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「うわぁ…でっかー」
ドンッ!と目の前に聳え立っているのはどデカい門だ。
あまりの大きさ、そしてその立派な佇まいに少しビビる。
中には立派な日本家屋が広がっていそうな…そう、まるでドラマや漫画でよくヤのつく方々が暮らしてる様なそんなお家の門である。
…いやいや、そんなわけないよね。
あれはあくまでドラマの中の世界なわけで現実でもこんなある意味分かりやすいお家なわけないよね!
多分この家は…そう!有名な茶道家とか華道家とかそっち系だよきっと絶対!
ウンウンと1人頷き、取り敢えず確認しよう。と手元のスマホを覗き込む。
「住所、は合ってるね?うん。名前…わぁ、立派な表札」
ドドンッ!と門の脇に飾られた表札には達筆な文字で堂々と『山本』と書かれていた。
スマホでメモした内容にも「山本」の文字。
住所もバッチリあっている…うん。ここかぁ。
というか、ここ以外に該当しそうな家がないんだけどね…。
左右どこまでの長く続く塀に、残念ながら隣家は見当たらない。もう一度、目の前に聳える門に目を向け思わず息を漏らす。
「山本さん家すげー…」
何処にでもいそうな…例えば一学年に二・三人は居そうなお名前の『山本』さん家はなんとも立派なお家でした。
◇
祖父母が経営する老舗の和菓子屋で、私は大学の夏休みを利用して手伝いという名のバイトに来ていた。
今日は祖父に頼まれて商品の配達に来たのだけど…まさかこんなに大きなお家に届けることになるとは思わなかった。
祖父よ…せめて何か一言言っておいて欲しかった…。
まぁ、取り敢えず仕事を終わらせてしまおう。と恐る恐るインターホンを鳴らす。
ピンポーン…
割と普通の家と同じチャイム音。
なんか、ちょっと感動。
因みに、大きな門の隣にはこじんまりとした小さめの扉があった。恐らく普通に人が出入りする時はこちらの扉を使うのだろう。その扉の横に付いているインターホンを鳴らせば直ぐに人の声が返ってきた。
『…はい、どちら様でしょう?』
「あ、いつもお世話になっております。私、桜河和菓子店の者です。商品のお届けに参りました」
『…あぁ、桜河さんね。今行きますのでお待ちください』
「はい」
…き、緊張した。
いや、商品の配達は今回が初めてな訳じゃないけど…流石にここまで立派なお家相手だと変に緊張してしまう。
ガチャ。
扉の開閉音と共にヌッと出てきたのは…とても大きな人だった。黒い服に黒いサングラスをした厳つい顔のその人の姿にやっぱりヤッさんのおうちだったのでは??と一瞬疑うも…彼の頭をみて恐らく違うと判断する。
もし、彼がヤのつく職業の方なのだとしたら、それはあまりにも不自然で、そしてある意味愉快というか…。
彼の頭の上にちょこんと生えているソレの存在に思わず吹き出さなかった私は偉いと思う。
だってーー頭の上に可愛い耳が付いているのだから。
「あ、こんにち…は?」
「あれ、やっぱりいつもの爺さんじゃないのな。君、新人さん?あ、とりあえずそれ貰うわ」
厳つい顔に似合わずとても優しい声で話すその人は私を見てニコリと微笑んだ。
耳…え、コスプレ?
こんな厳ついコスプ、レ?え?てか…え?
「?どした?」
どした?いやいや、それはこちらのセリフですが???
そ、そのお耳どうしたんですか…??
何?ここ、実はコスプレ会場ですか?なんだか様になりすぎてて怖いよ!あと…あの、その耳…なんだか動いてないですか?いや、そんな…そんなわけないよね?!ね??!!
「あ、いえ。はい…えと、ここに受け取りのサインを」
「ん。…はい、どうぞー」
「あ、ありがとうございます。で、では私はこれで…」
これは関わらない方がいい判断した私は早々に踵を返した。
…ぶっちゃけ、頭の上に生えているフサフサの耳が気になりすぎてて凝視してた気はするけど。
てか、耳ばっかり見てたから首が痛い。
すごく、気になる。気になるけどっ!これに突っ込んだらダメな気がする!!嫌な予感しかしない…よし、帰ろう!!
最早歩くとかそんな事しない。後ろを向いた瞬間走り出そうと足を上げた…が。しかし、不思議なことに1歩も前に進むことが出来なかった。
何故かって…?
肩をガッシリと後ろから掴まれちゃったからだよっ?!
しかもなんかお腹にモフってしたのがっ…モフ?は?え、なんかシッポみたいなのが腰に巻きついてるんだけど…?!
なにこれ?なにこれ?!
じいちゃん?!
じい゛ちゃ゛ん゛!!!
何?何が起こってるの?!何この状況!超怖いんですけど?!ヤクザより怖いんだけど?!ねぇ!!
「待って待って。ねー、お兄さんと少しお話しようよー。ね?いいでしょ?あ、いつものじいさんどうしたの?君はバイト?歳は?」
「あ、えと…その、まだ仕事があるので…!」
「お昼は?あ、ここで食べて行きなよ。うちの板前さん前にどっかの料亭で働いてたらしくて凄い美味しいんだー」
グイグイ来るな?!やだよ怖いって!!
ぶっちゃけ貴方ね、滅茶苦茶恐いのよ。眼力も力も強いし存在感も強けりゃ個性も強すぎるの!!色々と強すぎるよ!無理だよ!やめて!帰らせて!!じいちゃーん!!ヘルプ!!
「いえいえお気遣いなく…」
「よし、そうしよう。お客様ごあんなぁ~い!」
「え?!ちょ、まっ」
その場に踏み留まろうと足に力を入れるも、抵抗虚しくズルズルと引きづられてゆく。そして私は、無駄に豪華な門の内側へと無理やり連れてかれるのだった…。
いやあぁぁぁぁぁぁ!!!
山本家怖いよ!!ちょ、じいちゃーん!!(泣)