第129話 迸る魔力
「あ゙ゔぅ……よがっだ、よがっだよぉ!」
クアトロが生きていることに喜び、泣きながら鼻水を垂らすネマは感極まって彼に抱きついた。
片や、そんな彼女の顔を見て喜びより面白くて笑い出すクアトロ……と、そんな2人を微笑ましく眺める俺。
是非ともこの2人には上手くいってほしい。といっても、この窮地を脱してからの話になるが。
「……で、こっからどうすっかなぁ。俺の攻撃は効かねぇみてぇだし」
「ふふっ、そうでもないんじゃない? だってほら、アレを見て」
「あん? アレだと……?」
髑髏柄のハンカチで鼻を擤みながらネマが指差した先には、奥義によって斬り落とされた6本もの尻尾がひっそりと。
その事実を知り、俄然やる気を出したクアトロはネマに肩を貸してもらってゆっくりと立ち上がった。
しかし、右胸が痛むのか左手で押さえながら顔を歪ませ、次第に嫌な汗を掻き始める。
「ぐっ……クソ痛ぇし身体に力が入らねぇ……つーか今の俺って汗臭くねぇか?」
「はぁ? こんな時に何言ってんのよバカっ! それよりアンタは黙って治されてなさい。あとは私がなんとかするから」
そう言って無理矢理クアトロを座らせた後、ネマは両手の親指と人差し指で円を作ってそこから彼を覗く。
「次元の小穴よ、彼の者を定めし所へ落とし給え、ディメンションホール!」
ネマが詠唱を終えるとクアトロの足元に黒い穴が出現し、そのまま彼を飲み込むと一瞬でファラのいる所へ落として黒い穴は消えた。どうやらあの黒い穴は空間魔法のようだ。
先の鑑定魔法といい、ネマは珍しい魔法を使い熟す魔導士みたいで、それは魔女の血筋が関係しているのかもしれない。
なんて考え事をしている間に、ネマは続けて空間魔法を発動。気絶中のカミュも治療のためにファラの元へ送った模様。彼もまた相当な傷を負っていたので治療が間に合うといいのだが……
「ファラならきっと助けられると信じてる……だから、絶対に邪魔はさせない!」
膨大な魔力を全身から迸らせ、徐ろに右手を前に突き出したネマは、左手で二の腕を押さえて右腕を固定させた。
よく見ると右手は横向きの状態で人差し指と薬指だけを伸ばしており、指と指の間にはビー玉サイズの魔力の弾……謂わゆる〝魔弾〟が挟まれている。
彼女は一体何を……? と疑問に思っていたら、続けてネマが詠唱を。
「電竜と磁姫の子に命ずる、音をも捨て去り全てを穿て……ーー」
詠唱の途中にも拘らず、全身の肌が粟立つ。この魔法はヤバいと感じたからだ。
すると奴も危険を感じたのか、即座に結界を展開して守りに入る。
今度の結界は全身を覆う完璧なものであり、前回よりも明らかに耐久性は高く強固なのが見て取れる……が、それでもネマは躊躇なく魔法を放つ。
「ーー絶対に破ってみせる! 電磁魔法、ローレンツカノン!」
ネマが魔法を放った瞬間、一筋の光らしきものが見えたかと思えば奴の結界に拳大の穴が空いており、それどころか奴の頭部までもが消し飛んでいた。
あまりの砲撃速度に首から血を噴き出す間もなく奴の胴体は倒れ、時間差で地を赤く染める。
「いたたたた……今ので右手がイッちゃった……でも、それで勝てたなら安いものーーえ?」
今度こそ勝利かと思われたその時、ネマの赤ローブに何やらシミのようなものが。
そして、そのシミがある腹部を左手で触れてみると……