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ホーボー・ホーボー魔導具を巡る冒険  作者: アトアン・グリューゼン
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第七話 傭兵アンリ5


「マリエスブールでも追っ手の姿はなかった、結局ジェリコの連中の追撃はなかったな」


 アルタイル大陸西部の乾いた風が三人の頬を撫でる。

 アンリ達はカストル王国の西端、王国と中央教会直轄領との境界へ辿り着いた。


「ここを越えれば中央教会直轄領だ」


……北と南を小高い山に挟まれた街道を進んでいくと、山に挟まれた街道をふさぐように国境の砦があった。そして北側の山には国境へ続く街道を見下ろすように城塞が築かれている。


「検問所に黒服の連中がいるな、王国憲兵か」

とガラテア


「なんだかいつもより警備が厳重だ……王都の周りも警備の兵士の数が多かったしな」


 国境を守備する黒服の兵士達。

 彼らカストル王国憲兵はカストル王家アリエス=マリエスブール家の直臣であり、近衛騎士団と並びカストル王国中央常備軍の一翼を担う存在である。


 ……国境の砦には幾門も青銅砲が備えつけられており、前装式ライフルを携えた屈強な黒服の兵士がアンリ達をじっと見つめている。

……彼らの小銃に装着された銃剣が輝いている。


「通行証をみせてくれ」


 ジェリコに追われる男は警備兵に通行証を差し出した。


「問題ない、通っていいぞ」


 警備兵がアンリへ目を向ける。


「お前は?」


「いや、オレはこの人の見送りに来ただけですよ」


「そうか」


「なんだか警備の人多くないですか、何かあったんですか?」


「貴様に言う必要はないな」


…………


「じゃあな、ここでお別れだ」


「アンタらには世話になった本当にありがとうな」


「この国境を越えて少し行ったところに宿場町がある

ちょっとした歓楽街もあって、それなりに栄えてる街なんだ、中央教会直轄領の奥は荒野が広がってるから、そこで色々と準備しておいたほうがいい」

とアンリ。


「荒野の岩場じゃクサリヘビの類に気をつけるんだぞ」

とガラテア。


「わかった、気をつける」


「それと私からもう一つ、地下水が湧き出してる場所があるかもしれないが、

地下水は重リゾーム(瘴気)の濃度が高い場合があるから、がぶ飲みするのは駄目だ……荒野の真ん中でリゾーム中毒をおこしたらまずいからな、持ち水がなくてどうしても飲まなくてはいけないときは一気に飲まずに少しずつ飲んで身体を慣らしていくといい、一気に飲むより多少はましだ」


「ああ、わかった」


 ……男が国境を越えていくのをアンリとガラテアが見送る。


「さて、仕事も終わったしガラテア、オレ達もさっさと帰るか」


「悪いが私は少し寄っていくところがある」


「なんか用事あるのか?良ければつきあおうか?」


「いやいい、私一人でいく」


「じゃあ、オレは先に帰るか……ついでにマリエスブールでターメイヤ(そら豆のコロッケ)でも食ってから帰るか……」


・・・・・・・・


 ……夕暮れに染まる宿場町を男が歩いてる。


「途中、死ぬかと思ったが何とかなるもんだな……そういやこの宿場町には歓楽街があるんだよな、教会直轄領の奥にいったら、こういう所はないんだろうな……出発する前にちょっと楽しんでくか……夜の荒野の一人歩きは危険だしこの街で一泊して……」


 男が歓楽街を歩いていると、突然、彼はスキンヘッドの大男に腕を掴まれた。


「な、なんだよ」


「こんな所に居やがったのか!カイロさん、こいつです!我々の金を奪った襲撃部隊の一人です」


 そう叫ぶ大男の背後からシェイマの女があらわれた。


「そうか、よくやった……

……こんなとこで私と出会うなんて君も運がないね、この宿場町を越えれば逃げられたのにね、カストル国境を越えて油断したのかな?」


「あっ、あんたは?」


「……君と直接会うのは初めてかな?

私の名前はシャイロ・カイロ

君達が金を奪った組織ジェリコ連隊の幹部をやってる

この街には野暮用でね、別にわざわざ君を探しに来たわけじゃないんだ

……君、本当に運がないね」


「かっ、金なら返すから」


「いや、もう金は問題じゃないんだ……落とし前ってやつさ

我々の商売はなめられたら負けの商売なんだ、わかるだろ?」


…………


 歓楽街の闇の中、美しいサキュバスが男を待ち構えていた。


「カイロ姉さん、この子本当に好きにしていいの?」


「ああ、お前の好きにしていいぞ、こいつは客じゃないから遠慮は不要だ


……さて、死ぬか生きるかは君の生命力しだいさ、仮にサキュバスの力に耐え切れず死んだとしても男として幸せな最期じゃないかね」


・・・・・・・・・


 街の酒場にて。


「おう、どうしたアンリ」


 カストル国境から戻ってきたアンリにリンアルドの傭兵ディアスが声をかけた。


「ようディアス、いま仕事が終わって街に帰ってきたとこだ」


「さっき、面白い噂聴いたんだがよ、ロザーナ公国の姫様が近々このカストルに来るらしいんだ」


「へえ、一体何の用なんだ」


「さあ知らねぇ、でもよロザーナの姫様はとんでもない美人だって話じゃないか」


「公式訪問じゃないならオレらみたいな連中は顔を拝めないだろうよ」


…………


「やあ、アンリ君しばらくだね」


 突如、アンリの耳に聞き覚えのある女の声が響く。


「じゃ、じゃあ、俺は先行くから」


 ……危険を察し席を立とうとするディアスの肩をジェリコ連隊幹部の女シャイロ・カイロが掴んだ。


「まあ、そう言うなよ……私がおごってやる

エールを一杯どうかな、ラガー、シードル好きなものを頼むといい」


「どうも……」


 ディアスは大人しく椅子に腰をおろした。

 酒場の出入口にはカイロの配下であろうスキンヘッドの大男と栗毛のアマゾネスの女が立ち、周辺に睨みをきかせている。


「タバコ吸っていいかね?」


「かまわないよ」


 カイロはアンリの正面の椅子に腰かけると、

オリーブの木で作られたパイプでタバコをふかす。


「アンリ君、君に知らせたいことがあってね……

野暮用で遠くへ出かけていたんだが、その先で運よく我々の探していた人物が見つかったんだ」


「それは良かった」


 アンリは必死に動揺を隠す。


「なあ、アンリ・ザネリィ君……君も馬鹿な男じゃないはずだ

私の言わんとしていること……わかるだろ」


 女は顔をアンリに近づける。


「私は優しい女なんだ、こう見えてもね

誰しも一度や二度の過ちはある……三度目の過ちには厳しい制裁が必要だが」


「……」


 アンリは黙ってカイロの話をきいている。


「君は頼まれた仕事をこなしただけだ、そうだろ?

……今度、私も君に仕事を頼もうかな

そのときは当然、嫌とは言わずに頼まれてくれるよなあ、アンリ君」


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