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14歳


騎士団での訓練も、始めて一年経つ頃には、ディランの体も訓練に慣れてきたのか、フローレンス家に立ち寄っても、お茶を飲んだり、語らったりした後、昼寝をすることは少なくなった。また、錠前を始めとする設計に関する書籍を持ち込んだり、エリーゼが勧める本を手に取ったりすることも出てきた。体が鍛錬に慣れてきたのだとエリーゼはほっとしていた。


なので、ディランも錠前の制作を再開できるのではないかと問うた時、ディランが告げた回答に驚いた。


「残念ながら、それはできない。来月から一年ほど、辺境伯の領地にて、国境付近の状況の実情把握に行く」




辺境伯が治める国境付近では、隣国であるブルマリン王国とのいざこざが絶えない。ディランやエリーゼが住むレドモンド国とブルマリン王国では、国の大きさや人口、経済力、武力などの国力は拮抗しているが、一つ大きな違いがある。

ブルマリン王国ではこの百年くらいで「魔法」を発達させ、少数だが「魔法」を使える人間がいるということだった。

このため、レドモンド国では、ブルマリン王国のことを、邪悪で、面妖な術を使う悪魔に魂を売った国と思っているし、ブルマリン王国では、レドモンド国のことを、野蛮で、魔法も使えない神に見捨てられた国と考えていて、双方の相手国に対する感情は非常に悪い。大規模な戦争こそ起こっていないが、国境付近でのいざこざは絶えず、臨戦態勢にあった。

国境付近の状況を知識としては知っているエリーゼは、突然のディランの発言を聞いて、青ざめた。




一年とはいえ、通常であれば、未成年の第一王子がそんな危険な地での公務に派遣されることはない。このため、王妃と第二王子の派閥が、あわよくば、そのまま亡き者にしようと、このことを後押ししたことは想像に難くない。

ただでさえ危険な前線での公務に加え、混乱に乗じて、ディランを亡き者にしようとする人間が紛れ込むことを危惧して、エリーゼは思わず反対した。


「そんな、危険です!」

「誰かがしないといけないことだ」

「もちろん、大事なお役目ですが、だってディラン様は……その……王宮でだって命を狙われたことが……」

「情けない話だが、確かに君の言うとおり、王都を離れるとすると、ブルマリン王国より、自国の王妃と第二王子の派閥の者に命を狙われる危険性が高い。ただ、王都並みの警護は望めないが、辺境に行くのであれば、父が精鋭の護衛をつけると言っている」


(ディラン様は、私より頭もいいし、王宮の状態だって実体験を通して分かっている。だから、私の言うことなんて、全部分かっていることだとは思う。それでも――)




「……でも、危険です……」


小さな声で震えながらも言ったエリーゼに、決意しているのだろうと思わせるハッキリした口調でディランが言った。


「騎士団に鍛えられ、辺境伯の元に預け、父の護衛をつけて、そこまで手を掛けてくれるという。それでも駄目な時は、残念ながら、私もそれまでの人間ということだ」




その言葉から、ディランは厳しい道であっても、現状を変えようとしているのだということに、エリーゼは気付いた。


(敵対する王妃と第二王子の派閥が牛耳る王宮で、生きていくということはどれほど大変なことなんだろうか。それこそ、命を賭して力を得ないと、自分の身を守っていくこともできないものなのかもしれない。)


そして、エリーゼはディランのことを何も知らない自分に思い当たった。気まぐれに語らいの時間を持ってもらっているだけで、これまでの苦しみも、それをどうやって乗り越えようとしているのかも、何も知らない。




言葉を発しなくなったエリーゼを見て、ディランが優しく宥めるように言った。


「今のままでは、何も護れないと気付いた。だから、絶対に強くなって帰ってくる」


エリーゼは、自分が泣くのも違うと思って、涙を必死でこらえた。






辺境に行くと告げられてから一か月もしないうちに、ディランは王都を去った。


(変化があるときって、本当にあっという間なのね……)






ディランが王都から去っても、エリーゼは、これまでのように家族と過ごし、たまに友人と小説や絵画について語らった。




「エリーゼ、中庭の水仙が綺麗に咲いたよ」


(ディラン様は、お花を見る余裕があるのかしら? 少しでも、そんな余裕があるといいな。)




「エリーゼ様、先日発売された冒険譚をご覧になりました?」


(ディラン様が、船の構造を教えてくださった本だ。続刊が出たって言いたいな。)




「エリーゼ様、大丈夫ですか? 元気がないようよ?」

「そう……かしら……」

「まあ、仕方ないわよね……。婚約者の第一王子殿下が王都から離れ、辺境伯領に出向かれているのだもの。どうされているか気に掛かりますよね」


そこまで言われて、ようやくエリーゼは、ディランのことばかりを考えている自分に気が付いた。


(どうかご無事で、元気にされていますように。早く戻ってきて、呆れたような顔で、また私の話を聞いてほしいな。)


エリーゼは、辺境の方に向かって、祈るように両手を胸のところで握った。








一年後、辺境伯の元での現地調査を終え、ディランは王都に戻ってきた。ディランは17歳、エリーゼは15歳になっていた。


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