東京 その5
朝、僕は携帯電話のベルで起こされた。
時計を見ると8時である。
着信の所に 村野恵子 と出ている。
間違いなく、ウチのオカンだ。
帰省は全然しなくても、2,3ヶ月1度オカンは電話をかけてくる。
年老いたオカンの朝は早い、朝4時には目が覚めると前に聞いた事がある、これでも時間を待った方なのであろう、そんな事を考えながら、電話に出た。
「もしもし、おかぁーちゃんやけど」
いつも通りのセリフをオカンは言った。
「はい、はい。おはようさんです。」
「あんなぁー 一週間ぐらい前にアンタに掛けた保険の満期になった解約書類送ったけど、書いて送くり返してくれたかなぁ?」と心配そうにオカンは言った。
あ、すっかり忘れていた。
昨日の菅原さんとの話しではないけど、オカンは僕に事故や怪我病気など起こった時の為、保険を掛けていてくれるのだ。
つまり、その保険が満期になり解約手続きに僕本人の免許書のコピーや必要書類に記入しなければならないのである。
ありがたい事ではあるが、書類を書くのが面倒などで、後回していたら、すっかり忘れてしまっていた。
「あぁ、ごめん 忘れとったわ、すぐ書いて送り返すわなぁ」
僕はいつもそうなのだ、オカンの頼み事はいつも後回しなのである。
「ホンマにお願いやで、頼むわな」
「うん、すぐ送るわ」
それからオカンは僕の仕事の心配と淳ちゃんの病気の様子を聞いた、オカンにとって僕の仕事と淳ちゃんの事が一番心配なのであろう、僕は心配かけないように、あたり障りのない様に答えた。
僕もオトンの様子やお姉ちゃんの子供、つまりは甥と姪の話を聞いた、僕には子供がいないからこの甥と姪は自分の子の様に可愛いのである。
「ほんなら、また、お米とか送るからなぁ、書類 書いて送ってなぁ」
「わかった、ほんならなぁ」
「ほんならなぁ お願いやでぇ ありがとう」
電話を切った、いつもの事だがオカンは最後に「ありがと」と付け足すのである。
当たり前の事だが、田舎の方言(僕の場合は大阪弁だけど)で喋られるとこっちも大阪弁になってしまうのだ。
忘れないうちに、書類を書かなければと思い1階にある6畳間の自分の机に向かって、書類を書き上げた。
それから、2階のリビングに戻って、マットレスに横になりテレビを見ているうちに、また眠りについた。