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ショートコメディ『〇〇くん』

ショートコメディ『悪口くん』

作者: かげる

 この世界に悪は存在する。そして、悪口を言う人間も存在する。存在することが事実であるならば、あとはその人間を悪くするだけだ。


 だって、悪なのだから。


 悪は滅ぶべきだ。正義が勝つべきだ。そんな言葉をいくら並べて、正しさに酔いしれようとも、事実なんて不確定で、予測はできても、未知数な領域に人間がたどり着けないことは、わかりきってることだ。


 でも、正しいことは、正しいと主張したいじゃないか。間違っていることは、間違っていると正したいじゃないか。だって、それがないと、何のために生きて、何を信じればいいのかわからないままだ。


 ああ、もう。私は、ため息をついた。ここ以外のどこでもない、この場所で、息をした。私は、生きている。生きて、いるのだ。


「よお」


 と、そこで、気さくに声をかけてきた彼の名前は悪口くん。名前の通り、他人の悪口ばかり言う。どうしようもない、クズだ。私くらいに。


「今日もいい小春日和だって言わないのかよ」


 はは、と言われた。乾いた薄ら笑いだ。その顔を見ると、ムカつく。でも、私が、そんな気持ちになっているのも、彼の思惑通りなのだと気づいて、すぐに感情を押し殺した。


「本当。それしかわねーのな。こいつ」


 私を『こいつ』呼ばわり。


「なんだってこいつ、ちょっと前まで、小春日和の読み仮名を『コハルニチワ』だって思い込んで使ってたんだぜ? マジでウケるよな。はは」


 悪口くんは、さっきから、私の前で他の人と話しをしている。なんで、わざわざ、私の前で、嫌がらせか。わかってる。遠回しに、悪口を言って、私を苛めたいのだろう。わかってる。悪口くんが、そういう奴だってことくらい。


「で、今日も『今日もいい小春日和だね!』っていわねーのかよ。コハルニチワってさ。はは。マジで池沼だよなあ!」


 はははははははっはははと仲間達は笑った。乾いた、温かみのない笑い声だった。池沼ってなんだよ。冷たい。苦しい。なぜ、私は、ここにいるのだろう。なぜ、そんなことを言われないといけないのだろう。なんで、この人達は、こんなにも楽しそうなのだろう。


 なんで、そんなに、悪いふりができるのだろう。


 私は、そう思った。なんで、こんなにもわかりやすく『悪』になろうとするのだろう。悪口くんは、私くらいのクズだけれど、でも、彼は、私の悪いところを見つけだして、言えるだけの感性はあるのだ。


 どこを、どう言えば私が傷つくかを熟知している。それは、つまり、相手の気持ちになって考えられるってことなのだ。そんな彼が、こんなにもあからさまに、私に対して『悪口』を言っているのかが、とてもおかしくて、私は、なんだか、笑ってしまった。


 冷たい笑い。冷笑を受けている私は、彼のことを、笑った。笑って、笑って、笑った。


 彼は、悪だ。だけど、悪も悪くない。私が、彼を更生させてやる。その悪口を、塞いでやる。そして、今度は、私が、彼に『悪口』を言ってやるんだ。


 悪口は良くない。だけど、悪も、悪くない。

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