だから私はえんぴつを使う
『なろうラジオ大賞4』参加作品です。
キーワードは『えんぴつ』。
少し切ない恋物語をお楽しみください。
私は絵を描くのが好きだ。
子どもの頃からよく絵を描いていた。
親や友達から「うまいね」と褒められるのが嬉しかった。
歳を重ねるにつれて、色々な画材に触れていった。
でも君に描く絵はえんぴつと決めている。
「何でえんぴつなんだ?」
「柔らかいタッチが好きだから」
嘘だ。
下書きのような手軽さ。
消しゴムで擦れば消えてしまう儚さ。
その分納得いくまで書き直せる特性。
そしてコピーでは写らない唯一無二。
重荷になりたくないけど特別でいたい。
そんな誰にも言えない私のこだわり。
それなのに……。
「ごめん!」
「何いきなり!? 土下座やめて!」
家に来るなり土下座謝罪をされて私は困惑する。
何を謝っているんだろう?
昨日描いた絵を無くしたとか汚したとか……?
「描いてもらった絵、写真撮る前にラミネートしちゃって、本当にごめん!」
「はぁ!? 何してるの!?」
私の願う儚さと切なさと心細さが!
「ごめん……! 俺は何て愚かなんだ……!」
「……い、今から撮ればいいじゃない! 何に絶望してるのよ!」
……本当は画像に残してほしくはないけど、あまりの落ち込みように私は声をかける。
でも君は首を横に振った。何で?
「ラミネートのテカリのない状態の画像を残しておくべきだったのに……!」
「知らないよそんなこだわり!」
「あまりに絵が儚げで綺麗で、いつものルーティンを崩してしまった……!」
「は、儚げ……、ってルーティン!? 今までに描いた絵も写真に撮ったりラミネート加工したりしてるって事!?」
何してるの!?
それじゃあ唯一無二も儚さも何もないじゃない!
「だってお前に描いてもらった絵をいつまでも保存しておきたいし、いつでも眺めていたいから……」
「ぅ」
「えんぴつの線って、手で擦っただけで掠れちゃうじゃんか。お前が折角描いてくれた絵がそんな風になるのに耐えられなくて……」
「……」
えんぴつの線のように、淡い想いだと思っていた。
えんぴつの絵のように、いずれ消えると思っていた。
でも君はそれを、少しでも長く留めようとしてくれていたんだね。
「……じゃあ今度は、ペンとか使ってちゃんとした絵を描いてあげるから」
「本当!? やった!」
「でも君にも協力してもらうからね」
「え? まぁできる事なら何でもするけど……」
鏡の前に並んで二人の絵を描きたいと言ったら、どんな顔をするだろう。
紙の下に硬貨を置いて、えんぴつで擦る石刷りのように浮かび上がらされたこの気持ち。
もう消したりはできないね。
読了ありがとうございます。
どこが切ないんだ、ですって?
また甘々じゃないか、ですって?
ちゃんと前書きに『少し切ない』と書いたじゃないですか。
残りの大半は甘々です。
何もおかしくはありません。
『僕は悪くない』
次回のキーワードは『ランドセル』の予定です。
よろしくお願いいたします。