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9/19

15歳 2


フローレンス家から王家への帰り際、ディランから、辺境伯から国王への報告とディランの戻りを祝うために開かれる王宮での夜会に、エリーゼ、父、母、兄が招待された。


格好良く、王子らしく成長したディランに「是非、来てほしい」と言われて、「よっ、喜んで!」と熱に浮かされるように父が答えた。


(お父様、王子様に誘われた年頃の女の子みたいな反応になっている……。)




なお、この夜会が、エリーゼにとってはデビュタントになる。


(王宮での夜会がデビュタントとか。大丈夫かな、私……。)






夜会の当日、せっせとハンナが夜会のためにエリーゼの髪を結わえながら言った。


「それにしても、二年前はどうなることかと思いましたが、殿下があんな格好良くなられるなんて、エリーゼ様、見る目がありましたね!」

「いや、政略での婚約だし、私に見る目があったわけじゃないけどね」


そうは言いつつ、先日の中庭での様子を思い出したエリーゼは、ハンナに同意せざるを得なかった。


「……確かに格好良くなられたわね」


でも、別に格好良くなんてならなくてもいいのに、とエリーゼは無意識に独りごちて、そして、自分が口にしたことにびっくりした。




ディランの格好良さに気持ちが盛り上がっているハンナは、エリーゼの様子に気付かず、続ける。


「間違いなく、ディラン様は今夜の夜会で話題を掻っ攫いますね。もともと綺麗なお顔をされていましたけど、鍛えられた今は男らしい色気のようなものが出ています。邸宅に籠ってのうのうと過ごしている貴族のご子息の中にいては、特に辺境で鍛えられたあのイイ体が際立ちますよ!」


夜会での様子を教えてくださいね、とハンナは好奇心丸出しで言って、エリーゼを送り出した。






夜会でも、一年ぶりに現れた第一王子であるディランの、逞しく変わった姿に周りは騒然となった。エリーゼは同意しかなかった。


(やっぱり格好よくなっていてびっくりするよね。私も声を出せなかったもの。分かる。)




ファーストダンスを兄と踊った後、すぐにディランがエリーゼの元に来た。真っ直ぐに背筋を伸ばして、青く艶やかなジャケットを纏い、絵本の中の王子様を体現したような姿で、エリーゼの前に手を差し伸べて言った。


「踊ってくれるか?」

「よっ、喜んでっ」


馬鹿にしていた父と同じ回答をしてしまったエリーゼは、みっともないところが親子で似てしまった、とがっくり言った。

ディランは笑いながら、エリーゼをダンスホールに誘った。


ダンスが始まると、ますますディランと密着するようになり、エリーゼのただでさえ上手でないダンスのステップはいつにも増して覚束ないものになった。




ダンスが終わると、がっしりとした体つきの壮年の男性が笑みを浮かべて、ディランとエリーゼの元に来た。男性は、紺地に銀の刺繍がふんだんに施された豪華なマントを身に着けていて、周りを圧倒する雰囲気を纏っていたため、高い身分にあることがエリーゼにも分かった。戸惑うエリーゼに、ディランが男性を紹介した。


「エリーゼ、辺境伯だ。この一年、任務で大変世話になった」

「初めまして。君が殿下の婚約者のエリーゼ嬢? 殿下のマニアックな話についていけているか?」

「おい、初めての挨拶がそれか」

「だって、気になるだろう。王家から人が来るっていうから、どんな偉ぶった人間が来るのかと思ったら、技術信奉者だったんだ。貴族のお嬢様が、殿下の偏向的な話についていけているのかって」


ディランと辺境伯が話していると、一人の華やかな雰囲気をした男性が、会話に入ってきた。


「あ、その話、僕も気になる」


会話に入ってきたのは、オフホワイトに金の縁取りをした夜会服がよく似合う、華やかな優男風の青年だった。ディランは苦々し気な顔で、男性をエリーゼに紹介した。


「騎士団で第二部隊の部隊長だ。こう見えて公爵家の人間だ」

「こう見えてってどう見えるの。初めまして、エリーゼ様。公爵家って言っても僕は三男坊だからね。後継ぎじゃないし、気軽に話してね」

「エリーゼ、本人が言っている通り、騎士団で勤める公爵家の人間というのが信じられないくらい軽い男だからな。気負いすることないぞ」

「ええ、そんな風に言っちゃう? 僕、殿下が騎士団で鍛錬を始められたときによくお相手させていただいていたんだよね。エリーゼ様、騎士団でのひよっこだった殿下の様子、聞きたい?」


(それは、とっても聞きたい……!!)


期待の目を向けたエリーゼだったが、ディランの今日一番の忌々しそうな言葉によって、遮られた。


「絶対に言うなよ」

「ふふ、情けないエピソードもいっぱいあるし、エリーゼ様には聞かれたくないよねえ」


ディランの不機嫌そうな様子にも、部隊長はニヤニヤ笑って、言葉を返した。辺境伯も笑いをかみ殺しているようだった。


(ディラン様、辺境伯の領地や騎士団でだとからかわれたりもされていたのかしら。意外だけど、王家の身分を笠に着るということがないから、確かに気安いのかもしれない。)




ひとしきり話して、辺境伯と部隊長が去った後、次にディランの元に来た相手に、エリーゼは驚愕した。

ルーク第二王子の婚約者のクレマン侯爵家の令嬢であるアリアだったからだ。


「ディラン様、お帰りなさいませ! この可愛い方を紹介いただけますか」

「……エリーゼ、君も知っているかもしれないが、第二王子の婚約者のアリア嬢だ」


ディランから紹介を受けたアリアは、優美にほほ笑んで、エリーゼに言った。


「私達、王子の婚約者同士ですね。仲良くしましょうね」


美しい金色の髪に青い宝石のような瞳で、美しい姿勢を保ち、貴族令嬢の見本のような気品を感じさせるアリアの姿に、エリーゼは圧倒されたが、ディランは気にせず言った。


「……私たち兄弟の仲は周知の事実だと思うが。君、何を企んで、わざわざ来た?」

「まあ、ディラン様ったら。私は未来の姉妹と仲良くしたいだけですわ。というか、貴族を束ねる王族の方が、そんな無礼で直接的な物言いをなさるとは」

「君の言い方も、相当無礼で直接的だと思うがな」

「あら、ごめんなさい。ディラン様には、貴族的な言い回しが通じないので、はっきり言わないといけないかと思いまして。なので、このような言い方はディラン様限定ですのよ」


特別だから感謝してほしいと言わんばかりのアリアを、ディランは邪険に扱った。しかし、そんなディランに堪えた様子もなく、アリアはエリーゼとディランへの挨拶を済ませると、軽やかに蝶のように去って行った。

エリーゼは、アリアの美しさにも、ディランが麗しい令嬢を邪険に扱うのにも、ディランとアリアが、存外、気安くしているのにも、衝撃を受けた。




その後も、色々な人が来た。エリーゼは、邪魔にならないよう、ディランの元から去るべきかと思ったが、ディランにがっしりと腰に手を回されていて、それも難しく、全て一緒にいることになった。


(私、こんなにディラン様の傍にいていいの? 婚約者だからこんなもの? 今日が初めての夜会だから分からない……。)




ディランは、王宮の文官に請われ、辺境の様子を伝えた。また、騎士団の団長からきちんと体を鍛え続けていることを認められ、また騎士団の鍛錬に参加するよう誘われた。高位貴族の当主や令嬢は、名前を覚えてもらおうとディランの元に挨拶に来た。




その様を隣で見続け、エリーゼは今更ながら思った。


(私はなんだかすごい人と婚約しているのではないだろうか?)


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