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湧かないモチベ、遅すぎた更新。
学校に到着し、教室に入る。いつもより遅めに着いたせいか、多くのクラスメイトが既に来ていた。
ザワザワとうるさい教室を進み、自分の席に座って授業準備をする。最初は現代文だったなと考えながら手を動かしていると、
「おっす奏多! おはよう! 今日は珍しく遅いんだな? 早めに来たのに居なくてびっくりしたぞ。」
元気な声がかかった。
顔を上げるとそこにはイケメン、もとい友人の晴人の姿。
相変わらず爽やかな笑顔だ。寝不足の僕にはとても眩しい。というかこいついつも遅刻ギリギリなのに今日早くないか?
「まぁ昨日夜遅くまで仕事でね……起きるの遅かったんだ。でもまだ眠い……」
教科書を取り出しつつ答える。実際は魔獣の討伐自体より後処理の方に時間がかかっているが、余計なことは言わなくていいのだ。僕個人としては少し愚痴を言いたいが、友人に言ったところで何かが変わる訳でもないし。
「君こそいつもより早いね。何かあったの?」
「おっと忘れるところだった。 ちょっと待ってな?」
そう言うと、晴人はポケットからブルーのスマホを取り出し弄り出す。
「えっと確かこれをこうでっと。うし、あったあった。ちょっとこれみてくれよ」
そう見せられたスマホ画面には。
画面いっぱいに広がる大樹と、その根元に広がる街。そして大きく書かれた「Yggdrasill online」と「事前登録受付中」の文字。
「なにこれ? ゲームかなんか?」
「そうそう! これはな……」
満面の笑みで説明する晴人。
曰く、リアリティが他のゲームと比べ物にならない。
曰く、高性能AIでNPCとの会話に違和感がない。
曰く、膨大なアイテム量と自由度の高いシステム。
――――そして。
「ゲーム内で魔法を覚えると現実でも魔法を使えるようになる。ねぇ……」
僕自身気になった〝現実でも〟という宣伝文句。にわかには信じがたいが、もし本当なら魔法を使いたい人間にとっては喉から手が出るほど欲しいものとなる。
「まあスキルを使用してない状態で、自力で使えるようになるっていう条件付きでだけどな。魔法を使えない人間なら絶対飛びつくだろ?」
「そうして飛びついたうちの一人が君、と。」
「まあな。俺だって魔法使ってみたいし」
ドヤ顔で語る晴人に、思わずため息を着く。この男は昔からそうだ。好奇心旺盛で何でもやってみるタイプなのだ。それで失敗しても懲りずにまた挑戦する。だから友達も多いし、人気者なんだよね……。
それにしても、魔法を使ってみたいねぇ……。
「魔法使えてもそんなにいい事ないのにな……。」
「ん? なんか言ったか?」
「いや別に。んで、そのゲームがなんなの?」
そう僕が言うと晴人は少し驚いたような顔をした。
「えぇ……ここまで話してわかんないのかよ……」
「なんか言った?」
「んにゃ、なんでもねえよ。」
そう言い、呆れたようにこちらを見てくる。そのイラつく顔を見ていると無性に殴りたくなるんだが?
「それでだな、言いたかったのは一緒にこのゲームやろうぜってことなんだが……」
「無理」
「いや、そんな即答しなくたっていいだろ……」
確かに面白そうなんだけど、そもそも僕は仕事の都合上腰を据えてゲームをする時間なんてほぼ無い。できても携帯端末でできるソシャゲや音楽ゲームくらいだ。しかし、それを聞いてもなお晴人は食い下がる。
「それでもいいからさ! 一緒に遊ぼうぜ!」
「えー……どうしようかなぁ……」
「頼むよ奏多〜! 一人じゃつまんないし、一緒にやってくれると嬉しいんだよぉ〜」
机に身を乗り出して懇願してくる友人を見て思う。こいつこんなキャラだったっけ? 普段はもっとキザな感じだった気がするが……まあいいか。
「わかった、わかったからとりあえず落ち着けって」
「おお、マジか!?」
「うん。ただ、仕事先とかにも話通したり色々準備するものがあるからすぐには始められないぞ?」
「りょうか……ん?なんで仕事先が関係あるんだ? たかがゲームするのに。」
そりゃあもちろん。
「割と特殊な職場だからね。」
「ふぅん。まあいいや。このゲームのサービス開始は明後日からだぞ!それまでに用意しといてな!」
「急だなぁ……わかったよ。」
そうやって話していると先生が教室に入って来る。それと同時にチャイムが鳴った。
「ほら、チャイムなったぞー。席につけー。」
「おっと。んじゃ奏多、また後でな。」
「うい。」
そうして晴人は慌てて席に座……らずにこちらにまた戻ってきた。
「ん? どした?」
「言い忘れてたけど、誕生日おめっとさん。」
それだけ言うと、今度こそ席に戻って行った。
「……そういうのは最初に言うもんだろ。」
6月23日金曜日。18歳の誕生日。こうして全てが始まったのだった。
ストック0です。