序章─天使からの提案
何もない廊下。そこはただ白い壁のみで、明かりなどはなかった。が、不思議と明るかった。幅10mはありそうな廊下で、無限に続いているように思えた。
そこに一人の足音が響く。奥から歩いてきたのは、制服の男─吉本剣也(14)─だった。
剣也は、俯きながらつぶやく。
「なんでこんなところにいるんだっけ」と。
─ 時は遡り ─
剣也は歩いていた。田畑に囲まれた一本道で、ゆっくりと歩いていた。
剣也は、転校生だ。小6で競馬好きの父親が借金を残しどこかへ行ってしまう。しばらくは料理人である母の稼ぎで賄っていたが、ついに払いきることはできず、家賃も払えなくなり、田舎に引っ越してきたのだった。
本の学校では、彼女はいなかったものの友達に囲まれていたが、引っ越してからは健也はふさぎ込んでしまった。学校には行くものの、友達は一人もできず、休み時間は勉強ばかりしていた。
そのおかげで成績は良かったが、相変わらずつまらない日々だった。
そんなことを考えながら、交差点に差し掛かる。うつむいていたせいか、迫ってくるそれに気づくことができなかった。
それの光を目にとらえたときは、すでに遅かった。体に衝撃が伝わる。
吉本剣也は、車に轢かれてしまったのだった。
しばらくして目が覚める。体はもう動かせなくて、夕暮れの空を見ることしかできなかった。
車から降りてきたらしき人物が顔を覗き込んでいた。その人物の顔は見ることができなかった。
「よし、もうすぐ死ぬな。」
そいつはそうつぶやいた。その一言で剣也は誰が自分を轢いたのかを悟った。悟ってしまった。自分の父親の声など、間違えるはずがないのだから。
剣也の鼓動が速くなる。数か所で来ていた傷から、血がにじみ出る。剣也は、驚きと悲しみの中、短すぎる人生の幕を閉じた。
─ はずだった。 ─
現にこうして歩いているし、一体本当に死んだのだろうかと不安になる剣也だが、そもそも歩いているところが非現実的なところだし、かれこれ10時間以上歩いているが疲れる気配がないことからも死んだことが分かった。この場所はどこなのか、等いまだ様々な疑問がわいてくるが、剣也はいったん考えるのを止めた。目の前は行き止まりであり、一つの扉があったからだ。
『御用の方はノックしてお待ちください』
と書かれた紙が貼ってある。
コンコン
とノックをする。
「はぁ~い」
返事が返ってきた。どうやら中にいるようで、しばらくしたら天使(?)が出てきた。
「お待ちしておりました。世界の管理者のクレアです。吉本剣也様ですね?
それではご案内いたします。」
そういって扉の中に案内される。
扉の中も似たような廊下だが、たくさんの扉があった。
「ここは、世界と世界の間にある空間、といった感じでしょうか。ここに来ることができるのは、我々世界の管理者と、死者の魂のみとなっております。」
「つまり、死んだらここへ来るということですか?
それにしては人が少ないような気がします」
「はい、死者の魂は必ずここへ来ていただきますが、今いるところとは別のところになります。
そこで、記憶の消去を行った後、再び人としてまた世界へ行き、生まれるのです。
簡単に言えば輪廻転生、ですかね。」
「じゃあ自分はなぜここに...」
「実は、とある条件を満たしている人は、記憶を保ったまま、体もそのままで別の世界へ行けることとなってます。早い話が異世界転生ですね。」
「その条件というのは...」
「落ち着いて聞いてくださいね。
ひとつ。享年10~18歳であること。
ふたつ。親に殺されたこと。
そして...親に殺意があったこと。」
ドキッとした。親に殺意があったからではない。自分のどこかに、見限ったはずの父親に殺意がなかったと信じようとしていた自分がいたことにである。どうやら父親に未練があったらしかった。
でも、少しはすっきりした。
そこまで考えたところで、クレアさんから話があった。
「そういえば、我々天使は新しい世界を作るのですが、そこの管理者が見つかっていないのです。
どうせなら、ご自身の手で、新しい世界を作ってみてはどうですか?」
は?
新しい世界の管理者になるだと?
とてつもなく興味深い。
一から世界を作っていくのも面白いだろうな。
だけれど、失敗したらどうしようかという不安もあったので、断っておいた。なんか責任重そうだしね。
「わかりました。それでは、ぴったりの世界をお探ししますね。」
数分後、一つの扉の前に案内された。そこは木製の扉で、周りにはキノコやら何やらが生えていた。魔法もあるらしく、いろいろ役立ちそうである。
用意してもらった服に着替え、これからの生活をどうしようかと考えながら、新しい世界への扉を、物理的に開いたのである...
すみません...
前回の小説(別垢)の設定をそのまま入れました。
前回の小説はもう投稿予定はありません...