つづくゆめじを
会社から帰り、シャツとズボンを脱いで一息吐いてから、風呂場に行って備え付けの洗濯機に、いくらか溜まった他の洗濯物と一緒に放り込んで洗剤を投入、ぽちっとした後で風呂を溜め始める。
それから帰りにスーパーで買い込んできた食材幾つかを冷蔵庫に収め、ついでに買ってきた総菜をおかずに夕食、頃合いを見て入浴を済ませてから、パソコンを起動させていつものMMORPGへとログインした。
テンパー:こんばんわ。
宇治金球:お、天さんばわー!
卵スロット:おばんー。
エリフィル:こんばんは、テンパーさん。
魔女っくま:ばはー。
魔女っくま:あ、天さん! 暇があったらクエスト手伝って~? ほらあれ、『帰還転移』のスク貰える奴ー。
ちなみに、『テンパー』というのが我がファーストキャラのキャラネームだ。由来は俺の髪が天然パーマだから。安直だよな。まあ、他のゲームでもこれで通してきたからなぁ。
スクとはスクロールの略であり、この『ラスト・サーガⅪ』では魔法を覚えられるアイテムとして登場している。魔法はジョブごとのLVアップで覚える奴と、敵モブが落とすドロップのスク(当然レアなほどドロ率が低い)に、バトルフィールドや、世界中あちこちに用意された様々なクエスト報酬でスクロールを獲得して覚える奴、後はメインクエでストーリーに沿って教わる奴がいくつかある感じだ。
テンパー:お、ええよくまさん。あのクエか~、ならセカンドも確かやってなかったはずだから、そっちで行くわ。
魔女っくま:ありがとー! クエNPCんとこで待ってる♪
テンパー:おk
サクッとキャラ選択画面まで一度戻り、セカンドキャラである女性アバターに切り替えて再ログインした俺は、待ち合わせた魔女っくまさんとPTを組んでからクエを受け、指定されたお使い巡りに、最後のクエストモンスター退治まで終えて、後は彼女やクランメンバーとまったり茶でだべったり、レベリングPTに途中参加させて貰ったりしつつ、本日のゲームを終えたのだった。
◇
「……ん、あれ? ここどこだっけ?」
寝室で眠りに就いた筈が、気が付けば明るい日の下に広がる、見渡す限りの草原の真ん中に立ち尽くしている事に気づく。
だが同時に湧き上がってくる既視感に、すとんと腑に落ちた気がして、自身と姿を見下ろす。
「ありゃ? この装備はセカンドの……なるほど、今回の夢はこっちで見てるのなぁ」
恐らく、今日ゲームでこのキャラを使ったから、夢がそっちに影響されたんだろうなと考える。
夢を見ている事に気づいたおかげで、これが昨日の続きなのだとわかり、同時に忘れていた昨夜の記憶が蘇えってきた。
「とすると、キャラチェンジも出来るのかな?」
メニューを思い浮かべてキャラ選択画面をタッチするが、一見何も起こらない。だが、頭の中にキャラクターのアバターが数体浮かんでくる感じとなり、そこでファーストキャラを選んでみると、ふっと一瞬だけ視界がぶれる。
再び自身の体を見下ろせば、馴染みの装備を纏ったファーストキャラになっているようだ、多分。
「なるほど、ゲームと違って手間が少なくていいな」
体をあちこち触ったりなでたり叩いたり、着ているローブを捲ったり、その下の防具を確認したり、愛用の剣を鞘から抜き放ち、リアルなまでの重さや握りを確かめ、少し悦に入って振り回してみたりと、年甲斐もなくはしゃいでしまう。
仕方ないだろう、普段は画面の向こうの姿装備を眺めるだけだったのだ。それが夢と分かっていても、直接手で触れ、感じ、動けるとなれば、おっさんだって少年心が疼いてしまうという物さ。






