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ホーボー・ホーボー魔導具を巡る冒険  作者: アトアン・グリューゼン
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第二話 傭兵アンリ1


「アンリ頼む!匿ってくれよ!ヤバい奴等から追われてるんだ!」


「えっヤダよ、嫌な予感しかしないし」


 アンリと呼ばれた青い目をした黒髪の青年は金属鏡の前で髭を剃りながらそう答えた。


「頼む!本当に本当ヤバいんだ頼むよ!聞いてくれよ、髭なんて剃ってないでさあ」


「男ってのはいつ死んでもいいように身だしなみを整えておくべきなんだぜ……まあ落ち着け、朝っぱらから人ん家に飛び込んできて一体どうしたんだよ」


 飛び込んできた男は呼吸を整えたのち事情を説明し始めた。


「……話せば長くなるんだ、この辺で人を喰らう魔獣がでたの知ってるだろ」


「ああ、今月だけでも何人も犠牲になってらしいな、結構な額の懸賞金もついてるんだろ」


「キーサの連中と一緒に討伐にいったんだが、その例の魔獣とは出会えなかった、問題はその帰り道でのことなんだ」


「……あんた、荒くれ者のキーサとつるんでなんかやらかしたのかよ」


「……帰り道でゴブリン共が何かを大事そうに運んでるのを見つけたんだよ、そしたらキーサの奴が『あの先頭にいるゴブリン俺あいつ知ってるぜ、あの野郎に財布を盗まれたことがある、いつかぶっ飛ばしてやろうと思ってたんだ、ついでに奴等のを積荷を奪ってやろうぜ』とか言い出してよ」


「んで、ここにある金がそのゴブリン達から奪った金だってわけだ」


 アンリは机の上にある金を指さして言った。


「そうなんだ!この金が問題なんだ!こいつはジェリコ連隊の金だったんだよ」


「ジェリコ連隊……マフィアじゃないか、お前らも随分ヤバい奴等の金に手をつけたなあ」


「……俺以外は……キーサのチームはみんなジェリコの連中に捕まっちまったんだ」


「相当ヤバいじゃないか」


「アンリ頼むよ!お前だけが頼りなんだよ!」


「わかった、わかった、とりあえず町外れの採石場の奥に隠れてろ、オレが連中から逃げる手段を考えておく」


「無理をいってすまん!恩にきる!」



・・・・・・・・・・・・



「もう頭あげてくれ」


「面目ないです……カイロさんの紹介で組織にいれてもらったのに」


「もう下がっていいぞ」


「……はい」


…………


「……カイロさん、なんであんなチンケなコソドロだった新入りに大事な組織の金の輸送を」


「……奴に経験を積ませたかったのさ、誰だってミスはするさ、大切なのは失敗を反省し、次に活かすことだ……私は優しい女だからな」


 副官のゴブリンに話しかけられた組織の幹部らしき銀髪の女はそう答えた。


「さて」


 配下のゴブリンからカイロと呼ばれた銀髪の女はこの薄暗い部屋の片隅に置かれた椅子に縛りつけられた男へ目を向ける。

……床にはこの縛りつけられた男のものであろう歯が何本か転がっていた。


「さてキーサ君、私と君が会うのははじめてじゃないね、君は以前にも我々が仕切ってる娼館で支払いをごねた末に娼婦を殴って怪我させてるね……その次は酒場で喧嘩して、止めに入ったうちの用心棒をぶん殴った……誰にだって一度や二度の失敗はある……私は優しい女だから、一回目と二回目は前歯や指の骨を何本かへし折るくらいで勘弁してやったんだ……でもなキーサ君、三度目の今回ばかりは駄目だ」


 そう言うと銀髪の女はキーサの顔面を蹴り飛ばした……キーサの身体が壁に叩きつけられる。


「君はズルい男だキーサ君、奪った金を均等にわけようと仲間に言った癖に奪った金の半分以上を手前が持ってるじゃねぇか……まあ、我々としちゃ君一人を捕まえれば金を半分以上回収できて楽だったけどね……さてさて、ルールってのはいつも強い奴が決めるもんだ……この場で一番強い立場にいるのは誰かわかるよなキーサ君、では君の運命を私が持つこの賽で決めるとしよう……うん……じゃあそうだな

1、絞殺、城壁に吊るす

2、水死、川に沈めて魚の餌

3、死ぬまで馬で引きずり回す

4、エスタアールヴに戦奴として売り飛ばす

5、アマゾネスに売り飛ばす……連中は人間の男を欲しがってるからな

6、今日のところはこのまま返してやる

……さて、どうなる」


 女の投げた賽が乾いた音をたて床を転がる。


「5か……ではアマゾネスの連中に売り飛ばすとしようか、君は身体が丈夫そうだから高く売れそうだ、君も命を散らさず良かったじゃないか……よし、お前らコイツをつれてけ」


「カイロさん、了解ッス」


 カイロ配下のゴブリン達がキーサの身体を持ち上げる。


「おいお前ら、丁寧に扱えよ大事な売り物だからな」



・・・・・・



 アンリは町の小さな教会に足を運んだ。

教会には巡礼者や修道者の為の簡素な宿泊施設が併設されている。


「ガラテア頼むよ」


「何故私がこんな仕事を」


 アンリと向かい合う翡翠色の瞳の金髪の女。彼女の名は巡回聖女ガラテア。

身体は細身で顔立ちは美人の部類に入るだろう。


 巡回聖女とは教会に属する神聖魔法の使い手で地方の村々をまわり神の教えを人々に説いたり怪我や軽度の病の治療を行う修道者である。

彼女達は医師の常駐していない小さな村で非常に重宝されるのだ。

(彼女達は多少の医術の心得はあるものの医学や薬学の専門家ではないため、重度の病への対処は医師の仕事)


「神の教えの道を修める者には寛容と慈愛の精神が必要なんだろ」


「だが道に背向くものには戒めが必要だともいう、ならず者の面倒はみれん」


「……人は生まれながらに獣性をもっているが、内なる獣の性と対峙し、理性をもって正しい道に進む者は救済される、一人のならず者が巡回聖女ガラテアに出会い信仰に目覚め己のただれた暮らしを悔い改め聖地巡礼の旅へと向かう……ってことにしてくれないか」


「……」


「アイツの為に中央教会直轄領への通行手形を頼む、アンタの口添えがあれば、巡礼者への通行手形が発行できるはずだ」


「……ふん、借りは高くつくぞ」


「ありがとう、ガラテア、アンタいい女だぜ」



・・・・・・・・・



 町の風呂屋。

風呂場は傭兵達の社交場でもある。

彼らはここで仕事の話、あるいは女にまつわる猥雑な話をしたりするのだ。アンリは通行手形の発行までの時間潰しと情報収集を兼ねて浴槽で体を休めていた。


「アンリどうだ景気は」


 浴槽に浸かるアンリの隣に現れたのはリザードマンの一種であるリンアルド族の大男ディアス。


 リンアルドは竜族と恐竜の中間のような生物が進化して生まれた種族である。

男性は体の大部分が鱗で覆われており、竜や恐竜の特徴を残している。

対して、女性は鱗の大部分が退化しており、人間に近い姿をしているが翼と尖った牙と角、縦型の瞳孔をもつ。

(背中の翼は退化していて空を飛ぶことは出来ないが肉体が成熟するにつれて大きくなり、リンアルドの男性はこの翼に女性的魅力を感じるという。)



「ようディアス、調子はまあまあだな」


「最近、情勢が不安定だから傭兵にとっちゃ金と武功を稼ぐチャンスだな、お前さんは帝国と教皇庁がでかい戦をはじめたらどちらにつく?」


「オレはどうするかな……まだ決めてないな」


「俺は帝国につくぜ、教皇庁より帝国のほうがリンアルドの待遇良さそうだしな……アンリ、良ければお前さんも俺と一緒に来るか?知り合いの傭兵団の団長に紹介するぜ?」


「申し出はありがたいが遠慮しとくよ」


「ん、そうか……ああそう言えば、例の人喰い魔獣のことだ……」


「………」


「奴の討伐に行ったんけどよ、奴はだいぶ警戒心が強いのか、俺みたいな大男の前には姿をあらわさなかった……山狩りに参加した地元の猟師や駐在兵の見立てじゃ人喰い魔獣の正体は三つ目オオカミの変異種じゃあねぇかって話だ」


「三つ目オオカミねぇ……今回の人喰い魔獣の犠牲者の多くが女性や子供で、成人男性より女性や子供を優先的に襲うのが三つ目の特徴だから……まあ、順当に考えれば三つ目の仕業だよなぁ」


「でも俺はもっと得体の知れないヤバイ奴なんじゃねぇかって思うんだが……自然発生の変異種にしろ頭のイカれた魔術士が造った軍用獣や使い魔の類にしろ、厄介なことにかわりはないよなあ、変異種の自然発生なら瘴気が湧いてるのかもしれないからな」


「……」


「じゃあよアンリ、俺は先に上がるぜ、傭兵団の話、気が変わったら教えてくれよ、俺は暫くこの町にいるからよ」


「ああ」


…………


 ………少々眠ってしまったのだろうか、いつの間にかアンリの周りから人が居なくなっていた。

すると……


「初めまして、アンリ君」


 不意に若い女の声がした。


「突然で悪いねアンリ君、君に聞きたいことがあってね、私達はある男を探しているんだ」


「女?ここは男湯じゃ……」


「ここの風呂屋の主人に無理をいって、今日この日この時間だけ混浴にして貰ったんだ」


 そう言うと銀髪の美しい女は素早くアンリの背後に回りこみ、雪のように白い手をアンリの首に手を回す。そして、女はアンリの耳元で囁く。


「自己紹介がまだだったねアンリ・ザネリィ君、私の名前はシャイロ・カイロ……ある組織の幹部をやらせてもらってるんだ」


 カイロと名乗った女は白く美しい手でアンリの首筋を撫でる。


「随分、脈が激しいじゃないか?アンリ君……何をそんなに怯えている?私に何か隠しているのかな?」

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