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17歳 5


お茶会からしばらくした後、ディランがエリーゼの家にやってきて、言った。


「我々の婚姻は、君が17歳になったらすぐにということだったが、遅らせたい」




先日のお茶会で、ディランにも結婚相手として相応しくないと判断されたのかと、気落ちしたが、それもやむを得ないことだと思い、視線を足元に向けたまま、承諾した。




目線も向けずに承諾の意を示したエリーゼの顎を、ディランは指で上げ、無理やり自らの方に視線を向けさせた。エリーゼが驚きに目を見張ると、ディランの真摯な目が、エリーゼを見つめていた。


「君を迎えるのに、今は十分な環境でないということが改めて分かった。だから、王宮の環境を整えてから迎えに行く。

それまで、君とはこれまでのようには会えなくなる。でも、君と結婚することは決めているから、雑音には惑わされず、信じて待っていて欲しい」


ディランにそこまで言われて、エリーゼは、まだ自分と結婚しようとしてくれているのかと、瞼が熱くなった。ここまで言ってもらって、断ることなどできるはずがなく、エリーゼは一も二もなく承諾した。






ディランとエリーゼの結婚の延期は、様々な憶測を呼んだ。


「第一王子殿下と、あの程度の女性が婚約者だなんて、もともと釣り合わなかったのよ」


(それについては、まあ反論のしようがございませんねえ……。)


「ディラン様は王位継承を確実にするべく、アリア嬢と急接近しているらしい」

「アリア嬢もやぶさかでないとか。今やルーク様の支持は落ちつつあるものね」


(ディラン様は、私と結婚するつもりって言ってくれたもの……。)


「長年、支えてきたのに捨てられるなんて、可愛そうなエリーゼ様!」


(一見親切そうだけど、まだ捨てられていませんから! 余計なお世話です!!)






陰に陽に流される噂に、エリーゼは少なからず疲弊していた。そんな中、兄の婚約者の都合がつかなかった夜会に、エリーゼは兄のパートナーとして出ることになった。


そこで、エリーゼは、ディランとアリアの仲睦まじい姿を見た。噂では聞いていたが、仲良さげに寄り添う二人の姿を見て、息が止まるかと思った。


優雅に扇を口元に当てて顔をディランに向けるアリアと、王族の衣装を引き締まった身にまとったディランは、二人でそっと話していた。その姿があまりに絵になっていた。


(物語の、王子様とお姫様、みたい。)






そこで、そういえば、夜会の会場に入ったとき、好奇の目を向けられていたことを思い出した。きっと、ディランとアリアの睦まじい様子を、エリーゼがどう受け取るのかに、注目されているのだと思い当たった。

こんな人目のあるところで、狼狽してはいけないと、背筋を伸ばして、テラスに出た。


テラスに出て、一息吐くと、喉がカラカラになっているのに気付き、項垂れた。


(飲み物、取りに行きたいけど、今更会場に戻れない……。)




はあ、と一つため息をついて、バルコニーに手を伸ばし、俯いていると、大きな影が目に入った。見上げると、飲み物を二つ持った、サイラスがいた。


「飲むか?」

「ありがとうございます」


有難くグラスを受け取り、一口口に含むと、少し落ち着くことができた。しかし、すぐにディランとアリアの仲睦まじい様子が思い出され、思わず目が潤み、慌てて首を振った。


(噂には聞いて知っていたけど、実際の姿はまた破壊力があるなあ……。)






物思いに耽るエリーゼに、サイラスが突然の提案をしてきた。


「俺、王都の街を歩いてみたいんだ。案内しろよ」


エリーゼはびっくりして、顔を上げて、サイラスを見た。


「ええ、私、箱入りの貴族令嬢ですよ。街とか案内できるはずないじゃないですか」

「どうせ、お忍びで街歩きしているんだろう。連れてって案内しろ」


(げ、なんで知っているの……。)


「婚約者もいるんで、殿方と二人はちょっと……」

「王子なら、この間の夜会でもその前の夜会でも、別の令嬢をエスコートに伴っていたぞ。公の場でなく、お忍びで私の案内するくらいいいだろう」


ごくごく真っ当な断り文句を続けるエリーゼに、サイラスはちっとも引き下がらなかった。




「でもでも、だって……」

「ばれなきゃいいんだよ。今の俺は魔法を使えるんだ。存在感を消す魔法を使ってもいいし、ばれたら攪乱の魔法を使ってもいい」

「……はあ。随分と押してきますねえ」

「お前、隣国がどうなっているか知りたくないか。主人公が誰と恋に落ちているとか。明日、案内するなら話してやるよ」

「くっ……卑怯な……!!」


最後に、エリーゼはサイラスの強引さに負けた。


(まあ気分転換させてくれようとしているのかな。前世のよしみで。)






次の日、エリーゼは、サイラスと共に街を歩き、本屋を冷やかし、お勧めの屋台を案内し、大道芸を見て、隣国の恋愛事情を聞いた。久しぶりに楽しい気持ちになった。


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