第23話 夜に駆ける
「……いた! やっぱりグラスウルフの群れだ!」
街の方へ暫く進むと、およそ500m先にグラスウルフの群れを発見。
実はその前から魔力反応を探知してはいたが、敢えて気にせずにいたのだ。
何故なら、今の俺には魔物を回避する必要は無いのだから。
「少し多いけど問題無いな……」
グラスウルフの数は12匹、丁度1ダースのようだ。
魔物の数は少しだけ多いが気にせずに進む。
400、300、200、100、そして80mほどまで進むとその場で足を止め、前回のグラスウルフ戦よりも遠くの位置から狙いを定めて魔法を唱える。
「雷槍!」
雷電が集束して槍の形に象られ、計12本の雷槍がグラスウルフの群れに向けて放たれると、その雷電の槍は光り輝き不規則に天翔ける。
すると1匹につき1本の雷槍がグラスウルフ達に突き刺さり、その瞬間に強烈な雷撃がグラスウルフ達の全身を暴れ回る。
もう少し時間が掛かると予想していたのだが、僅か数秒でグラスウルフ達は動かなくなり、それを目視で確認してから近づいていくことに。
「よしっ、倒せてるな!」
確実に全て倒せていることを確認し、グラスウルフ達を黒箱へ収納して回り、そして最後の1匹の手前でピタリと足を止める。
「……ん? コイツは確か……」
グラスウルフかと思われた1匹の魔物だが、実はグラスウルフの上位種に当たる「フラワーウルフ」であった。
フラワーウルフは脅威ランクDの狼系魔獣であり、グラスウルフを率いる際に必要な『強制統率』という非常に厄介なスキルを持つ。
強制統率とは、同属の下位に当たる魔物を強制的に率いることが可能となるスキルであり、そのスキルを持つ魔物によっては最凶のスキルとなるだろう。
しかし、今回はそのスキルを活かすことは叶わなかったようだ。
「やった、フラワーウルフだ! ラッキー!」
寧ろ、運が良かったと思いながらフラワーウルフを黒箱へ収納した。
「……!! モモ……ぷふっ! くくくっ……」
収納後にモモの顔をふと覗くと、モモはあんぐりと口を開けたままで驚きの表情を見せる。
それほどまでに雷槍と黒箱の魔法が衝撃的だったのだろう。
モモのその表情を見たら思わず吹いて笑ってしまった。
「キキッ!?」
どうやらモモは俺に笑われたことで軽くショックを受けたようで既にあんぐりとは口を開いておらず、これ以上は笑わされずに済みそうだ。
そう思ったら逆に思い出し笑いをしてしまい、そんな俺に釣られてモモも笑い出す。
「くくっ……ダメだ、思い出しちゃったよ……くふふっ……」
「キキッ、キキキッ……」
こうして、一緒に笑いながら三度街へ向けて歩き始めた……
「……リーン……リーン……リーン……リーン……」
辺りは暗くなり、いつの間にか虫達の鳴き声が目立つように。
このままでは街の門限に間に合わないと判断して、街へ向かうペースを上げるために駆け出した。
もし門限に間に合わなかった場合は翌日にならないと街へ入ることが許されず、しかも当日の夜は街の外で野宿となってしまう。
野宿の準備は一切していないのでそれだけは絶対に避けたいところだ。
「街まではあと少し、あと少しなんだ……!」
自分にそう言い聞かせながら街を目指し、夜に駆けるのであった……