逃走劇からの出会い2
「あ~、上です上、皆さんの頭上から失礼しますね~。
何やらお困りの様子ですが、後ろの奴って、皆さんの獲物だったりします?」
「上っ!? ぺ、ペガサス! まさか、天馬騎士かっ!」
慌てて再度声がする頭上を見上げれば、白い馬が美しく見事な翼を広げて、我らの頭上を追走していた。そしてそれに跨るのは……騎士?
いや、鎧ではなくローブを纏っているが、佩刀はしている所を見るに、やはり騎士なのだろうか?
だが敵か味方かは、それだけでは判然とせず、太陽が逆行となって居るのか陰となって居る男の物らしい姿は判然としなかった。
「いえ、天馬騎士なんてジョブじゃないんですがね~。ただの通りすがり、いや、この場合は飛びすがり?
ま、どうでもいいか。
で、多分お困りの状況だと思うのですけど、後ろのあれ、狩っちゃってもいいですかね?」
「ふざっけるなっ! あれが何であるのか分かっているのか! やれるものならやってみるが良いっ!」
「あ、はい。
……こっわい姉ちゃんだな~(ぶつぶつ)……ほい、《マナカノン》」
カッ!!!
Gyoooooeeeeeeegyuuuu!!?
「へっ!?」
「「なっ!?」」
次の瞬間、頭上の天馬を駆る男が差し向けた掌から、一条の光芒が放たれて。
その標的とされたのだろう後方の化け物が、悲痛な絶叫と共に足音を乱れさせ、盛大な音を立てる。慌てて馬上のまま振り返れば、あの絶望の体現にしか思えなかった魔獣の巨体がもんどりうって街道に転がり倒れ、その背から恐らく腹まで貫通されたのだろうと思わせる大きな傷口から、大量の鮮血を溢れさせてもがき苦しんでいる光景に。
その理解の及ばぬ情景に、一時的に茫然としたまま皆と共に走り続けて。
「はっ!? と、止まれ、全体止まれ!
アンナとリーシュ、私と共にアレの状況を確認しにいきます!
他は周囲の警戒を厳に! 怪しい者を若様の馬車に近づけるな!」
「了解! ですが団長、安易にアレと、あの不審な男に近づく必要はないのではありませんか!」
確かにそうだろう。優先すべきは、若様の護衛であり、このまま勢いに任せて取り敢えず逃げ延びておくのが最善かもしれない。
だが同時に、それでは今回の、恐らく人為的な襲撃の究明は困難となる。或いは、あの不審な男が下手人かもしれない。更なる化け物を召喚されれば、今度こそ終わってしまう恐れもある。
「……それでも、最低限の状況確認は必要でしょう。
命令を撤回します。この場に残るのは私のみ、副長は皆を率いてこのまま領都へと急ぎなさい」
「いえ、しかしっ!」
「くどいっ! これは団長命令です、従いなさい!」
「……っ! ハッ! お前たち、聞きましたね? これより指揮を引き継ぎます、警戒を厳にしつつ急ぎます!」
「「了解っ」」
……さて。あれが何者かは分かりませんが、もしも今回の下手人だとしても、であるならなおさら殿としての役目が必要でしょう。
願わくば、そうでないことを祈りますけどね。一度は覚悟を決めたとはいえ、私だって、まだ若い身空で死にたくはありませんし。
「もし、そこの御仁。まずは救援に感謝を申し上げたい……所ではあるが。
貴様何者だ? まさか、それを呼び出した当人が、一芝居打ったのではあるまいな?」
「えぇ……? いや、参ったな、そうくるのかい……情けは人の為ならず、っていうのになぁ。
まあ、怪しいっちゃ怪しいのは、状況的に仕方ないのか? 夢なのに理不尽なイベントだなぁ(ぶつぶつ)」
「何をぶつぶつと言っている。まずは身分を証明するものがあれば、拝見したい。
もしそれを拒否するというならば、不審人物として領都まで同道を願う事になるが?
私はマルタッカ王国は、リンジール伯爵家に仕える家臣、騎士エリアリット・フェルシャーである。
返答は如何に!」
天馬と共に街道に降り立ち、魔獣を検分していたらしい男に、私は愛剣に手を掛けつつ、そう声を掛けた。
のちに領内を危地に陥れた騒動を解決してくれることになる恩人に対し、この時の私はとても無礼な対応をしてしまったのだと、心底後悔する破目になるのだった。