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東京 その2

時計の針はすでに深夜2時を回っていた。


そろそろ帰ろうかと重い腰を椅子から上げた時、部屋の隅に花束がある事に気がついた。


21インチのパソコンのモニターのある菅原さんの机の上にそれはあった。


撮影している時は、部屋を薄暗くしていたから気づかなかったが、美しい花束がバスケットいっぱいに入っているのだ。


「あの花束、なんなの?」 思わず尋ねた。


「ああぁ、あれは、来週 俺の オフクロ の誕生日なんだよ。それで、花をバスケットに入れて見栄えを良くして田舎に送ろうかと思って・・・」

菅原さんは少し照れた様に言う。


「ほら、俺・・・15年ぐらい前 奥さんと子供放り出して、愛人に走っただろ・・・それから、オフクロに会わす顔がなくて・・・せめて、誕生日ぐらい、花束を贈ろうと思ってなぁ・・・」

こういうセリフも他人事の様にとぼけて話ている。

「今日はもうこんな時間だから明日梱包して贈ることにするよ・・・」


そうなのである、人間46年も生きていれば、それなりの人生がある。

菅原さんは今もその愛人と一緒に暮らしている、あれから15年も経っているのだから、もう愛人とは呼ばす内縁の妻と言うべきなのであろうが、あえて愛人と言う言葉を使っているのだ。

その愛人というひとは 城山香織しろやまかおり と言うひとで、僕も今となってはよく知っている、ふくよかで、美人タイプで、気立てのいいひとだ。


その話は結構前に菅原さんから聞いていた。

菅原さんは18歳の時、秋田から上京し、デザイン専門学校に行き、広告代理店に就職し、そこで、奥さんと知り合って結婚し、男の子ひとりを授かった。

その後、独立してデザイン会社を始めるが、開業間もない頃 仕事がなかった為、奥さんにいろいろ言われて夫婦仲が悪くなったらしい。

その頃知り合ったのが今の内縁の妻 城山香織さん である。



「へぇー結構 親孝行だね、お母さんと全然 会ってないの?」


「あぁ・・・会ってないなぁ・・・」

菅原さんは少し寂しそう花束を見ながら言った。


「なんで?」とは、僕は聞かなかった・・・


大体の事は察しがつくからだ。

普通、夫婦円満であれば、お盆やお正月に子供を連れて帰省するもので、それを楽しみにお爺ちゃんお婆ちゃんは息子の帰りを待っている。

菅原さんはそれができなくなり、母親に合わせる顔がないのであろう。


「オマエの方はどうなんだ?ちゃんと親孝行やっているのか?」

菅原さんは花束をバスケットに整えながら言った。


「いや・・・俺なんて、全然、大阪いなかに帰ってないなぁ・・・」

僕の田舎は大阪であるが、自分が親孝行らしき事をやってないことを痛感しながら言った。


「まぁ、そんなもんだろ、いつの間にか生活に追われて、親の事などそっちのけになっちまうからなぁ・・・」


「親の面倒は田舎のお姉ちゃんに任せきりだもんな・・・俺・・・」

僕は 兄 姉 そして僕 3人兄弟である。

一番上の兄は通信関連の大企業に勤めて10年ほど前から、ここ東京に転勤になっている。

姉だけが大阪に住んでいて、もちろん嫁に出ているが、親の面倒を見ている。


「そんな事言ったら、俺も田舎の兄貴に親の事は任せっきりだ・・・」

菅原さんは少し目を潤ませながら言った。


菅原さんも僕も同じ気持ちだった思う。

親孝行したい気持ちがあっても、今の自分の周りに起こる事で精一杯なのだ、加えて田舎の兄弟に親の事すべてを任せっきりで、自分は何もしてしないジレンマと、申し訳ない気持ちでいっぱいなのである。



「でも、母親ってありがたいなぁ、なんだかんだいろんな物 送ってくる、毎年秋には あきたこまち10kg送ってくるしなぁ」

秋田出身の菅原さんは潤んだ目でちょっぴり嬉しそうに言った。


「うちの母親も お米 送ってくるよ」

僕もほんの少しだけ目を潤ませながら言った。


「そうか、どこの母親もまず、食う事を心配するのかもなぁ」


二人で大声で笑った。






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