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…なんということでしょう。
大きな門を抜けたその先に広がっていたのは、見事な日本庭園。庭の中には何故か小さな川が流れ、遠くには竹林が広がっている。遠くからは微かに聞こえる不思議な音色…こ、これはもしかして水琴窟…?え、滅茶苦茶手入れが大変っていう、金持ちの道rゲフンゲフン不思議な音色ダナー(棒)
敷石を踏み、ずんずんと奥へと進んでゆくその人に手を引かれ…あと、何故かモフモフとしたしっぽ?が私の体に巻きつき絶対逃がさないという気配を感じる。
というか…これ、随分とリアルな作りしてるんだけど。
に、偽物だよね?腰にこう、なんかつけてるだけだよね??まさか本物とか言わないよね?!ね?!!
「なぁなぁ、嬢ちゃん名前はなんて言うの?」
「え」
「俺は山本 龍司言うんよ、よろしくね〜」
そりゃ、表札『山本』だったしね!
これで山本さんじゃなかったらびっくりだよ?!!
「はぁ…」
「りゅーくんって呼んでね!」
いや、それなんて答えれば???
一応じいちゃんのお客さんだし、しかも常連さんで年上だし何より怖いし恐いしコワイシこわいし…無理よりの無理。
「で?桜河和菓子店の君は?お名前教えてよー」
「え、えー…と、その」
「ん?」
名前を言った方がいいのかと言い淀んでいると、彼…山本さんは突然立ち止まると私の方を振り返った。
慌てて足を止め、恐る恐る上を見上げれば…彼は微笑みながらジッと私を見下ろしていた。
逆光になり、彼の厳つい顔が更に深く浮かび上がる。
サングラス越しに見えるその瞳が、まるで獲物を見つけた肉食獣のようで恐ろしかった。
「わっ、え?あの…」
「お名前は?」
「…お、桜河 春です」
思わず名前を零すと、彼は嬉しそうに笑った。
先程まで浮かべていた微笑みとは違う、心底嬉しそうな顔に思わずドキリと胸がなった。
「春ちゃん!可愛い名前!ねね春ちゃん、桜河ってことはあの爺さんの血縁?孫?」
「あ、はい」
「へぇ!あの爺さんの孫かぁ。んーでも、あんまり似てないかも…よかった」
「あ、あのそれよりも…ほんと、あの…仕事があ」
「あ!ほら見えてきたよー、あれが俺ん家ね!」
そう言って、かれこれ歩くこと10分程で漸く家屋らしきものが見えてきた。因みに私の話は一切聞いてくれる気配はなく、あれよあれよという間にとてつもなく立派な日本家屋の中へと私は連行されたのだった。
じ、じいちゃーーーん!!!!!(叫)
中はこれまた立派な作りで、本当にドラマの撮影なんかで使われていそうな…と言うよりも旅館のような作りをしていた。
これが個人宅とかマジですか…。
山本さん家スゲー(遠い目)
奥へ進むにつれてガヤガヤと人の声が聞こえてくる。
大きな襖をスパンっ!と小気味よく音を響かせて開いたかと思うと中はなんともカオスな状況が広がっていた。
「おー、リュウおかえ…女の子だ!」
襖のすぐ近くに座っていたであろうお兄さんがこちらを振り返り様にそんな言葉を叫ぶ。
…お兄さん、あ、あなたも??
お揃いなの?頭にモッフモフのお耳が揺れてるよ!??
「なにぃ?!ほ、本当だ?!!」
初めに叫んどお兄さんの声につられ部屋の中にいた人達の視線が一斉にこちらを向いた。思わずびくりと肩が震えたが、その部屋の中の異常な光景に一周まわってスンッと冷静になった。
…ほんと、彼らは何なんでしょうね?
「リュウ!てめぇどっから攫ってきやがった!うらやまけしからんヤツめ!!」
肌がうっすらと青い角を生やしたThe鬼なお兄さんがヒューヒューとお酒片手に囃し立てる。
「ギャハハ!この誘拐犯ー!」
その隣でとても小さな、ともすればまだ幼子の様な姿をした男の子がお爺さんのようなダミ声で爆笑した。
「変態!」
ふよふよと宙に浮いた透明な何かに、
「ロリコン!」
蛇のような、否。アニメに出てくるドラゴンのような頭をした明らか爬虫類系の方が上半身裸で踊っていたり。
他にも私よりも大きな猫がいたり、キメラ的な色々混ざったような人?動物?がいたり…服装も様々で見慣れた洋服や着物に鎧やどこの民族衣装ですか?というような見たことの無い服を着た人々が沢山いた。一見コスプレ会場のような集団の姿だが、化粧や衣装等で作ったとは思えないほど生々しく動く異形の姿にゴクリと喉がなる。
…じいちゃん。
山本さん家はファンタジーで出来てるの…?
「攫ってねぇよ!つか、変態とかロリコンとか叫んだやつ後でシメるから覚悟しとけや」
「おーこわやこわや」
「おいおい、リュウ坊がお怒りだぞー?ガハハっ!!」
なんて叫びつつ、嬉しそうに笑っている山本さん。
しかし、その目は一切笑っていないのがより恐ろしい。
いつの間にか部屋の中の、所謂お誕生日席というなんとも目立つ場所にどっかりと座った山本さんの隣にちんまりと置かれた私。
…じいちゃん、私はこれからどうなるの?(泣)