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序章

世界中に蔓延るテロリスト。

治安のいい国と言われた日本でも徐々に蝕まれている。

外国の組織がいつ現れてもおかしくない。

懸念を抱いた警察庁は科学犯罪研究所に対テロリスト武装を依頼した。

考案されたのがロボットを使い人間の代わりにテロリストを追い詰めようとするもの。

出来るだけ人への被害は避けたい。

彼らも人間。戦争を起こして殺戮するのではなく、武器は破壊して犯人逮捕に繋げる。

聞こえはいいが人権問題で叩かれたり、ロボットなら壊れても自己防衛に徹する。

そんな臭いがしなくもなかった。


とある山奥の一軒家。

一見、誰かの別荘のようで人が近づく気配もない。

平屋で普通の家のようだが書斎からは地下室へ通じる。

地下室には工場に置かれるような機材、器具、機械が並ぶ。

そして四つのカプセルが置かれていた。

カプセルが開くと水滴を垂らしながら人間のような物体が出てくる。

人間のような物体はここで造られたロボット。

カプセルの中の水は腐食を防ぐ水溶液。

四体のロボットは科学犯罪研究所からロボット工学博士へ依頼されたテロ対策サイボーグと位置付けられた。

「お目覚めかな」

どこからか男の声がする。

彼らを造った博士が姿を現す。

サイボーグたちはそれぞれ自分の身体を見る。

生まれたてだがどこか記憶が残っていた。

裸同然の彼らに博士はガウンを投げる。

「そうか、俺たちはこの身体になったんだ」

一体のサイボーグがそう言いながらガウンを着る。

彼らは事故死した若者を外見だけでなく、相当の知識、言語がコピーされている。

全身は強固な特殊金属。

それを覆う人間同様な特殊皮膚。

一見、裸の人間に見える。

「ほお、おまえは女形か」

バシッ!

「うっ」

女性を模ったサイボーグが隣の一体が言った瞬間そいつの頬を叩いた。

叩いても痛みは感じないが衝撃は感知される。

サイボーグとはいえ故障や破損もする。

修理する際に損傷部分を探知するためでもある。

「博士、何故私は女なの?」

「女しか行けない場所もある。女しかできない行動もある。それに女だからといって構造は男と比べても遜色はない」

疑問を持つ女性型サイボーグだが、博士の説明を自分なりに納得するしかなかった。

「博士、何故俺たちが造られたのか説明を聞きたい」

右端の一体から質問を受け博士は説明する。

「治安の良い日本でもテロリストが蔓延するようになった。市民を守りテロリストの撲滅が目的。被害を最小限に抑え人道的には容疑者を確保。武器を使わず極秘に任務を遂行するのが目的だ」

サイボーグにとっては納得がいかない雰囲気が漂った。

「危険な行動は俺たちの役目か。撲滅目的というが殺らずにとはな。完全に人間の道具にされたものだ」

短気な性格の一体が言う。

「彼らを生かしたら、また犯罪を犯すでしょ。矛盾してないのか」

「おい、やめろ」

さらに声を荒げると隣の二体が短気なサイボーグの肩に手をかけ止めにはいった。

「ふん、生ぬるいな」

そう言うと一歩後ろへさがった。周りの空気は殺伐とする。博士はそれぞれ個体の目を見て静かにさせる。

ここから各サイボーグの特徴と説明に入る。

「君たちは人間をコピーされているが名前はない。向かって右から1号、2号、3号、4号とする」

これも人間でない彼らの差別化なのか。いたたまれない気持ちにもなる。

「1号はプラズマショットガン。髪の毛からこぶし大までの電子銃だ。今からこいつを投げるから撃ってみろ」

1号と言われた個体は右手を光らせる。その右手の先が髪の毛からこぶし大まで太さを変えられる。これが銃口の太さになる。

「コインなら指先くらいか」

1号がつぶやくと博士はコインを弾いて上に飛ばした。1号は指先で狙いを定め、光を発しコインを落とす。

「なるほどな」

1号は指先を見る。

「いいか、これは人を撃つものではない。ネジひとつひとつ飛ばし対象物を分解するくらい精巧だ。爆発物など数メートル先から処理できる」

説明だけでは信用しきれない。半信半疑のまま1号はうなずいた。

「2号はソードカッターで鋼鉄も切り裂く。それとワイヤーで相手を縛り付けるたり自分を防御したりする」

2号とされたのは短気な性格の一体。

ボディから細いワイヤーが飛び出すと身体を取り巻く。

これは側にいる人を同様に守ることが出来る。

「さすがに、この部屋ではカッターは使えないな」

今にも何かを切り刻みたい気分の2号。

2号の一言で部屋の空気は変わってしまう。

ひとりでも口を出せば喧嘩になるだろう。

各個体は黙っていた。

博士の説明が続く。

「3号は溶解体。液状になり隙間など出入りできる。それに絶縁性があり電気器具に入り

込むと電気をストップさせる」

博士は試しに音の出ているラジオを渡すと、手のひらが溶解し液体の中にラジオが入った状態になった。

すると電気が絶縁されたため音が消えた。

手のひらを元の個体に戻すとラジオの音が復活する。

「それに3号はどんな車両や機械の内部を設計図のように読み取り操縦ができる」

3号は周りの機器を見渡すと内部の構造がレントゲンのように見える。

それだけで頭の中でマニュアルが出来上がり、初めて触るだけでも操作が出来る。

「そして4号は電波や音波など電気信号をキャッチし、発信元が何か突き止められる。さらにそれらから暗号などを算出する」

「そうね。確かに無線機のようにチューニングできるわ。今も警察が事故現場に向かったわ」

「事故だと?」

博士は無線を入れると車両事故の情報が流れた。

「なるほど、メディアより先にキャッチできるのか」

3号が言うと4号は指を差し笑みを浮かべて

「わかったでしょ?女だからってバカにしないでよ」

3号は降参するかのように両手を広げた。

「それに4号は赤外線で内部を透視し設計図のように特徴が分かる。外からは見えなくても故障や破損状況が分かる」

「すると相手の弱点も分かるわけね」

「これから外へ出て街がどのように見えるのか確かめたいと思うが」

1号は博士に提案。

博士も承諾する。

「いいか、君たちの正体は誰にも知られてはならないぞ。あっ、3号はちょっときてくれ」

「あ、はい」

3号にはまだ何か能力がありそうだった。


三体は屋敷を出ると1号が

「博士は共通の能力もあると言ってたな」

「こういうことだろ」

そう2号が言うと数メートル先まで瞬間移動した。

人間より早く行動を起こすためだ。

あと、赤外線アイと呼ばれ物陰に隠れている人や物を見つけ出す。

もう一つは超音波で相手の居場所をキャッチする。

4号はそれ以上の能力を備え、細部まで浸透できる。

「4号は我々と違い頭脳が優れているんだな」

「そうね。私の場合、大型コンピューターが集積されてると聞いたわ。それだけエネルギーを使うみたいで、あなたたちのような実践向きでないことね」

「そうやって造られた以上、協力してテロリスト撲滅へ導かなければな」

1号と4号が話している間、2号は先へ歩いていた。

「早いとこ能力というやらを使えるか先にいくぜ」

2号は走っていった。

「おい!・・・仕方ないな、個々で行動しよう。俺たちは無線のようにチューニングすることで話が出来る。何かあったら連絡を取り合おう」

「ええ」

三体はそれぞれ能力を確かめるべく街へ繰り出した。


2号はおぼろげな顔をして歩く。まだ釈然としないようだった。

「ひったくりだ!」

2号は叫び声のほうを見るとバッグを持った男が走っている。

その後ろにひったくられた男と警官が追いかける。

どうやらバッグを持った男がひったくり犯だ。

「ちょっと試してみるか」

2号は周りに気付かれぬようビルの陰に隠れ犯人を目で追う。

犯人の動きを予測し進行方向を計算する。

「このへんが近いようだな」

瞬間移動で別の建物の陰に隠れる。

犯人が近づくと指先から糸ほどのワイヤーを出し犯人の足首に絡ませた。

「あっ!」

大きく転がる犯人は追いかけてきた警官に現行犯逮捕された。

「ふん、ここではこんなもんだな」

カッターを使う現場にでも遭遇しなかったのがやや不満気だ。

事件は起こらないほうがいいが、いつどこで自分の能力を試せるのか。

それを使えない限り不安は残る。

無言のまま街を歩いた。


4号は銀行の近くに来ると、落ち着かない様子の老婆を見つける。

携帯電話を片手に銀行のATMコーナー入る老婆を見て

「もしや・・・」

4号は老婆の携帯音声をキャッチ。

息子と名乗る男の声で老婆を指示していた。

「振り込め詐欺だわ」

4号は自ら電波を発し老婆の携帯電話を遮断した。

老婆は切れた携帯電話を見る。

「おばあさん、ちょっとごめんなさいね」

さらに4号はATMの非常ボタンを遠隔操作する。

すると足早に銀行員が老婆のもとへ駆けつけ話を聞く。

「息子からの電話で・・・」

と説明すると詐欺ではないかと別室へ銀行員は老婆を連れて行く。

話を聞くと息子と思われる電話は全く別の電話番号。

息子がいる会社へ電話すると電話してないとのこと。

危うく詐欺に引っかかるところだった。

老婆は安心しきったのか大きなため息とともに椅子の背もたれに寄り掛かった。

暫くすると警察が来て経緯を説明。

警察が入る様子を見た4号は

「まったく、同じ人間なのに面倒なことするわね」

人間という生き物は何だろう。

騙したり、争ったり敵をつくることばかり。

4号は何だか人間の愚かさを垣間見た気がしてならなかった。


「ショットガンというが事件が起きない限り普段から使えないよな」

1号もまた自分の能力について疑問を感じていた。

テロリストの工作機械を電気的に破壊することだが、それ以外は攻撃しかないのではと頭の中をよぎる。

機械より人間を撃ってしまう危険もある。

それだけに慎重に扱わなければならない。

パトカーのサイレンがけたたましく鳴り響く。

バイクがパトカーから逃げながら街中を暴走していた。

「なんだ?暴走族か?」

どうやら走り屋と呼ばれる単体で走る暴走バイクのようだ。

警察から追われるスリルを楽しんでいる。

バイクの爆音が1号のほうへ近づく。

「これって、人を撃たなけれゃいいんだよな?」

そう言うとバイクが一番近づく道を計算する。

「よし、あそこだ」

人通りの少ないビルとビルの間に瞬間移動する。

物陰からバイクの動きをうかがう。

下手に撃つと大きな衝撃を与え、エンジンとガソリンタンクを爆発させてしまう。

怪我人どころか死亡事故の可能性もある。

「有効なのはタイヤか・・・いや、回転を考えるとフロントフォークだな」

回転するタイヤより前輪を支えるフロントに狙いを定めた。

指先からプラズマショットを発すると車輪の軸を支える金具に命中。

バイクの前輪が外れ運転していた若者は前へ飛ばされた。

「あ、痛て」

「道路交通法違反だ。来てもらおう」

パトカーが止まると若者は連行された。

「ふっ、ちょっとした練習にはなったかな」

1号は何事もなかったかのように歩いて行った。

「何が面白くてこんな馬鹿なことするんだろ」

1号も人間の哀れみを感じていた。


3号は博士に連れられ車庫に入ると一台の車が見えた。

「これは?」

「これは君が運転する車だ」

どうみても普通の乗用車だ。

「赤外線でよく見ろ」

レントゲンのように透かして見ると何やら重装備だ。

「これは最高速度300キロ、短い空間ならワープも出来る」

人間では耐えられない重力がかかる。

それも彼らの身体なら耐えられる。

そしてボディは小型ロケット弾でも耐え、タイヤは砂漠や氷原でも走行できる。

「武器はないのか?」

「フロントから両サイドへカッターがでる。それによりワープに近い速度で真空状態になりすれ違い様に真っ二つになる」

攻撃というより相手の車両などを切断させるといっていいだろう。

「なるほど、高速移動に場所を選ばず敵を封じ込めることも出来るということか」

3号は試運転してみる。

「う、これは」

重装備のわりには走行が軽い。

重力調整機能が搭載され、まるでリニアモーターカーに乗った感覚だ。

街中を颯爽と走るがここでは博士が言う装備は使えない。

3号は4号の電波をキャッチすると歩いてる4号の側へ車を止める。

「この車は?」

「ああ、博士が用意したらしい。どうやらこれで移動するみたいだ」

「なるほど、かなりの装備みたいね」

4号も赤外線で内部を見ると普通の車でないことが分かった。

「しかし、この車も使わないままでいたらね」

「そうだな」

自分たち同様、厄介な事件に使われないことを願う。

4号を乗せて走ると2号の電波をキャッチ。

振り向く2号。

「お、この車・・・なるほどな」

2号も構造を確かめると重々しさを感じた。

それはこれから自分たちの行動が何を意味するのか胸騒ぎを覚えた。

さらに走らせると1号をキャッチする。

「ああ、みんな。この車は」

「これで移動するために博士が用意した」

「そうか」

そう言って1号も乗りこむ。

どこか素っ気ない1号を察した4号は

「何かあったの?」

「いや、自分の能力の活用さ」

「それは実践あるのみじゃないのかな」

2号は戦いの場を好むような口調で言うが一理あるなと1号は思った。

会話のない車内。

若者ならドライブ気分だろうがそんな感情は浮かばない。

街中を歩くだけで人間の愚かさを知った四体は、言葉がなくとも感情を分かち合った。

任務を全うするために気を配らなければならなかった。


防衛庁特別室に博士とサイボーグが呼ばれる。

姿形が人間と変わりない彼らを見て長官は驚く。

「これほど精巧だとは・・・あ、実は国内でテロリストの動きが確認された」

警察の張り込みにより反政治派の五人が動き出したようだ。

しかし、他にも仲間がいるようで五人が操っているらしい。

早々に仲間の正体を突き止めたいとのことだ。

反政治派のデータが4号に渡すと一人一人解析され記憶される。

テロ組織から市民を守り、彼らを壊滅して欲しいと言うが人間は傷つけず危険はサイボーグに任せるという身勝手なものだ。

国は彼らを武器同様、物としか扱われない。

人間の都合のいいように造られたとここでも愚かさ感じた。

対テロリストとして機動隊治安部隊とチームを組むよう言われる。

「危険な行動を任せるというなら、我々の指示に従ってもらいたい」

1号は提案する。

「いや、指示は我々が」

長官はそう言うが人間とサイボーグの立場が異なる。

1号はそこに懸念を持った。

「人間と我々とは能力が違いすぎる。人間のほうがついてこられない」

1号の発言に長官は眉間にしわを寄せる。

サイボーグたちは成功させたければ邪魔するなと威圧感を与える。

「うーむ」

長官は防衛庁の立場から人間を優位に立たせたいのが目に見えている。

「わかった・・・テロリストを撲滅させるのなら・・・」

長官は渋々彼らの条件をのむ。


ここで警察から情報が入った。

怪しい男がデパートの周辺をうろついている姿が、防犯カメラに映っているというのだ。サイボーグたちは現場へ急行した。

デパート近くの男を見つけると警官が職務質問しようとするが4号に止められる。

4号の目には爆弾が身体に巻き付けられているのが見えたからだ。

さらに男と交信する電波が屋上から飛ばされている。

屋上から監視していると察した。

「どうやら遠隔操作で爆発させるつもりよ」

「するとあの男は爆発されるのか」

テロリストのやり方に驚きを隠せない。

男は仲間でなく、せざるを得ない状況のようだ。

1号と3号は男のところへ。

2号は屋上へと気づかれぬよう瞬間移動することにした。

男がデパートの陰に入ると液状化した3号が男を包む。

「え?」

一瞬、金縛りにあったかのように男の身体が止まる。

そして1号は針ほどのプラズマショットで爆薬を繋ぐ電線を切り、通信機を壊した。

この間ほんの2秒。

二体が男から離れると男は警察に保護された。

「お、俺・・・無事なのか」

やはり男は爆発させられるようだった。

2号が屋上へ行くと一人の男がスイッチを片手に双眼鏡でデパートのほうをうかがっている。

「ん?まだ爆破地点にいないのか?」

監視している屋上の男は不審に思った。

「なら、こいつを」

そう言ってスイッチを入れるが何も起きない。

まさか通信機が壊れたとは思ってもいなかった。

瞬間移動した2号は後ろから糸状のワイヤーで男を巻き付けた。

「う、どうしたことだ・・・」

狐につままれた表情で硬直していると数人の警官が来て取り押さえられた。

同時にワイヤーを離し2号は屋上から姿を消した。


一方、デパートの男は警官に涙で話す。

「言うことを聞かないと家族を殺すと脅された」

とうな垂れる。

テロリストに利用され家族の命と引き換えに自爆しろということだった。

4号の指示で警官は無線を使い家族の居場所を喋らせた。

「男の家族のところへ向かって」

4号が無線を聞くと2号に伝えた。

そこへ3号が車で駆けつけ、2号を乗せて男の家族のいる家へ向かった。

「よく車があったな」

「こいつは俺と無線で繋がてるのさ」

と言って車と繋ぐ無線機を見せた。

犯人に気付かれないよう家の近くで車を止める。

二体は家の中を赤外線で透視。

家では男の妻と子供が縛られて床に座されていた。

さるぐつわされ声も出ない。

近くには銃を持った男が窓の外をうかがっている。

遠巻きに覆面パトカーが待機。

「よし、いくぞ」

2号は瞬間移動で足音もなく部屋へ侵入。

そして屋上の男と同じように背後から糸状のワイヤーで巻き付ける。

「う、なんだ?」

固まったように身動きとれない犯人。

銃を持っている手はさらに強く巻かれ男は銃を落とす。

パトカーから待機してた数人の警察が来ると男を取り押さえ、2号はワイヤーを外し消えた。

家族は保護され逮捕者は二名となった。

「うまくいったな」

2号が戻ると車は消えるように去っていった。

この日のテロ行為は未然に終わる。

サイボーグの存在は知られてはならない。

警察が彼らの手柄を横取りしたようなものだった。

しかし、テロリストはこれで終わりでなかった。


数日後、防衛庁の一角で爆発騒ぎがあった。

入り口付近で小さな爆発があり幸いけが人もなく大事に至らなかった。

爆発にしては小規模。

何かの予兆ではないかと推測される。

犯人から脅迫状が届く。

「逮捕者を釈放しないと爆発させる」

防衛庁は厳戒態勢に入った。

サイボーグたちは普段人が入らないボイラー室や機械室を入念に調べる。

すると4号が時限爆弾の動きをキャッチ。

爆発まで残り十分で作動した。

庁内全体に知らせが入ると全員外へ避難するが十分では間に合わない。

爆弾は五か所に仕掛けられていた。

最低一つ二分以内で解除させなければならない。

すべては庁内の心臓となる変電室、ボイラー室、動力室、そして地下駐車場二か所。

「ひとつずつやるしかないな」

1号が言うとまずは近くのボイラー室。

最も大きく噴出する圧力器に仕掛けられていた。

「よし、いくぞ」

3号が液状化で爆弾の内部まで浸透させ電気部を絶縁。

2号が電線を切断し火薬の入った芯を取り出す。

「まったく面倒だぜ」

「次、行くわよ」

ぼやく2号を尻目に促す4号。

ぶっきらぼうな2号が慎重に変わる様を見た1号の口元が緩む。

動力室に入ると振動が激しい。

今にも揺れだけで爆発を起こしそうだ。

エレベーターの側にある爆弾を見つける。

ここが爆発したら上階まで火の気が上がる。

3号が爆弾を包むと

「振動が強い。モーターを止めないと」

「動力スイッチはどこだ」

1号が配電盤を見つけブレーカーのレバーを下す。

モーターは止まり、2号は爆弾の電線を切った。

芯を回収すると変電室へ向かう。

「ここも難解ね」

変電室は数万キロボルトの電圧がかかっている。

3号が爆弾を覆ったくらいではショックを与える可能性が大きい。

電力供給を止めない限り変圧器は働いている。

しかし、電力会社に連絡している時間がない。

「しかし、奴らどうやって仕掛けたんだ?」

テロリストにはかなりの博識を持った者が存在しているようだ。

4号が入念に内部を調べると緊急時のシャットダウン装置がある。

故障した場合に電圧を下げずに瞬時に切り替えるものだ。

「まず装置を止めて切り替え部を離して」

言われたままに3号は装置を絶縁、2号が連動するコイルを切断すると電圧が低下。

しかし、そのままにしておくと変圧器に負荷がかかり故障してしまう。

素早く3号は爆弾を絶縁させ2号が電線を切り、芯を抜く。

爆弾が外されるとまた装置の絶縁。

今度は1号が電気溶接の要領でプラズマショットを撃ちコイルを繋いだ。

これで変圧器は元に戻った。

「あと二個よ」

残りは地下駐車場。建物の対角線上にある。

瞬間移動するも変電室で時間がかかり、残り二分。

「急いで」

入り口付近の爆弾を除去するが残り十数秒しかない。

「俺が行く」

1号は駐車場奥に瞬間移動。

爆弾を見つけるが3号のように絶縁できない。

あとの三体も駆けつける。

「おい・・・」

2号が声を掛けようとするが3号に止められる。

残り十秒もない。

1号に委ねるしかなかった。

1号は赤外線アイで爆弾内部を細部にわたって確認すると太さが髪の毛ほどのプラズマを放つ。

息を飲む三体。

爆弾内の電線を切断すると芯を固定するネジが緩んだ。

それから数秒が経つ。最後の一つも爆発せずに済んだ。

「最初からそれをやれば良かったんじゃないか」

2号は1号をたしなめる。

「まって、これもギリギリよ。芯を落としたらアウトだわ」

4号はそういいながら爆弾を回収する。

成功するものの、一か八かの瀬戸際だった。

爆弾処理の報告が入ると庁内は歓喜に沸いた。

だが、一人の男が足早に去り防衛庁外に逃げると駆けつけた車に乗った。

「奴が犯人だ」

1号が気づくと四体で追う。

犯人は車。瞬間移動では限度がある。

「この時のための、こいつさ」

3号が手にしたリモコンのスイッチを押すと、あの車が現れた。

3号の意思と同時にリモコンが働くと瞬間移動で特殊自動車が現れる。

「その辺に停めて駐車違反になったらシャレにならないからな」

四体は車に乗り犯人の後を追う。

犯人側は追われていることに気が付くと迷路のように路地を走る。

しかし、いくら撒いても特殊自動車はレーダーで追跡できる。

角を曲がるときはハンドルで曲がるのではなく、車体が九十度向きを変える。

犯人側は郊外へ出るとスピードを上げた。

追いかけようとすると、助手席の男が窓を開け銃を構えた。

「これでもくらえ」

三発撃ってきたが博士の言う通り車は弾丸をはね返す。

「普通の車じゃないな」

犯人は特別機動隊の車両ではと思うと逃げるのを止め、向きを変えて突進してきた。

当然、正面衝突するのではない。

助手席の男は一段と大きい銃を向けて抱えている。

「これならどうた」

「小型ロケットでも撃つのか?」

3号はニヤッとフロントから刃を出すスイッチを入れ加速した。

想像を超えるスピードに狙いが定まらず、犯人は銃を構えたまま撃てない。

「なんだあのスピードは」

特殊自動車は空を切り犯人側の車とすれ違う。

すると犯人側の運転席側が貝が口を開けるようにパックリと開き車は横転。

二人の犯人は外へ投げ出された。

「うわっ!」

「なんなんだ、あの車は」

爆発物所持の可能性を考え、爆発処理班と機動隊が駆けつける。

犯人は取り押さえられ、護送車に乗せられていった。

一組のテロリスト全員逮捕。

またも警察と特殊治安部隊の手柄となった。


数日後、屋敷内一室に集められた四体は、博士からアメリカに仲間がいると知らされる。

「仲間?なぜアメリカに」

1号は博士に聞く。

他の三体も疑問を持った。

第五体目のサイボーグがいる。

理解できないまま博士の話を聞く。

話によると博士と共同研究していたがテロリスト情報を得るために渡米。

だが米軍の管轄で軍事目的に利用されようとしたため密かに別の場所に研究所を作る。

しかし、研究所が米軍に見つかり行方をくらます。

研究資料だけ残されていたが、すでに第五体が造られ隠されているのではと軍が探しているようだ。

「そこで皆にアメリカへ行って調査して欲しい。もちろん米軍に知られてはならない。もし、第五体目があったら米軍に渡してはならん」

「その5番目を連れて来いと?」

「出来ればそうしたいが、現状が分かってないから何とも言えん」

1号が博士に聞くもあまりにも情報が乏しい。

こんなことで調査出来るのかと四体は顔を合わせる。

分かっているのはグランドキャニオン周辺。

後のデータはFBIから防衛庁を通じ博士の元へ入ってくる。

「情報収集のデータは米軍も知っているはずだ。それ以外は君たちの能力で探してほしい」

人間が造ったサイボーグに探させるのは滑稽かも知れない。

しかし、計算能力は人間を上回っている。

どちらが先に見つけ出せるか四体に委ねられた。


防衛庁が用意した特別機でロスアンゼルスに着くと、米軍にバレないよう一般人の振りをして行動した。

レンタカーで行先はグランドキャニオン。

研究所など建てられるはずがない。

なぜこの場所を選んだのか不可解だ。

とにかく博士の情報による目的地へ行ってみるが有刺鉄線が張られ「Keep out(立ち入り禁止)」と書かれたプレートが貼ってある。

「観光地じゃないのか?」

2号の言う通り国立公園で観光地のはず。

そこへジープに乗った兵士が来て出て行くよう指示する。

兵士に聞いても「NO」の一点張り。

ここ一帯は米軍が支配していた。

「絶対何かあるな」

1号他三体も怪しいとにらんだ。

しかし、目の前にいるのは銃を持った兵士。

撃たれても傷一つ付かないが自分たちのことがバレてしまう。

兵士が行動を起こす前にこの一帯から離れた。

兵士がいなくなると車を止め、4号が無線の電波をキャッチする。

「やはり、この辺を調べているみたいね」

「何処かしら情報を入手したんだろ。赤外線で何か見えないか?」

1号が聞くと4号は崖の方を指差す。

「あそこだけ、岩の厚みが違うわ」

研究所と思われる跡があるらしい。

だが、ここは米軍が支配している。

ロスアンゼルスへ戻り、しばらく滞在して様子を見ることにした。


グランドキャニオンの一角。

米軍兵士が探索していると異常な電磁波を発見。

先日、4号が怪しいと睨んだ崖の一部だ。

「ここが怪しい。掘ってみろ」

隊長の命令で重機を使い崖の一部を掘り起こそうとすると光とともに人影が現れた。

重機の陰で銃を構える兵士たち。

やがて人影は一人の男と変化する。

「まさかこいつが・・・」

人型だが攻撃的なオーラが恐怖感を与える。

すると、男の身体から放つ光が兵士を襲った。

「うわっ!」

次々倒れる兵士たち。銃は切断され兵士は深い傷を負った。

「応援を呼べ!」

軍施設に緊急が入る。

仲間の連絡を受けた特攻隊が機関銃やバズーカ砲で男を攻撃するが傷一つ付かない。

それどころか返り討ちされ負傷者が増えた。

一旦、軍隊は退却して男の様子を見た。

男は攻撃をしなければ何もしない。

ただ、辺りを見回し、ゆっくりと歩く姿は殺気立っていた。

「あれが手に入ればいいのだが」

武器として秀逸に過ぎない一体。

だが、その一体に歯が立たない。

軍としては頭を悩ませた。

米軍は光る男を研究で造られたサイボーグと断定。

光はレーザー銃と推測。

称して男をレーザーマンと名付けた。


事態を察知した四体と博士は現場へ駆けつけるが米軍は入場を拒否。

隊長に警察とテロ対策の研究を話すが突っぱねる。

博士は激高し

「FBIから話を聞いている。表向きはテロ対策だが研究所を支配し、サイボーグを兵器にしようと企んでいるのではないか!」

「何のことだ、ここは軍の施設だぞ」

隊長は目を合わせずにシラを切る。

しかし、サイボーグを手に入れたい一心なのか隊長は博士にサイボーグを鎮圧するよう指示する。

そんな愚問を聞くこともなく軍の横暴を認めろと返す。

その中、また第五体と軍の衝突が起きる。

軍が兵器を上げ攻撃するが太刀打ちできない。

このままでは軍が衰退してしまう。

ここで博士が提案する。

「ここにいる彼らもサイボーグだ。彼らなら抑える可能性はある。味方するのか敵に回すかはそちらの答え次第だ」

「こいつらもサイボーグ・・・」

隊長は言葉を失った。

一体でも対抗すら出来ないのに四体が相手となったら当然及ばない。

仕方なしに軍の不正を認め断念した。

「ここからは我々がやってみますが、念のため市民へ被害が広がらないようにしてください」

「わかった・・・」

隊長は軍を引き上げ、市民の警備に徹することにした。

「しかし、彼は何故軍隊を」

1号は疑問に思った。

「おそらく軍が彼を捕らえようとしたため敵とみなしたのだろう」

博士は隊長をジロリと睨むと隊長は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「それはそうと早く何とかしないと」

1号が他三体に言うと全員行動に出た。

四体は第五体に接触をはかるが彼は近づく者を敵とみなしている。

四体の行動をみようと試しに四体全員にレーザーを放つ。

四体は間一髪レーザーをかわし第五体とにらみあった。

「なるほど、レーザーマンとはよく言ったものだ」

2号は米軍の話を思い出すが悠長なことは言っていられない。

第五体はレーザーをかわした四体を自分と同じサイボーグと気付くが、軍と行動しているため仲間とは思ってない。

彼にとって四体も敵なのだ。

そこへ一台のパトカーが来る。

軍のエリアに警察の車両は違和感があり、隊長が駆け寄る。

パトカーから降りてきたのは行方不明になっていた研究者だ。

実は研究者の安否を心配した博士はFBIに捜査依頼。

研究者は軍から逃れるためにラスベガス郊外に潜伏していた。

なんとか博士が滞在中に見つけ出し事態を収拾しようとした。

とにかく第五体を止めなくてはならない。

研究者は第五体を自分に向けさせ説得を試みた。

生みの親に対して第五体は何故「敵」にいるのか混乱を起こしている。

「今なら俺が止めてやる」

2号が飛び出すがレーザーを受け右肩を負傷する。

「むやみに向かってもダメだ」

1号が肩を貸し、2号を第五体から遠ざける。

今度は1号が細いプラズマショットを撃つ。

レーザーを放つのなら銃口のような隙間があるのではと睨んだ。

だが、銃口ではなく身体そのものを光らせている。

それに四体と同じ特殊金属であるためダメージがない。

逆に1号もレーザーを受け、ボディの一部を損傷した。

間違いなく博士と研究者が共同開発したサイボーグがもう一体ここにいた。

いや、攻撃力は半端ない。

「奴には弱点はないのか・・・」

4号は第五体の弱点を探し出す。

メインは腕から放つレーザー光線だが、体全体から無数の光線を放ち個体から数十メートル内が防御にもなる。

四体は簡単に近づくことが出来ない。

「レーザーは自然光と違い放出したままでない。誘導放出といって一度エネルギーを溜めなくてはならない。放出した後、次が出るまで僅かな時間がある」

博士の言葉を聞いた4号はレーザーを放つ時間差を計算する。

一度放つと千分の一秒のラグが生まれることが分かった。

つまりラグが生まれると光より遅い時間差ができる。

「今度は俺がやってみる」

3号は全身を人型のまま液状化にさせ、第五体に近づいていく。

第五体は幾つもののレーザーを放つが液状化された体は分子が離れるのでレーザーも素通りになる。

だが、このままでは攻撃が出来ない。

その間に4号は先にレーザーを出す箇所と後から出す箇所を見つける。

一度放つと千分の一秒同じところから放たれない。

その間を狙うしかない。

1号は同じ個所から発射される様子を見ている。

「これは一体」

驚くのも無理もない。

一本のレーザーは人間でいう毛穴に相当する場所から発射されている。

それが何本か束になると威力が倍増する。

プラズマショットガンをヒットさせるには数メートル先から毛穴ほどの発射口を撃たなくてはならない。

しかも千分の一秒の間に。

可能性はゼロではないが極めて成功率が低い。

1号の顔が次第に渋くなった。

3号が戻ってくる。流石に長時間では身体がもたない。

「どうだ、何か打つ手はあったか?」

「いや、かなり厳しい。レーザーを止められればいいが」

一時的でもレーザーが放出しない時間が欲しい。第五体の懐に飛び込められるからだ。

「そうだな、近距離なら狙いやすいだろう」

3号は目を細くする。すると負傷した2号が

「ならば3号が奴にまとわりつき、俺が羽交い絞めする。そしたらお前が撃て」

口では簡単だが第五体の構造も分かってない。

1号が考えると

「そんな余裕はないだろ!俺たちが何とかしないと」

1号ほか、3号も4号も2号に同意してうなずく。

「ならば、これは使えんか」

研究者が1枚の電子チップを出す。

指に乗るくらいの大きさに第五体のデータが入っている。

「これは極秘ものだが役に立てれば」

「ありがとうございます。使わせていただきます」

4号は電子チップを手にすると額に当てた。

第五体のデータを読み取る。

レーザー光線は胸部に制御装置があり、動力は腰回りから作動している。

これらを抑えれば第五体を制止するのが可能になる。

「とにかくやってみよう」

四体は行動に移す。

第五体は「まだ何かやるのか」と泰然とした態度で見ている。

2号の言う通り3号は液状化し第五体に近づく。

それも人型でなくアメーバのような細胞体となる。

これは爆弾処理の際に電気部分にしみ込ませる前の形状だ。

第五体は躊躇なくレーザーを発するが素通りする。

3号はじりじりと第五体に迫る。

第五体は焦りを感じ発射数が多くなる。

その分、千分の一秒の隙間が増える。

3号に向けレーザーを放った箇所を1号が針状のプラズマショットで千分の一秒の隙間を狙い撃つ。

「ん!」

その瞬間だけ第五体の動きが鈍る。

「これはひょっとして」

手ごたえ感じた1号は第五体に向けて何度も繰り返し撃つ。

千分の一から千分の二、千分の一から千分の三と鈍る波が出来る。

3号はスキを見て胸部へ張り付くように覆う。

「う、何をする気だ」

強気な第五体がたじろぐ。

3号を振り落とそうとすると、今度は2号のワイヤーが腰回りを覆う。

第五体の動きを封じ込めた。

1号が近づく。

第五体はもがく。

1号はクモの巣状に張り巡らされた第五体の特殊皮膚から特殊金属を透視。

人間でいう神経細胞を放射線で見るようなものだ。

「早くしろ!俺たちにも限界があるぞ」

2号が叫ぶ。

第五体には力づくで押さえている。

パワーも無限ではない。

「そこだ!」

第五体の首から胸にかけてプラズマショットを撃ちこむ。

「うわー!」

第五体はレーザーの圧力で3号と2号を跳ね飛ばした。

「大丈夫か!」

1号は二人に駆け寄る。

「何が起きたんだ」

レーザーの制御装置を減退させたが反発で増幅された。

つまりオーバーヒートを起こした状態になった。

エネルギーがなくなればレーザーもなくなるが、どのくらい時間がかかるのか分からない。レーザーは放出したままになり、このままでは被害が出てしまう。

もはや暴走は止められないと残ってた軍隊は早々と撤退する。

「無責任な奴らだ」

第五体を目覚めさせた軍に不快をぶつける2号。

4号に第五体の状況を分析させた。

「自分の意思と違うようね。それぞれの回路がエラーを起こしているわ」

「君が指示したんだろ!何とかできないのか!」

「やめろ!それだけ俺たちは複雑なモノなんだよ」

荒ぶる2号をなだめる1号。

「ちっ、俺たちは一体何のために」

3号がつぶやく。

高性能とはいえ、諸刃の剣。

ひとつ間違えれば大惨事になりかねない。

自分たちの身体を恨み、博士に視線を向ける。

博士は言葉が出ない。

テロリスト対策とはいえ、逆に武器にもなりかねない。

彼らを造ったことがこれほど悔やまなければならないのか。

「まって、それより彼をなんとかしないと」

4号の言うとおりだ。

今は第五体の暴走を止めるのが先決だ。

4号を除きもう一度第五体に近づく。

「来るな」

と手を払い追っ払おうとする第五体。

暴走するレーザーが彼らを襲う。

レーザーを避けながら近づくと

「さっきより容易に避けられる」

レーザーの放出速度が遅くなっていることに1号は気づいた。

それを聞いた3号はもう一度細胞体となって向かっていく。

3号に放つレーザーは的中率が悪い。

「ただの暴走ではない。意識して撃ってきていないようだ」

3号は第五体本体がレーザーを放つのを拒絶しているようにみえた。

自分に意思もなく見ていないスキを狙って頭に飛びつき覆う。

「最初から頭を狙ったほうが良かったんじゃないのか」

2号の疑問に1号は

「もし、仕留めるなら頭と胸、どっちを狙う」

頭脳と中枢装置。人間なら脳と心臓、どちらを狙うか。

その場で速やかに判断しなければならない。

あのとき頭を狙っても視力と聴力が正常のまま撃てたかどうか。

1号はレーザーの装置のある胸を狙った。

どちらにせよ正しいとも間違いともいえなかった。

もがく第五体の後ろへ回った2号。

細部にわたって第五体の背中を見ると人間と似た神経構造に気付いた。

背骨の中の中枢神経から全身へ伸びるようにレーザー出力の経路も同じだ。

サイボーグを造るのは人間。

身体も人間と似せる部分はある。

ただ、背中を狙っても特殊金属により防御されている。

「いま、奴が弱っているのなら」

2号は全身全面から髪の毛のようなワイヤーを何万本と第五体の背中に刺しにいった。

レーザーで幾つもはね返されるが中には背中にあたっている。

第五体が向きを変えようとしても背中に回り何度もワイヤーを刺していった。

2号に発射するレーザーが弱まっている。

全身のレーザーを操るのが中枢装置から各中枢機能へ伝えるパーツだった。

2号はそのパーツを狙いレーザーの出力を弱めていったのだ。

「よし、後は任せる」

2号は何どもワイヤーを出したため、エネルギーが減っていた。

「1号早く」

3号も限界が来ていた。

1号は先ほどと同様に第五体の各部を透視した。

中枢装置から枝分かれになる途中の分岐点がレーザーを発射する前に一旦エネルギーを溜めていく場所を見つける。

人間でいうリンパ腺に値する。

「よし、ここだ」

1号は弱点を確信しプラズマショットを撃った。

第五体はひざまずくと同時に3号が人型に戻り第五体の頭から転げ落ちた。

第五体はまるでオーバーヒートしたかのように緩やかな煙が全身から上る。

1号と2号、そして4号がそっと第五体に近づく。

近くに倒れた3号は起き上がり第五体を抱きかかえる。

第五体の全身の動きが止まり、意識だけが残った。

そして3号は第五体を説得した。

「俺たちは敵同士ではない。悪意を働いた人間から良識の人間を守るために造られた。だが、残念ながらそれを利用とする心無い人間もいる。そんな人間に俺たちは猜疑心を抱いてしまった。人間の身勝手さで造られたが一番は平和利用。俺たちはそれを信じて戦わなければいけないんだ」

自分たちが造られた理由、米軍の身勝手、軍との関係、第五体は多少、疑いながらも3号の話を聞いた。

人間への危害を与えず感情で暴走しないよう約束した。

そして3号は第五体から離れた。

身体から怒りなど重い感情が抜ける感覚を覚える第五体。

「だが、また彼らがやらかしたら、俺はどうなるか分からんぞ」

二度と軍が悪意を持たぬよう釘を刺すと、3号はうなずいた。

「よし、そこまでだ」

「なに?」

いつの間にか撤退したはずの軍隊に囲まれている。

「おまえたち」

呆れる1号。

「損傷しているおまえたちなら捕らえられる」

手のひらを返す隊長。

「そうはいかないぞ」

四体が立ちあがる。

「これをみろ」

博士と研究者が銃を向けられ捕らえられていた。

「卑怯な」

第五体が動こうとすると博士に銃を突きつける。

「おまえたちは我々の部下となれ」

当然、そんな意思はないが博士を案じると言葉が出ない。

「わはは」

高笑いする隊長。

四体は何やら電波を感じた。

すると2号の足元からワイヤーが伸びて兵士たちの足を捕らえる。

「なんだ」

兵士たちは驚くと4号が近づく。

「おまえまでいたのか」

4号の存在を忘れていた。

そして4号に向けて銃を放つが退けた。

「おい!」

博士に銃を向ける兵士。

すると第五体の小さなレーザーが兵士の銃を撃ち、銃を落とした。

4号は瞬間移動で兵士の前へ来て腕ずくで博士と研究者を救助する。

「あ」

逃がしてしまう兵士。

4号は次々と兵士に近づくとひとりずつビンタをした。

倒れこむ兵士たち。

「なにをするんだ」

怖がる隊長の襟をつかみ

「あなたのやっていることは分かってるの?」

「人間に歯向かう気か」

「すでに最高幹部に連絡済みよ。軍隊を我が物顔にしてサイボーグを兵器にしようとした」

軍隊を自分のものにして活動しようとしていたことが最高幹部にバレていた。

そこへFBIの車両が来る。

隊長は重要参考人として乗せられていった。

残された隊員は上層部からグランドキャニオンから撤退するよう命じられた。

4号は隊長の悪事をFBIから入手し捕らえることにしたのだった。

「やっと、すべてが終わったのかな」

うなだれる1号。

「最後は何と言ってもあなたの活躍だ」

初顔同様、3号は4号にお手上げだ。

「ところで俺はどうなるんだ」

第五体は博士に聞いた。

「日本へ連れて行き彼らと一緒に修理する」

「俺は仲間になったのか?」

「当り前じゃないか。これからは日本で起こりうるテロリスト対策に協力してもらうぞ」

1号は第五体の肩をポンと叩いた。

「日本でもテロがあるのか?」

第五体の情報では日本の治安の良さは知らされていた。

「ああ、先日、一件未然に防いだがな」

今になって第五体は自分たちが造られた意味が分かった。

人間が人間を解決できないときの代理的なもの。

「機械に頼る人間ってなんだろう」

第五体が口にする言葉に博士は耳が痛かった。

日本へ戻り五体は修理され元の個体に戻った。

「そういえばみんな番号だけで名前はなかったな」

第五体はレーザーマンと呼ばれることに不満だった。

やはり、米軍が武器の名称のように扱ったせいだろう。

五体とも人間の情報はコピーされているが個人情報はない。

「博士、我々は実存した人物とかぶらないのですか?」

サイボーグに値するデータは破棄され特徴は残し完全に書き換えられている。

「似たものがあっても全くの別人だ」

名前がなくても活動できるが、名前だけでも人間らしさが欲しかった。

「ならば数字の呼び名とかどうだ」

科学者らしい発想だ。

「1号はジョー、2号はシュン、3号はケイ、4号はリン、そして君はリョウ、これでどうだ」

どうやら発音は東南アジアのものらしい。

「まあ、その時の呼び名だから構わんが」

「そうだな、人前ならそうなるだろう」

確かに人前で1号、2号はおかしい。

「レーザーマンは封印か?」

2号が聞くと

「まあな、アメリカに行ったらまた呼ばれるんだろうけど」

武器名で付けられた五号はうんざりする。

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