ゆめかうつつか
目覚めてから一時間ほど。
あの場から立ち上がり、ふらふらと歩き回って自覚したのは、この世界が現実とは思えないという事。
何故かというと、俺は立ち止まり心の中で『メニュー』を呼び出す。
すると視界の中に、半透明な馴染みのあるウィンドウが複数立ち上がった。なぜ馴染みがあるかと言えば、寝る前に遊んでいたあのゲームとそっくりそのまま同じであったからだ。
ちゃんとログアウトまであったのは一安心したよ。
最初は声に出して『メニュー!』とかで出したんだけど、誰もいない草原で独り言するのが寂しくなって、心の中で思うだけを試したら出来たんだよね。
「しっかし……完全に夢とも思えんのだがなぁ、リアルすぎて」
着ていたローブを払いつつ、額に滲んだ汗を片手の甲で拭う。そう、ゲームの夢であるならば、俺の体がこういった生理反応を示す筈がない。でも疲労はほとんど感じないのが、なんとも言えないのだが。ずっと歩き通しなんだけどなぁ。
それに着衣と装備は、俺があのゲームで装備していたいつものお気に入り装備で、腰にはしっかりと愛用の剣が釣り下がっていた。
「めっちゃ銃刀法違反だよなぁ。いや、こっちにそんな法律があるかもわからんが」
視覚は当たり前だが、触覚、嗅覚、そして味覚(試しに草噛んでみたらくそ苦かった)があって、しかしゲームのメニューが出てくる体験ができる事例など、当然だが俺は知らない。なお痛覚も、よそ見しながら歩いていて、足元の石に躓いてすっ転んだ時にあるのは確認済みだが、何というかかなり鈍かった感じで。
しかし、途中で見かけた小川を覗き込んで水面に移して確認した容姿が、やはりゲームのファーストキャラの姿であった為、これはゲーム世界に入り込んだ感じの夢を見てるんじゃないかなー?という暫定的判断を下しているのだが。
ふと思いつくのは、たまに読むネット小説投稿サイトでの『異世界転生・転移』物のあれだが、だったらログアウト出来そうなのはおかしいよな?
「いや、そもそもほんとにログアウトできるのけ?」
一気に不安感が押し寄せてくる。そうなると居てもたってもいられず、開いたままにしていたメニューに触れてログアウト項目を呼び出し、バクバクと動悸のうるさい音を耳に響かせながら、震える指先でそこにタッチすれば――。
◇
「くぁ……はぁ~……。うん、なんか変な夢を見ていたような……?」
ぼんやりと起き上がった寝室のベッドの上で、しばらく夢の内容を思い返そうとする。だが悪夢でもなかったようで、うっすらと輪郭しか思い出せない感じだな。
ただ、ゲームのような夢を見ていたというのは何となく分かった。
「ふふ、いい年になっても夢の中までゲームか。ま、それだけ好きだし楽しんでるって事なんだろうなぁ」
色んなオンラインMMORPGをやって来て、今のゲームに出会ってかれこれ十年以上。ロングセラーのヒットタイトルだからな。
『ラスト・サーガⅪ~終焉の世界に導かれて~』、それがあのゲームのタイトルだ。
ストーリーはありがちな魔王討伐タイプのメインストーリーだが、繰り返されてきたアップデートでシナリオが追加される程に、それだけでは済まないという伏線や急展開、正義と悪が朧になり、プレイヤーに色々と考えさせたり、感動させたりしてくれる内容だった。
同時にサブコンテンツのミニゲームも秀逸で、まだまだプレイヤー人口が巨大市場を保っているらしい。
いつかはサービス終了を迎えるのだろうが、それまでは遊び尽くす所存である。
「さて、飯食って仕事に行きますかね」