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Yggdrasill  作者: 影法師
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1章スタートです。

あと(汚くは)ないです。

 その日は満月の夜だった。


 降り注ぐ月の光は普段より一層と明るい。

夜と共に闇に覆い隠されるはずだった世界は、今日ばかりはすべてを見透かすような月明かりによってあらわにされていた。


 いつもより静かで、明るい夜。

僕は道路の曲がり角で息を整えていた。


 緊張で高鳴る心音。いつの間にかかいていた冷や汗を拭いつつそっと通りを覗く。見えるのは大きくくの字に曲がった街灯に、蜘蛛の巣のように5メートル程ひび割れたアスファルト。そしてその中心に居る大きな黒い影。


 それは真っ黒な丸い耳を立てていた。


 それは電信柱よりも太い四肢で立っていた。


 それは硬い真っ黒な毛で全身を守っていた。


 それは軽トラ程の大きさをした熊だった。


 熊はなにかを探すように辺りを見回している。周囲を舐めまわすように見るその目は、怯えと怒りの入り交じったような、そんな目だ。


 それもそのはず。僕は熊に不意打ちで1撃入れてからここに来たのだから。


 「ふぅ……」

 僕は大きく息を吐く。ここで焦ってはいけない。焦りは隙を生み、大きな怪我へ繋がる。

軽く深呼吸をし、息を整えて軽く緊張をほぐす。そして少し震える手で愛用の木刀を握りなおす。


 「さて、行くか。」

 僕は勢いよく立ち上がり、月光の元へその身を躍らせる。さっき1撃入れた感じだと、胴体への攻撃は効果が薄い。鎧のような硬い毛皮が邪魔をしているからだ。だから、

「狙うは顔面。 それも目」


 僕が正面から走ってくるのに気がついた熊は、大きく吠える。声の風圧と恐怖で半分涙目になるが、足だけは止めない。勢いのままひび割れた地帯に入り、転がっているアスファルトを


「思いっきり……蹴る!」


アスファルトの破片は無事(?)顔面に当たったようで、熊は大きく怯む。その隙を僕は逃さない。


 「これで……終わりっ!」


 放った突きは目を貫き、頭を貫通した。断末魔の叫びを上げる熊。そのまま倒れる死体から木刀を引き抜く。勢いよく抜いたそれは、月光に照らされ鮮やかな朱に染まっていた。


 「うぷっ……」

 一瞬上がってきた吐き気を気合いで抑える。2年近くやっていても慣れないものはなれないのだからしょうがない。というか慣れてはいけないと僕は思う。


 「とりあえず事後処理するか……」

 腰に下げたポーチからシルバーの携帯電話を取り出す。昔は全て自分たちで処理しないといけなかったらしいが、今は専門の業者を呼ぶだけで処理ができるので負担は軽い。


 「8……1……0……っと。」

 そういえば昔見た動画にこの数字のミームがあったなぁと無駄なことを考えながら電話をかける。2回ほどのコール音の後、電話が繋がる。


 「はい。こちら魔法庁魔獣対策室です」

 「魔術師の雛鳥です。魔獣を討伐したので処理班をお願いします。場所は――――――――」

 「……はい。……はい。分かりました。すぐに手配します。」

 「よろしくお願いします。」


 電話を切り、熊の方を見る。目から流れ続ける血は、大きな赤い血溜まりを作っていた。僕はそれに手を合わせる。生き物を殺した罪悪感と、自戒の意を込めて。





彼らもまた、被害者なのだから。






 「処理班早く到着しないかな……」





――――――――――――――――――――――


 「ふぁ〜あ」

 朝、目覚ましの音を聞きながら布団からむくりと起き上がる。昨日寝たのが何時もより遅かったせいか、まだ少し眠い。そのせいか、布団から出て片付けをするのに時間がかかってしまった。


 いつもより時間の余裕が無いので、ちょっと手を抜こうと思う。パンをトースターに入れ、お湯を沸かし、スティックの粉コーヒーに注ぐ。あとは、焼けたパンにバターを塗るだけの簡単朝食。


 「いただきます」

 もそもそと朝食を食べつつ、昨日のことについて考える。


 あのあと、連絡を入れてから処理班が来るのに1時間近くかかった。なんでも、残っていた班員が全員で酒を飲んでいたらしい。車を運転できる人がいなかったので、非番の運転できる人を呼ぶのに30分近くかかってしまったそうな。来た人にすごく謝られた。


 で、まあそこから処理班の人達はまずは熊を回収しようとしていたんだが……


 こちらが見ていられないほど危なっかしかった。


 死体や街頭を運ぶ足元は覚束ず、今にも周りの人に当たりそうで。事故や怪我が起きたら嫌だったので思わず手伝ってしまった。


 結果帰ったのは12時過ぎで、洗濯やら夜食やら色々していた結果、寝ることが出来たのは1時をすぎてからだった。


 「ごちそうさまでした。ふぁ……ねむ……」

 結果はご覧の通り、寝不足である。いつの間にか食べ終わっていた食器は丁寧に洗い、水切りカゴに入れておく。

 「んじゃあ学校いくか。」


 窓の鍵は全て閉め、換気扇を止める。学校用の制服に着替えて黒いバックを背負い、いつもの木刀を入れた袋を肩にかけ、準備は万端。


 「いってきます。」

 僕は誰もいない部屋に声をかけ、玄関の扉を閉めた。


 

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