3
「はるーーー!」
どれほどの時間が経ったろう?
勧められるままに料理を摘みつつ(多分、とても美味しいのだろうけど緊張と混乱で全然味が分からない…)山本さんを中心に質問攻めを受ける。
周りのどんちゃん騒ぎにほとほと参って現実逃避を始めた私の耳に突然聞き慣れた声が響いた。
こ、この声は…?!!
「はるーー!無事か?!」
「じ、じいちゃーん!!」
襖をバーンッ!と勢いよく蹴り破った祖父の姿がなんだか神々しく見えた。
じいちゃんっ!助けに来るって信じてたよ!!
思わず立ち上がり感動の再会とばかりに手を広げ手走り出す…が、何故か足は1歩も前には出なかった。
何だこのデジャブ…。
恐る恐るお腹に視線をやればここに来てからずっと巻きついて離れないフサフサのしっぽに、肩には大きな腕が周り私の体を後ろから抱きしめている人の存在…
言わずと知れた山本さんである。
ちょーい!いい加減離してよーー!!
「龍司てめぇ!俺の可愛い孫にベタベタと汚ぇ体で触れてんじゃねぇぞ!ぶっ殺されてぇのか?!」
「おーおー、相変わらず元気な爺さんだなー」
Theファンタジーというカオスな空間でも身内が一人いるだけでなんでこうも安心するんだろう!
しかも、こんな人達に全然臆せず襖を蹴破り怒鳴り散らしている祖父の姿がいつになくカッコ良く見える!
普段から無愛想な顔はいつになく険しく厳ついけど!
いつもの3割増で怖い顔をしているけどっ!!
意地の悪い性格のクソジジイとか思っててごめんね!!
流石じいちゃん!大好きだよ!!
「じ、じいちゃ…ン?」
つい安心感に涙ぐむ私の顔を見て…
何故か此方にもガンを飛ばしてくるじいちゃん。
何故…?!
「春!お前もなんでここにいやがる!!」
何故かじいちゃんの怒りの矛先が私に向かってきた。
いやいや何でよ!私は仕事で来ただけなのにっ!!
「え?え?いや、それはほら。今日の配達分持って店出る時に慌てて追加の荷物を渡されて、忙しいから配達先の住所は後でメールするって言われたんだよ…それで、来たのがここだけど…?」
「あぁ?俺がこんなヤクザ者の家にお前を行かせるわけねぇだろうが。誰だそれしたの」
「おばあちゃんだけど…」
「は?今日は若葉は店に出てねえぞ?」
「え?いやいやいや、それにメールはじいちゃんから来たよ?ほら」
「は…んん?あ、お前これちげーよ。山路さん家だよ!山本じゃねーよ!」
「は?だとしても住所はここでしょ?」
「…お、お前の見間違いじゃね?」
「いやこれ絶対ここでしょ!ちゃんとグルグル先生に聞いて来たし!ね?これここの住所ですよね?!」
思わず未だ私を抱きしめて離さない山本さんに聞けば、間違いないと頷いた。
「あぁ、バッチリあってるぜ」
「ほらー!!」
「…すまん、俺が間違えたっぽいわ!ハハハッ!」
能天気に悪びれもなく笑って誤魔化そうとする祖父の姿にブチリッ!と堪忍袋の緒が切れる音がした。
は、はあぁぁ???
「こ、この…クソジジイ!!!開き直ってんじゃねー!」
「あぁ??ジジイとはなんだ、ジジイとは!」
普段無愛想で怖い顔をしたじいちゃんの顔が今は全く怖くない。それどころか理不尽に怒られた挙句、まともな謝罪もないとか…!!
後でばあちゃんに言いつけてやるかんな?!!
「はぁ?!私がどんだけ怖い思いしたかわかってんの?!ヤクザが住んでそうなでかい屋敷に配達に来ればヤクザよりヤバそうなケモ耳生やした怖い人が出てきて無理やり家の中に連れてかれて!!かと思ったら明らかコスプレじゃなさそうな怪しい人達っていうか人外魔境な部屋で何だか分からないうちに囲まれた挙句質問攻めされて逃げる暇も隙もないし!!!なんかもう、もうっ…カオス!!
何が何だかわかんないよ!なんなんこの人達?!意味わからなすぎて怖いわ!しかもそれをあっさり受け入れてる感じのじいちゃんもじいちゃんだよね?!私だけが色々取り残されてるよ?!誰かちゃんとした説明をしてよ!
なんで、こんな…山本さん家フはァンタジーで出来てるの?!」
自分でも支離滅裂なことを叫び散らし、余計に混乱した頭で思わず叫べば…何を頭り前のことを?といったような顔で山本さんとじいちゃんはあっさりと頷いた。
「「うん、そうだよ?」」
おいっ!なんでそこは仲良くハモるんさ…!
さっきまで険悪ムード醸し出してなかった?!
実は仲良しなの?じいちゃん実は共犯とか言わないよね?
いやてか、え、ファンタジーって何よそれ!!
もうっもうっ!じいちゃんのあほんだら!
ばあちゃんにいいつけてやるかんなーーー!!