大切に育てていた花に誘われて異世界入り ~僕が世界樹の父親になった理由~
ふっと沸いて降りて来たので短編で書いてみました。
僕の名前は太田 紘一何処にでもいる中学三年の男子生徒だ。
実は僕はクラスの男子にいじめられている。何時からかはわからない。
気づけばそうなっていたとしか言いようがない。
けれど、理由はなんとなくわかる。
「どうしたの、コー君元気ないぞ~?」
彼女の名前は法隆寺 飛鳥。僕の幼馴染であり、クラスの中のトップカーストと言われる存在だ。彼女は未だに幼少時代のあだ名で僕を呼んでくる、
「おいおい、飛鳥さんそんな奴に構わないで俺達と遊ぼうよ」
彼女に話しかけて来たのは男子のトップカーストの一人斑鳩 茂だ。そして僕をいじめてくる存在の一人だ。
「別に私が誰と親しくしようと私の勝手でしょ?」
「やれやれ、法隆寺は相変わらず優しいなあ」
彼の取り巻き達が息の合った大合唱の如く笑い合う。心底気持ちが悪い。
僕はクラスの隅っこで静かに過ごしていければそれでいいのに、どうして構ってくるんだろうか?
「あんた達辞めなよ! 他の人達にも迷惑でしょ!!」
一人の少女が割り込んできて大合唱の男子達がピタリと笑い声を止める。どれだけ息が合ってるんだか。
「おいおい、茂は飛鳥ちゃんを思ってアドバイスしていただけじゃないか。風紀委員である生駒こそ飛鳥ちゃんを説得するべきだろ」
「なんで飛鳥が嫌がってるのに私がそんな事しなきゃいけないのよ!」
先程から喧嘩腰の少女は生駒 真奈美。風紀委員長で飛鳥の親友である。
そして文句を言っているのはもう一人の男子トップカーストである平群 恭弥だ。
「はー、もういいや真奈美もありがとね。コー君、前に頼んでいた品物届いてるから受け取りに来てくれってお父さんが言ってたよ」
「本当に!? ありがとう飛鳥。必ず行くって飛鳥のお父さんに伝えておいて!」
「ひあっ! う、うん。伝えておくね。けど、本当に大事なんだね、あの子達」
当然だ、僕が物心がついた頃からずっと大事に育てて来た家族なんだから。
あの子達に出会ったのは確か三歳の頃だっただろうか。
「紘一、これはな。とーっても長生きするものなんだ」
「ながいきー?」
「そう、大事に、大事に育てれば紘一がお爺ちゃんになるまで生きているかもしれないんだぞ」
「そーなんだー。だいじにするー」
ピピピ…… ピピピ…… ピピピ……
しまった、学校から帰ったらすぐに飛鳥の家に行くつもりだったのにうたた寝しちゃった。
けど、久しぶりにあの頃の夢を見たな。父さんが僕とあの子達を引き合わせてくれた大事な思い出だ。
「はっはっはっ」
僕は身支度を整え、例のブツを受け取りに自転車を漕ぐ。
汗だくになりながら漕いだ甲斐があり10分ほどで到着した。
その建物には大きな看板が掛かっていた。
【法隆寺花屋】
法隆寺 飛鳥の自宅であり、僕が幼い頃からお世話になっている花屋さんだ。
店先に誰も居なかったので室内へと声を掛けた。
「ごめんくださーい! 太田ですけどー!」
暫くして、建物内から誰かが出てくる足跡が聞こえてくる。
「おお、紘一君。待っていたよ、これが例のモノだ」
「これが! おじさん、ありがとうございます」
「しかし、凄いもんだね。長いことこの業界にいるけど未だに衰える事を知らないんだろう? あの子達」
「ええ、今朝も元気一杯でしたよ」
そうかそうか、と満足気に頷く。
「そうだ、よかったら飛鳥と――」
「それじゃ、おじさんあの子達が待ってるんで僕行きますね!」
シャカシャカと勢いよく自転車を漕ぎ去っていく紘一少年。暫くして、一人の少女が建物から出てくる。
「あーっ! お父さんアレ渡しちゃったの!? 私が渡そうと思ってたのにぃぃぃ!!」
「あー、ごめんな飛鳥。お父さんとしても彼を少しは引き留めようとしたんだが」
「はあ、わかってるよ。アレを受け取ったら速攻で帰っちゃったんでしょ」
「そうなんだよねえ、お父さんから見ても飛鳥はそこらの女子より可愛いと思うんだけど、紘一君は飛鳥のアピールに気づかないのかねえ」
法隆寺家では娘である飛鳥の初恋を全力で応援する事を決めている。理由は今時珍しく花に詳しく、的確に良くない症状を見抜き処置が出来る腕を持っているからだ。
ゆくゆくは飛鳥と結婚し、この店を継いでくれれば将来は保証されたようなものである。
だが、それらの技術は現在彼の大切な存在達に独占されている。
「はぁ、はぁ、はぁ。あー、疲れた」
トントントンと軽快に階段を上り自身の部屋へと入る。
そして、紘一少年はある存在に話しかけた。
「ただいま、シロ、モモ!」
そこには植木鉢に植えられた白の胡蝶蘭とピンクの胡蝶蘭が色鮮やかに咲いていた。
「さーて、今日の体調はどうかな~?」
紘一はごそごそと茎を見て、葉を見て、花ビラをみて、決断を下す。
「うむ、今日も美しい! 後は受け取ったブツの栄養剤をぶすりと地面に突き刺してっと」
そう、大層な言い方をしていたが、ようは植物用の栄養剤を求めていただけである。
紘一少年も歴とした15歳の少年である。飛鳥のような可愛い女子に興奮する事はある。
しかし、長年調教(?)されてきた植物マニアの彼はそれ以上にこの二種類の胡蝶蘭が大切だったのだった。
今では海外に年単位で出張に行ってしまった両親には申し訳ないが自身の憩いの時間が潰されないのは幸運の極みであった。
そして、運命の日が訪れる。
「おらっ!調子に乗ってんじゃねえぞ陰キャの分際でよお!」
「そうだぜ、テメエちょっと飛鳥ちゃんと幼馴染だからって馴れ馴れしいんだよぉ!」
「やめっ、辞めてよぉ!!」
斑鳩と平群は関係を改めない紘一少年に力ずくで言う事を聞かせようとしてきた。
「こらーっ! あんた達何やってんのよ!!」
「コー君大丈夫!?」
生駒と法隆寺の二人が女子二人が男子二人を羽交い絞めするように動きを封じ込めている。
突然の暴力から救出された紘一は女子二人に礼を言おうと俯いていた状態から顔を上げると、彼女達四人の足元で漫画やアニメでみるような魔法陣らしきものが光っていたのだった。
「えっ!? 何これ!?」
「ちょっ、ちょっと!?」
「おい、何が起こってるんだ!?」
「なんか不味くねえか!?」
四人も何かが起きていると察したのか、慌ててその場を離れようとするも、それより先に魔法陣の光が増し、反射的に目をつぶる。
恐る恐る紘一が目を開くと四人の姿が忽然と消えていた。
「……異世界召喚?」
思わずポツリと自身が良く見るラノベの様な展開に困惑する。
突然の幼馴染とクラスメイトの消失に紘一は混乱する。どうすれば、どうすればいいんだ!?
僕には何もできない、神様から授かったチートなんて当然ないし、物語の主人公ですらないモブだ。
こうして紘一は一連の騒動を忘れる事にした。モブはどう頑張ってもモブなんだ。僕は大事な胡蝶蘭達が待っている。自身にそう言い聞かし、帰路へと着く。
その日の晩、飛鳥が家に帰って来てないが知らないかと彼女の父から電話があったが知らないと答えた。当然だ、ラノベのように異世界召喚されましただなんて真剣に答えたら僕が異常者だと思われるだろう。現場に出くわさなければ僕でもそう思う。
一週間後、斑鳩 茂、平群 恭弥、法隆寺 飛鳥、生駒 真奈美の四名が何かしらの誘拐事件に巻き込まれたとして捜索願が警察に届けられた。
トップカースト四人を欠いたクラスはお通夜のようだった。そして訪れた夏休み。終業式には彼等の例を出し、不審者に気を付けるようにと校長からの有難くない長い話を聞き、帰宅した。
そして、この日の夜。僕自身忘れられない出来事が訪れる。
寝苦しい真夏の暑さでふと目が覚めた。
折角だし水でも飲もうとキッチンへと向かい、一気に水を飲む。
満足し、二度寝しようと自室に向かうと大切に育てて来た胡蝶蘭が光を放っていたのだった。
僕の大切な子達に何かが起きている。それだけは理解出来た。
呆然と立ち尽くしていると、綺麗な声が聞こえて来た。
『助けて、助けて下さい』
とうとう僕は罪悪感から頭が可笑しくなったのかと辺りを見渡すも特に変化は起きていない。
『どうか、私の声が聞こえる者よ。私を助けて下さい』
助けを求めてくる声があの時の、飛鳥の必死に助けを求めるような表情がフラッシュバックする。
「助けろなんて、僕にどうしろっていうんだ!」
嗚呼、僕はいよいよ可笑しくなったらしい。幻聴に真面目に答えてしまうだなんて。
『っ! 私の声が聞こえるのですね!? よかった! 私は世界樹ユグドラシルの精。今この世界ミーデンに危機が訪れようとしています。どうにか私が力尽きる前に種子を芽吹かさねばなりません。私の声が聞こえる者よ、どうかあなたの力を貸して下さい』
「はぁ? ここはミーデンなんて場所じゃなくて地球だってんだよ! 出鱈目を言うな!」
『チキュウ……そうか、人間達が強引に召喚魔法を行ったせいで空間が繋がりやすくなったのね』
ここにきて紘一にとって看過出来ない言葉が聞こえた。
「おい、ちょっと待て! あんたがいる世界、ミーデンだったか。そこには地球から召喚された人間がいるのか!?」
『確証はありませんが、ほぼ間違いないでしょう。約一週間ほど前に膨大な魔力の波動を感知しましたのでその影響で異世界に繋がりやすくなり、私と波長があった何かを受信対象として声を繋いでしまったのでしょう』
なんてこった、本気で異世界召喚したのかあの四人。ラノベを読んでた時は主人公すげーなーとか笑っていたけど、自分が似た立場になったらわかる。凄いなんてもんじゃない、パニック必死だわ。
『申し訳ありません、異世界の少年。これは我々ミーデンの問題、貴方を巻き込む訳には行かないわ』
「一つ聞くが、召喚された人達はこっちに自分の意思で帰って来る事は出来るのか?」
『普通に考えると不可能でしょうね。今回そちらに繋がったのも偶々でしょう。仮に送還魔法があったとしても同じ場所に飛ばされる保証はないわね』
そりゃそうだよね、云わばあいつらは携帯の電波を道として移動したようなもんだ。で、偶々あの場所で通話が繋がり滑るように異世界へと転げ落ちた。それを逆に渡ろうとするなら同様に受信する場所が必要だ。……ん? 待てよ?
「なあ、仮になんだが世界樹……だっけ。その種子って奴の問題が解決するとこの電波? 通話? を安定させる事は可能なのか?」
そう、人間の魔力なら不可能でも世界がどうこうとかいう世界樹なら電波は五本ビンビンに立っている更にWi-Fiよろしく、俺の愛しのシロとモモが受信機の役割を果たしていると仮定すると!
『……世界の魔力、マナが安定すれば道を通って異世界移動する事は可能でしょう。ですが、先程も言いましたがすべてはこちらの世界の問題です。深く関わる必要は――』
「確かにそうかもしれない。僕は物語の主人公だなんてお世辞でも言えない。モブが精々だ。けど、モブが高根の花を助ける物語があってもいいんじゃないかって」
「そうだ! どうせだったらさ、うじうじ悩まず異世界に飛び込みたくなるようなメリットってないかな!?」
嗚呼、やっぱり僕はヘタレなモブ野郎だ。偉そうな事を語りつつも損得で判断するなんて――
『そう、ですね。この世界の特徴と言えば人間は剣や魔法で戦い、スキルが存在し、世界樹の種子を守る貴方は多くの精霊が味方をしてくれるでしょう』
むむっ、絵に書いたようなファンタジー世界だな。確かに憧れるけど、何かもう一押し……。
『後はそうですね、そちらの私の声を受け取っている者は精霊が宿っていますので、こちらに来れば一緒に旅が出来るぐらいでしょうか』
「行こう、世界の危険が迫っている。早く僕をそちらへ連れていけユグドラシル」
こいつの言葉通りなら、異世界に行けばシロとモモが精霊になってお話が出来るって事だろう? 行かない選択肢なぞないわ!
『えぇっ!? いいのですか?』
「構わない、早く導いてくれ」
そう告げると、壁に光るゲートのようなものが出現した。凄いな、異世界。
僕は必ずここへ帰って来る。だから、これはさよならじゃない。
「行ってきます、シロ、モモ」
植木鉢に咲き誇る大切な花達にそう告げ、僕は異世界のゲートへと飛び込んだ。
ここから僕の異世界ライフが始まる!!
こんな投げ槍な作品を読んで頂きありがとうございます。