Ø プロローグ
更新遅い新作です。
次の話はすぐには来ないです。(書き溜めとモチベゼロ)
Ø プロローグ
「あぁ、これで終わりか」
明かりのほとんどない部屋で、その男は力なく呟いた。
見た目はくりっとした黒目に鮮やかな黒髪。そして中学生と言われても違和感のない、小柄な背丈をしている。しかし、本来なら中性的で美少年と言われそうな顔も今は額に汗を滲ませ、苦痛で歪ませていた。
『――――――――――』
「そうだね。まあ、かなり長く持った方なんじゃないの?」
男は虚空に向かって言葉を紡ぐ。辺りを見回しても男以外には誰もいない。あるのは白い袋に沢山入っている白い錠剤、足元に散乱しているプラスチック製の空の注射器。そして、目の前で煌々とその存在を主張しているパソコンだけだ。
『――――――――』
「あともうちょっとで完成するんだけどねぇ。 このままだとちょっと身体が持ちそうにないかな。」
そのパソコンのディスプレイに映るのは、まるで写真を撮ってきたのかと見間違う程精巧な街。しかし、街の中央にある大きな白亜の城と、その頂点に設置された大きなクリスタルが"これは現実では無い"と高らかに主張しているように感じられる。
『――――――――?』
「流石にね、僕一人で全て実行するのはむりだったみたい。ごめんね。」
『――――――――……』
「しょうがないさ。元々時間は足りないって分かってたんだから。予定の倍近くまで進捗が早まっただけでも朗報さ。」
そう呟きながら、男はパソコンのメールアプリを立ち上げる。メールアドレスと本文を打ち込む軽やかなタイピング音だけが暗い部屋に鳴り響く。
「これでよし。」
カタンとEnterキーを鳴らし、メールを送る。送り先は某最大手運送会社。送信の進捗を示すバーが100%になるのを見届けると、男は大きく息を吐いた。
「さぁて、大事な種は蒔き終えた。あとは芽が出た後の道標となる支柱を立ててあげるだけだ。」
『――――――――――?』
「ああ。普通なら僕の身体が持たない。だからこそ、こいつを使う。」
男はそう言うと、ポケットから注射器を取り出す。中には毒々しい深緑の液体が入っている。それを男は自分の首筋に突き刺し、注入した。
「うぐっ……」
『!? ――――――――!?』
「ふぅ……大丈夫だよ。さて、ここからは時間との勝負だ。文字通り命懸けの、ね。」
男はビクリと体を跳ねさせ、同時に顔を歪ませる。しかし、それは一瞬だけで、すぐにパソコンに向き合い新たなウィンドウを開く。そこには膨大な量の文字が規則性をもって表示されていた。
「あとは頼んだぞ。僕の大切な親友」
男はキーボードを叩き、新たな文字を綴り始める。
口角を上げ、にいっと嗤うその瞳は
真紅に染まっていた。