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複数物語

作者: Koshi

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登場人物

・名前 秋山アキヤマ 双他ソウタ男 20歳前後

 身長170cm程度 中肉中背 黒髪 切れ長な目?

 性格 隠れ熱血 普段は冷静な感じ 自身より仲間を優先する.

 ゲテモノが好み 家事得意

 元・救世の乙女ジャンヌ・ダルク団長 第1次世界オリジナルハイヴ攻略作戦でのミスにより人類は敗北,データ削除へ.その責任を感じ単身での戦闘に固執している.


・名前 月宮・Bブラージュ・アカセ(紅瀬)女 20歳前後

 身長 165cm程度 お姉さん体型 金髪碧眼

 性格 はっちゃけた性格,オープン.秋山を守る?

 天才肌だが家事は苦手 秋山を愛している

 元・救世の乙女・副団長 現・七英雄サーヴァントの団長 前世界でのことで秋山に避けられているが,愛している.第1次世界でのことを教訓に旅団を結成.


蝶乃チョウノ女 小学生?(25歳)

 身長150cm ペッタン 無表情 金髪紫眼

 性格 冷静沈着 微感情 ハッキリしている,が抜けているところも.

 ラムネ菓子が大好物

 秋山専用のCP


・エングレス・ザッハクルト 男 30歳↑

身長 180cm 浅黒い肌 濃い茶色 刈り上げ 黒眼

面倒見の良い性格 豪快 新兵の育成に熱心 強面だが優しき教官役

 実は第1次世界経験者 雛鳥のバーヅの団長


・荒居 新之助 男 16歳

 身長170程度 普通の日本人 眼にかからない程度の髪型 黒眼

 臆病で無知ではあるが芯の通った性格.中肉中背

 新兵


・アーニャ・グラタスキ 女 19歳

 身長165cm 普乳 少しキツ目の顔 銀髪

 性格 騎士風な性格,言動 生真面目 仲間を想うことにかけては人一倍

 北方騎士団ヴァーティアスク団長 南方旅団と仲が悪い


・ギリシアム・トドコロス 男 21歳

 身長162cm 赤髪 赤眼 白に近い黄色

 性格 激情家.すぐに熱するが生き残ることを第一としている.仲間想い.

 南方旅団ア・カトラシア団長 北方騎士団と仲が悪い


・相良 進 男 30歳

 身長173cm 黄色肌 黒髪 黒眼

 性格 落ち着き払った性格.糸目

 東方騎兵隊ツツノミ団長 西方知識連合と仲が良い



・アンナ・バートル 女 26歳

 身長 165cm 小さめ 眼鏡 茶髪 茶眼

 性格 ぽわぽわとした喋り,性格 アラアラ系 糸目?

 西方知識連合ノーレッジ団長 東方騎兵隊と仲が良い.

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出国01





 女のくせに、だなんて言ったらいろんな人に怒られてしまいそうだが、とにかく女のくせに国近はあまり自分を着飾るということをしない。普通女の人ってそういうもんじゃないの? と面と向かって訪ねたことはないが、きっと彼女のことだから「面倒だしねぇ」と返してくることだろう。

 だから正直予想していたといえばしていたことだが、まさかの破壊力に出水は思わず掌で目を覆いたくなった。だがそんなことをすれば「どうしたのいずみん~」だなんて言いながら己の顔を覗き込んできてもっとまずいことになるだろうからどうにか抑える。


「その……」

「んん?」

「そのジャージって、中学の時の?」


 そうだよ~とゆるい口調で答える柚宇さんの身に纏うジャージは、自身も通っている高校の体操着とは異なる色・形をしているもののどこかの学校のものということが容易にわかってしまうデザインだった。

 しかしそのジャージはどういうわけか彼女の体にまったくもってあっておらず、折られている袖を伸ばせばきっと裾から辛うじて指が出る、所謂『萌え袖』状態になること間違いなしだろう。あ、それはなんだかそそる、と健全な男子高校生は邪な考えを抱きつつもそれをすぐに追い払う。物理的に手で払う、なんてことはいなかったがぶんぶんと首を横に振ってしまったが故「どうしたの?」と国近が首を傾げる。それになんでもないと簡単に答えると、彼女の座るソファの横を陣取る。なるべく彼女を見ないようにしながら。


 ボーダー内、太刀川隊の作戦室において出水の定位置は国近の座るソファの隣、というのが最近では確立されてきており、抜けているようで意外としっかりしている――ちゃっかりしているともいえる――太刀川は兎も角として、どこか空気の読めない後輩の唯我さえも国近の隣に座るだなんてことはしなかった。

 これ幸いと自分も遠慮なく国近の隣を陣取るのだが、果たしてそれはただしいコトなのだろうか。―――ただしくないコトってのが何かはわからないのだが。



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l_wt01-07

【 磨 羯 宮 】

27. 物語の外にいる二人


 この世界に髪がいるとしたら、その存在はひどく残酷なものであると、常々私は考える。




 換装体に身を包み、梓はコツリコツリと響く足音を気にせず、ひどくゆっくりとした歩調で男のそばへ向かう。だが、声をかけるよりも早くに男は梓の存在に気づき、視線をこちらへと向けた。その表情は普段換装しているときに浮かべているような好戦的なものとは打って変わり、まるで抜け殻のようだなと梓は思った。


「どんな感じ?」


 曖昧な問いかけではあったが、この状況下においてはすぐに意味は分かる。

 太刀川は「どうもこうもねえよ」と冷たく言い放つと、すっと梓から目を逸らし、梓が尋ねた言葉の答えを持っているものをじっと見つめる。

 そっか、と梓は短く返すと太刀川のすぐ隣で壁に寄りかかり同じ方を向く。


 黒トリガー、《風刃》

 最上宗一という男のなれの果てであるそれは、現在行われる争奪戦の勝者の手に渡るべく、高みの見物をしていた。


「ひどいひと」


 その呟きは、現在戦闘中の最上の弟子には届かなかったが、隣の男にはあっさりと届いてしまう。それが狙いだったと言えばそうなのであるが、届かなければ自分も戦いに向かうつもりであったために、あてがはずれたと梓は肩を竦める。

 もっとも、争奪戦に参加したところで梓は《風刃》を手中に収めるつもりはさらさらない。起動ができるというだけで、なぜ、


「あんなものを手にしたいと思うのかしら?」


 口にした言葉同士は繋がっているようにも思える。深くこの場を、最上という男やその弟子、そして梓を知らぬものからしたら、彼女の言葉は迅悠一という男へ向けた軽蔑の言葉としてとらえただろう。

 だが、隣の男は最上も迅も、梓のこともよく知っていた。

 前者の二人を、知りすぎていた。


「俺に、そんなこと聞くなよ」

「聞いたつもりはないわ。ただ、独り言をつぶやいただけ」


 ジロリと横目でにらみつけてくる太刀川へ顔を向け、にっこりと笑みを浮かべる。


「あぁそうかよ。でも、その答えならお前はよくわかっているんじゃないのか?」

「何でもかんでもサイドエフェクトを使っているだなんて思わないで。あと、苛立っているのはわかるけど私に八つ当たりしないでちょうだい」


 今度は打って変わり梓が太刀川を睨みつける。一触即発といった空気が二人の間に流れた途端、何かに気が付いたように梓が長い髪を揺らしこちらへ来たとき同様ゆっくりとその場から二、三歩離れた位置へ移動した。太刀川はその意味が分からなかったが、持ち前の戦闘の勘で何かに気付く。

直後、ヒュッと音を立てて二人に向かって欠けた刃が飛んできた。


「ったく、迅の奴……」

「戦いの邪魔をせず、見ていろ……ってところかしらね」


 戦闘中の誰かが、メテオラを放ったようで爆風が二人の元まで届いた。戦うつもりがないのにステージに入るなと言われたことを思い出しながら、梓は風でぶわりと舞い上がった髪を押さえながら壁際まで下がり、防御する気がないのかそのまま壁に身を預けている太刀川の分も含め二人分のシールドを展開する。

 接近戦闘を行っているときにメテオラなんて放てば自分だって危ないだろうに、風刃発動候補者はそれさえも覚悟で他者の、もっと言えば最有力候補であろう迅の排除にかかった。


 だが、そんな攻撃で止まるほど、迅悠一は甘くない。

 梓の直感は読み漏らしたが、彼の予知は攻撃が見えていたようで、候補者がメテオラを放つよりも先に他者を薙ぎ倒しその者達を盾としていた。

 そのやり方に候補者たちは口ぐちに「そこまでやるかふつう!?」「えげつねぇ」と不満のこもった声を漏らす。

 それには太刀川は眉を顰め、梓は展開していたシールドを解除するなり右手をすっと前に向けた。


「あれのどこが悪いんだ」

「それが分からないやつらはその程度ってことよ」


 言い終えるが早いか、梓の手には黒い銃身・イーグレットが握られていた。それを構え狙いを定めると、二度ばかり立て続けに弾丸を放ち、二人の候補者をベイルアウトさせた。

 完全に傍観者だと思っていたであろう候補者たちは驚き数名が意識を梓へ向けたが、その瞬間に迅の鋭いスコーピオンの刃を突き立てる。


「梓さん」


 怒鳴るような、それでいて弱っているようにも聞こえる声が響く。


 ―――邪魔しないでくれ


 そう、言っているようにも、聞こえる。梓はハッと鼻で笑うと、イーグレットを再び構えた。


「あんなやつらに時間かけているお前が悪い。私にとられたくなかったら、早く終わらせろ」


 梓の言葉に候補者たちは目を剥いた。それでは、これからは迅の攻撃に加え梓の狙撃にも注意を払わなければならないということなのだろうか。それなら先に彼女を、という考えのものは、その瞬間に頭を吹き飛ばされベイルアウト。


「その程度の考えで、風刃をとろうと考えるだなんて、ほんと、わらえてくる」


 そういう梓の表情はちっとも面白くなどなさそうで、「くだらない」と吐き捨ててもおかしくないだろうと太刀川はその横顔を見つめる。


「風刃が欲しいなら、私なんかよりも迅を、それこそ死ぬ気で倒すべきだろう。そんなこともわからないやつは、全て私が殺してあげる」


 その囁きは候補者たちへは届かない。だが、きっと独り言ではない。太刀川は目を瞑り梓から目を逸らした。


「本当に、ひどいひと。なんであんな人たちにも起動できるのかしら。なんで、命を背負うことのできない人にも、起動できるのかしら。……これじゃあ、迅が報われないじゃない」


 梓の手からイーグレットが消えた。その手を右耳へ持っていくと今はない黒いイヤリングを想い、耳を押さえる。


「自分の大切なものの命を他者へ奪われるくらいなら、えげつなかろうと、卑怯だろうとも、奪おうとするものを殺すのが、当り前なんじゃないの?」

「泣くなよ」

「泣いてないわよ。トリオン体馬鹿にしてんの?」

「だったらそんな顔するな。これは迅の問題であってお前が口を出していいことではないだろ」


 にゅっと伸びてきた手が梓の頭を掴むと、優しさも何もない手つきで頭を振る。そこはせめて撫でろよと思ったが、太刀川なりの思いやりなのだろうと直感するまでもなく気付き、あきらめされるがまま頭を揺らす。


「それに、あんな雑魚が、俺のライバルに勝てると思っているのか?」


 太刀川の言葉に梓は目を見開く。途端に手が離れたので彼の方を向けば、なんとも凶暴そうに嗤う太刀川の顔が目に飛び込んできた。


 それもそうねと梓は肩を竦める。

 ほんと、無駄なことをしに来ちゃったわね。




 直後、二人を除いてすべての候補者が倒れる。


 一人は風刃となった最上の弟子・迅悠一。

 もう一人は、東條梓。


 後者は既に別の黒トリガーを手にしているため、性格には候補者にはなりえなかったため、自動的に風刃は迅の手へと渡った。





20151112


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出国03


「国近ってさー、男に媚び売りすぎじゃね?」

「あ、わかる。語尾伸ばしたりしちゃってさ、かわいいと思ってるわけ?」

「思ってなかったらやらないでしょ!」


 ぎゃははと下品な笑いを漏らし、女子生徒たちは念入りにマスカラをなおす。化粧を禁止されていないこの学校において、化粧をしていないおんなというのは大変少なく、どれだけ綺麗に、どれだけ美しく、どれだけ制服に合わせられるか、皆競うように、念入りに化粧を施す。


「すぐ男に抱きついてさ、ボーダーの仕事だって、絶対体でとったんじゃん」

「やだー下品よそれ」

「カマトトぶってんじゃないわよ! そうでなきゃあんな馬鹿がA級一位? のチームにいられるわけないじゃん」

「それ、言えてる」


 おんなたちは好き勝手言い、満足したところでその場を後にする。

 個室に二名ほど、おんなたちとは関係の人間がいたことに気付くことなく。


 そのうちの一人、今結花は、ギイ、とゆっくり個室の扉を開くと、隣の個室から困ったように笑いながら出てきた友人に向かって、「いつから」と短く問いかける。その表情は大変恐ろしく、正直に答えればまずいと分かったのか、友人はただただ困ったように笑うばかりで絶対に口を開こうとしない。

 今は呆れたように溜息を吐くと、水道の蛇口を開き手を洗う。先程の女子生徒たちは香水をつけていたようで、混ざり合った匂いが自分の服にうつってしまいそうで、再びため息。どっちが男に媚びているんだか。人工的なにおいが苦手な友人も手を洗いながらその匂いに顔を顰めている。彼女は特別何かの香りをつけようと思ったことがないらしく、いつも彼女からはシャンプーらしき石鹸の香りが漂ってくるだけ。そういえば彼女のチームメイトである年下のおとこのこが「そこが最高。だけど毒」と言っていた。高校生男子らしい言葉だが、その言葉を聞いたのがその『最高な毒』である彼女と同級生の女子高生ということに気付いてほしい。

 ハンカチで手を拭き、ポーチから薬用のリップクリームを取り出し塗り直しながら、今は再び先程の言葉を友人に向ける。


「いつから、あんなこと言われてるって気付いてた?」


 友人は、国近は確かにそれほど頭はよくない。同じボーダー隊員であるA級二位の当真と二人、試験前になると自分に泣きついてくるのだからそれは確かである。

 だが、馬鹿ではなかった。そういう悪口を言われていることに、彼女が気付かないわけがない。周りをよく見て、判断を下す力がなければ彼女はA級一位のオペレーターなど努められないだろう。その点は同じオペレーターである今は自信を持って言えた。


「結構前、かな。よく覚えてないんだ。別に直接の被害があったわけじゃないし」


 だからそんなに怒らないでよ~。そう言いのけた国近は、癖の強い髪を濡れた手で直しながら、鏡越しに今の顔を伺う。笑っているはずの表情はどこか諦めているにも見えて、今度は国近に向けて怒りが湧きあがってきた。

 なんで、嫌なことを、嫌って、言わないのよ!

 鏡越しなどではなく、今は直接国近をキッと睨みつけると、国近の頬を両手で掴み己の方を向かせる。先程洗ったばかりの手はひんやり冷え切っており、びくりと国近が肩を震わせたのが分かったが、今が止まることはなかった。


「たしかに国近は頭悪いし、そのくせして暇さえあればゲームばっかりだし、勉強教えようとすればすぐ逃げ出すし! なんであんたがA級一位になるのよって思うこともたくさんある! その胸寄越せって思うしその胸で誰彼かまわず抱きつくなこのEカップ! 出水くんが煩いのよ! どうやったらそんな胸になるのよ教えなさい!」

「今ちゃん…………わたし、こんちゃんのことばになみだがでそうだよ……」


 突然始まった今の言葉に、「なみだがでそう」以前に国近の瞳には薄ら涙の膜が張られていた。最後の言葉に至っては完全に今の八つ当たりである。出水云々に関してはよく意味が分からないのでスルー。


「だけど!」


 パチンと今が国近の頬を両手で叩く。痛みはなかったが突然のその行動に目を丸くしていれば、どういうわけか今が泣きそうな目で国近を睨みつけていた。

 えぇ、泣きたいのはこっちだよ……。そうは思っても直接それを言えるほど国近は強くない。いつも勉強を教えてもらいどうにか赤点を回避させてもらっている今には殊更頭が上がらなかった。


「国近が体でA級一位になったわけないし、ボーダー隊員なら誰だってそんなこと信じない。国近頑張ってるもん。私しってるもの。だからそんな諦めたような顔しないでよ!」

「今ちゃん……」

「ああいうやつらに直接言いに行けるわけないってのはわかってるけど、でも、何も知らないやつらにうちの国近が貶されていいわけがないのよ!!」


 感情の昂ぶりにより、遂には国近よりも早く泣き出してしまった今。

 そんな彼女に、国近は焦るでもなく同じように泣くでもなく、どういうわけか笑い出してしまう。声を上げ実に楽しそうに、嬉しそうに笑う国近に、今は驚き涙が引っ込んでしまった。

 そっか、柚宇は今ちゃんのなのか。笑いを含みながら国近の口からこぼれたことばに、今は頬が紅潮するのがわかった。すぐ近くに鏡があるのだからそれを見れば絶対に耳まで真っ赤だとわかってしまう。国近の頬から手を離すと、鏡を見ないようにしながら国近からも目を逸らす。思わず飛び出してしまった言葉だったが、国近がそれを馬鹿にして笑っているわけでないのはわかる。だが、どうして彼女がこんなにも笑っているのか分からず、またどうすればいいのかもわからず、今は


「そうよ! 国近はうちの子なの!」


 と言い張ることにした。

 それを聞いて国近は一層笑みを深めたので、遂に今は「まぁいいか」という気持ちにさせられてしまい、一緒になって笑った。






 ただ、「まぁいいか」なのは国近自身のことだけであって、あのおんなたちは全然「まぁいいか」ではない。






 ある日の放課後。女たちは浮き足立った様子を隠そうともせず、手紙に合った通り校舎裏へと足を運んだ。

 所謂『呼び出し』というやつで、そこに呼ばれたのは一人の女だけであったにも拘わらず、おんなは自分の所属するグループのおんなたちを連れ立って校舎裏へ来た。

 人目のないそこは生徒の間で『告白スポット』と言われており、手紙の送り主の男は手紙に用件は何も書いていなかったが、そこに呼び出すということは、つまりはそういうことである。


 校舎裏まで来て、おんなは何かがおかしい、と気付いた。


 ざわざわと騒がしい校舎裏。そこには、手紙の送り主もいたが、それ以外にも多くの生徒がいた。学年もクラスもてんでバラバラで、共通点などなさそうに見えたが、ひとりひとり顔を確認するうちに、おんなは気付いてしまった。


 ―――全員、ボーダーに所属している


 むしろ、この学校にいるボーダー隊員全員が集合しているのではないかと疑ってしまうほど、戦闘員も、オペレーターも関係なく、ボーダーに所属しているというだけの共通点をもった男女が、この場に揃っていた。

 ひとりが、おんなとそのうしろのおんなたちに気付いた。肘で手紙の送り主をつつき、「ほら行けよ」とわらう。おんなたちは気付かなかったが、その目はまったくと言っていいほど笑っておらず、きっと彼は近界民を彼の得物である槍で薙ぎ払っている時の方がいい顔をして笑うだろう。

 彼の言葉で、ざわめきが収まった。その場を代表するように手紙の持ち主が彼らよりも一歩前に出る。


「来てくれてうれしいっす。ありがとうございます、センパイ」


 最後の単語には敬意もなにもあったものじゃない。しかし、男の顔は実に楽しそうで、状況も忘れておんなたちは顔を赤らめる。

 直後、男の後ろから「ほんと、どっちが男に媚びているんだか」と吐かれた毒に、赤らんだ顔を引っ込める。


「い、出水くん……これ、どういう、こと?」


 唇を震わせ尋ねる。普段であれば、また深く事情を知らないものからしたら、おんなのその姿は加護欲をそそられるものだっただろう。だが、手紙の送り主は、ボーダーA級一位太刀川隊のシューターは、出水公平はそんなこと一切思わない。


「ちょーっとセンパイ方に行っておきたいことがありまして。ご足労いただきありがとうございました」


 わーやらしい、と笑いの含まれた言葉が聞こえる。意味も分からず、おんなの背中につうと汗が流れた。


「絶対体でとったんじゃん」


 出水の短い言葉は、おんなたちには心当たりがある。ありすぎた。

 はっと小さく息を呑み、「どうして、それを」と言葉を漏らす。

 出水はその問いかけには答えない。代わりにそれまで浮かべていた笑みを消しさり、ゆっくり前に、おんなたちの方へ、進む。


「ねぇセンパイ方、その言葉のいみわかる?」


 一歩、また一歩と、おんなと出水の距離は縮まる。

 逃げ出したいのに、出水の後ろにいる他のボーダー隊員たちがそれを許さない。

 国近が、言いふらしたのか。おんなたちは、その集団の中から国近の姿を探そうとするが、多くの人の中、国近の姿だけがなかった。ほかのボーダーはいるのに。なんで、国近だけ、いないのよ。


「柚宇さんならいないよ。あの人こういうの興味ないし、第一あの科白は柚宇さんから教えてもらったわけじゃあないから」


 もうちょっと頼ってほしいのにという出水の顔は、この場に似合わず大変甘い。きっと彼は内心「そこがいいんだけど」と思っていることだろう。


「で、言葉の意味。わかる? わかんないか」


 尋ね直しながらも、出水は早々に結論を突きつける。

 わかっていたら、あんなこと言わないだろうから。

 おんなの目と鼻の先、出水が手を伸ばさずともすぐに届いてしまうほど近距離で、出水はわらう。


「あんたたちは、柚宇さんだけでなく、ボーダー全体を馬鹿にしたってこと、わかんないか」


 もし仮に、国近がその地位を体でとったとして。それを許したボーダーという組織は、いったいどうなる。この組織は、そんな甘いものじゃあない。子供に戦わせているという時点で清廉潔白とは言えないが、それでもこの組織は、腐り切ってなどいない。


「ここであんたたちにナニカするのはすっごく簡単なことだけど、そんなことしたら根付さんに叱られるだろうから、やめといてあげる」


 出水はおんなたちに背を向けると、仲間の元へ再びゆっくり歩きだす。途中、「そうそう」と思い出したように振り向くと、にっこりという効果音が付きそうなほど鮮やかな笑みを浮かべる。


「次はないから」


 その声は冷え冷えとしており、どれだけ本気であるかがうかがえる。

ひとりが、地面にへたり込んだ。それを切っ掛けにふらふらと崩れ落ちる。


 どうやら、自分たちは知らず知らずのうちに、毒を飲み干していたらしい。



20151114 … the work of a poisonous sweets

 ボーダー隊員の結束力は相当固いんだろうなって話。トリオン体のときは死なないとはいえ、いのちのやりとりをしているわけだし。

 タイトルは国近ってある意味毒だよねって。そうと気付かれない、ものすごく甘くて柔らかい、綿菓子みたいな毒。ということで有毒なお菓子の作用。それに気付かずおんなたちは毒に触れ、おかされる。出水もその毒にやられているけど、あいつの場合自分から嬉々として飲み干しているだろうからいろいろパス。







 ネチネチ国近にいう女子がいる

 気にしていないけどちょっと傷ついてて今ちゃんにばれて起こられる

 確かに国近はだめだめだけど(いろいろ貶す)、でも戦闘オペレーションに関して頑張ってるの知ってるし、第一体でなんてそんなのあり得ないってみんな知ってるから!

 今ちゃん、その言葉で泣きそうだよ(貶された部分)


 その後こっそり今ちゃんから出水へ連絡

 出水がきっちり制裁、というか釘を指しておく

 後ろに米屋従えていたり

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wt03

「あ」


「どうしたんだよ。なんか見えたか?」


「うーん…………いやまあ見えたんだけどさ、」


「珍しいな、迅が戸惑うなんて。そんな不味いものでも見えたか?」


「俺だって戸惑うことあるよ。それをいったら太刀川さんだって戸惑うことないじゃ…………うわ太刀川さんまた課題やってないの? 月見が太刀川さんのこと踏んでんだけど」


「踏んでるってなんだよ未来だろ。余裕余裕」


「十分ぐらいあと、かなぁ……」


「………………」


「わー太刀川さんが戸惑うなんて珍しいなー」


「んな棒読みで言われても…………で、何が見えたんだ?」


「誤魔化されてよ。てか月見のことはいいの?」


「お前の相談受けててそんな場合じゃねえって言うから問題なし」


「………………」


「えっなんだよ問題あるのか?!」


「わぁ…………頑張って生きて、太刀川さん」


「……なに、えそんなまずいの?」


「まずいまずい」


「えー……うーん…………」


「課題やったら? てかなんで月見が踏んでんだろう……」


「そういえばこの間蓮と喋ってたら教授に「君たち仲いいの?」って言われたわ」


「……それで?」


「幼馴染みだからまぁ仲いいっちゃいいかなって答えた」


「それだよ……うわ月見かわいそう。絶対その教授の中で月見は太刀川さん要因になったよ……」


「なに、サイドエフェクトがそう言ってる……ってか?」


「それ俺? 似てないよー。てかサイドエフェクトに頼らなくってもわかるってそれくらい」


「まじか」


「まじだよ」


「んーーじゃあ課題するわ」


「頑張って太刀川さん。俺はもういくけど」


「いや俺頑張るけどお前も頑張ろうぜ」


「何いってんの!?」


「いいじゃん」


「えーうーん…………あいやだめだわ、そういえば俺前に太刀川さんの課題手伝って風間さんに叱られたばっかだし」


「え、いつ?」


「ほらー、あの、一月か二月ぐらい前」


「あー、大規模侵攻明けか。そういえば頼んだっけ」


「俺あのとき風間さんに「太刀川さんの課題は手伝わない」って誓っちゃったから、頑張って!」


「うわなんだよお前その良い笑顔…………つーかそろそろ十分たつんじゃね。蓮来る気配ない! よっしゃ!!」


「あれーおかしいなー」


「…………まさかお前」


「いやいや」


「いやいや」


「いやいやいや……」


「やっぱりーー! お前さらっと嘘ついてんじゃねえよ! くっそ本当だと思って焦ったじゃん…………そんなにお前さっき見えた予知話したくねえの?」


「うわ覚えてた。そういう記憶力もっと他で発揮しなよ……」


「ほらほら、言っちまえって」


「えー……うーん……笑わない?」


「内容による」


「えぇー」


「なにお前が面白おかしいことでもすんの?」


「うーん……いや俺じゃあないけど」


「じゃあ良いじゃねえか」


「……まあいっか。この程度なら」


「? おう言っちまえ言っちまえ」


「あのね」


「あぁ」






「嵐山がヘリで登場して木虎助けてた」






「………………」


「………………」


「………………え」


「うん」


「それで?」


「めちゃくちゃ似合ってたんだよ……! なんだあのイケメンオーラ……さすが広報担当!!!」


「えぇーー」


「なにさ」


「笑う要素全然ねえじゃん。もっとこう、嵐山が腹躍りするとかそういうのじゃねえのかよ」


「それやったの何年か前の忘年会の忍田さんじゃん」


「あれは凄かった。一瞬弟子入りを考えた」


「あんた既に弟子じゃん」


「そうだけどぉ」


「可愛くない可愛くない。なにそのぶりっ子ポーズ。口許に手ぇ持っていくならせめて髭剃りなよ」


「なんでお前そんな俺に厳しいの?!」


「反応が予想外すぎたんだよ……いや、あれは俺が深読みしすぎただけか」


「深読みってなんだよ。なに、お前がヘリで登場して木虎助けるのでも想像したとか?」




「………………」




「………………」


「………………」


「………………え、まじで?」


「もーーー太刀川さん黙って月見に踏まれてきてよ」


「うっわそれは笑うわお前らがいくらエセ双子つったってそんな想像するとかうわまじかよ!! っははははは!!」


「腹抱えて笑うなんて! 笑わないでっていったじゃん!!」


「言ってねえよ! 笑わない? って聞いただけじゃねえか!」


「どうでもいいよ! うーわこれ俺一人が恥ずかしいやつだ」


「お前に実際起こる訳じゃねえのになに恥ずかしがって……っは、うわ、だめだ……っ」


「もーやだこの人ーー!」


「っはは、はっうわ、うわそれ考えるとめっちゃ嵐山バージョン見てぇ」


「なにその嵐山バージョンって! 迅バージョンないから! あとそのとき太刀川さんも任務に出てるから無理!」


「そこまで見えてんのかよ」


「あーーもうそこまで見えていながら太刀川さんのこの反応読み逃すってなんだよ俺のサイドエフェクト……仕事しろよ……」


「まあまあ落ち着けって」


「それ俺が太刀川さんに言いたいからね、…………あ」


「なんだよ、また何か見えたのか? 嘘は止してくれよ」


「…………いや、なんでもない」


「なんでもなくないだろその顔は! お前鏡見てみろってめちゃくちゃ笑い堪えてるかおだぞ!」


「ほんと、たいしたことな、から」


「言えてねえし…………えー……今度こそ本当に蓮が来るの?」




「残念ながら月見ではないな」




「………………」


「………………ぷっ」


「嘘ぉぉ忍田さんなんでえ何、何かあった? 出動? 太刀川隊出動? お願いそういって!!」


「私が何できたかはお前が一番わかっているだろう!」


「太刀川さん太刀川さん」


「うわーーえなんだよ」


「たいしたことじゃないんだけど、さっき太刀川さんが忍田さんに膝詰めで説教されてるの見えたんだ」


「たいしたことだろそれ!! っあ忍田さん耳だめちぎれるっだだだ」


「慶、いいからちょっと来なさい」




「頑張れ~」




「卑怯もの! そんなに俺が笑ったの嫌だったのかよつーかもとはお前が悪いんじゃっだ忍田さっいたいったいたいいたい」


「うるさい! いいから来なさい! 全くお前はいくつになったと思っているだ! 課題をためるなと何度いったと思ってる!!」












***


 夏休み最終日とか毎年言われてたよね太刀川さん。


 以上ワニメアラジュン感想でした! 書いてて楽しかったです! 正直落ち失敗した感あるけど!










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皮肉屋とツンデレ - 一章


 大けがで倒れている男を発見

 助けようと救急車を呼ぼうとしたところで男に止められる

 意識を失ってもなお千景の腕を強く掴み救急車というより他の外部との接触を阻もうと



 翌朝

 看病しているうちに眠ってしまっていたらしくはっと起きると布団の中に男はおらず、だがまだ冷たくないことから遠くへ入っていないだろうと部屋をバタバタと飛び出す。

 外へ出ようとしたところで「女性ならばもっとおしとやかにしないか」と皮肉めいた言葉が飛んでくる。

 そこにはTシャツにジーパンというラフな格好をした男の姿。どういうわけかおいしそうな匂いも漂ってくる。

「な、ななな、なんで、あんた怪我はどうなったのよ!!」

「それならばすでに治ったが? あぁ、少し傷は残っているな」

「ふざけてんじゃないわよ! あんな重症だったのに、少し傷は残っているな、ですって!? なんなのよあんた人間やめてんじゃないの!?」

「一応人間という枠組みのはずだが……」

 首を傾げる姿は先程は気付かなかったが眉目秀麗という言葉は彼のためにあるのではないかと疑いたくなるほどかっこいい。鍛えられているのか鬱陶しすぎない程度に体には筋肉がつき、いかにも戦う男、といった空気を醸し出している。

 だがそんな容姿に対する千景の思考は、次の男の言葉によってかき消されることとなる。


「私は、魔法使いだからな」


呆れたように千景は男を見る。

「嘘つきにもほどがあるわよ」

「嘘は苦手だ。……まあ、信じられなくとも無理はない。人間は自身の常識から外れたものを認めようとしない生き物だからな」

「むしろそんなことを言って信じてもらえたらその相手疑ったほうがいいわよ」

 その言葉に男は驚いたように目を見開く。

「君に人を『疑う』という概念があったとはな」

「どういう意味よそれ!!」

「道端に倒れていたからといってほいほい男を家に上げるな、という意味だ」

 救急車を呼ぼうとしたのに止めたのはどっちよ、と叫ぼうとしたところで、「紅茶が冷める。早く顔を洗ってきなさい」と言いどういうわけか男はダイニングへと向かう。


 どうしようもないうえ男を自宅に招き入れたのは自分のため男を諌めようにも元をたどると自分に非があり、あきらめて男の言うとおり顔を洗いダイニングへ向かうとほかほかと湯気が立つ朝食の数々

「これ……あんたが作ったの?」

「まさかあそこまで材料がないとは思わなかったが、そうだな。質問の答えとしてはYESだ」

「…………朝食は食べないの」

「私が言ったのは朝食の材料が、ではなく食事の材料がという意味だ」

 わかっているだろうと言いたげに千景を見る男に誤魔化すよう「食べていいの?」と尋ねる。

「危機感がないと叱りたくはあるが助かったのもまた事実。助けられた礼としてはこれだけでは足りないだろうが、どうぞ召し上がれ」

 一言も二言も余計な男だ、と顔をしかめながらも席に着き一口。思わず口を押えれば「口に合わなかったか?」と男が尋ねる。

「逆よ! すごく、おいしいわ……久しぶりにこんなおいしいごはん食べた」

「あそこまで冷凍食品やら出来合いの総菜だらけの冷蔵庫というのは初めて見た」

「カロリー計算や栄養は考えているし、別に食べ物なんておなかに入れば同じだと思っていたのよ」

「…………いったい君の母親はどんなものを食べさせて育てたんだ」

「食事の準備は父がしていたのよ」

 そこでようやく気付いたのか男は「ご両親はともに暮らしていないのか?」と問う。千景はそれに「暫く会っていないわね。世界中を回っているとか言っていたかしら」となんでもない風に答える。

 男の名を問う

「で、魔術師なんだっけ?」

 千景の言葉に何か引っかかるものを感じながらも貴臣はうなずく。

20150923

 何か証拠はあるの?と尋ねながら学校へ行くことをあきらめる千景。あとで電話しなくてはと考えながらじっと貴臣を見つめれば、証拠と言われても魔力が空でどうすることもできないと言われる始末。「魔力切れぇ?」と訝しげなかおををみせる千景に、貴臣は代わりにディメンションジッパーをとりだす。手芸店に打っていそうだが、普通の洋服に使われているよりも大きさは三倍はありそう。マジックアイテムだ、と言い手渡され、わあまたどっかの青狸が持っていそうな、と頭を抱えたくなりながらもしげしげとそれをながめる。これが何?と尋ねながら返せば、「これならばのこった魔力でも扱うことができる」とつぶやき、ジッパーを引く。まるで袋が開くように空間が裂け、貴臣はそこに手を伸ばすと、そこから到底掌に隠すことは不可能なサイズのもの、昨晩着ていた血の付いた服を取り出した。

「これでしんじてもらえるか?」

 千景は素直に一つ首を縦に振った。


 自分を助けたことによって君も狙われるだろう。大変申し訳ないことをした。安全とわかるまで君を守るのでしばらくここにおいてくれないか。ご両親への説得はどうにかやってみる。それに……。いいかけやめる。なによ、と千景は聞くも誤魔化す。心の中で、(この家は、魔術耐性がありすぎる。彼女はどうにも魔術師には見えない。ならばその両親は……)と思っていれば「一人暮らしだから説得なら私を説得すべきね」となんでもないふうにいう。前言撤回。やはり近くに家を借りる、と言い出した貴臣に、部屋は余っているから別にかまわないわよ。傷も心配だし、あんたの話が本当か知らないけど、私も狙われるかもしれないんでしょう。だったらいいわよ。そのかわり食事当番は貴方だから。にっこり笑いながら手を差し出す。よろしく、と。

 奇妙な同居生活が始まる。


 

20151125

20150923


<カット>

「弁当を作ったというのに忘れていくとは何事だ」

「あんたは私の母親か! まめ過ぎてもういやなんなの……女として負けている……っ」

「そう思うならば料理を覚えろ」

 やり取りをし、弁当を受け取り教室に戻ろうとする。が何かに気付いたように当たりを見渡す貴臣に「何かあったの?」「……いや、気のせいだろう」

 別れ教室に戻るなりクラスメイトに「あのかっこいい彼とどういう関係!?」と質問攻め。一先ず、親戚で今うちに居候していると告げその場は収まる

<カット>


 時間は流れ夜8時。学校でずっと眠る千景

 気持ちよく寝ているところを貴臣が容赦なく起こす。何時だと思っているんだ、と。部活動か何かかと思えば眠りこけているとは何事だ。

 最近いつもそうだ。授業が終わると睡魔が襲ってきてしまいどこでも構わず眠ってしまう。今日眠っていたのは自教室。どういうわけか警備員は起こさない。

 「探しに来てくれたの?」「《お守り》を渡しただろう」

 ネックレスを取り出すと石が淡く光っている。「それをたどってきた」と答え、「突然の睡魔……か」と何かを悩む。直後千景の心臓が大きく鳴り響き胸を抑えうずくまる。

 どうしたと支えれば吐血する千景。「治癒術は苦手だというのに……っ」と文句を言いながら魔術を使おうとしたところを背後から切られそうになり、咄嗟に千景を抱えそれを防ぐ。

 若い男。名をカルバドス。赤髪をもち林檎とからかうことも。

 苦しみながらも「なに……」と尋ねる千景に、「君に助けられる要因を作った男だ」と傷を負わせたものであることを告げる。「あの時の気配はやはり貴様か」「気付いていないかと思ってたのに、さすがは《執行者》」

 立つのもやっとな千景だが《執行者》という単語に驚き目を見開く。

「ん、なぁんだやっぱり嬢ちゃんはそっちの関係者か」

 魔力が旨かったから貰っていたが、てっきり一般人だと思った、と。

「どういうことだ?」

「吸っても吸っても吸い尽くせない莫大な魔力。そのお嬢ちゃんはそれをもっていてなぁ。俺の力の源になってもらったってわけよ。だけど嬢ちゃんがそれに気付く様子はない。だから一般人だと思っていたんだが……」

 険しい顔をしながらも「私は……ただの、一般人よ」と荒い息を吐く。

「ま、ようやくそれも吸い尽くせたことだ。安心して……死んで良いぜぇ」

 その一言で再び激しく吐血。苦手とはいいつつもどうにか治癒術を発動させ千景の治療を始めるも全く効く気配はない。

「無駄無駄。魔力を吸い出すなんて行為、無理やりヤってるに決まってんだろう! そのおかげで嬢ちゃんの体に負荷がかかっているんだ。ただの治癒術で治るわきゃねぇじゃんか! そんぐらいあんたならわかってんだろう、なぁ、《執行者》ァ」

 息を荒げながらもどうにか貴臣に聞こえる程度の声量で「あの男、倒したら……私に魔力は、戻ってくると思う?」と尋ねる。「わからない。……だが、魔力とは本来他者のものを奪うなどできぬもの。奪った君の魔力は君へ戻ろうとあがいている……と思う。おそらくは」「…………なら、話は簡単じゃない。もともと、追っていたんでしょう? 昨日の朝、あんなにも早く傷が治っていたんだもの……いい加減、完治しているんじゃ、なくって?」

 ほぼ治ったと答える貴臣に「100%、完治させなさいよ、ねぇ!」と苦痛に顔を歪めながら足元に魔法陣を展開。

「おいおい何をする気……っ!」

 魔力を奪われぼろぼろになった人間とは思えないほど意志の強い目でにらみつけられカルバドスは身をすくませる。その隙に詠唱を開始。

「神の息吹は癒しとなりて、彼の者を守りたまえ」最後の魔力を使い切り貴臣の傷を完治させ、そのまま気絶。フラッシュバックするように、道端で千景と会った時のことを思い出す。


「天の恵みは慈愛、彼の者に加護を与え、今ここに光の奇跡を起こしたまえ。我が名は千景。千の影が差す娘である」

 深すぎてすべての傷は塞がらないが、死の淵より貴臣を生へと呼び戻した千景。

「光があるから、影は存在できるとは……よく言ったものだわ」

 肩を竦める千景を最後に貴臣の意識は再び闇へと戻る。


 朝改めて顔を合わせたとき、起き上がっていた貴臣になぜ千景が驚いたのかはわからないが、「魔法使い」と自分は言ったのにもかかわらず「魔術師」と言い直した理由はここで判明した。

「感謝する」そう告げると結界を張る。

「なんだぁ、ついにイっちまったかぁ?」と笑うカルバドスを鎖で縛りグラウンドへ投げ捨てる。


暫く戦ったところで千景が目を覚ます。

教室では障害物が多すぎるためグラウンドを選んだ貴臣だったが、あまりの遮蔽物のなさに早々に校舎へ逃げ込む。トラップをしかける方が性にあっている、と仕掛けようとしたところで壁を伝いながら歩いてくる千景の姿。

魔力を使い果たし意識を飛ばしていたはずだろうと近寄れば、据わった目で「少しずつではあるけれど動けるようになってきている。魔力が戻ってきているからだと思ったのだけど……何かしたの?」「冷静さをかいているようにもみえたが……」

納得したようにうなずくと、「魔術師たる者、常に冷静で在れとはいったものね」「……!」驚く貴臣だったが首を振ると「やはり一般人じゃあないということか」「一般人だっつの。だから魔力を奪われていることにも気付けなかった」

それに、どんなにいい人だと思っても魔術師相手ならば魔術を使えるということを隠せというのが両親の教えだと告げ掌を見つめる。

そこで「どうして校舎にいるのよ」「同じようなことを尋ねよう。なぜ結界の外に出たんだ」「遠目に吹き飛ばされたように見えたから……怪我していたら治癒術をかけようと思ったのよ悪い!?」逆切れ「戦うすべを持たぬものが戦場に出てくるな! 無駄死にするだけだ」「せめて衛生兵といってほしいものね」そう言いながら傷を手当

「無駄に魔力を消費するな」「平気よ。この程度の術なら魔力消費はほとんどないから」「君は、いったい……いや、それは後から問おうか」

 トラップを仕掛けるから下がっていろという貴臣に「人の学校ぶち壊すつもり!?」と怒る。「これが一番確実かつ手っ取り早い」「接近戦に自信がないの?」挑発するもそれには乗らず「私は私の仕事をするまでだ」と言い下がっているよう再び。

「奴は君から吸い上げた魔力を用い四大元素系の術を使う。接近戦を得意とする私との相性は最悪と言っていいだろう」接近戦に自信がないのかという言葉を根に持ち強調するように告げる。

「だが少々挑発しただけのつもりだったが、それにて冷静さを欠き君の魔力を体内に収めておくことがかなわなくなったのだろう」「だから私に魔力が戻ってきていると」「自分の中の魔力量がどの程度かわかるか?」「意識すれば……やってみる」結果半分は戻ってきているだろう、と。だがそれでもまだ千景の魔力の半分はカルバドスの中に。

20150923

「半分であれとかふざけてるだろう……」「同じことを昔言われたことがあるわ」「そりゃぁ誰だってそう思う」

 さてどうするか。

20151018

「あいつに隙ができれば、貴方は攻撃をしかけられる?」「簡単に言うが……まあ、そうだな。もし仮に隙ができれば、魔力ばかりが強いだけのあの男ぐらい、すぐにでも倒して見せよう」「それ、信じるからね」

 貴臣の言葉に千景は目を細める。薄ら寒さを感じながらも、『作戦』を話しはじめた千景に耳を傾け、驚愕する。


「おいおーい、逃げてばっかりかよ」「そんなわけないじゃない」

 出てきたのは千景。「女をおとりにするとは、さすがは《執行者》、下種いことするねぇ」

 その言葉を一切聞くことなく、「今なら助けてあげてもいいわよ。泣いて謝るならね!」と高飛車に千景が言えば、起こった男は術式を展開する。それを全て一瞬で千景は破壊。驚いている所へレーザーがカルバドスの頬をかする。

「《百花繚乱(インパクトショット)》―――ねぇ、どうする?」

 冷や汗を流しながらも千景へ攻撃を集中させようとしたところで、カルバドスの腹部から剣が突き出す。「注意散漫とは、《執行者》相手に余裕だな」

 剣を抜き倒れたカルバドスをついと見て、「死なぬ程度に治療を頼む」と千景へ告げる。「ただの女子高生にそんなもの見せるなんて、あんたまともな神経してないわね!」怒鳴りながらも治癒術をかける。傷は塞がったものの流れた血を戻すことは千景にもできないのでカルバドスは起き上がれない。

「まさか、魔力をそのまま撃ち出す、なんてことができる人間がいるとは思わなかった。それにも拘わらず自分は魔術師でないだなんて、他の魔術師を馬鹿にしているだろう」

「そんなことないわよ。むしろその逆。私、魔力の制御が苦手で低級魔術ですらできないんだもの」

「……治癒術は高等魔術だが」

「これが治癒術だったらね」

 どういうことだ、と尋ねようとしたところで貴臣と同じ隊服に身を包んだ人間が何人も現れる。

 ご苦労だったという貴臣の上司らしき男は千景を見るなり、「記憶を封じる必要があるな」と千景の頭に手をかざす。がそれを払いのける。貴臣が。「どういうことだ?」「彼女は魔術師としての適性があります。ただの一般人ではなかったようですので、記憶操作は不要かと」「規則を破るつもりか? 魔術師であったとしても、我々の戦闘を見られた以上は記憶操作が原則―――」「もしくは、監視が必要でしょう。彼女はその魔力量が原因で狙われた。これでは記憶を封じたところで結局また狙われたら自分たちがでる案件にひっかかるに決まっている。それならば」「お前が監視する、と。そんなことが許されると思っているのか」「それは、隊長のご判断によるかと」

 どういうことなのかわからないものの、自分のために貴臣が上官に楯突いているということは辛うじてわかる千景。どうしよう、と戸惑っていれば、隊長は呆れたように溜息を吐きながら、

「貴官の任務を更新する。こちらが安全と判断するまで、そちらの―――御嬢さん、名は?」「……花笠、千景」「…………、千景嬢の、護衛及び監視を命ずる。以上、異論がなければ復唱」千景の名を聞いたとき驚いたような、何とも言えない表情をみせる。そして復唱したあと、貴臣は千景をみて「悪いな、勝手に決めて」と言い、「よろしく頼む」と告げる。

 なんだかめちゃくちゃだけど、ごはんおいしかったしいいかとあきらめる。



―――幾重もの影が差すことになろうとも、どうか、それに負けぬ子に育ちますように

千景とは、よく言ったものだ。いい名を付けましたね、莉奈さん(・・・・)

20151107


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魔術師師弟物語

魔術師師弟


ジェイド

キリカ


十歳差。ジェイドは元はキリカの父の弟子。

キリカの父が禁術に手を出したことにより、ジェイドが師に手をかける。キリカは犯人は不明だと思っているが、魔術師協会では有名なこと。


父が亡くなってから、キリカの面倒はジェイドが見続ける。師弟関係になり、「犯人への復讐を望むか?」「それよりもなぜ私を殺さなかったのか知りたいです。だって復讐されるかもしれないのに、どうして犯人は私を殺さなかったのか、それが気になるんです。だから私は魔術を習った。ただ犯人への復讐心だけじゃないです」

そうか、とジェイドは頭を撫でる。


キリカが《執行者》入りするよりも前にジェイドが犯人とばれる。

なんで、どうして! 師として尊敬し、家族として愛しているからこその叫び。キリカに殺されるのもまた悪くない、と武器を向けた彼女に無抵抗でいれば、「なぜころさなかったの?」という質問。

「父の跡を継ぐとは思わなかったの?」「幼いころから気は聡明な子だ。師と同じ道を歩むとは思えなかったから、それなば君を殺す必要はないと思った」


キリカの体には禁術の魔術師気が刻まれているが、キリカがそれを悪用するようなことは思えなかった。


「なにそれ……なに、なんなんですか……もう……」

泣きながらジェイドに抱きつき、「そんなこと言われたら、何もできないじゃない……っ」


全てが終わり《執行者》入りしたキリカと顔にもみじ模様を作ったジェイドを見て、「光源氏計画失敗かァ?」とにやにや笑いながら貴臣。「うるさい!」と噛みつくジェイドと「むしろ成功ですよ~」と笑うキリカ。正反対の二人を見ながら、「丸く収まってよかったなァ。それじゃこれから俺任務だから」

カルヴァドスが発見された、捕捉に向かう。精々気をつけろ、と見送る。

「カルヴァドスって……たしか、《組織》に関わりがあると考えられている人物……ですよね」

「あぁ。……貴臣のやつなら問題ないだろうが、お前はもし遭遇しても絶対に近付くなよ」

「わかってますよ。そんな無茶しません」


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愛がほしいの



 気付けばクラリスは少女というには烏滸がましく、おばさんというにはまだまだ若い、という微妙な年齢を迎えてしまっていた。年はとりたくないものね、なんて自分よりも年上の人間が聞いたら怒ってしまいそうなことを一人酒場でちびちびと酒を飲みながら考える。

 誕生日は当の昔に過ぎ去っていた。というより忘れていた。クラリスの誕生日のその日、下町が巨大な蔦に覆われてしまい、そんなことを考えている余裕がなかったからである。教師をしている自分の教え子である小さな子供たちを両手に抱え、たびたび税の徴収に訪れる騎士様の案内のもと安全と思われる城へ逃げ、気付いたときには日付が変わっていた。とはいえ日付が変わったからと言って誕生日を思い出すようなことはなく、また当日祝おうとしてくれた子供たちも恐怖でそんなことは吹き飛んでいたようだ。別にそれを寂しいだなんて思ったりはしていない。小さな子供にとっては、誕生日といえばなによりも幸福で満ち溢れた楽しい日、という認識だろうが、いい年をしたクラリスにとってはそれほど祝ってほしい、と思えるような日ではなかった。

 だからと言って何もしないというのはそれこそ寂しいことだし、せっかく思い出したのだから自分で自分を祝ってやろうじゃないかと思って入った酒場。まさかそこの女将よりこんなにもありがたいお言葉を頂けるだなんて知らなかったから不覚にも泣いてしまいそうになった。


「クラリスちゃん、いつ結婚するんだい?」


 できるものならばすぐにしてやるわよ! と怒鳴るわけにもいかず、あはは愛想笑いを浮かべ「いい人がいたらそのうちに~」とのらりくらりこたえ、似たようなことを言われる前に一人で飲み始める。女将さんとは長い付き合いのため、その言葉が完全なる善意であることはもちろん承知している。しかしそれとこれとは話が別。適齢期を過ぎてしまった娘にはきついものがあった。零れおちそうになる溜息をぐっとこらえ、だがその代りに「ほんと、どこかにいたらいつでもするのに……」というつぶやきが零れた。完全に寂しい奴だわね、と口をへの字に曲げ、女将さんへ酒のお代りを注文しようとしたところ。


「なにをするんだ?」


 きょとん、という効果音が似合いそうだ。というより実際にそんな表情をしていた。


「ユーリ」


 クラリスが男の名を呼べば、「おう」と軽く手を上げクラリスの隣へ勝手に座る。座って良いかの一言もなしか、と思いつつ、この弟分にはいうだけ無駄ね、とそっと肩を竦め今度こそ女将さんにお代りを注文した。隣のユーリが「俺もおんなじの」という声を聞きながら、頬杖をつく。たくましくなったなぁ、という感想を抱きながら。


 ほんの数か月前、ユーリが突如女の子を連れて下町から出て行った。やだ愛の逃避行? 頬に手を当て「まぁまぁ……」と言ったところ、教え子より「先生おばさんくさーい」と笑われてしまった。まだ先生は若いわよ、ときちんと教育的措置――つまり拳骨。クラリスは肉体派だ――を加えながらすっかり大きくなった幼馴染を見送ったのは今では良い思い出だ。とはいってもユーリが下町を出たのは女の子のためでなく下町の水道魔導器の核のためだったらしいが。ついでに行ってしまえば女の子の目的はユーリでなくフレン。やるわねあの子ったらとにんまり笑ってしまったのも良い思い出である。

 そしてあれよあれよという間に気付けばユーリは冒頭で述べた下町の異変を解決し、魔導器の運用そのものを全てなくす、という偉業をやってのけた。なんでも魔導器は存在するだけで世界の毒なのだとか。教師をしていてもそのあたりのことにあまり詳しくないクラリスにはよくわからないことであるが、本当にすべてを終え、帰ってくるなり脱力したように自分へもたれかかった弟分がとてもすごいこと、言葉では言い表せないほどのことを成し遂げたことだけはわかった。だから魔導器がなくて不便でもそのことを口に出すつもりはないし、ユーリの選択についてとやかく言うつもりはない。精々、「よく頑張ったね」と昔のように頭を撫でてやるぐらいである。


 とまぁそんなわけで一回りも二回りも大きくなって帰ってきた弟分は、注文を終え自分の顔をじっと見つめるクラリスに「俺の顔、なんかついてる?」なんて尋ねつつ同様に彼女の顔を見つめる。

 あらやだ見惚れていたみたい。だなんて馬鹿正直に言うのも恥ずかしかったので、「大きくなったなぁと思ってね」と笑えは、あぁ、だの、そう、だの言って頬をかく。照れているのだろうか。


「ほんと、大きくなったわねぇ」

「…………お前もしかして酔ってるのか?」


 酔うほど飲んでいないわよ、と言いかけて空いたグラスの数える。一つ。酔うわけがない。そのあいたグラスは女将さんが回収し新たに酒が並々注がれたグラスへと変わったが。

 ふむ、もしかしたら自分は酔っているのかもしれない。そんな風に自己分析できるうちはまだまだ大丈夫だろう、と一つ頷くとぐびぐびと酒を飲む。一気に半分ほどまで飲めば呆れたようなユーリの顔が目に飛び込んできた。


「あんま飲みすぎんなよ」

「平気よぉ。別に飲みすぎたからってお持ち帰りされるほど若くないし」


 へらへら笑って答えれば、重苦しくため息を吐かれた。しかも目元を押さえ、いかにも自分は呆れている、ということを強調するかの如く。どうしてだろうか。きょとん、と先程のユーリのような表情をみせれば再びため息を吐かれる始末。いったいなんだというのだ。そう口を開こうとすれば。それが声になる用も前にユーリの声が耳に飛び込んできた。


「で、なにをするんだ?」


 最初の質問に戻ってしまった。別段誤魔化したつもりはなかったが、それでも話が逸れて安堵していたというのに。回答に詰まってしまえば「言い辛いことか?」と少しばかり真剣な眼差しを向けられる。言い辛いことといえば言い辛いが、最近では自虐ネタの一つになりつつあるし、教え子の中には「大きくなったら先生を嫁にもらってやるよ!」だなんていう子もいる。だからそんな視線を向けられるようなことではない。

 そう考えながら、クラリスは簡潔に一言、


「結婚」


 と告げた。あぁ、もしかしたら言葉が足りなかったかもしれない、というのはユーリがガタガタと音を立てて立ち上がった後で気付いた。


「いったい、だれと」


 恐ろしいほどに低い声である。その声だけで人が殺せそうだ。だがそんなので怯えるクラリスではなかった。


「や、別にしないわよ。相手がいないし。だから言ったでしょう、いたらするのにって」


 ノーと言うように手をぶんぶん横に振れば、「なんだ、そうか……」と落ち着いた様子で椅子に座り直し、自分の酒に手を付けた。

 なんなのだろうか。本当に。


「で、なに。結婚したいの?」


 すっかり元通り、というわけではなく酒を飲んだためかほんの少し赤らんだ顔でユーリがそう尋ねてきた。

 結婚。どうなのだろうか。周りの女性陣はよく「結婚は女の幸せよ」というが、クラリスの幸せは今の生活にも十分あると思っている。だから特別これと言って結婚願望はないだろう。

 その旨を告げながら、あぁでも、と思い立ったことを口にする。


「家にいて一人~ってのは、最近ちょっと寂しいかも」


 その言葉がどれだけ地雷だったか、またユーリの口元が急激に上がったことを、クラリスはまだ知らない。






20160209 … 愛がほしいの

 久々にユーリです。それほど長くならない予定。というより年下攻め10題なのでそのぐらいだと思われ。もしかしたらサイトより先にたんぶらで更新するかも。

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l_wt01-09


 基本的に梓の化粧は濃い。

 制服を着ていた頃は校則に縛られていたため素顔を知るものも多かったが、最近知り合った者たちで彼女の素顔を知る者は少ないだろう。


 だからこそ、勘弁してほしかった。


 長い長い口づけのあと、唇を乱すように角度をかえ何度も何度も唇を合わせる。

 さすがに息が持たなくなってきた。抗議の意を込めて太刀川の胸板を叩くも、「ん……」とどうにも色っぽい声を上げるばかりでやめてはくれない。挙句の果てには己の腹の奥が熱くなってくるのがわかり、顔を顰めたくなった。梓の直観も、このまま流されていればこのままコトに及ぶだろうと告げており、本格的にまずい状況となってきた。


 まさか会議室に連れ込まれる羽目になるとは思わなかった。

 ここ数週間、予想される侵攻の対策訓練だの、梓のSEでの対策会議だので驚くほど会うことができなかった。互いに立場ある人間だから仕方のないことといえど、会えるのに敢えて会わなかった、ということも彼の欲求不満をついているのかもしれない。これは暫く終わりそうにないな、とあきらめに近い感情を抱きながら、しかしこのままでは確実に化粧が間に合わない、とどうにか抵抗する。実は今日、化粧ポーチを本部に持ってくるのを忘れてしまったのである。トリオン体で帰ればいいか、とも思ったが、以前それをしたとき当真が出動と勘違いしてしまい、大変な目にあったのでもうやらないと心に決めていた。


 さてどうしよう。

 悩みながらも、このまま流されるのが一番良いとSEも言っている。SEの言うとおりにするのは今も嫌いだが、どうやら己が声を押さえれば人は来ないようだし、ここはもうあきらめるべきなのかもしれない。



20160212 … 昼に見る夢

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主従


 紺のブレザーに同色のスカート。首元を彩る赤いリボンはアクセントに。ブラウスはしわなどなく、純粋無垢を表している。

 ふむ、我ながら上出来。だなんて鏡に映る自分を自画自賛していれば気付けば時計は家を出なければならない時刻を指していた。

 染めていないにも関わらず明るい色をした髪をさっと手櫛で整えていれば、がちゃりと扉の開く音がした。バッとそちらを向けば、真っ赤なランドセルを背負った少女が一人。


「もうお姉ちゃん遅い!」


 頬を膨らませ怒っている『ちぃ』に「ごめんごめん」と軽く謝り、ましろは部屋の隅に投げてあったスクールバッグを手に取った。

 「早く早く」とましろを急かす声に「ちぃ、急ぐと転ぶよ」とのんきな声を上げれば、


「お姉ちゃんがいっつもそうだから、わたしいーっつも遅刻ぎりぎりなんだよ!」


 小学生にして大したしっかりものである。いやぁまいった。へらりと笑って再び「ごめんって」と謝るもちぃの機嫌は戻ってくれない。

 さてどうするか、と頭を掻きながらその腕に嵌る時計を見て「やば」と声を上げる。


「ちぃ急げ、本当にこれじゃあ遅刻だ」

「誰のせいだとおもってんの!」

「だからごめんってほらおいで!」


 そういってましろがちぃに向かって手を伸ばせば、身軽な小学生(ちぃ)はぴょんと軽くジャンプし、ましろの腕に抱かれる。身軽とはいえ、たかだか女子高生の腕力で軽く持ち上げられるほどちぃ+ランドセルは軽くないのだが、軽々抱き上げてしまったましろはまったく重そうにはしていない。ちぃもそれが分かっているため何も言わず、ただ落ちないようにしっかりとましろの首にギュッと抱きついた。

 そのまま玄関を出て、家のドアをきちんと施錠し、誰もいなくなる家へ「いってきます」と静かに声をかける。器用にも片手でちぃを抱いたまま、扉の鍵に手を添えていれば、ましろの声を倣ってちぃが元気よく「いってきまーす」と声を上げた。それを合図にましろは家の敷地を出て走り出した。


 きゃーはやい! と声には出さないものの騒ぐちぃを落とさぬよう、ただ遅刻だけはごめんだったので全速力で走る。走る。

 ―――あぁ、せっかく作った弁当がまた(・・)崩れそうだ

 毎朝の日課となりつつあるちぃを抱いての全力疾走。いい加減支度に時間をかける癖直さないと、と思いつつも、女子高生ならば誰だって通る道。仕方がない。と誰に言うでもなく言い訳をする。


 ちぃの通う小学校とましろの通う高校との分岐点まで来たところでちぃを下ろし時計を見れば、二人とも遅刻することなく学校へたどり着くであろう時間を指している。


「じゃあここからは一人で大丈夫だね」

「うん! お姉ちゃん遅刻しないでよ」

「……いやあんたより私の方が足早いから」

「でも高校の方が遠いよ」

「…………」


 時計を再びみる。―――大丈夫。間に合う。……ぎりぎり。


「……走るわ」

「転ばないでよ~」


 ちぃに背を向け全速力で走りだしたましろ。これではどちらが年上なのかわからないが、ここまでが二人の日常である。






 ホームルームの始まるぎりぎりのところで教室に入れば、「今日も遅かったね」と



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異世界で女王


現代にも魔術が存在するって世界観で、ただし一般人には知られていない所謂ハリポタてきな世界

そこで魔術師やってた主が異世界に召喚される。扉を開けたらその扉の先が異世界で、戻ろうとしたら扉が消えちゃったみたいな


取り乱しはしないけど冷静にどういう術式を組んだのかしらて考えるぐらい研究熱心(研究馬鹿)

なかには軍人風の男と魔術師らしき男の二人だけがおり、「彼女がそうなのか?」「成功しているならそうだと思いますよ」などと二人で話す。


言葉は自国の日本語でもなければ魔術協会のある国の言葉でもない。のにも拘わらず通じる。通訳術なんて開発されていたかしら?もしも開発されていたのだとすると術式がみたいわね。怖いもの見たさで絵里子が近づいていくと、軍人のような男が「失礼した」と腰を折った。


男はスティーブン・ロー・ボグナーと名乗った。それから肘で魔術師をつつき、彼にも名乗るよう促す。面倒くさそうな顔をしながらも短く「シエル」というと、身の丈ほどもある杖を持ち直しスティーブンの後ろへ下がった。それをみてスティーブンは呆れたように首を振る


「お前はもっとこう、愛想を身につけろ」「そういうけどね、別に愛想なんてなくたってこれまで何とかなってきたけど?」「あーあーそりゃよかったな魔術師ってのは愛想がなくとも城でやっていけるとはな」



馬鹿にしているわけではないのだろうけど、それでも魔術師に対する差別のような音を含む声である。ピクリと絵里子が眉を動かせば、その様子に気付いたのかスティーブンがこちらへ向きなおる。もどうやらその理由まではつかめていないようで「貴女の名前を伺っても?」と


丁寧な言葉で尋ねてきた。見た目は先程までの言葉使いとは異なり優男風のため、敬語を使うとぐっときまる。絵里子は短く「木原絵里子」とフルネームをつげる。次いで「絵里子が名前」と伝えるのも忘れずに。こちらの文化はわからないにしても勘違いだけは避けたい。


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「エリコ様ですね。良い名だ」

様てあんた。思わず口がハァ?のカタチをつくる。するとスティーブンはそれが女性に効くと分かっているようなさわやかな笑みで、「何か問題でも?」とさらりいいのけた。問題しかありませんが。


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スティーブンの後ろでシエルが溜息をついた。

「あんたって顔はいいけどやっぱぬけてるよな」

見るからに呆れている。だが、彼のそのあとの台詞でそれ以上にエリコは呆れることとなった


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「エリコサマ、あんたを呼び出したのはこのオレと、それから顔だけスティーブン」「俺別にかおだけじゃねぇけど」「いいから黙ってろ。ったくなんでオレがそんな説明しなきゃなんないんだよ……」

脱線しないで頼むから本題に戻ってくれ。



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あと敬う気がないのはわかったからそれならサマなんてやめろ。それを伝えればシエルはあっさりと「じゃあエリコで」といった。この男も自分の顔がいいのを理解しているのではなかろうか。スティーブンとは違い、どちらかといえば芸術品のような美しさをもつシエル。



16

こちらの世界の男はどいつもこいつもそんな人間ばかりなのか。絵里子自身の思考も脱線している。が、最初に脱線したシエルがパンと手を打ち、強引に話を戻してくれた。



17

「オレたちがあんたをこの世界に呼んだ理由はただ一つ。あんたに、うちの国の女王になってほしいんだ」

いろいろ聞きたいことはあるが、この世界って、どういうこと?


18

「ここは、エリコ様の世界とは別世界となります。貴方の世界でいう、『剣と魔法の世界』といったところでしょうか」「まほう……?」「正確には魔術。魔法は、あー、素人に話してもよくわかんないだろうから端折るよ」

どうやらそのことについてはひとまず捨て置くらしい


19

特に説明もほしくないし、たしかに端折ってくれて構わない。ひとまず自分は異世界に来たらしい、ということだけが分かれば良い。




20

……異世界かぁ……夢とかじゃないのかしら。彼ら二人から目を逸らすも、「エリコ様」「ねぇ」と二人が同時に自分の名(一人は名でないが)を呼ぶため現実逃避は許されなかった。



21

それに衣服は自身の着ているものと明らかに異なるし、言語だって通じるのが不思議なぐらいおかしい。というよりよく私発音できたわねと感心するほどだ。











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