されることなく、想いはかなわず。

 意識が落ちて、思考は止まる。

 呼吸が絶えて、脈は静まり。

 

 

 悪因悪果(あくいんあっか)の夜の底。

 咎人(とがびと)の生は、かく終わりけり(このように終わった)

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