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第4話 最悪の日(後編)


「いっ、痛い! このままじゃ……殺される!!」


 痛みと死の恐怖で顔が歪む。

 右腕の肉は抉れてしまい、出血も多く地面に滴り落ちる。


「俺は、このまま死ぬのか……?」


 半ば死を覚悟する……が、何故かケイヴドッグ達の猛襲はピタリと止んだ。

 奴らは洞窟に棲むせいか、生気は薄く瞳は虚ろで視力は良くない。

 すると突然、鼻をスンスンと鳴らして血の匂いを嗅ぎ始める。これは視覚より嗅覚で今の俺の状態を調べているのか……?



「嗅覚……そうだ! アレが効くかもしれない!」


 再び猛襲を受ける前に急いで腰に下げたマジックバッグから黒い玉を取り出し、左手に持ったソレを勢いよく地面に投げつけた。

 辺りには白い煙が舞い広がり、突如ケイヴドッグ達は鳴き声を上げ始める。


「キャインッ!? キャイン!?」


 両前脚で鼻を押さえるようにして苦しみ出した。

 それを確認した俺は、透かさず出口の方へ全速力で走り出す。


「よっ、よしっ! 上手くいった!」


 地面に投げつけたあの黒い玉は、魔物も嫌がるニオイ玉であった。

 昨日、福引で手に入れた6等の商品で正直ハズレだと嘆いていたが、寧ろ窮地を救う切り札となったのだ。



「ーー痛っ! はっ、早く治さないと!」


 走る振動で再び激しい痛みが襲う。

 走りながらもマジックポーチからポーションを取り出して、一気に飲み干す。

 抉れていた傷口はある程度まで治癒され、痛みも和らぎ出血は完全に止まった。

 しかし、油断はできないと後ろを振り向くと……



「……よかった、来ていない……」


 どうやら追っ手はなく、心に余裕ができたので今後のことを考えることにした。

 とはいえ、やることは簡単でギルド職員に報告すれば良いだけだ。

 流石に今回は見過ごすわけにはいかない、危うく死にかけたのだから。

 もしニオイ玉を所持していなかったら今頃生きてはいないだろう……そう考えたら寒気がした。

 だが運が良いことに迷わず洞窟を出られ、魔物にも一切遭遇せずに街まで戻ることができたのだ。

 その後、夕日を背にしながら冒険者ギルドへ向かうことに……




「聞いてください! 仲間に魔物の囮にされました! 実はーー」


 近くの受付にいた銀髪の女性ギルド職員に今回の件を報告。

 これで彼らは罰せられてしまうが因果応報だ、そう思っていたのだが……


「ふっ、何を訳の分からないことを言っているんですか? 『ユーロフライズ』の方々は本日依頼を受けてはおりませんよ? なので、そんな場所に行くはずがないでしょう? あっ、もしかして夢でも見ていたのでは?」


「そ、そんな……」


「はぁ……それより、あなた臭いですよ? ちゃんと身体洗ってます? 」


「!?」


 公衆の面前で女性から臭いと言われ、羞恥のあまり逃げるようにギルドから飛び出した。


「あっ、明日は大事なーー」


 飛び出す直前に女性ギルド職員が何かを言っていたが、その時は何も考えられず……




「ニオイ玉なのに……」


 気づけばそう呟き、俯きながら街を彷徨っていた。

 今思えば、今日は最悪の日だ。

 恋人には捨てられ、仲間には裏切られ、終いにはギルド職員に鼻で笑われたのだから……


「全部、俺が悪いのかな……俺が落ちこぼれだから……」


 心に深い傷を負うなか、追い討ちを掛けるように天から大量の雨が降り出した……


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